アメリカのバイデン大統領は現地時間15日、中国の習近平国家主席と会談しました。以前より対立関係にある米中ですが、なぜ今、大国の首脳は会談したのでしょうか?メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者で国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんは、この会談に大きな意義があるとして、その理由を解説。その裏には、日本も他人事ではいられない大きな「問題」が潜んでいるようです。
なぜ、バイデンと習近平の米中会談がおこなわれているのか?
全世界のRPE読者の皆さま、こんにちは!
北野です。
アメリカでは、バイデン、習近平会談が行われています。
まだ結果はわかりませんが、この会談の意義と重要性について触れたいと思います。
2021年1月にバイデンが大統領になった時、日本では二つのことが言われていました。
- バイデンは親中である。だから米中関係はよくなる。
- バイデンは反日である。だから日米関係は最悪になる。
皆さん、覚えておられるでしょう。
これに対して、私は全然正反対の意見でした。
- バイデンは親中である。しかし、米中覇権戦争は続いていく。
- バイデンは反日である。だが日米関係は、トランプ時代よりよくなる。
当時私がどんなことを言っていたのか、以下の動画からご確認いただけます。
そして、実際私が予測したどおりになりました。
まず、米中関係。
予想通りバイデンは、米中覇権戦争を続けています。
具体的にどんなことがあったのでしょうか?
- クアッド(日米豪印戦略対話)の強化
- AUKUS(米英豪による対中軍事同盟)立ち上げ(2021年9月)
- IPEF(インド太平洋経済枠組み=14か国からなる【中国抜きの経済枠組み】)立ち上げ(2021年10月)
- 民主主義サミット立ち上げ(2021年12月)
これらはすべて、「対中包囲網」です。
バイデン政権は、中国が強くなりすぎたアジアのバランス・オブ・パワーを回復させようとしていました。
そして、予想通り、日米関係も良好です。
トランプさん時代も、日米関係は良好でした。
しかし、貿易問題で、トランプさんサイドからの圧力があった。
今、日米関係は、本当に良好です。
では、なぜバイデンは、習近平と会うのでしょうか?
なぜ、アメリカは、中国との関係改善を急いでいるように見えるのでしょうか?
第3次世界大戦を回避するための米中首脳会談
米中関係は1970年代の初め、「事実上の反ソ連同盟」になりました。
その後、1989年の「天安門事件」、1991年の「ソ連崩壊」で一時悪化します。
ソ連が崩壊して、「反ソ連同盟」が必要なくなったからです。
しかし、1993年頃から、再び米中関係は、「事実上の同盟」になりました。
今回は、「反ソ同盟」ではなく、「金儲け同盟」です。
アメリカは、世界一の人口を誇る極貧国家中国に投資することで「大儲けできる」と考えた。
実際、アメリカは大儲けし、中国は奇跡的な経済成長を手にしました。
まさに「WINーWIN」の関係です。
ところが、2012年に「ナショナリスト」の習近平が中国のトップになると、風向きが変わってきました。
2015年3月、「AIIB事件」が起こります。
イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、スイス、オーストラリア、イスラエル、韓国 などなど、いわゆる親米諸国が、こぞって中国主導の国際金融機関「AIIB」に入ってしまった。
アメリカが、「入るなよ!」と要求したにもかかわらず。
オバマさんは、「親米国ですらアメリカではなく中国の言うことを聞く。アメリカの覇権は風前の灯だ。そして、中国は、覇権一歩手前まできている」ことに気づき、愕然としたのです。
ここから米中覇権戦争の前哨戦がはじまりました。
2018年10月、ペンス副大統領の「反中演説」から「米中覇権戦争」の時代に突入していきます。
「中国に勝たなければアメリカの未来はない!」というのは、もはや「国論」と言っていい。
だから、ナショナリストのトランプさんが辞めて、グローバリストのバイデンさんが大統領になっても、路線の変更はなかったのです。
では、なぜバイデンは習近平に会い、和解に動いているように見えるのでしょうか?
二つの戦争で、事情が変わったからです。
一つは、ロシアーウクライナ戦争。
もう一つは、イスラエルーハマス戦争です。
しかし、イスラエルにとって最大の問題はハマスではありません。
ハマスの後ろにいるイランです。
もっというと、イランの「核兵器保有問題」です。
今年3月時点で、イランのウラン濃縮濃度は83%に達していた(※ 核兵器製造に必要なのは90%以上)。
『時事』2023年3月5日。
〈イランを訪問した国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長は4日、ウィーンの空港で記者会見し、イラン中部フォルドゥの核施設で核兵器級に近い濃縮度83.7%のウラン粒子が検出された問題について「その水準の濃縮ウランは蓄積されていない」と述べた。〉
そして今年9月、イランはIAEAの査察を拒否した。
これは、「イランが核兵器保有あと一歩のところまできているからではないか?」と推測できる。
『日経新聞』9月17日付。
〈国際原子力機関(IAEA)は16日の声明で、イランからIAEAの一部査察官の受け入れを拒否すると通告があったことを明らかにした。
査察官はウラン濃縮などを検証している。グロッシ事務局長は「強く非難する」と述べ、査察に深刻な影響が出るとして再考を求めた。国際社会の懸念が一層強まるのは必至だ。〉
イスラエルと同盟国アメリカの真の目的は、「イランの核施設を破壊すること」だと考えられます。
そうだとすると、イスラエルーハマス戦争が、アメリカ、イスラエル ー ハマス、イラン戦争に拡大する可能性が高い。
つまりアメリカは、
ロシアーウクライナ戦争
イスラエルーイラン戦争
の二正面作戦を強いられることになります。
この時、習近平は、
「アメリカは今、ウクライナとイスラエルの支援で忙しい。私が台湾侵攻を決断しても、米軍はどうすることもできないだろう」
と考え、実際に台湾侵攻を開始するかもしれません。
そうなれば、アメリカは「三正面作戦」を強いられます。
さらに、習近平が金正恩を誘います。
「中国は台湾に侵攻する。
同時に北朝鮮は韓国に侵攻しなさい。
米軍は、ウクライナ、イスラエル、台湾で忙しく、必ず韓国を見捨てるから」と。
金正恩は、中国が台湾侵攻を開始した翌日、韓国侵攻を開始します。
世界では4つの戦争が同時に起こっている。
まさに、「第3次世界大戦」です。
バイデンは、こういう事態にならないよう、中国との和解を急いでいるのです。
物事を一面的、短絡的に見る人は、
「バイデンは中国に接近している!やはり、奴は親中派だ!」
と彼を非難するかもしれません。
しかし、中国が、「アメリカは、二正面作戦で動けまい。
この隙に台湾に侵攻しよう!」
となれば、日本も他人事ではいられません。
だから、バイデンが中国との和解に動いているのは、世界にとっても日本にとってもいいことなのです。
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