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忖度から“解放”されて嬉し泣き?岸田文雄が「安倍派バッサリ会見」で涙を見せた理由

13日に行われた記者会見で、国民の政治不信払拭に「火の玉」となって取り組むとの決意を語った岸田首相。その目には光るものがありましたが、なぜ首相はあの場で涙を見せたのでしょうか。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では元全国紙社会部記者の新 恭さんが、首相の涙がするところを考察。さらに事ここに及んでも政権をあきらめない我慢強さと鈍感力を「岸田首相の真骨頂」と皮肉っています。

自らの決断に酔ったのか。岸田首相が安倍派切りの会見で涙を見せた訳

「国民の信頼回復のために火の玉となって自民党の先頭に立ち、取り組んでまいります」

12月13日、臨時国会が閉会した後の記者会見。テレビ映像は、派閥パーティーをめぐる裏金問題について語る岸田首相の目に、涙が光っているのをとらえていた。

公式の場で、これほど岸田首相が感情を素直に吐露したのは初めてではないだろうか。補正予算が成立し国会が閉幕してほっとしたからではあるまい。「火の玉」となって先頭に立つというのは、どういうことなのか。

ハンパな減税策が国民にそっぽを向かれ、内閣支持率は出るたびに最低を更新、おまけに自民党の政治資金パーティーに組織的裏金作りの疑いがかけられ、党内は特捜検察の足音におびえきっている。

この悪循環を断ち切り、支持率を反転させるため、岸田首相は戦時中のスローガンを思い起こさせる「火の玉」なる呪文を唱え、「生贄」となるものを用意した。

「これから年末に向けて、国民の生活や国の基本政策に関わる重要な決定がめじろ押しで、遅滞を来すことがないよう全力を挙げなければなりません。こういった考え方の下、国会終了を待って、明日、速やかに人事を行うことが適切であると判断いたしました」

翌14日に発表されたのは、東京地検特捜部が全国からベテラン検事をかき集めて強制捜査をしようとしている最大派閥「清和政策研究会」(安倍派)を内閣から追放する人事だった。安倍派所属の4閣僚、副大臣5人、政務官1人を一斉に交代させた。やがて、安倍派所属の党役員も党本部から消える。

来年1月の通常国会をひかえ、捜査による政権内の混乱を避ける体制にしておきたいということが第一の目的なのだろうが、別の意図も透けて見える。安倍派に全ての責任をなすりつけて、重要ポストから一掃する。それにより、安倍派の弱体化が加速するのは間違いない。

これまで岸田首相の権力基盤は、岸田派、麻生派、茂木派に加えて、最大派閥である安倍派の支持により、しっかりと固められていた。安倍派の“5人衆”といわれる松野官房長官、西村経産相、萩生田政調会長、高木国対委員長、世耕参院幹事長を政権中枢に配置したのは、そのための布陣だった。

この“5人衆”を政権から外すことは、安倍派との決別に等しい。最大派閥のまとまった支援を失い、来年秋の総裁選で再選されることは難しくなるかもしれない。それも覚悟のうえで断行したのが今回の人事だ。

国民の間ですっかり評判の悪くなった岸田首相だが、今のところ党内から表立って「岸田降ろし」の動きは出ていない。衆議院の任期は2025年10月30日まである。衆議院を解散しない限り、総選挙はまだ先になるからだ。「岸田降ろし」を封じるためにも、岸田首相が衆院解散に動くことはないだろう。

しかし、総裁選が近づくにつれ、“選挙の顔”が岸田首相のままでいいのかということになる。来年の春か、遅くとも夏までに、岸田首相は進退を迫られるに違いない。

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総理への意欲満々の「あの人」に決定的に欠けているもの

13日の会見で岸田首相が浮かべた涙は、思うようにコトが運ばず、退陣も視野に入れなければならなくなった自らの境遇への悲嘆という説明ができるだろう。だが、首相の側近からは「総理は感極まっていた」とか「高揚感があった」という声も漏れ伝わってきている。これはどういうことなのか。安倍派の意向を忖度し続けてきた日々を思い、ひとまずそこから解放される喜びをおぼえたのかもしれない。自らの決断に酔った涙といえるかもしれない。

さて、先週号でも指摘したように、政局のカギを握っているのは麻生副総裁である。麻生氏は、来年の通常国会で当初予算が成立し、岸田首相が国賓待遇での訪米を実現した後、岸田首相が辞任し、新総裁の選出にいたる道筋を描いているだろう。

【関連】すべては麻生太郎の「筋書き」通りか?安倍派だけが地検特捜部に“狙い撃ち”された裏側

これまで麻生氏は岸田氏と会食するたびに、「大宏池会構想」なる派閥合流話を持ち出してきた。もともと麻生氏は宏池会の出身だが、河野洋平氏のグループに転じ、やがて同グループを継承して今の「志公会」を率いている。麻生氏が安倍派に対抗する勢力として、志公会と宏池会を統合した「大宏池会」の実現を構想してきたのは確かだ。

茂木氏が会長をつとめる平成研と宏池会は、吉田茂の流れをくむ保守本流として、岸信介系の清和会と抗争を繰り返した歴史を持つ。田中角栄・大平正芳が協力関係にあった時代に、福田赳夫と覇権を争ったのが「角福戦争」「大福戦争」であり、自民党派閥抗争史のなかで最も激烈な戦いだった。

おそらく、岸田・麻生・茂木の三者の間では、「大宏池会」と「平成研」を中心とした政権を今後も継続させるということで、合意しているのではないだろうか。だとすると、茂木氏がポスト岸田に名乗りを上げるのが順当な流れということになる。

現に、茂木幹事長の言動に、最近、変化の兆しがある。11月27日の記者会見で、低迷が続く内閣支持率についてこう述べた。「国民の現状への不満、将来への不安が政治に向かっている。重く受け止めなければいけない」。政治の現状への不満とは、岸田首相への不満と同義である。これまでにない手厳しい意見だ。

12月18日には自民党議員のパーティーで裏金問題に触れ、「政治資金規正法の改正も含めて、透明性がしっかりと確保できるような措置を早急に検討していかなければいけない」語った。政治改革を唱え始めた岸田首相よりもさらに踏み込み、法改正にまで言及した。

自分こそが党の危機を乗り越えるリーダーだといわんばかりだ。要するに、総理への意欲が満々なのである。

だが、茂木氏には総理らしい風格が乏しい。茂木氏の“人となり”にメディアが言及するとき、必ずといっていいほど、出てくるのは「頭脳明晰」「切れ者」という言葉である。そしてまた、そのあとには間違いなく「怒りっぽい」「人望はない」が付いてくる。宰相としては致命的ともいえる評価だ。もし、茂木氏が総裁選に出馬し、世間に人気の高い石破茂氏を菅義偉前首相が担ぎあげた場合、どうなるか。ただ「選挙に有利」というだけで、石破氏を支持する動きが党内に広がらないとも限らない。

そのような事態を懸念して、麻生氏は岸田首相が乗りやすい別のアイデアを思いついたようだ。上川陽子外相を次期総裁候補に押し上げるという策だ。上川氏は有能なうえに、宏池会所属である。「初の女性総理」というキャッチフレーズも使える。そんな算段のようだが、知名度が低いし、急にどこからか湧いて出た感があって、どうにもピンとこない。

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国民の声には耳を傾けないという岸田首相の一貫した姿勢

むろん、客観情勢にかかわらず、岸田首相はまだ政権をあきらめてはいないだろう。ひょっとしたら、安倍派の一掃で憑き物が落ちたように政権が浮揚するとでも思っているのではないか。最後まであきらめない我慢強さと、苦境でも楽観を失わない鈍感力が、この人の真骨頂だ。

安倍派と二階派に対する東京地検特捜部の強制捜査が19日からはじまった。二階派は派閥の収支報告書に記載しなかった裏金が直近5年間で1億円を超えるとみられ、特捜部の本気度は安倍派にも劣らないようだ。それでも、岸田首相はいったん、二階派に所属する自見万博担当大臣と小泉法務大臣を続投させることに決めた。検察に対し指揮権を発動できる法務大臣が、捜査対象となっている二階派の所属であるという大問題を無視しようとしたのだ。批判が強まったため、小泉法相が二階派を退会したが、形だけ取り繕っても、本質は変わらない。

岸田首相としてはこのうえ二階元幹事長まで敵にまわしたくなかったのだろう。あるいは、この状況下で、捜査対象となった派閥をいちいち政権から排除していたら、今後、内閣を構成できないおそれがあると考えたのかもしれない。岸田派にもパーティー券収入の不記載の問題が浮上している。

政治資金パーティーを抜け道にしてせっせと裏金をつくり続けてきた自民党の金権体質に対する国民の怒りは、かつてないほど高まっている。にもかかわらず、党のトップである岸田首相からは「火の玉」と言うほどの気概はまったく伝わってこない。

自民党の大物や財務省に左右されることはあっても、国民の声に耳を傾けることはない。それが、政権発足以来、岸田首相の一貫した姿勢のようである。

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image by: 首相官邸

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