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Google日本元社長が看破。ジャニーズ事務所に「茶番会見」を開かせた“真犯人”

10月2日に行われた記者会見における「指名NG記者リスト」の存在が発覚し、ますます立場を悪いものとしたジャニーズ事務所。リストの作成者が誰であれ、会見自体が茶番であったことは否定できるものではありません。なぜ彼らはかような幼稚極まる会見を開くに至ったのでしょうか。今回のメルマガ『『グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中』~時代の本質を知る力を身につけよう~』では、『グーグルで必要なことは、みんなソニーが教えてくれた』等の著作で知られる辻野さんが、ジャーナリズムやジャーナリストのあるべき姿と、何がジャニーズ事務所の茶番会見のお手本となったのかについて考察。さらにこれまで彼らをを利用してきた側の責任を厳しく問うています。

凝縮された日本社会が抱える闇。ジャニーズ問題に見るこの国の幼児性

今日は、ここのところ日本人が最も関心を寄せていると思われるジャニーズ問題について一言。

言うまでもなく、私は本件についてまったくの門外漢なので、本件について述べることは、単に野次馬のように見なされてしまうかもしれませんが、決してそうではありません。

この問題には、日本社会が抱える闇が凝縮されており、英BBCによってまるでパンドラの箱が開けられたかのごとく、「見たくなかったもの」が次から次へと溢れ出てきました。

しかも、パンドラの箱が開いてもなお、自己保身ばかりを優先させる旧ジャニーズ事務所と、そのトップに君臨していた藤島ジュリー景子氏の傲慢さや企業経営者としての幼稚さには、多くの人たちが憤りを禁じ得ないと同時に、呆れているのではないでしょうか。

結局、NHKのスクープで、ジャニーズ事務所が主催した2回目の記者会見には、あらかじめ「指名候補記者リスト」や「指名NG記者リスト」なるものが存在していたことが発覚し、完全な茶番だったことが明らかになっています。これ以上おかしな言い訳を並べ立てるのは止めて、ただちに記者会見をやり直すのが筋でしょう。

本件については、被害者救済を含めて、すでにさまざまな人たちがあらゆる視点から論じていますので、できるだけ重複を避けて私が感じたことを簡単に整理しておきたいと思います。本件が、日本社会、特にメディアの在り方が少しでも変わる一つのきっかけになることを切に願いたいと思います。

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プチ炎上したX(旧ツイッター)へのポスト

「ジャーナリスト」や「ジャーナリズム」という言葉は、日本では既に死語になった感もありますが、まずは、本件に関して「真のジャーナリズム」や「ジャーナリストのあるべき姿」について思う所をX(旧ツイッター)上で発信したのですが、それがプチ炎上したので、その報告をしておきます。

10月2日にジャニーズ事務所が主催する2度目の記者会見が行なわれましたが、一部の記者が、あらかじめ主催者側が定めたルールに従わずに前列で騒いだということで、会見直後からXが荒れていました。

主催者側が定めたルールとは、「質問者は司会者が指名」、「指名された人だけが質問できる」、「一社一問」、「更問い(再質問)禁止」、「制限時間2時間」というようなものでした。

まずは、自らが「鬼畜の所業」とも認めるこれだけの大事件を引き起こした主催者側が、こうした一方的なルールを設定したことに大きな違和感を覚えました。集まった記者達は、会見直前に通知されたこのルールに徹底抗議して撤回させるか、ボイコットすべきだったと思います。

結局、なかなか指名されない一部の記者たちが騒ぎ出し、主催者や周囲からたしなめられた、という状況だったのですが、会見が荒れたことで真っ先に責められるべきは、一方的なルールを勝手に設定した主催者側の方でしょう。ところが、壇上の井ノ原快彦氏の「ルールを守りましょう。子供たちも見ています」という発言に拍手すら起きたことは驚くべきことです。彼が口にした「ルール」とは、主催者側が勝手に決めたルールに過ぎず、記者達がそのルールに従う道理はどこにもありません。

そこで、私はXに以下のようにポストしました(「ツイート」を「ポスト」と言い換えるのは未だに慣れません・笑)。

批判を承知で敢えて挑発的に言うが、そもそもジャーナリストに「ルール」や「行儀」など関係ない。人々が知るべき真実を探り当てほじくり返して人々に伝えるのが彼らの役目だ。命懸けでそれをやる使命感があるから戦場にも行けば権力にも媚びない。それが真のジャーナリストだ。

そしてこのポストを引用してさらに次のように言いました。

首相会見にしろ官房長官会見にしろジャニーズ会見にしろ、主催者側が一方的に決めた「ルール」に従順に礼儀正しく従っているような連中は、少なくとも「ジャーナリスト」ではない。大手メディア企業に勤めるただのサラリーマンだ。

10月11日現在で、一つ目のポストは7,042の「いいね」、3,465の「リポスト」、185.8万のインプレッション、二つ目のポストは、5,135の「いいね」、2,243の「リポスト」、30.3万のインプレッション、という反応だったのですが、一つ目のポストには753のリプがあり、その大半がいわゆる「クソリプ」でした。

特に一つ目のポストに対する反応で面白かったのは、私自身を「ジャーナリスト」あるいは「マスメディアの人間」と勘違いして攻撃してくるクソリプが一番多かったことです(笑)。Xという言論空間には、発信者の身元すら確認せずに条件反射する人が如何に多いかということがよくわかります。

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ジャニー喜多川の鬼畜の所業が見過ごされてきた背景

また、次に面白かったのは、騒いでいた一部の記者(尾形聡彦さんや望月衣塑子さん)のアンチと思われる人たちからの攻撃が多かったことです。しかし、私は別に騒いでいた特定の記者を擁護するつもりで発言したわけではありませんし、実際そのような内容にはなっていません。勝手に勘違いして妄想を膨らませた上で見当違いの攻撃も散見されました。極めつけは、「歴史改竄はやめてください」などと言ってくるものもありましたが、一体全体、私のポストのどこをどう見れば歴史改竄などという解釈ができるのでしょうか(笑)。

望月さんについては、菅義偉官房長官時代に、官房長官記者会見で菅さんに食らいつく望月さんの姿を見て、久々に頼もしい記者が出現したと感じていました。しかしその後、彼女の著作をもとにした映画やネットフリックスのドラマがヒットし、財務省の公文書改竄事件で自死された赤木俊夫さんの妻雅子さんに対する接し方やその他の言動を見ていると、記者というよりも活動家に転じたような印象を受けています。もちろん、それはそれで望月さんの生き方なのでとやかく言うつもりはありませんが、彼女を真のジャーナリストと呼べるかどうかについては、私の中で疑問符が付いています。

話を戻すと、先述のポストは、誰か特定の人を擁護するためのポストではなく、私がこうあるべきと考える「本来のジャーナリスト像」についての私見を述べただけです。「敢えて挑発的に」意見したのは、二つ目のポストで言ったことが理由です。そもそも、ジャニー喜多川の鬼畜の所業が長年見過ごされてきたことには、週刊文春を除く日本のメディアがこの問題を報じてこなかったという背景があります。もはやこの国にはまともなジャーナリストがいない、あるいは本来のジャーナリズムが育っていない、ということです。本件のみならず、日本のメディアがまともに報じなかった伊藤詩織さんの件を詳細に報じたのもやはりBBCでした。

最近、どんな記者会見を見ていても、集まってくる記者達は押しなべておとなしく従順で、気骨のある真性ジャーナリストのような人を見かけることはほとんどなくなりました(そういう人はフリーのジャーナリストにはまだ残っていますが、今回のNGリストでもわかるように、大体最初から締め出されてしまっています)。ですから、ジャーナリストの矜持や使命感とは本来何か、ということを問いかけるつもりのポストでした。

毎日新聞の故・岸井成格さんは、若かりし頃には、当時の佐藤栄作首相の発言に反発して記者会見をボイコットし、晩年にも安倍政権に厳しい発言を連発していました。権力からさまざまな圧力や嫌がらせを受けながらも、一切媚びることも屈することもなく、まさにジャーナリストの矜持や気骨を感じる人でした。

岸井さんが亡くなってからは、遂に大手メディアからその手のタイプの人は完全にいなくなってしまったように思います。中村史郎社長に代わってからの朝日新聞では、記者に対する言論統制が厳しくなる一方だという話も漏れ伝わってきますが、それならばむしろ廃業した方がよいのではないでしょうか。言論統制された記事など誰も読みたいとは思いません。他の大手メディアも、内情は似たようなものでしょう。

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ジャニーズ事務所に茶番会見を「良し」とさせたもの

メディアが本来の役割を果たさなくなった状況は極めて深刻ですが、ジャニーズ事務所が茶番会見を仕掛ける背景には、お手本があるからです。それは、首相会見や官房長官会見を始めとした政府会見がことごとく茶番だからです。官房長官会見でNGリストの存在を問われた松野博一官房長官は、その存在を否定しましたが、政府の会見ではもう長いこと茶番会見が当たり前になっていることは誰もが知っています。

「記者会見」とは名ばかりの、「仲間内での台本の読み合わせ」をしているに過ぎません。厳しい質問をする記者は最初から排除されるか、参加できてもほとんど指名されることはありません。こんな状態をいつまでも放置しているから、まさに今回のジャニーズ会見のように「鯛は頭から腐る」という現象がいたるところで起きるようになってしまったのだと思います。

国会も似たような状況で、もう長いこと機能不全に陥っています。質問には事前通告が求められ、首相をはじめとした各閣僚も、官僚があらかじめ準備した答弁書をただ朗読する場になっており、本来の双方向での議論は行われていません。答えたくないことには一切答えようとせず、論点のすり替え、トーン・ポリシング、答弁拒否が当たり前になってしまっています。

ジャニーズ事務所が幼稚な茶番会見を仕掛けたのは、このような悪しき手本を見習ったに過ぎない、という見方もできるでしょう。

問われるべきジャニーズ事務所を利用してきた側の責任

ジャニーズ問題については、自分たちの利益のために彼らを利用してきた側についても、認識と関与の度合いに応じた責任が問われねばならないと思います。政府、政党、大手メディア、エンタメ業界、スポンサー企業etc.多くの人たちが、これまで彼らを重宝してきたのは事実です。

ここにきて、スポンサー離れも加速していますが、問題が表に出るまでは散々利用しておきながら、表に出たとたんに契約解除する、というのもどうかと思います。ネスレの日本法人のように、ジャニーズの噂を知って最初から利用しなかったという企業も存在しています。利用して来た側としなかった側との差はどこにあったのか、ということは重要な視点です。ネスレに関しては、外資系ということもあって、事業への向き合い方や、ガバナンスのスタイル、コンプライアンスに対する考え方が根底から違っているということもあるでしょうが、高岡浩三氏という元経営トップの倫理観やリスク管理意識という要素も大きかったのではないかと思います。

経済界を代表して、経団連会長の十倉雅和氏や、経済同友会代表幹事の新浪剛史氏も、ジャニーズ事務所の所業を非難する発言をしています。しかし、彼等の発言を必ずしも素直に受け止められない向きも多いのではないでしょうか。他人や他社のことについて、ご意見番よろしく後付けでもっともらしいことを言うのは誰にでもできます(この際、自分のことは棚に上げます・笑)。しかし、企業側も、見て見ないふりをしながらジャニーズを利用して来たのであれば同罪です。さらに、経団連や経済同友会などの経済団体には、日本経済を凋落させ、日本社会を疲弊させて今のような状態にした大きな責任があります。

また、サントリーの経営トップという立場での新浪氏には、安倍政権時代の桜を見る会での酒類無償提供問題でその企業体質が問われた経緯があります。「45歳定年説」や、最近のマイナ保険証に関する暴言でも、さまざまな物議を醸しており、「利己的なサラリーマン経営者」という印象が拭えません。パワハラ体質も知られていて、 10月8日のデイリー新潮の記事 では、部下に携帯を投げつけて怪我をさせていたというローソン社長時代のエピソードも紹介されています。そのような人物から上から目線でとやかく言われても説得力がありません。

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これ以上の悪あがきは止め観念すべきジャニーズ事務所

ジャニーズ問題は、ジャニー喜多川という稀代の変質者が引き起こした前代未聞の犯罪であり醜聞ですが、人間社会の深い闇や、行き過ぎた社会の歪みを浮き彫りにした問題でもあります。私は、この問題の波紋は、広まるところまで徹底的に広まって、日本社会のあちこちに溜まった膿を出し切るきっかけになればよいと思っています。氷山の一角というか、程度の違いこそあれ、似たような問題はいくらでもあるでしょう。

旧ジャニーズ事務所は、これ以上の悪あがきは止めて観念した方がよいと思います。ジャニーもメリーもいなくなり、遂に「悪の帝国」は崩壊したのです。この先、喜多川家とその取り巻きの人たちに求められることは、新会社を起こしてビジネスに関わり続けるようなことではなく、先代のしでかしたことの後始末だけです。

藤島ジュリー景子氏には、その後始末をタレントや弁護士に押し付けて逃げ回るのではなく、喜多川家の私財をすべて投げ出す覚悟で、自ら率先して被害者への謝罪と救済、および業界の健全化に、それこそ出家でもして専念することを強くお勧めしたいと思います。

※本記事は有料メルマガ『『グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中』~時代の本質を知る力を身につけよう~』2023年10月13日号の一部抜粋です。興味をお持ちの方はこの機会にご登録ください。

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image by: Ned Snowman / Shutterstock.com

辻野晃一郎この著者の記事一覧

辻野 晃一郎(つじの・こういちろう):福岡県生まれ新潟県育ち。84年に慶応義塾大学大学院工学研究科を修了しソニーに入社。88年にカリフォルニア工科大学大学院電気工学科を修了。VAIO、デジタルTV、ホームビデオ、パーソナルオーディオ等の事業責任者やカンパニープレジデントを歴任した後、2006年3月にソニーを退社。翌年、グーグルに入社し、グーグル日本法人代表取締役社長を務める。2010年4月にグーグルを退社しアレックス株式会社を創業。現在、同社代表取締役社長。また、2022年6月よりSMBC日興証券社外取締役。

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【著者】 辻野晃一郎 【月額】 ¥880/月(税込) 【発行周期】 毎週 金曜日 発行

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