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「処理水問題」と「米中対立」に共通。正しく伝えないメディアの存在

8月28~29日、米国のレモンド商務長官が訪中し、北京で中国の閣僚らと相次いで会談しました。しかし、福島第一原発の「処理水」問題と重なったことで、中国においてもニュースとしての注目度は低かったようです。どちらの話題にも共通するのが、「議論がかみ合っていないこと」と指摘するのは、多くの中国関連書を執筆している拓殖大学の富坂聰教授。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では、物事を正しく理解するための助けにならないメディアの伝え方を問題視。西側メディアが伝えたがる中国にあるビジネス上のリスクも、通常の商行為の中にはなく、政治の中にあると強調しています。

レモンド米商務長官の訪中でも変わらない米中関係

ジーナ・レモンド米商務長官が訪中していた期間、筆者は北京にいた。目的は取材ではなかったので雰囲気しか分からなかったが、訪中が盛り上がったとか、米中関係に進展があったと感じられる事象はなかった。

何といっても日本が福島第一原子力発電所に貯まった「処理水」をついに排出したというニュースへの関心度が高過ぎて、レモンド長官訪中の話題はすっかり隅に追いやられてしまったのだ。

不思議なことは「処理水問題」と「レモンド訪中」はまったく別の話題なのに共通点があることだ。それは議論がかみ合っていないことだ。

処理水の問題では、日本側が「排出する水のトリチウムの濃度が低いから安全だ」と主張を続けるの対し、中国は「きわめて汚染度の高い燃料デブリに触れた水と通常の発電で排出される水とは一緒にできない。トリチウム以外の核種が残っているのか、第三国を入れて検証すべき」と主張している。

レモンド訪中の方は、アメリカ側が「対中輸出規制は『スモールヤード・ハイフェンス』(限定された技術について敷居を高くして守る戦略)だ」と限定的である点を強調するのに対し、中国側は「アメリカは約束を守らず必ず範囲を広げてくる」と警戒する。

だが、このように対立は極めて明確で単純なのだが、関係各国の世論には、それがなかなか浸透しない。問題の所在は明らかだろう。要するにメディアが正しく伝えていないのだ。最初から中国の主張をきちんと整理して伝えていれば、日中関係が現在のような悪質な対立に陥ることはなかっただろう。レモンド長官の訪中では、「中国あるある」の一つだが、現地メディアと西側先進国のメディアで伝え方がほぼ逆であった。

中国側はこの訪問が概ね有意義だったと受け止めたようで、現地メディアも好意的なトーンで伝えている。例えば、対外的に厳しい論調として知られる『環球時報』だ。同紙は「米商務長官がアメリカの企業に語る。あなたたちが中国に投資することを希望する」、「商務長官 私は楽観的な気持ちで中国を離れる」(いずれも8月30日)という前向きな見出しを付けて記事を発信している。

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一方の西側先進国のメディアの報道には、米中間で何かが進展したという伝え方はほとんどしていない。「関税などの撤廃」を求めた中国の申し出を拒否したとか、中国ビジネスにおける「懸念を伝えた」と、まるで商務長官が文句を言うために北京を訪れたような印象を与える記事が目立った。

代表的なのは米ブルームバーグだ。同メディアは8月29日に「中国は『リスク高過ぎて投資できない』、米商務長官が企業の声に言及」と報じている。これは不思議な記事で、現状、中国でビジネスに携わる日本人と話をしていて感じるのは、中国にあるリスクは、通常の商行為の中で起きることではなく、米中対立によって生じる「政治リスク」だ。

中国とのビジネスには歴史があり、中国のやり方は粗方わかっているのだから当たり前だ。また対中投資リスクがそんなに高いのであれば、米企業がこれほど長期間とどまり、ビジネスを拡大し続けたはずはない。彼らには利益を度外視してまで中国に留まる理由などないからだ。技術移転の強要や関連する法律やルールの変更など、中国には問題が多々あれど、それを上回る利益があったからこそ、ここまで対中投資が拡大され続けてきたのだ。

そして現在、中国でビジネスを展開する企業の懸念は主に、「何をどこまで自粛したらよいのか」という輸出制限の成り行きに集中している。これは同時に「いつかどこかのタイミングで重要な部品や材料が入らなくなるかも」というリスクでもある。繰り返しになるが、リスクの根源にあるのは「政治」だ。

中国に進出した企業の悩みがそうなのであれば、中国自身がアメリカの動きに神経質になるのは避けられない。アメリカが「スモールヤードだ」といったところで、安穏とはしていられない。実際、トランプ政権下で目の敵にされた華為技術(ファーウェイ)は、主力の一つだったスマートフォン端末の製造で狙い撃ちされ、致命的なダメージを負った。半導体の供給を断たれたファーウェイはハイスペックなスマートフォンの製造を諦めざるを得ないところまで追い詰められた。中国人ならば、そのことは誰もが知っている。

しかし、そのファーウェイは偶然なのか、レモンド長官が中国を訪問とほぼ同時期に、新機種「Mate 60 Pro」の予約受付を開始したと発表したのだ──
(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2023年9月3日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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【著者】 富坂聰 【月額】 ¥990/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎週 日曜日

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