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タチの悪い茶番劇。柿沢法務副大臣「予算委員会を出席拒否」のクサすぎる三文芝居

今年4月の東京都江東区長選挙で当選した木村弥生区長に、公職選挙法に抵触する可能性のある有料インターネット広告を出すようアドバイスしたことが発覚し、10月31日に法務副大臣を辞任した柿沢未途(かきざわ・みと)衆院議員。そんな柿沢氏に対して与野党はネット広告疑惑についての説明を求め、同日行われた参院予算委員会への出席を要請しましたが、その時点では辞表が受理されていなかったにも関わらず、予算委員会に副大臣が姿を表すことはありませんでした。この柿沢氏の「予算委出席拒否」を岸田政権の茶番劇だとするのは、元全国紙社会部記者の新 恭さん。新さんは今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』で、そうとしか判断しようのない理由を柿沢氏の経歴や党内力学、そして岸田政権や関係省庁の思惑などを総合し解説しています。

劣化の極み。柿沢副大臣の予算委出席拒否を巡る岸田政権の茶番劇

10月31日、参議院の予算委員会は、柿沢未途法務副大臣の出席を求めていた。同日、朝日新聞が報じた違法の有料インターネット広告をめぐる疑惑について説明してもらうためだ。

ところが、法務省は柿沢氏の出席を拒否した。そのため、審議が長時間にわたって中断。当然のことながら野党からは「柿沢隠しだ」との声があがった。いったい何が起きたのだろうか。

朝日新聞が報じたのは、今年4月の東京都江東区長選をめぐり、公職選挙法違反容疑で東京地検特捜部の家宅捜索を受けた木村弥生区長に、有料インターネット広告を出すよう指南したのが柿沢氏だったという疑惑だ。柿沢氏は同紙の取材に対し「ユーチューブ広告は効果があるからやった方がいいと勧めた」と語っている。

“法の番人”である法務省の副大臣が違法行為を勧めるという重大事案だけに、同日早朝に開かれた参院予算委の理事会ではさっそくこの件が議題になり、柿沢氏の出席を求めることを与野党が合意して決めた。

しかし、午前9時に開会した予算委員会には、いつまで経っても柿沢氏が姿を現すことはなかった。柿沢氏は同9時30分ごろに辞表を提出している。それによって、もはや自分は副大臣ではないと決め込んだのだろうか。しかし、その時点ではまだ辞表は受理されていない。受理するかどうかを判断する小泉龍司法務大臣が予算委員会に出席中だったためだ。

いずれにせよ、柿沢氏には出席して、委員の質問に答える責任があるのに、それをしなかった。いや、法務省がそれをさせなかったことが後になってわかった。

小泉法相が柿沢氏と会って話を聞いたのが予算委の昼休み時間で、その後、持ち回り閣議で辞表が受理された。この間、予算委員会で柿沢氏への質問を予定していた立憲民主党の杉尾秀哉議員は1時間45分もの間、待ちぼうけを食らうはめになった。

与野党の理事が折り合ってようやく再開した午後の審議は、岸田首相と小泉法相の異例の発言からスタートした。

岸田首相 「辞職願を正式に受理する前の委員会審議において国会の要請に応じず柿沢副大臣が出席しなかったことを申し訳なく思っております」

小泉法相 「法務省として副大臣を委員会に出席させないという判断を大臣に諮らず事務方の独断で行ったことが確認されました。このような判断は事務方の越権行為であり不適切なものであります」

法務省事務方の独断、越権行為。今後そのようなことがないようにつとめると、あくまで事務方のせいにする。さらに、予算委の末松信介委員長が法務省に苦言を呈して見せた。

「勝手な判断を法務省が行い予算委員会の運営を妨げ、ひいては予算委員会の権威を貶めたといっても過言ではありません」

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江東区長選での柿沢の動きに怒り心頭だった萩生田光一

柿沢氏が国会への出席要請に応じず、説明責任を果たさないとなれば、大問題になるのはわかり切ったこと。にもかかわらず、大臣に了解を得ることなく法務省の事務方が、独断専行するようなことがあるだろうか。「法相に相談せず柿沢氏を出席させることは適当でないと判断した」と法務省側は言い訳するが、とうてい納得できるものではない。

辞表を提出するのはべつに委員会開催中ではなく、終了後でもいい。それをあえて、大臣や首相があずかり知らぬ間に、と言える委員会の最中に出させ、事務方が責任をかぶる形で答弁回避の態勢を整えた、とは考えられないだろうか。

むろん、柿沢氏が予算委に出席したくないため、法務省のしかるべき幹部に泣きついたという見方もできるだろう。しかし、法務副大臣に就任したのは今年9月15日と日が浅く、法務官僚が柿沢氏個人のためにそこまでするかという疑問が残る。

はっきり言って、柿沢氏はさほどの大物ではない。野党を渡り歩いたすえ、無所属となり、2021年の衆院選で当選した後、自民党に追加公認された。いわば入党して間がない新参者である。

だが、麻布中学校・高等学校の先輩にあたる谷垣禎一氏(元自民党総裁)のコネにより、谷垣グループの遠藤利明・前総務会長が推薦して自民党入りしたいきさつがある。早々に得た副大臣ポストも、そうした関係を背景とした異例の起用によるものだったといえよう。それだけに自民党内には「ちょっと前まで我が党を批判していたのに」と柿沢氏に反感を持つ議員も多いようだ。

ではなぜ、岸田政権、あるいは法務省は柿沢氏を委員会に出席させたくないのだろうか。

岸田内閣の支持率が危険水域にまで達しており、柿沢氏が委員会で追及されることによりダメージが広がるのを懸念している面はあるだろう。これが岸田政権サイドの都合だ。

法務省になにがしかの損得勘定があるとすれば、柿沢氏に対する検察の捜査とのからみが考えられる。

柿沢氏が関与したといわれる江東区長選挙で何が起きたかを見てみよう。自民党は、元区長の息子で都議だった山崎一輝氏を擁立した。衆院東京15区すなわち江東区選出の柿沢氏は木村弥生氏を支援した。木村氏は新人とはいえ、かつて自民党の衆議院議員を2期つとめている。選挙は保守分裂の様相を呈し、木村氏が山崎氏に13,000票差をつけて競り勝った。

木村氏を裏で支えた柿沢氏の動きに怒り心頭だったのが、現自民党政調会長の萩生田光一氏だ。もともと、柿沢氏に対して苦々しい思いがある。

2021年の衆院選。萩生田氏が幹部をつとめる自民党東京都連は、IR汚職事件で自民党を離党した秋元司氏に替わる候補者として元衆院議員の今村洋史氏を公認申請した。ところがそこに柿沢氏が自民党公認を求めて入り込んできたため、自民党本部は柿沢氏を今村氏とともに推薦し、当選した方を追加公認することにした。党本部の決定の背後に、谷垣・元自民党総裁と当時の遠藤選対委員長の連携があったことは先述した通りである。

今村氏のタスキを用意して政見放送も一緒に撮ったという思いがある萩生田氏は、街頭演説などで遠藤選対委員長への怒りをぶちまけた。「江東区のことは江東区の人たちが決める。山形県の政治家(遠藤氏)に東京や江東区の何がわかるんですか」「この選挙が終わったらきっちりけじめつけてやる。そんな思いでこの戦いを進めているところであります」

結局、外相を務めた父・弘治氏以来の地盤を東京15区に持つ柿沢氏が当選し、その後、自民党から追加公認された。しかし、萩生田氏らの反対で柿沢氏は次期衆院選の候補とみなされる東京15区の支部長には選ばれていない。そこに都連会長である萩生田氏のこだわりが見てとれる。

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法務省にとって今のところ大切に扱っておかねばならない柿沢

そんないきさつが尾を引くなか、江東前区長の急逝を受けて行われたのが今年4月23日の区長選だった。萩生田氏は、党が擁立した山崎氏を応援するよう要請したが、柿沢氏はこれを聞き入れず、木村氏の側についた。柿沢氏は、山崎氏やその父親の元区長とは以前から仲が悪い。つまり、自分の都合を優先したわけだ。萩生田氏がますます憎悪をつのらせたのは想像に難くない。

区長選が終わって、木村区長に今年7月、区民の男性ら2人から告発状が出され、受理された。選挙期間中、本人の写真に「木村やよいに投票してください」とのテロップを付けた有料広告をユーチューブに出したのは、有料インターネット広告を禁じる公選法に違反している疑いがあるというものだ。

木村区長によるそれだけの容疑なら特捜が乗り出すほどの事件ではない。だが法務副大臣である柿沢氏が、ネット広告を出すようアドバイスしたことにくわえ、区長選の前に、区議らにカネを配っていたことがわかっている。柿沢氏は「同時期に行われた区議選の陣中見舞いだ」と主張しているが、検察は「買収」も視野に入れて捜査を進めている可能性が高い。

検察は、建前上、政治からの独立性が求められる。だが、近年、法務省幹部を通じて政権を忖度する傾向が強まっている。安倍政権が検察庁法を無視してまで定年延長で検事総長に就けようとした黒川弘務氏(元東京高検検事長)がその象徴的な存在だった。後援会観劇ツアーで有権者を買収した小渕優子氏、URへの口利きで現金を受け取った甘利明氏。明白な証拠がそろっているこの二人の事件を潰したのは、安倍官邸を忖度した法務省官房長時代の黒川氏だったといわれる。

東京地検特捜部は政界の捜査に入ろうとするさい、法務省に、なぜかお伺いを立てることになっている。表向きは特捜が暴走することがないよう、ということだが、実際には政権の怒りを買うような捜査を避けたがる法務省幹部の保身に起因している。

今回の柿沢氏の場合は、法務・検察の忖度官僚たちも安心して捜査を進められるということだろう。なぜなら、岸田政権の政策決定に強い影響力のある萩生田政調会長の、柿沢氏に対する厳しい姿勢がメディアの報道などで明らかであるからだ。

そういう意味で、法務省にとって柿沢氏は、今のところ大切に扱っておかねばならない“重要人物”なのだ。野党の厳しい質問にさらされ、余計なことをしゃべられては困るという検察サイドの考えが、今回の法務省の対応に反映されたとみていいのではないか。

そして、岸田首相や小泉法相も官僚たちの振り付け通りに発言し、法務省事務方という漠然とした存在に責任を押しつけた。本当に、首相や法相の意に反して法務省が独断でやったのなら、その官僚を特定し、処分するはずであろう。

あいかわらず、政官合作によるタチの悪い茶番劇を見せられ続けているように思えてならない。

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image by: 柿沢未途 - Home | Facebook

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