MAG2 NEWS MENU

日本が耳を塞いではならない、インドネシア「ジョコ大統領の言葉」とは

9月4日から7日にかけてインドネシアのジャカルタで開催されたASEAN関連首脳会議について、日本の主なメディアの伝え方は今回もピンボケだったようです。議長国インドネシアのジョコ大統領による最終日のスピーチは、日本が耳を塞いではいけない内容だったと訴えるのは、多くの中国関連書を執筆している拓殖大学の富坂聰教授です。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では、ASEAN諸国が重視するものと、嫌悪するものが何かを明確にし、「超大国間の対立の代理となってはいけない」と日本に向けているかのような発言について、分析を加えながら詳しく伝えています。

G20で見え始めた、中国が対米・西側先進国外交から距離を置き始めたという傾向

インドネシアで開かれていたASEAN(東南アジア諸国連合)の一連の首脳会議(ASEANサミット)が7日に閉幕し、世界の注目は次にインドで開催されるG20サミット(主要20か国の首脳会議)へと移った。

日本のメディアは例によってASEANサミットを「南シナ海やウクライナ情勢などをめぐる大国間の意見の隔たりは埋まらず課題を残した」とマイナスのトーンで総括したのだが果たしてそういう話だったのだろうか。

少なくともASEAN側は「ウクライナ情勢で各国の溝を埋めること」がメインテーマだったとは発信していない。南シナ海問題で性急な進展を求めていたわけでもない。彼らが中心に据えたのはあくまでも「成長の中心」であり、経済だった。ゆえに「難しい工程」だったが、「EAS(東アジア)首脳による『成長の中心』に関する共同声明で合意に至った」ことを、主催国・インドネシアのジョコ・ウィドド大統領は成果として誇ったのである。

興味深かったのはジョコ大統領が最終日に「(世界には)安住の地が必要です。ASEANはその役割を果たすべく順調に進んでいいます」と、対立への嫌悪をあらためてはっきり示したことだ。南シナ海問題で中国がASEAN加盟各国から非難の的にされることを期待していた日本のメディアは関心を示さなかったが、重要な視点なので少し触れておこう。

ジョコ大統領は、まず域内の問題として「ASEANが国家間の対立を解消できなければ、ASEANが崩壊する。意見の相違を乗り越えられなければ崩壊する。ASEANは対立の流れに負けてはいけない」と呼び掛けた上で、世界の潮流について危機感をあらわにこう語ったのだ。「(ASEANは)「地政学的競争に加わってはいけない。ましてや超大国間の対立の代理となってはいけない」そして集まった首脳に向けて、「緊張を和らげ、新たな対立を生まないようにする責任は、すべての首脳が背負っている」と呼び掛けたのだ。

立派な内容で、西側先進各国には耳の痛い話ではないだろうか。ASEAN加盟各国が意識するように「成長の中心」はアジアに移りつつある。それを確たるものにするために必要なのは安定であり、対立ではない。

こうしたASEANの姿勢は、日本がアメリカの意向を受けて立ち上げた、中国排除のための経済連携の枠組み「IPEF」が東京で始動したときからはっきりしている。マレーシアのマハティール・ビン・モハマド元首相やシンガポールのリー・シェンロン首相が日本に厳しい発言をして帰ったことはこのメルマガでも取り上げた。

この記事の著者・富坂聰さんのメルマガ

初月無料で読む

そのときのASEANの姿勢はより強化されているようだ。ジョコ大統領の「ましてや超大国間の対立の代理となってはいけない」という批判は、聴きようによってはとくに日本に向けた発言とも解釈できる。こんな重要な発信を「南シナ海やウクライナ情勢などをめぐる大国間の意見の隔たりは埋まらず課題を残した」という一言でまとめて報じるメディアは、正しく日本に情報を伝えたことになるのだろうか。

アメリカの意向に従い米中対立をASEANに持ち込み、中国への対抗を露骨に呼び掛ける日本の振る舞いに向けられるASEAN加盟各国から視線は冷たい。もしジョコ大統領の言うようにASEANが対立を避け成長にまい進すれば、いずれ経済的にも日本に肉薄することは想像に難くない。そうなったとき、経済的な意味だけでなく、地域の平和に貢献するという点でも日本を上から見下ろすことになっても不思議ではない。

同じような問題はG20サミットでも指摘されるだろう。問題は西側社会が「価値観を共有する」と期待するインドが、この会議で中国との対立を先鋭化させることを願う日本の姿勢だ。いわゆる「龍VS象」待望論だが、この考え方に見られる根本的な誤解は、インドが西側的価値観という陣営のために中国と対立するという幻想だ。

国境紛争やグローバルサウスのリーダーとしての地位の綱引きにかかわらず、中印関係には摩擦が尽きない。だが、それは昨日今日始まったことではない。さらにインドは自国利益のために中国と対立するのであって、陣営のために自国の資源を削ることはない。いうまでもなくアメリカの手先となる発想は待ち合わせていないのだ──
(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2023年9月10日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

この記事の著者・富坂聰さんのメルマガ

初月無料で読む

image by:Dhodi Syailendra/Shutterstock.com

富坂聰この著者の記事一覧

1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

有料メルマガ好評配信中

  初月無料お試し登録はこちらから  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 富坂聰の「目からうろこの中国解説」 』

【著者】 富坂聰 【月額】 ¥990/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎週 日曜日

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け