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面倒くさがりが酷くなったホンマでっか池田教授が「楽しい」と思えること

年齢にかかわらず、毎日の楽しみがあるのとないのとでは、生きていく張り合いが違います。体力が低下した高齢者なら、身近な暮らしの中で楽しみを見つけるのが現実的。CX系「ホンマでっか!?TV」でもおなじみの池田教授は、若い頃から口癖の「面倒くさい」が日常にすっかり溶け込んで、本当に何をするのも面倒になったと言いながらも、日課の「庭仕事」の中に楽しみを見つけているようです。今回のメルマガ『池田清彦のやせ我慢日記』では、今年、野鳥の鳴き声に変化があったと伝え、高校生の頃に諳んじていたという七言絶句を紹介しています。

庭仕事をしながら考えること

歳をとって実感することの一つは何をするにも面倒くさくなることだ。もともと私は面倒くさがりで、「面倒くさい」と言うのは口癖だった。かつて養老孟司とウドンサイ(Oudomxay)というラオスの北部の県に虫採りに行ったことがあった。「池田君。探せばメンドクサイ(Mendoxay)というところもきっとあるから、そこに住めばいいよ」と養老さんに言われてしまった。

医者に行って診断してもらったことはないけれど、間違いなく前立腺肥大症のため、夜中に何度も目が覚めてトイレに行くのだけれども、これが面倒くさいのだ。しかし、トイレに行かないでおもらしするのも、後始末を考えると、はるかに面倒くさいので、いやいやトイレに行く。

朝、目が覚めても起き上がるのが面倒くさいので、ベッドの上で30分くらいぐずぐずしている。女房はとっくに起きているので朝飯の支度は自分でしなければならない。それも面倒くさいが、食べないわけにもいかない。老人性鬱病かもしれない、という気がしないでもないが、朝飯の用意で立ち歩いているうちに、少しずつ気分が晴れてくる。

まず味噌汁を作る。私の作る味噌汁は結構凝っていて、味噌は自家製で、女房と一緒に作ったものだ。まず鍋に水を入れて「本枯節の無加塩だし」を入れて、冷凍のナメコとブナシメジとワカメを入れて、火にかける。しばらくして煮立ってきたころ、買ってきたネギか庭で採れた野菜を入れる。庭の野菜は、冬場は小松菜、夏はピーマンやパプリカを使う。最後にこれも庭に勝手に生えている金時草やシソやミョウガを散らせて、味噌を溶かして出来上がりである。最近は電子レンジでチンした半熟の卵を入れることが多い。独立に卵焼きとかオムレツを作るのが面倒になったのである。

とにかく何をするのも面倒くさいのだけれども、少しは体を動かさないと、そのうち歩けなくなることは必定なので、朝飯の用意と風呂洗いと庭仕事だけはしている。朝飯と風呂洗いはルーティンなので、毎日同じことで面白くないが、庭仕事は生き物相手なので、毎日状況が変わってくるので面白い。庭の様子や野菜の成長具合は1週間で激変するし、庭にいる昆虫の種類も数もどんどん変化する。

自宅は南北に走る小さな谷沿いなので、西も東も山林で野生の動物、鳥、昆虫などが見られ、詳しく観察記録をつけているわけではないが、年によって発生具合が違うので、なんでだろうと考えることも楽しみの一つである。小鳥と蝶は鳴き声と姿が目に付きやすいので、経年変化が分かりやすい。

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今年は例年になくウグイスが多かった。以前にも書いたかもしれないが、ここらあたりのウグイスは「ホ~ホケキョ」ではなく「ホ~ヨンジュビョ」と鳴く。まあ高尾方言だね。たまに「ホ~ホケキョ」と正統的に鳴くやつがいるが、仲間外れにされないか心配になる。ともあれ、今年は春先から7月の初めくらいまで、いつもウグイスの鳴き声が聞こえていた。晩唐の詩人、杜牧に「江南春」と題する七言絶句がある。

千里鶯啼緑映紅(せんりうぐいすないて みどりくれないにえいず)
水村山郭酒旗風(すいそんさんかく しゅきのかぜ)
南朝四百八十寺(なんちょう しひゃくはっしんじ)
多少楼台煙雨中(たしょうのろうだい えんうのうち)

出だしの二句は素晴らしいが、三句目がちょっと説明的かつ冗長で残念である。ちなみに八十寺は「はっしんじ」と読むらしい。同じ杜牧でも晩秋の情景を詠んだ「山行」は古今の名詩である。

遠上寒山石径斜(とおくかんざんにのぼれば せっけいななめなり)
白雲生処有人家(はくうんのしょうずるところ じんかあり)
停車座愛楓林晩(くるまをとどめて そぞろにあいすふうりんのくれ)
霜葉紅于二月花(そうようは にがつのはなよりくれないなり)

何で突然漢詩など思い出したのかというと、高校生の頃漢詩が好きで、教科書に載っていたものは全部暗記していたくらいなのである。漢文の先生は渡辺弘一郎先生で、アララギ派最後の歌人として清水房雄の筆名で活躍された。私は渡辺先生に可愛がられ、授業中に「漢詩を吟じろ」と命じられて閉口した覚えがある。

みんなの前での詩吟はさすがに恥ずかしい。先生は私の父と高等師範学校の同級生で、そんな縁で目をかけて下さったのだろうが、高校生にとっては有難迷惑だよね。先生は101歳の天寿を全うされたが、亡くなる数年前、私の思い出話をされていたということを人づてに聞いてちょっと嬉しかった。

閑話休題。例年よく鳴いているホトトギスは今年は少なかった。カッコウはこの辺りでは稀で、ここ何年も聞いたことがない。コジュケイはまだ寒いうちからよく鳴いていた。沢山棲息しているのだろうが姿を見たことはない。暑さが一段落した10月になって時々鳴き声が聞こえるが、恋の季節はとっくに過ぎただろうに、季節外れの恋に狂っている奴がいるのだろうか──(メルマガ『池田清彦のやせ我慢日記』2023年10月13日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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