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武力より「人情」。中国が「台湾統一」に向けた“現実的な動き”とは?

中国共産党の悲願である「台湾統一」。統一のためには武力行使も厭わないとしているものの、「台湾有事」を騒ぎ立てているのはもっぱら日本の政治家やメディア側というのが冷静な見方のようです。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では、多くの中国関連書を執筆している拓殖大学の富坂聰教授が、9月13日に中国政府から発信された「平和統一」に向けた新たなメッセージを紹介。台湾の対岸である福建省を活用し、「武力」ではなく「人情」に訴えて『両岸一家』という理念を実行する動きを伝えています。

日本で盛り上がる「台湾有事」の裏側で、中国が始めた統一に向けた現実的な動き

台湾有事は日本の有事。日本人が口にすると現実感のない空疎な響きがともなう。それは浅慮と無責任に彩られているからだ。

台湾問題は中国が「利害を度外視」し、感情で突き進む可能性のある敏感なテーマだ。一たび国民感情が沸騰すれば地域の安全は制御不能に陥る可能性を秘めている。その強い怒りに突き動かされた危険な中国と、日本はどこまで本気で付き合おうというのだろうか。その先に訪れる不幸をどこまで見通せているのだろうか。

日中がもし、「止められない」戦いに突入してしまえば、結果は悲惨だ。そうした未来を想像したときに、「台湾有事は日本の有事」と勇ましく叫ぶ人々は、どんな解決策を示してくれるのか。日中が泥沼の戦いに陥ってからやっと、「台湾有事は……」と煽ったことの危険を認識するのなら、それこそ最悪である。だが、ありがたいことに現状を見る限り中国共産党にとっての優先順位は「武力統一」にはないようだ。

このメルマガの読者であれば既知の事実だが、中国が武力統一に大きく傾いているという西側世界にあふれる言説には確たる根拠はない。その理由もすでに書いてきた。習近平政権はむしろいかに平和統一を実現するのかに傾いている。台湾独立勢力を強くけん制しながらも、平和統一に向けたメッセージを多様な方法で発信し続けてきたのだ。

そんな見立てが間違っていないことを裏付けるような動きが明らかにされたのは9月13日だ。国務院は記者会見で、「(中台)両岸が融合し、発展するための新たな道を模索する福建省を支援し、両岸融合発展のモデル地区を建設することに関する意見」(以下、「意見」)を発表したのだ。

翌14日には、国務院台湾事務弁公室、国家発展改革委員会、福建省党委員会の責任者がそろって会見を行い、「意見」についてさらに詳しく説明した。曰く、「意見」の作成により「新時代の台湾問題解決に向けた党の戦略における福建省の位置づけ、使命、任務を明確にした」というのだ。

要するに、台湾の対岸の福建省をフル活用することで台湾との一体化を進める目的を示しているのだが、その福建の「位置づけ、使命、任務」とは何なのかといえば、これは一言でいえば台湾人が大陸で暮らし、台湾企業が大陸に基盤を持つように促すことだ。

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第一段階として福建省全域に「海峡両岸融合発展モデル地区」を建設するという。そして福建省を入り口に台湾の人々や企業が中国全土に広がってゆく、その入り口としての役割が福建省に求められたということだ。福建省全省には国家レベルの海峡両岸産業協力拠点が18カ所設けられた。

「意見」作成にかかわった国家発展改革委員会の叢亮副主任は、中国中央電視台(CCTV)の番組『新聞聯播』(9月14日)のインタビューに答え、「われわれは『両岸一家』という理念を実行し、通じ合い、台湾同胞に利益を与え、人情で融合を促し、各方面の資源を活用し、台湾同胞の幸せが増すような制度と政策を整え、福建省全域に両岸融合発展のモデル地区を建設してゆくのです」と語っている。

繰り返し強調すれば、「武力」ではなく「人情」に訴えてゆく作戦なのだ。行政的には厦門市が金門島を、福州市が馬祖島をといったように融合に向けたペアも組まれた。

福建省党委員会の羅東川副書記は、「適度に交通の往来のインフラを建設し立体的、総合的な交通のルートを作り、より多くの台湾同胞が来られるようなインフラも整えた。もうすでに福建と馬祖の間にはガスや電気も通っている。たくさんの人や企業が福建を訪れ、安心して成長してほしい」とCCTVの番組『中国新聞』(9月13日)で語っている。

閔台(福建省と台湾)間には制度的な壁も少なからず存在しているが、それを取り払うため、学校の入学手続きではワンストップ化を実現し、幼稚園や老人ホームへ入るための支援も行うという。つまり大陸で働くことを望む台湾の人々のために徹底的に私生活上の福祉で便宜を図ってゆく政策なのだ──

(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2023年9月17日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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【著者】 富坂聰 【月額】 ¥990/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎週 日曜日

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