12月7日、欧州連合(EU)のミシェル大統領とフォンデアライエン欧州委員長が北京で習近平国家主席と会談。多くの日本メディアが、中国とEUの相違点やイタリアの「一帯一路」離脱による中国の焦りに注目するなか、別の見方を示すのは、中国関連書を執筆している拓殖大学の富坂聰教授です。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では、習近平氏がEU首脳に語った内容が、2014年から大きく変わっていないと解説。加えて、会談を見守るグローバルサウスを意識する強かさもあるとの見方を伝えています。
欧州連合(EU)との首脳会談で歩み寄っても、なお残る中欧関係の不安定材料
世界最大の発展途上国と世界最大の先進国の連合体の会談。習近平国家主席は中国とEUをそう位置付けた後に、訪問したEUのシャルル・ミシェル大統領とウルズラ・ゲルトルート・フォンデアライエン欧州委員長にこう語りかけた。
「中国と欧州には世界にさらなる安定性をもたらし、発展により推進力を与えるために共同して取り組む責任がある」
以前の記事でも触れたように、中国はアメリカに対峙するのと同じく中欧関係でも、その好悪を「世界を安定させる責任」とリンクさせることで、対立からの回避をはかろうとしている。
このロジックに従えばアメリカが仕掛けるデカップリング(経済切り離し)や封じ込めの動きは、世界経済に与える負の影響を無視して競争に拘泥する自分勝手な行動となる。つまりデカップリングに同調するEUも自動的に世界経済を顧みない連合体となるというわけだ。
習の呼びかけは会談相手に向けられたものでありながら、一方で会談を見守る世界、とりわけグローバルサウスに向けたアピールにもなっているのだ。対米、対EUで大きな進展が期待できないなかで行われる首脳会談。そこでも外交のポイントをきっちり獲得しようとする中国の強かさが垣間見えるのだ。
今回の会談を報じた日本のメディアは、相変わらず欧州側が膨らみ続ける対中貿易赤字や中国政府の補助金を受けた中国製電気自動車(EV)に対する不満など、相違点を強調する内容だった。イタリアが「一帯一路」からの離脱を正式に伝えたことを受け、中国が何とかEUを繋ぎ止めようと焦っている、という見立ても目立った。
しかし、習政権の受け止め方は概して落ち着いていた。習はミシェル、フォンデアライエン両氏の昨年末からの訪中に触れ、「中国と欧州の戦略、経済貿易、グリーン、デジタル分野のハイレベル対話が豊かな成果を収め、中国・欧州関係に揺るぎなく発展する良好な勢いが現れた」と位置付けた。少なくとも悪化へと向かうとは考えていないようだ。
一方のミシェル、フォンデアライアン両氏も「EUは中国との関係を非常に重視しており、中国との分離を望まず、中国との長期的で安定した、予測可能かつ持続可能な関係を発展させることを期待している」と応じ、対立が強調されることはなかった。
この記事の著者・富坂聰さんのメルマガ
EUへの習のラブコールは、メディアが書いたような「変化」ではない。そのことは過去の会談内容と比べても明らかだ。例えば、2014年には「中国はEUと協力して、平和の陽光が戦争の霞を追い払い、繁栄の篝火が寒い春の世界経済を温め、全人類が平和的発展と勝利の道を歩み始めることを促進する用意がある」と習は語っているのだ。
むしろ中国は、アメリカ追従で政治的な対立にEU側が傾くことを警戒し、3つの「べからず」を提案している。その内容は、「体制が違うからといってお互いをライバル視してはならない」「競争のために協力を減らしてはならない」「意見の違いを理由に対抗してはならない」というものだった。
中国とヨーロッパの貿易は、政治的な空気とは裏腹に伸び続けている。貿易額は依然として過去最高を記録していて、対前年比で2.4%増の8473億ドルに達し、互いに第2の貿易相手国であり、両地域間では毎時間約1億米ドル相当の商品が流通しているといわれている。
イタリアが正式に離脱したとはいえ「一帯一路」での結びつきも相変わらず強い。実際に中国とヨーロッパの貨物列車は、欧州25カ国の217都市を結んでいて、今年9月末時点で累計7万8000両を超えた。中国は、こうしたニーズがあるにもかかわらず、政治がそれを阻害しかねないことを警戒している。
イタリアの「一帯一路」からの離脱の影響は、実際のところはほとんどない。ただ、離脱を決めた動機が同国の政権交代であったことに中国は不安を覚えているのだ。強硬右派「イタリアの同胞」を率いるメローニ政権の誕生である。
背景にあったのはアフリカ・中東からの大量の移民の流入に国民が不満を募らせていたことだ。そして同じような問題は、いまヨーロッパ全域に拡大しているといっても過言ではない──(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2023年12月10日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)
この記事の著者・富坂聰さんのメルマガ
image by:Alessia Pierdomenico/Shutterstock.com