脂肪は「悪玉」だ、そう考えて疑わない人は多いのではないでしょうか。今回のメルマガ『糖尿病・ダイエットに!ドクター江部の糖質オフ!健康ライフ』では、糖質制限食の提唱者として知られる糖尿病専門医の江部康二医師が、米国の権威ある医師会雑誌に発表された論文をエビデンスに、脂肪悪玉説が否定されていたことを紹介。さらに別の論文から、脂肪が体に悪いどころか多く食べるほど体に良いとする研究結果についても明かしています。
脂肪悪玉説は否定されている
脂肪悪玉説が、戦後、先進国を席巻して、「大腸ガン、乳ガン、心筋梗塞などの元凶は脂肪摂取過剰である」という(根拠のない)定説がまことしやかに信じられてきました。
しかし、これに対して、大変興味深い研究結果が発表されています。
RCT論文と前向きコホート研究があります。
まずは、RCT論文です。
<RCT論文>
米国医師会雑誌、2006年2月8日号に掲載された3本の論文*において、
「<低脂肪+野菜豊富な食生活>は乳癌、大腸癌、心血管疾患リスクを下げないし、総コレステロール値も不変であった」
という報告がなされたのです。
*Journal of American Medical Association(JAMA)誌
2006年2月8日号の疾患ごとにまとめられた3本の論文で報告。
Low-Fat Dietary Pattern and Risk of Invasive Breast Cancer
Low-Fat Dietary Pattern and Risk of Colorectal Cancer
Low-Fat Dietary Pattern and Risk of Cardiovascular Disease: The Women’s Health Initiative Randomized Controlled Dietary Modification Trial JAMA ,295(6):629-642. 643-654. 655-666.
米国医師会雑誌は、インパクトファクターが高く、ニューイングランドジャーナルに次ぐ権威有る医学雑誌です。
RCT研究論文ですので、エビデンスレベルも信頼度が高いです。
5万人弱の閉経女性を対象に、対照群を置き、平均8年間にわたって追跡した結果です。
高額の費用をつぎ込んだ大規模臨床試験で、二度とできない高いレベルの研究です。
2万5千人ずつにグループ分けをして、一方は、脂肪熱量比率20%で強力に低脂肪食を指導しました。
残るグループは脂肪制限なしなので、米国女性平均なら30数%の脂肪摂取比率です。
平均的米国女性に対して、約半分近くまで、脂肪摂取比率を厳格に減らして臨床試験を実施したわけです。
研究をデザインした医師は、
「高脂肪食が大腸ガン、乳ガン、心血管疾患のリスクを増大させる=脂肪悪玉説」
という従来の定説を掲げて、それを証明するためにこのRCTを実施したと思います。
すなわち、
「低脂肪食実践により、大腸ガン、乳ガン、心血管疾患のリスクが減少する」
と信じてこのRCTを開始したと考えられます。
ところが、豈図らんや、低脂肪食は、乳癌、大腸癌、心血管疾患リスクを全く下げなかったのです。
これは、即ち、脂肪悪玉説が根底から否定されたということです。
結論です。
「5万人を8年間追跡したJAMA掲載のRCT研究論文で、少なくとも乳ガン・大腸ガン・心血管疾患に関しては、脂肪悪玉説は否定された」
ということになります。
脂肪悪玉説を根底から覆す良質の信頼度の高いエビデンスですね。
この記事の著者・江部康二さんのメルマガ
次に前向きコホート研究です。
<前向きコホート研究>
(1) 低炭水化物・高脂肪・高タンパク食に冠動脈疾患のリスクなしであり、一方、総炭水化物摂取量は冠動脈疾患リスクの中等度増加に関連していた。
高GLは冠動脈疾患リスク増加と強く関連していた。
ニューイングランドジャーナルのコホート研究
82802人 20年間 2006年掲載 ハーバード大学
炭水化物摂取比率36.8±6.1%グループと58.8±7.0%のグループの比較。
Halton TL, et al. Low-carbohydrate-diet score and the risk of coronary heart disease in women. New England Journal of Medicine 2006;355:1991-2002.
(2) 21論文、約35万人をメタアナリシスして、5-23年追跡して1.1万人の脳心血管イベントが発生。
飽和脂肪摂取量と脳心血管イベントハザード比を検証してみると、飽和脂肪酸摂取量と脳心血管イベント発生は、関係がないことが判明。
Siri-Tarino, P.W., et al., Meta-analysis of prospective cohort studies evaluating the association of saturated fat with cardiovascular disease. Am J Clin Nutr, 2010. 91(3): p. 535-46.
(3) 「炭水化物の摂取増加で死亡リスク上昇」
ランセット誌のオンライン版(2017/8/29)で、カナダ・マックマスター大学のMahshid Dehghan博士らが報告。
https://doi.org/10.1016/S0140-6736(17)32252-3
5大陸18カ国で全死亡および心血管疾患への食事の影響を検証した大規模疫学前向きコホート研究(Prospective Urban Rural Epidemiology:PURE)の結果。
2003年1月1日時点で35~70歳の13万5335例を登録し、2013年3月31日まで中央値で7.4年間も追跡調査。
・論文の内容を要約
1)炭水化物摂取量の多さは全死亡リスク上昇と関連。
2)総脂質および脂質の種類別の摂取は全死亡リスクの低下と関連。
3)総脂質および脂質の種類は、心血管疾患(CVD)、心筋梗塞、CVD死と関連しない。
4)飽和脂質は脳卒中と逆相関している。
・炭水化物摂取比率 総死亡率
1群 46.4% 4.1%
2群 54.6% 4.2%
3群 60.8% 4.5%
4群 67.7% 4.9%
5群 77.2% 7.2%
・脂肪の摂取比率 総死亡率
1群 10.6% 6.7%
2群 18.0% 5.1%
3群 24.2% 4.6%
4群 29.1% 4.3%
5群 35.3% 4.1%
前向きコホート研究(1)の結論は「高脂肪食に冠動脈疾患のリスクなし」です。
前向きコホート研究(2)の結論は「飽和脂肪酸摂取量と脳心血管イベント発生は、関係がない」です。つまり、肉の脂も大丈夫ということです。
前向きコホート研究(3)の結論は「脂肪の摂取比率が多いほど総死亡率は低下する」です。つまり、脂肪が体に悪いどころか、多く食べるほど、体に良いということです。
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