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米中の接近を敏感に察知。三カ国外相会議を実現させた日韓の動き

11月26日に韓国の釜山で開催された、実に4年ぶりとなる日中韓外相会談。日韓と中国との距離感を伝えるメディアも少なくありませんでしたが、識者はこの会談をどう見たのでしょうか。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では、著者で多くの中国関連書籍を執筆している拓殖大学教授の富坂聰さんが、この外相会談の意義と意味を解説。さらに東アジア安定のために焦点となる「次なるステップ」を考察しています。

日中韓の首脳会談へとつながるのか。意味ある三カ国外相会談の開催

サンフランシスコ郊外ファイロリで行われたアメリカのジョー・バイデン大統領と中国の習近平国家主席の首脳会談は、米中対立に変化をもたらしたのだろうか。

それを確かめる最初のチャンスが早速めぐってきた。11月26日、日中韓の外相会談が韓国・釜山(プサン)で開催されたからだ。前日、25日には三カ国会談に先駆けて上川陽子外相と王毅外相の会談も実現した。

日本の新聞各紙は、上川が「両首脳から示された方向性に沿って、日中関係を発展させるべく、緊密に連携したい」と述べたのに対して、王が「(両首脳の)共通認識は、重要な政治的指針だ。中日関係が健全かつ正しい軌道に沿って発展するよう推し進める」と答えたことを報じた。

二人の外相の会話は予定調和で、日中間の距離を感じさせた。しかし日中韓の外相会談そのものが、2019年8月以来約4年間も開催されてこなかったことを考慮すれば、大きな進展とみて間違いはない。

長期にわたり会談が行われなかったのは、「新型コロナウイルス感染症のため」と説明されるが、それだけではない。

コロナ禍によって米中関係が急速に悪化したのに加え、2020年の米大統領選挙を戦うドナルド・トランプ大統領(=当時)が対中強硬姿勢をアピール。二大国の関係は史上最悪と表現されるまでに落ち込み、日本の対中外交にも逆風となった。アメリカという要素を抜きに、説明はできないことは多言を要しない。

また22年にロシアがウクライナに侵攻すると、欧米vs中ロという対立の構図がここに加わる。アメリカは「自由主義か専制主義か」、旗幟を鮮明にせよ、と同盟国・友好国に迫り、対中デカップリングを進めた。

これが東アジアの従来の関係に大きく影を落としたことは言うまでもない。

翻って考えれば、日中間の関係が今後改善するか否かも、アメリカが中国をどう扱おうとしているかにかかっているとみて間違いないだろう。

もちろん日中間には二カ国の難題もさまざま横たわり、関係改善の障害となっている。記憶に新しいところでは福島第一原子力発電所から放出される処理水に反発した中国が日本産水産物を輸入停止にした問題。尖閣諸島沖周辺の日本の排他的経済水域(EEZ)に中国が設置した大型ブイの問題がある。

いずれも外相会談で取り上られ、両者の応酬も伝えられた。しかし、これが現状での進展を期待した行いなのかと言えばそうではない。むしろ国内向けの「アリバイ」だ。

こうしたある種のプロレスが成立する現実は、見方によっては「進展」であり、アメリカの介入が緩んだ証左なのかもしれない。

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米中の「接近」を敏感に察知した日韓の動き

先週の原稿でも書いたが、日本はカリフォルニアで日中首脳会談を実現するため、水面下で文字通り奔走した。中国もまた、日本のそうした動きを歓迎した。

【関連】日中首脳会談で少し緩んだ習近平の口元。そこから日本が読み取るべき“サイン”は

その意味でもいま、東アジアの安定のための第一のステップはクリアされたのかもしれない。続く第二ステップが今回の日中韓の外相会談であり、さらにその先にある日中韓の首脳会談へと進めるのか否かが、次の焦点というわけだ。

日中韓外相会談は結局、韓国が用意した晩餐会を王毅が「多忙」を理由に欠席するなどざわつく場面はあった。しかし関係改善には概ね前向きなメッセージが出されたようだ。

日本では中国経済の不動産バブルの崩壊やピークアウト論を筆頭に、景気の低迷にばかり焦点が当てられているが、中国経済の世界の成長への貢献度はいまだ30%前後を保持している。

その中国が最大の貿易相手であれば、関係を悪化させたまま放置する選択は無責任だ。

ここ数年、日韓両国には台頭する中国への警戒感が広がり、米中対立にも後押しされて嫌中感情を高めてきた。民主選挙を戦う政治家も、これに敏感に反応してきた。

韓国では中国に近く北朝鮮との融和を目指した文在寅(ムン・ジェイン)政権を批判して大統領選挙に勝利した尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が、当選後に親米路線に舵を切り、日本との関係改善に動いた。

中国がこの変化に刺激されたことは言うまでもない。さらに日韓接近の仕掛けが、やはりアメリカであったことをバイデン自らが暴露したことで、中国は日韓がアメリカの操り人形として東アジアの関係を破壊するのではないかと態度を硬化させた。

極めつけは尹が、これまで韓国首脳が慎重に触れることを避けてきた台湾問題にまでに口を出したことだ。南シナ海にまで自衛隊を派遣し、フィリピンと演習を行う日本の行為もアメリカの振付けだと中国の目には映る。

日韓が自らの利益を犠牲に、アメリカの中国抑止のために働く東アジアの未来が見え始めていた。

そんななか三カ国の外相会談が実現し、さらにその先の首脳会談まで視野に入り始めたのは、米中の接近を敏感に察知した日韓の動きがあったからだ──(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2023年11月26日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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【著者】 富坂聰 【月額】 ¥990/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎週 日曜日

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