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ダイハツは、その先に絶望しかない「不正の階段」を上ってしまった

年の瀬に世間を賑わせている、ダイハツ不正問題。今回は、メルマガ『食品工場の工場長の仕事』の著者である河岸宏和さんが、なぜ大企業の不正が繰り返されてしまうのかについて詳しく語っています。

なぜ、不正は繰り返されるのか

2023年12月、正月までのカウントダウンが始まっている時期に、ダイハツ工業が車の衝突試験で不正を行っていたと言う大きな報道が伝わってきました。

不正の対象がこれまでの6車種から64車種(開発中・生産終了も含む)に拡大したと発表されています。この発表に伴いダイハツは、全社で出荷を停止し、生産も中止しています。自動車業界で過去に行われた、燃費を良く見せる不正と異なって、組み立て語の、国の車両検査を省略出来る「型式指定」に基本になるデーターの不正は、最悪、指定が取り消されると、販売停止、販売された車に対する対処など、非常に大きな問題になります。

エアーバックの不良のリコールなど、一部の部品を交換するだけで、対処が済めばいいのですが、車の基本的な設計に関するような不正であれば、販売されていた、車を買い戻すなどの処置が必要になってしまいます。

今回の不正を行っていた作業者、上司、役員たちが、小さいと思っていた不正が、最悪の結果、市場回収が必要になり、ダイハツ自体が無くなってしまうと言う、大きなリスクがあることがわかっていたかどうかが大きな疑問になります。

食品業界を見れば、雪印食品が、利益のために、外国産牛肉を国産と称して、偽装し、国に買い取らせ、補助金をだまし取り、廃業に至った例があります。目先の利益、自分の部門の利益だけを考え、行動し、結果として、会社全体が無くなった例があるのです。

この、雪印食品の事例を「他山の石」として受け止めていれば、目先の一秒のために、会社全体を危険な崖に立たせていることに気がつかなければならなかったのです。

ダイハツは非常に長い時間、不正を行っていたと報道されています。

不正を行って、開発時間を1秒、開発経費を1円改善出来たとします。たまたま、初めの不正は、問題無く、外部に漏れること無く進めることが出来てしまえば、不正への階段を一段上ってしまった事になります。更に一秒の改善、一円の改善を行うためには、更に不正の階段の二段目を上るしか道が無くなってしまいます。

同じ作業の前任者が、不正の階段を上ってしまっていれば、後任者が、階段を降りて、正しいお客様の命を守る土台が必要と言う考えの階段に上り直すためには、自分のダイハツ内部、自分の上司からの評価を一度下げなければならないのです。

報道によると、ダイハツでは、時間通りに進まない、定められたコスト通りに進まない担当者は、お立ち台と称している所に立たされ、関係者から叱咤激励されていたようです。

保身のため、不正の階段を上り続ける事が組織から求められていたとしか思えません。外国が定めた品質管理手法の認定の内部監査などをきちんと行っていれば、「型式指定」の内容に満足していないことは、直ぐに明確になっていたはずです。

自社組織内の内部監査では、不正を発見しても、自浄出来なかった状態も長年続いていたようです。

今回の不正の発覚は、内部告発と言われていますが、内部告発の自浄作用では無く、内部の方が、外部に不正があると告発した結果と言われています。

純粋な内部告発の仕組みが適切に動いていなかったと言わずにいられません。

北海道の偽装挽肉事件の時にも、自浄作用が働かずに、結果として、工場が、地元から無くなってしまっています。不正の階段の先には、廃業しか無いことを、「他山の石」は、教えてくれています。

各部門がブラックボックス化していたと、されていますが、このブラックボックスが正しく動いているかどうか、企業活動が、安全、品質の土台の上で、活動しているかどうかを、適切に監視、指導するのが、本来の上司、役員のはずです。

一秒早く、一円安くだけの結果だけを見て、安全、品質の土台が崩れ、不正の階段を上り続けていることに気がつかない、組織は、お客様の命を預かる「車」を製造しては、ならないと、私は感じています。

image by: Mulad Images / Shutterstock.com

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【著者】 河岸宏和(食品安全教育研究所 代表) 【発行周期】 ほぼ 週末刊

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