年金の受給に際してはさまざまな制約があり、もちろん納付をしっかりとしていた人は問題はないのですが、未納が多い人は心配になることもあります。今回は人気メルマガ『事例と仕組みから学ぶ公的年金講座』の著者で年金アドバイザーのhirokiさんが、未納が多すぎる人が亡くなったら遺族年金はどうなるのか?というお話を事例を用いて詳しく解説しています。
過去に未納があまりにも多かった人が亡くなっても、遺族年金が請求できたケース
自分が亡くなった場合の遺族年金は家族には支給されるのかと心配される事は多いですが、遺族年金は比較的貰えてる人が多いです。
病気や怪我で受給する障害年金はちょっと特殊なものであり壁は多いですけど、遺族年金はそこまで壁はないです。
まず遺族年金は本人死亡から始まりますが、死亡日がわからないという事はないし、その日が動いてしまう事は原則ありません。
死亡日を特定するのはそう難しくないとして、次に死亡日までの年金記録を見ます。
死亡日の前々月までの全体の年金記録の3分の1を超える未納があった場合は請求できない事はあります。
しかし、特例として65歳未満の死亡であれば死亡日の前々月までの1年間に未納がなければそれでも年金記録を満たす事はできます。
また、年金記録全体で25年以上ある人はそもそも上記の3分の1とか直近1年に未納がないという要件は見なくても構いません(年金が有利になる場合もあるので、過去の保険料納付要件を見る事もありますが)。
保険料の要件を満たしたら、後は請求できる遺族を特定すればいいです。
遺族の範囲は本人死亡当時生計を維持されていた遺族であり、その順位としては配偶者、子、父母、孫、祖父母の順で最も順位の高い人が請求者となります。
なお、生計維持されていたというのは遺族の前年収入が850万円未満(もしくは前年所得が655.5万円未満)であり、住民票が一緒のような場合(生計を同じくしていた)を言います。
別居の場合でも合理的な理由があればそれも生計維持がされていたとして認められます。
ちなみに、配偶者と子は同じ第1順位の人ですが、配偶者が優先されます。
場合によっては子が優先される事もありますが、基本的には配偶者が優先されます。
上の順位者が請求できるのであれば、下の順位者の請求権は消滅します。
請求者がいるなら請求して、遺族年金を受給するだけ。
ただし死亡者の年金保険料の納付要件を見る時に、あんまり未納が多いと請求不可の時もあります。
さて、死亡者に未納が多いと遺族年金が貰えない場合もあるのですが、未納が多すぎても貰える人もいます。
それが先ほどの直近1年以内に未納がなければという要件を満たしてる人などですね。
ちょっとどうなるか短めに簡単に見てみましょう。
◯昭和45年6月23日生まれのA夫さん(今は53歳)
・1度マスターしてしまうと便利!(令和5年版)何年生まれ→何歳かを瞬時に判断する方法。
・絶対マスターしておきたい年金加入月数の数え方(令和5年版)
18歳年度末である平成元年6月から平成7年9月までの76ヶ月間は国家公務員共済組合(第2号厚生年金被保険者)。
この間の平均標準報酬月額は30万円とします。
平成7年10月から平成28年6月までの249ヶ月間は非正規雇用として働いていましたが厚年に加入できておらず、国民年金保険料は未納にしていました。
平成28年7月から令和元年6月までの36ヶ月は50歳未満の人が利用できる保険料納付猶予制度を利用(老齢基礎年金には反映しない)。
この納付猶予制度は本来は30歳までの人用でしたが、平成28年7月から50歳未満まで拡大されました。
一般の免除制度とは違って所得は本人と配偶者のみで見るので、世帯主の所得は審査対象外であり、将来の老齢基礎年金には反映しません。
令和元年7月から令和4年3月までの33ヶ月は未納。
令和4年4月から令和5年9月までの18ヶ月間は厚生年金に加入して働く。
この間の平均標準報酬額は16万円とします。
令和5年10月3日に急死。
死亡日時点で生計維持されていた遺族は45歳の妻(年収100万円)と、13歳の子。
なお、生計維持されていたというのは簡単に言うと住民票が一緒で、遺族が前年の年収850万円未満(または前年所得が655.5万円未満)の場合をいいます。
一時的な収入や所得は除きます。
次に死亡日時点の保険料納付要件を見ますが、全体の年金記録413ヶ月に対して未納が282ヶ月なので有効な年金記録は131ヶ月しかなく25年以上はありません。
では死亡日の前々月までの記録を見ますが、平成元年6月から死亡日の属する月である令和5年10月の前々月までの413ヶ月のうち未納が3分の1(33.33%)を超えてはいけません。
未納は282ヶ月なので、未納率は68.28%。
よってこれでは保険料の要件を満たしませんが、死亡日の前々月までの1年間(令和4年9月から令和5年8月まで)に未納がありませんので遺族年金を受給する事ができます。
また、死亡日が厚年加入中なので受給する年金は遺族厚生年金ですが、18歳年度末未満の子(障害等級2級以上の場合は20歳までの子)がいれば遺族基礎年金と子の加算金が国民年金から支給されます。
受給できるのは妻であり、妻が受給中は子への遺族年金は停止となります。
・遺族厚生年金→(30万円÷1000×7.125×76ヶ月+16万円×5.481÷1000×18ヶ月)÷94ヶ月×300ヶ月(最低保障)÷4×3=(162,450円+15,785円)÷94ヶ月×300ヶ月÷4×3=426,626円
ちなみに平成27年10月1日以降の死亡は、厚年期間だけでなく国家公務員共済組合の期間も合わせて計算して日本年金機構からまとめて支払います(死亡日が民間の厚年加入中にあるから)。
厚年加入中の死亡なので300ヶ月みなしで計算します。
・遺族基礎年金→795,000円+子の加算金228,700円=1,023,700円
・遺族年金生活者支援給付金→月額5140円(年額61,680円)
遺族年金総額は1,282,696円(月額106,891円)
ただし、子が18歳年度末を迎える時を令和10年3月31日としますと、令和10年4月分の年金からは遺族年金総額は遺族厚生年金426,626円のみとなります。
しかし遺族基礎年金の消滅後は中高齢寡婦加算596,300円の支給になります。
なので令和10年4月分以降の妻の遺族年金総額は1,022,926円(月額85,243円)となります。
なお、中高齢寡婦加算は65歳までの加算になり、65歳以降は妻の老齢の年金と遺族厚生年金の併給となります(老齢厚生年金が遺族厚年より多いと遺族厚年は支給されない場合もあります)。
例えば妻の65歳の年金が、老齢基礎年金60万円+老齢厚生年金20万円であれば、遺族厚生年金426,626円から妻の老齢厚生年金分20万円を引いた226,626円が遺族厚生年金となります。
というわけで、A夫さんはかなり未納期間がありましたが、死亡日の前々月までの1年間に未納がなかったので遺族厚生年金の受給に結びつきました。
過去の未納が多すぎる!という人は、死亡したと仮定してその前々月までの直近1年間を未納にしてなければと思います。
年金保険料の納付は時効内である直近2年1ヶ月まで可能です。
ちなみに未納がなければいいので、直近1年間が免除期間であっても構いません。
免除制度は申請日から最大2年1ヶ月まで遡ってくれるので、直近1年未納しかない!という場合も大丈夫です。
ただし、納付や免除申請は死亡日の前日までにやっておく必要があります。
では本日はこの辺で。
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