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Large container ship at sea - Aerial image

中国が一方的に引いた「南海九段線」が70年経っても消されないワケ

中国が一方的に引いた「南海九段線」という仮想の海上境界線をご存知でしょうか? 1940年代に引かれたものですが、この線による「戦い」はさらに激化する可能性があるようです。今回の無料メルマガ『キムチパワー』では韓国在住歴30年を超えて教育関係の仕事に従事している日本人著者が、  その九段線の意味と戦いの理由について語っています。

正体不明の九段線だが…

1940年代、中国が南シナ海に一方的に引いた仮想の海上境界線「南海九段線(nine dash line)」が東南アジアを熱くしている。中国海軍が韓国西海(=黄海)で軍事演習を実施したり、排他的経済水域(EEZ)の重複区域を越えて領海主権を侵害するが如く、東南アジア諸国も70年前に引かれた正体不明の線のため中国に「沖合」を奪われることになっているためだ。領有権が経済的利益はもちろん、国家安保と関連しているだけに譲歩のない戦いが始められる様相を呈している。

アジア太平洋外交安保専門家のカーライル・セイヤー=オーストラリアニューサウスウェールズ大学名誉教授は先月27日、韓国日報とのビデオインタビューで「中国の南シナ海野心が東南アジア諸国連合(ASEAN)主権紛争に火をつけ、アジア太平洋地域安保不安定を引き起こしている」としながら「肝心要のASEANが一つにまとまっていないのが問題」と批判した。南海九段線が何なのか、アジア太平洋地域に及ぼす影響は何なのかを彼に尋ねた。

セイヤー教授によると、南海九段線は中国が南シナ海管轄圏の境界を表示した9つの線だ。すべてつなげるとアルファベットの「U」字型になる。中華人民共和国樹立前の1947年当時、国民党政府が11単線を盛り込んだ公式地図を製作・出版したのが始まりだ。セイヤー教授は「1949年に樹立された今の中国政府が1952年海南島とベトナム間のトンキン湾にある線2本を削除して現在の姿になった」とし「350万平方キロメートルに達する南シナ海海域90%がこの線の内側に含まれる」と説明した。

南海九段線は数十年間、南シナ海葛藤の火種だった。東南アジアの中心部まで入り込んだ同線は、多くの国の排他的経済水域を侵害する。排他的経済水域は国連海洋法協約により領土(沿岸または島)から200海里(約370km)まで認められる。線の内側にはスプラトリー諸島(中国名南沙群島、ベトナム名ツオンサ群島)、スカボロ岩礁(中国名ファン・イェンダオ、フィリピン名パナタグ)などフィリピンとベトナムが自国領土だと主張する島々が布陣している。

領土紛争は国家間の法的攻防にも拡大している。フィリピンは2013年、国連海洋法条約(UNCLOS)に基づき、中国を相手に仲裁を要請した。2016年7月、オランダ・ハーグに本部を置く国際常設仲裁裁判所(PCA)は満場一致で「中国の南海九段線主張には何の法的根拠もない」と判決しフィリピンの肩を持った。

しかし何も変わっていない。PCA判決は原則的に控訴対象ではなく、結果を遵守しなければならないが、強制力がなく実効性を期待するのは難しいとセイヤー教授は説明する。彼は「むしろ中国は2,000年前から中国領海だったという歴史的権原(けんばら)を主張し、国際機関の決定を無視して判決を下した判事たちを非難した」とし「判事5人のうちアフリカ系ガーナ出身がいることを理由に『アフリカ人がアジア沖について何を知っているのか』と冒涜した」と話した。

7年が経った今も状況は変わっていない。中国は東南アジア各国の排他的経済水域画定根拠となる国連海洋法協約が1982年に締結されただけに、自分たちがはるかに先に宣言した南海九段線を国連が制限することはできないとしPCA決定をあざ笑う始末だ。各種出版物と放送などで中国が主張する南海九段線が依然として登場する理由だ。

中国はなぜ国際社会との衝突を甘受してまで南海九段線の主張をやめないのか。セイヤー教授は「地政学」を理由に挙げた。南シナ海は世界の主要海上交通路だ。世界原油交易量の3分の1、液化天然ガス(LNG)の半分以上がここを通過する。全体の物流量は3兆4,000億ドルに達する。また、全世界の魚族資源の12%を占める水産物の宝庫であり、最大300億トンに達する原油と16兆立方メートルの天然ガスも含んでいる。事実上「経済生命線」であるだけに簡単に譲歩できないという話だ。

その上、中国の習近平国家主席が積極的に推進してきた「一帯一路」戦略の核心が南シナ海だ。南シナ海とマラッカ海峡、インド洋、アフリカまで続く「海洋シルクロードベルト」を構築するためには南シナ海の死守が必須だ。セイヤー教授は「中国は南シナ海問題に抗議する国家に陸海空軍はもちろん不法漁船まで動員して繰り返し苦しめている」とし「海路を先取りするための極端な民族主義行動を見せている」と説明した。

中国の露骨な国際法違反に腹を立てる側は、南シナ海をめぐって神経戦を繰り広げなければならない国家だ。アセアンが力を合わせて対応しなければならないが、「チャイナマネー」の影響力が大きいために中国に反旗を翻すことも容易ではない。

ASEANは2018年、中国との領有権紛争拡大を防ぐため「南シナ海行動綱領(COC)」作業に乗り出したが、5年間一歩も踏み出せずにいる状態だ。フィリピン、ベトナム、インドネシア、ブルネイなど紛争当事国は領有権強化を主張した反面、中国の影響力が強いラオス、ミャンマーは生ぬるいためだ。セイヤー教授は「2016年PCAが結果を発表した時もフィリピンとベトナムだけが歓迎声明を発表したが、これは中国がラオス、ミャンマーなどを脅迫したため」と説明した。

南海九段線をめぐる中国とASEAN諸国の神経戦は、やはり当分続く見通しだ。セイヤー教授は、中国が今後もグレーゾーン戦略を通じてベトナムやフィリピンなどに持続的な脅威を与えると見た。グレーゾーン戦略は戦争を直接引き起こすことはないが、周辺国に危険を与える手段を活用することだ。

中国が軍事力を動員して露骨に攻撃しなくても、民間人を装った海洋警備隊などを通じてASEANをゆっくり圧迫できるという話だ。セイヤー教授は「ASEAN個別国家と中国の激突は少年ラグビーチームが成人プロチームと対抗して戦う格好」としながら「残念ながら直ちにASEANが効果的な対応に乗り出すことは難しそうだ」と話した。(韓国日報ベース)

(無料メルマガ『キムチパワー』2023年8月7日号)

image by: Shutterstock.com

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韓国暮らし4分1世紀オーバー。そんな筆者のエッセイ+韓国語講座。折々のエッセイに加えて、韓国語の勉強もやってます。韓国語の勉強のほうは、面白い漢字語とか独特な韓国語などをモチーフにやさしく解説しております。発酵食品「キムチ」にあやかりキムチパワーと名づけました。熟成した文章をお届けしたいと考えております。

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【著者】 キムチパワー 【発行周期】 ほぼ 月刊

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