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何を伝えようとした?古事記に「過酷な話」がわざわざ書かれている理由

日本の神様の名前の中で最も美しい御神名とされる『木花咲耶比売(このはなさくやひめ)』。この由来についてメルマガ『ねずさんのひとりごとメールマガジン』の著者で作家、国史研究家でもある小名木善行さんが紹介しています。

木花咲耶比売と石長比売

古事記全編を通じて、最も美しい神名を持つのが、ご存じ、木花咲耶比売(このはなさくやひめ)です。

木花咲耶比売の物語は、邇邇芸命(ににぎのみこと)の天孫降臨に登場します。

ある日、邇邇芸命が岬を散歩していて、美しい女性を目にします。

たまらずニニギ(邇邇芸命)は、「そこのお嬢さん。僕と結婚してください」と声をかけます。

実際には、僕とエッチしてくださいと言った意味の言葉をかけたとあります。ずいぶんとストレートですが、それはまあ置いといて、天津神であり、しかも天照大御神のお孫さんから声をかけられた木花咲耶比売は、とても頭の良い女性です。

「ありがとうございます。でも、そういうことでしたら父に許可をいただきませんと、私一存ではお答えしかねます」と答えて、父のもとに行きます。父は大山津見神(おおやまつみのかみ)です。喜んだ父は、姉の石長比売(いわながひめ)も一緒にニニギのもとに送り出しました。

ところがここで古事記は、ニニギが、「石長比売が凶醜(はなはだみにく)かったため、石長比売を返し、木花咲耶比売とだけ結婚した…」と描写しています。

古事記を読む時、こういう、すごい言葉が使われている時が、実はくせものです。

いわゆる「ひっかけ」があるのです。

もともと、神話は、何千年にもわたって、大人が子らに語って聞かせたものです。

子らが「え~!!」となってくれれば、そこですかさず、「じゃあ、お前はどう思う?」と、子の考えを聞くことができるのです。そこから、神話の意味する深いところへの話になるのです。

ただストーリーを追うだけなら、神話は長続きしない。考えるか、頭を使うから、印象に残り、何千年も語り継がれるのです。

石長比売が「みにくい」と書かれているのは、「見えにくかった」のではないかと解釈する人もいますが、それもあるかもしれないけれど、もっと実は深い意味があります。そこで話を先に進めてみたいと思います。

ひとり帰ってきた石長比売を見て、父の大山津見神(おほやまつみのかみ)は、「姉妹で送り出したのは、宇気比(うけい)によるものであった。石長比売を帰してきたことで、天津彦(あまつひこ)の御命は短いものとなるであろう」と嘆いたとあります。

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ここでいくつもの解釈があろうと思いますが、ひとつ大切なことは、御神名にあります。

木花咲耶比売(このはなさくやひめ)の名は、木に咲く花という名ですが、この時代「花」といえば桜花のことを意味します。桜は、盛大に咲き誇り、あっという間に散ってしまいます。これは「一時的な繁栄」を意味します。

石長比売(いはながひめ)の名は、岩石のようにいつまでも変わらないものを意味します。一時的な繁栄ではなく、安定して継続することを意味する名です。

少し考えたらわかりますが、今月1,000万円利益が出ても、来月以降、なんの収入もないということでは困るのです。半分の500万でいいから、ずっと継続してもらいたいのです。そしてその継続が、安定してもらいたいのです。

この、満開の桜のような繁栄と、岩のような安定的な継続。両者は、本来、不可分なものです。なぜなら、人の身上(しんじょう)は一代限りのものではなく、子の代、孫の代、曾孫の代へと、ずっと続いてもらわなければならないことだからです。

では、この両者をつなぐものは何でしょう。それが父の大山津見神(おほやまつみのかみ)です。

「津見(つみ)」というのは、「綿津見(わたつみ)」という言葉もあるくらいで、山々や、海の波が、延々と重なり合って連なることを意味する古語です。「積み木」の「つみ」も同じです。木を重ねて結ぶから積み木です。つまり「津見」とは、「つながり」のことを意味します。

ここまでくると、古事記が伝えようとしたことがわかります。一時的な繁栄と、永続的な安定をつなぐのが、「津見」すなわち「つながり」です。

誰しも繁栄したい。繁栄したら、その繁栄を継続させたい。そのために必要なことが、「『つながり』なのですよ」と古事記は書いているのです。

「つながり」は、現代用語にすれば、コミュニケーションです。誰もが神社やお寺や教会に行って、幸せになりたいと祈ります。そのためには、神様とつながり、人とつながり、家族とつながり、職場でつながり、お客様とつながり、一緒にいる人たちとつながること。

そういう「つながり」の中にこそ、一時的な繁栄を継続させる力になるのですよと、古事記は教えてくれています。

日本をかっこよく!

ではまた来週。

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image by: Shutterstock.com

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静岡県出身。国史研究家。倭塾塾長。日本の心をつたえる会代表。日本史検定講座講師&教務。インターネットでブログ「ねずさんのひとりごと」を毎日配信。 著書に「ねずさんの昔も今もすごいぞ日本人」第1巻~第3巻。「ねずさんの日本の心で読み解く百人一首」がある。

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