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どちらも揃って支離滅裂。参政党と日本保守党の違いを冷静に分析した結果

10月17日に「結党の集い」を開催し、華々しい船出を飾った日本保守党。一方、2020年に設立され、2年後の参院選で初の国政議席を獲得した参政党。失礼ながら両政党ともよく似ていると思わざるを得ない主張を掲げていますが、彼らの違いはどこにあるのでしょうか。今回のメルマガ『小林よしのりライジング』では、漫画家・小林よしのりさん主宰の「ゴー宣道場」参加者としても知られる作家の泉美木蘭さんが、「日本保守党ができてからずっと抱いていた」というそんな疑問を解消すべく、両者の相違点を徹底検証。さらに参政党を眺め直した過程で「勉強になったこと」を紹介しています。

どこが違うかよくわからない。参政党と日本保守党とネットの自称保守

「Hanada」は今月も張り切っている。

巻頭カラーは、5ページにわたって日本保守党結党パーティーの写真を掲載。参加した見城徹、村西とおる、山口敬之、門田隆将など自称保守界隈の有名人の様子が紹介されていた。

「私たち、日本保守党を熱烈応援します」という恒例の寄稿コーナーには、竹田恒泰、茂木健一郎、金美齢、高橋洋一などが登場。「やむにやまれぬ大和魂」「日本民族の誇り」などの言葉が散らばって、人を保守っぽく褒め称えたいときのお手本のような文章がたくさん並んでいた。この熱烈応援文集のなかに、竹田恒泰がこんなことを書いている。

安倍晋三元総理が存命であれば、自民党が皇位継承問題で適切に対処してくれると期待されたが、岸田総理にはその意欲が見られず…

安倍晋三が存命であっても、竹田の望むような「男系男子固執」に対処する意欲なんてなかったと思うが……。

安倍が首相に就任するなり、小泉内閣時代にまとめられた長子優先の皇位継承と女性宮家創設を認める提言を白紙撤回したのは事実だが、結局、その後の長期政権のあいだに、「皇籍復帰してもよいという旧宮家系の男系男子」に該当する人物を探し出すことはできず、時間ばかりが引き延ばされて、ますます皇室を危機的状況に追い込んだだけ!

「皇位継承問題で適切に対処」なんて、自称保守側の主張から見ても期待できなかったとなぜ理解できないのだろう。

自民党は「保守政党」と言われるが、それは事実ではない。女性・「女系」天皇を可能とする皇室典範改正を試みたのは、ほかならぬ自民党だった。自民党には幅広い思想の議員がいて、皇室を守る意識を持つ人は、むしろ全体的には少数派と見られる。

竹田の言う「皇室を守る意識を持つ人」というのは、男系男子に固執すべきだという発言を繰り返し声高に主張してきた青山繁晴や山谷えり子、長島昭久、柴山昌彦、西田正二のような議員のことだ。

それが「全体的には少数派」ということは、自分の主張は「国民のごく一部」でしかなく、以前のように「女性・女系の容認は国論を二分する!」と言って脅すことができなくなったということだろう。

もっとも、自民党含め大半の議員はそもそも皇統問題に興味がないし、あまり触れたがらないというだけだが。

竹田は、日本保守党には皇位継承議論をリードする存在になってほしいというようなことを書いているが、全体的には「アンチ自民」としての愚痴がメインで、最後は「安倍なき自民」を正しく導いてほしいという言葉で締めくくっている。

自民党を導く政党って、それは、どんな立ち位置のどれほどの勢力を想定しているのか、なんだか意味がよくわからないが、竹田自身、日本保守党がそれほどの力を持つとまではさすがに思っていないだろう。

もしかすると、男系男子固執は、現実的にも憲法解釈的にも苦しいのかもしれないと感じていて、「安倍さんが生きていたらうまくいったのに」という逃げ道を意識しはじめているのでは、という想像もめぐった。

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分析して見えてきた参政党と日本保守党との相違点

ところで、日本保守党ができてから、ずっと疑問に思っていたことがある。

これ、参政党となにが違うの?

どちらも「日本古来の伝統と文化」「国体護持」という言葉を強く打ち出しており、「神武天皇以来、男系で継承されてきた万世一系の皇統を守る」というフレーズが大好きで、「旧宮家の皇籍復帰」「宮家と旧宮家の養子縁組」を主張。

参政党の神谷は「側室制度の復活」を、保守党の百田は「Y染色体の理科」を発信している。

どちらも「自主防衛」を目指し、「自虐史観からの脱却」を主張。

さらにどちらも「消費税減税」で、その上「LGBT法に反対」「スパイ防止法の制定推進」だ。

ぜんぶ同じ!

特徴的な違いを挙げるとすれば……

参政党は、ディープステート(あの勢力)と対抗したい党。

保守党は、名古屋城の天守閣を木造にしたい党。

といったところか?

表紙デザインも判型も内容もほとんど変わらない雑誌だが、よーーーく見ると陰謀論が大好きな「WiLL」、ターゲットは狭くてもお祭り騒ぎで売れるなら何でもアリの「Hanada」という微妙な違いに似ている。

参政党は、表向きには「グローバリズム全体主義への対抗」という言葉を使い、国際的な協調は必要だが、グローバリズムについては批判するという保守的なスタンスを見せている。

が、そのスタート地点はコロナと反ワクチンで、コロナ禍で本格的にSNSの世界にのめり込んで「マスコミが報じない都合の悪い真実」の数々に衝撃を受けた、とてもピュアでイノセント(※)な人々が集まり、「世界を1つのルールで統一しようと考える勢力がいる」「パンデミックは計画的に起こされたもの」「その後のワクチン強制の仕組みまで、ユダヤ系の国際金融資本を中心とする『あの勢力』が、人類を統制するために仕組んでいた」などの陰謀論に震撼している状態だ。

(※)イノセント【innocent】:潔白な,汚れのない,無邪気な,単純な,無知な

マスコミが全体主義を作り出すことに加担したのは確かだが、SNSを通じて手元に届いた情報は、アメリカでかつて猛威を振るったトランプ支持者による陰謀論の焼き増しでしかなく、結局のところ、アメリカのITグローバル企業によって整備されたネット・インフラの上を漂流し、右往左往させられているようにしか見えない。

参政党支持者からは、よく「ワクチンを打っているのは日本人だけ」という言葉が飛び出すが、それなら「なぜ日本人だけなのか?」「強制されてもいないのに素直に従う性質とは?」「そもそも日本人とはなんなのか?」など、日本固有の問題として内側から考えるべきことがたくさんあると思う。

日本人について考察し、知ろうとする目線を持たずに、輸入モノの陰謀論を頭にかぶって盛り上がりながら、「歴史につむがれた日本の国柄」とか「神話から続く日本古来の文化」とか通り一遍の保守的な言葉で着飾っていくインスタントな流され方が、私のなかでは「いかにもネット政党だね」という偏見を強めている。

日本保守党のほうも、安倍の遺した政策や負の仕組みをいちいち批判してみせながら、「安倍さんが生きていればこんなことにはならなかった」と嘆くという意味不明の支離滅裂ぶりを発揮して「安倍なき自民党への対抗」に乗り出したのだから、「やっぱりネットってバカの巣窟なんだね」という偏見を猛烈に強めさせている。

「これって安倍のやったことだよね」「あの時、安倍の発言を素直に礼賛した自分たちとは?」「そもそも何を支持していたのか?」など、アンチに走った理由を考えたほうがよいと思う。

ふたを開ければ、在日ヘイトやトランスジェンダー差別でいっぱいで、男系の血統、男尊女卑の風潮がもっと強かった明治の頃が大好きなんだとわめいている。

結局、「ボクらが気に入った『安倍晋三』というイメージ」だけを信仰してきた、「人の支配」を求めてマウントをとりたがる、劣等感の塊のような人々の集まりなのかもしれない。

とにかくディープステートに支配される世界を恐れる子羊タイプの人は参政党。

とにかく他人にマウントをとりたいチンパンジータイプの人は日本保守党。

私なりに分析してみたが、どうだろう?

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「パンデミック条約でワクチン接種を強制される」のウソ

さて、今回、参政党を眺めなおす過程で、ひとつ勉強になったことがあるので最後に紹介しておきたい。

参政党支持者を中心とした反ワクチン活動を続ける人々のなかで、盛んに話題になっている「パンデミック条約でワクチン接種を強制される」「WHOに国家の主権を奪われる」などの警告についてだ。

パンデミック条約とは、WHOの強化を図るために議論されている新しい条約のことだ。採択された場合、WHOに加盟するそれぞれの国内で承認が得られれば、発効される。

同時に、WHO加盟国に適用される「国際保健規則(IHR)」の改定も進んでいる。

弁護士の楊井人文氏が、実際の条約改正案を読み込んで解説しているので、興味のある人はそちらを読んでみてほしいが、少し説明しておこう。

パンデミック条約でワクチン強制は本当?それより警戒すべき条文とその理由

楊井氏によれば、パンデミック条約もIHRも、最新の条約案にワクチン接種の義務化や強制につながるような条文はまったく見当たらないという。

国家主権を剥奪するような条文もない。

逆に「国家主権の尊重」を確認する条文があり、WHOの権限を強化する内容ではあるものの、加盟国はWHOの勧告に従う義務も、従わないからといって制裁を加えられる仕組みもないらしい。

なんだ……。

一体どういう経緯を経て「ワクチン強制」「WHOに主権を奪われる」という説が生まれたのかはわからないが、「緊急事態条項ができれば徴兵され、虐殺される!」的な、「パンデミック条約コワイ!」というイメージが生み出した、反ワクチンの突飛なスローガンだったということだ。

それよりも、楊井氏が危惧するのは、パンデミック条約18条の「虚偽の、誤解を招く、誤情報又は偽情報と闘う」という文言だという。

誤情報や偽情報は、混乱を招き、健康を害する危険な行動を引き起こし、保健当局への不信を招くので、世界レベルでそれに対抗する能力を強化するというような内容が記載されているのだが、一体誰が、どの段階で誤情報・偽情報と判定するのか、どんな対抗をするのかも決められていないのだ。

仮に現在のままで採択され、国内で批准されると、それを根拠に河野太郎のような政治家が「誤情報・偽情報撲滅法」のようなものを目指しはじめかねない。

条約は議論中で、何度も変更されているため、常に最新版の条文案を追わなければならないが、この点には注目しておいたほうがよいだろう。

参政党や日本保守党が、こういうところに緻密に着目して、発信してくれる政党なら助かるのだが……。

(『小林よしのりライジング』2023年11月7日号より一部抜粋・文中敬称略)

2023年11月7日号の小林よしのりさんコラムは「ジャニーズ問題:マスコミの〈検証〉」。ご興味をお持ちの方はこの機会にご登録ください。

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【著者】 小林よしのり 【月額】 ¥550/月(税込) 【発行周期】 毎月 第1〜4火曜日 発行予定

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