メルマガ『高城未来研究所「Future Report」』の著者で時代の最先端を常に切り開きながら早々に電子書籍への移行を果たした高城剛さんと、メルマガ『週刊!編集者・佐渡島の『好きのおすそ分け』』の著者で『ドラゴン桜』『宇宙兄弟』などメガヒットを次々と生み出し、日本初となるクリエイターエイジェンシー・コルクを設立した編集者・佐渡島さんによる異色の対談。二人は小説や漫画の未来をどう見ているのか?数年後のエンタテイメントはどうなるのか? 衝撃的な近未来予測が飛び出します。
顧客接点を持つ人が最強の時代
高城剛氏(以下、高城):本日はお忙しい中、ありがとうございます。毎週金曜日にメールマガジンを出しておりまして、新年に、数年先を見据えた特別対談を恒例で行っております。昨年は、ジャニーズ問題を皮切りに、タレントやアーティストと芸能事務所の問題が大きくクローズアップされました。かつて映画会社は俳優を自社以外の映画に出演させない契約を含む寡占的協定があり、これがテレビ時代になって、芸能プロが生まれました。しかし、配信の時代になっても、芸能プロに変わる仕組みが生まれていません。もしかしたら、ここに日本のコンテンツが海外へ出られない秘密があるのかもしれません。そこで、いち早く新しいスタイルのエージェントをお作りになられた佐渡島さんに是非、お話を伺いたいと思いました。
今日はよろしくお願いします。
さっそくですが、佐渡島さんは、元々は「モーニング」で漫画編集者をされていたとか。
佐渡島庸平氏(以下、佐渡島):はい。新卒で講談社に入社して退社まで、ずっと「モーニング」で漫画を作っていました。講談社には「モーニング」「イブニング」「アフタヌーン」という雑誌が同じグループになっていて、それとは別に「週刊少年マガジン」「ヤングマガジン」のグループがあります。それぞれのグループでは、人事交流があまりなかったのですよ。
高城:同じ漫画編集部全体での交流はないんですか?
佐渡島:セクションが違うと、隣の部署との付き合いが違っていました。一般的には、テレビも出版社も部署の異動はあると思うのですが、僕の場合はずっと同じ編集部でした。
高城:佐渡島さんは、講談社を辞められてエージェントを作られ、大きく成長させてこられました。昨今、ジャニーズ問題をはじめ、タレントとエージェントの見直しは非常に大きくなっていますし、この旧体制を引きずる組織は、今後も闇が暴かれると感じています。そこで、あたらしいニーズを確信していた佐渡島さんに、数年どころかもっと先…10年くらいまで先の展望を伺いたいと思っています。まずは、漫画の編集者としてたくさんのヒット作を出していたにもかかわらず、なぜ会社を辞めてエージェント会社、つまりコルクをお作りになろうと思ったのですか?
高城剛氏
佐渡島:メディアが重要という時代が、長く続いてきましたよね。テレビ局なら、基本はキー局が中心で、10社にも満たないです。雑誌もメジャーなものの数は限られています。日本では多く見積もって100ぐらいのメディアが、社会のコンテンツや世論の流れをプロデュースをしていて、主導権を握っている側面がありました。
インターネットによって、演者や作家といったクリエイターたちも個人で活躍するようになりましたが、最後のtoCというか、ファンに触れる部分だけをクリエイターが担っている状態が続き、最終的な意思決定権は、ほとんどプロデューサー側が持っていました。
高城:メディア側ということですね。
佐渡島:はい。高城さんとの対談なので、コンテンツに限らずより広い視野で話をさせていただくと、例えばセブンイレブンができた当初は、棚にどういうものを安定供給するかのかはコカ・コーラやサントリーといったメーカーがセブンイレブンよりも力を持っていたと思うんです。
ですが、セブンイレブンが1万店舗を超えたあたりから、コカ・コーラやサントリーとの力関係が逆転し始めました。
高城:つまりプラットフォームになったということですよね。
佐渡島:そうです。セブンイレブンが新商品を入れるかどうかで、新商品の売上が全く変わってしまう状況になりました。そうなると、セブンイレブンはオリジナルブランドを作り、有名な企業にもOEMで作ってもらうようになりました。
つまり、顧客接点を持っている人が、最強であるということになったわけです。Appleの場合もスティーブ・ジョブズが復帰したとき、顧客接点をもう1回取り戻す拠点として、Apple Storeを始めましたよね。
佐渡島庸平氏
高城:当時、Appleの仕事をしていたので、よく覚えています。ちょうど世界的にITバブルが弾けた逆風のなかで、一号店をオープンしました。
佐渡島:今、Appleが強いのは、自分たちでファンを抱えている状態だからです。iPhoneやiTunes、アプリのところも含めて自分たちでコントロールできるところが、Appleの強さだと思うんです。
作家に話を戻すと、いくら作家が人気漫画を描いて大成功しても、次にまた載せるかどうかを決めるのは掲載先である雑誌側でした。「ジョジョの奇妙な冒険」のように30年続く大人気シリーズ作も、連載が始まった時の「少年ジャンプ」でずっと掲載されていたわけではありませんよね。「ジャンプ」では連載しないと決定したのは、作家の荒木飛呂彦さんではありませんでした。
高城:やはりメディア側なんですね。
佐渡島:そういった環境でも荒木さんがいろんな形で描き続けられて、それが30年分の蓄積となり、今、世界的な大コンテンツになっている。この世界的ヒットは、出版社側がプロデュースしたことではなく、作品の力が時代と呼応した偶然だと僕は思っています。
SNSの場合、はじまりはFacebookが主流でしたが、Twitter(現X)やInstagram、YouTube、TikTokが台頭しました。また、AmazonのKindleやLINEマンガ、さらには音楽も含めて、様々なプラットフォームが生まれて、さらには、「スーパーチャット」機能など、様々な課金システムが誕生しました。
その課金システムに対して、自分たちで服を作って販売したり、グッズが作れる仕組みも出てきました。さらに、3Dプリンターが現れたり、メタバースの中で空間が作れるようになると、顧客接点を持ってデジタルコンテンツからリアルコンテンツまで、様々な形で課金していくことが可能になります。そうなると、最終的に発言権があるのは、顧客接点を持っていて、その自分の顧客への正しいメッセージの伝え方をわかってる人に変わるだろうと思ったんです。
高城:双方向のインターネット時代の趨勢ですね。
佐渡島:正しいメッセージの伝え方がわかっている人は、様々なプラットフォームを利用して、自分用にカスタマイズしたツールを使って、投稿したくなるだろうなと思うんです。
僕は、高城さんのお仕事の仕方を把握しきれていませんが、この「まぐまぐ」でメルマガをリリースしているなら、例えばそのコンテンツ…メルマガの中の連載などをKindleでも連載として出してもいいでしょうし、それをInstagramで無償で見せていったり、TikTokで文字で見せたりすることもできると思います。
もしInstagramやTikTokへの投稿が、Kindleとまぐまぐへのコンバージョン率が良かったら、そこに人を割いても、「それ以上に利益が出るなら、経済圏を拡大していった方がいい」とか、「どのプラットフォームに力を入れると、最終的にコンバージョンして経済圏が大きくなり続けるか」といったことを考えるようになります。
でもそのためには経験値を持っていて、その工数がどのくらいかかるのかを知らないと難しい。今の時代、1個1個のプラットフォームに対しての発信は、3分〜5分程度の作業でやっていく感じですが、それを複数のプラットフォームで日常的にやろうとすると簡単じゃないと思っています。
高城:おっしゃるように、100ぐらいのメディアが日本の、…極端に言うと社会そのものを形成していて、昔でいうところの「空気」を形成してきました。ただ、編集者ならではの視点かと思うのですが、日本のメディアを支えているものに、広告主という特殊な状況もあります。今のお話は、いわゆるメディアと顧客との接点の二つの関係でしたが、もう一つ、広告主も大きな影響を及ぼしています。この三つ巴に関してはどうお考えでしょうか。
佐渡島:まさにそこも重要だと思っているんです。広告も、コンテンツの量が圧倒的に増えてしまうと、見られなくなってくるはずです。もちろん、巨大アイコンに頼って広告する手段はいまだ有効で「大谷翔平選手が使っている●●」というだけで十分売れる可能性はあります。
同時に、細かい顧客接点を持つ人に宣伝するように変わっていくだろうとも思っているんです。クリエイター自身が直にファンと繋がることができるし、広告主とも繋がれる時代になっていくと考えています。(中略)
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AIを使えば5人でアニメが作れるようになる
佐渡島:コルクがエージェントであることを最大に見ていくと、他のエージェントと組んでいくと思います。他メディアに展開していくとき、最も優秀なスタジオという考え方をすると、ピクサーがディズニーに代わるような形でどこかのメディアの傘下に入ることもあるかなと。
高城:やはり他のエージェントと組まれるんですね。いま、制作部門もお持ちなんですか?
佐渡島:作家たちが制作しています。
高城:よりメディア化するために、例えばアニメーションスタジオをコルクが買収したり?
佐渡島:それもあるでしょうし、アニメーションスタジオと僕らが資本業務提携をすることもありえます。
高城:そうすれば、ファクトリー化するわけではありませんが、コンテンツそのものを定期的に売り出せますね。
佐渡島:そうなんです。小説は1人で書き、漫画は5人くらい、アニメは200人で作っていました。基本的には世界に出ていくコンテンツは動画のみだと思っているので、動画に大きいお金をかけて、よりリッチなものを作ってマーケティングをしていくことが起きると思っているんです。その100億円単位のマーケティングをかける作品をどうやって売り出すのかという勝負を、うちの会社はしているんだと思っているんです。さらにAIを使うと…。
高城:そこが今日の肝かもしれませんが、AIで、ひょっとしたら200人が20人になる可能性もあるわけですよね。
佐渡島:そうです。動画は、いずれは5人ぐらいで作れるんじゃないかと僕は思っています。
高城:2時間のフルアニメーションを5人で作れると? 今では大作の作家になった人たちも、自分1人でアニメーションを作った時代もありましたが、それがAIによってもっと精密になり「今の俺にもできるんだろう」とお考えですね。
佐渡島:さらにいえば、2時間の作品も必要がないと思っているんです。
高城:とはいえ、TikTokみたいに1分ではお金になりませんよね。
佐渡島:1分とか、分割して出していったり。20、30分ぐらい作った時点で、可能性があるコンテンツはその時点でバズりまくりますから。
高城:つまりパイロット版を次々作るということですね。
佐渡島:僕らはパイロット版を出し続けて、バズッたものにどんどんお金が入ってくる。それに対して「○○作ります」みたいな形の作り方に変わっていくんじゃないかなと。
高城:実際に、AIによって200人が本当に5人くらいまでになる可能性は非常に高いんでしょうか。
佐渡島:5人とか10人ぐらいまでは減ると思っています。具体的に何をAIだと縮められるかというと、作画と、動画に音を入れたりといったところはAIで相当縮められるでしょうね。
高城:200人かけていたものが、ほとんどオートメーション化できるということですね。
佐渡島:何をどこでどう凝るかなんですが、元データの絵をこちらで1回用意して、それでアニメーション作らせるというのもあるし、動くもの自体の元のキャラクターもAIに作らせることもありえます。それは、こちら側が持っている技術次第ですごく変わると思うんです。
高城:最後に残るのは物語だから。そこをしっかり物語編集者としてポジションをキープしながら、制作の自動化を待つってことですよね。さすがに今月からいきなり200人が5人、10人にはならないかもしれませんが、おそらく遠くない先にそうなるであろうと考えていらっしゃるわけですね。
佐渡島:そうです。でも、その間はAIの使い方も複雑だし、どのツールでどういうふうに組み合わせれば、良いアウトプットができるのかと理解すること自体が結構大変なんですよ。AIを使いこなすこと自体がめちゃくちゃ難しい。F1の車に乗ったらみんなが早く運転できるわけじゃなくて、逆に運転できる人も少ない。AIの方は進化しているけど、それを使いこなすハードルが結構高いから、5人でアニメを作れる状態には5年後にはまだなってないとは思うんです。
高城:既存のアニメ業界の人たちから、反対運動も起きるでしょうね、ハリウッドのように。
佐渡島:それもありますし、作業の順番とか手順とかも習慣が違うんです。
高城:異業種からスタッフを連れてこないと難しいかもしれませんね。
佐渡島:担うのは若者たちですね。世代交代する前の子たちが使えるようになると思います。
高城:自分の話で恐縮ですが、一昨年前に映画を作りました。2時間の、海外で全部撮ったアクションドラマみたいなものですが、総勢9人で作ったんです。撮影期間は10日、11日かな。ほぼ、オートフォーカスとかテクノロジーとAIでもう十分なんです。コストも制作スタッフも数年前の10分の1です。人も予算も縮められるので、面白いアニメの可能性も出てくると思います。
その一方、物語が大切だというのもあると思うんですが、物語のAI化も進んでいますよね。これに関してはどうお考えですか?
佐渡島:物語のAI化も、非常に優秀ですよね。
高城:まさにハリウッド脚本組合のストの原因の一つですから。
佐渡島:そうですね。王道の話は、AIで面白いものができるんです。とはいえ結局のところ、今の時代に「誰が、なぜ、いま作ったのか」が重要だったりする。そこそこのレベルのコンテンツが山のようにある状態になってくると、より付加価値が重要になってきます。
SNSで普段からファンと接点を持ってる人が「これは自分のこういう風なオリジナルの体験を感情を込めて物語にした」というのが重要なんです。その物語の核となる感情や体験をAIに読み込ませると、それで物語が作られて、それを本人が手直しするということは起きる可能性はあるでしょう。物語作りがwith AIでやっていくことになるはずです。
高城:物語というより、コンテクストですね。そうすると、医療がそうであるように、パーソナライズ化した物語がこれからの時代増える気がするんです。同じ題材でも、佐渡島さんに合うもの、僕に合うものというようにしてエンディングが違ったり、カラートーンが違ったりするのかもしれません。
一つのコンテンツが、マルチに展開されるメディアだけではなく、その先にある個人に焦点があるような気がしているのですが、その可能性はあると思いますか。
佐渡島:何年後かまでは分かりませんが、僕もあると思いますよ。
高城:すでにゲームでは、そうなっていますよね。ストラクチャーは同じですが、道筋も違えば、エンディングも人によっては違ったりする。1人で楽しむか、オンラインで何人かで楽しむかはさておき、多分どんどんコンテンツのパーソナル化が進んでいくような気がするんですよ、コストが下がることによって。
佐渡島:そうなってくると、もはやストーリーは世界観に変わって、その世界観のルールの中での振る舞いになってくるかもしれません。限りなく、ゲームに近いものになり、差がなくなるのかなと思うんですよ。
AIはイチから漫画を作れるのか?
高城:たとえば、Appleは別にコンテンツを作る云々ではなく世界観を提供していますよね。より世界観が強固な時代にこれから変わっていくんでしょうか。
佐渡島:そう思います。ただ僕が思うに、売れる物語には、強固な世界観があるんですよ。それを物語と呼ぶか、世界観と呼ぶかの違いだと思います。
高城:物語は一応起承転結や、全員に共通のものがあるとするなら、世界観はもうちょっと緩やかな大きなビジョンや枠組みがあります。その大きな世界観の中に個別の物語がある。大きな物語があって、それが個別に照射されるみたいなイメージなんですが。
佐渡島:そうですね。作家と打ち合わせしてると、世界を持っていて、その世界の中に作家がカメラを回しに行き、それを編集して出すのが漫画という感じなんです。なので、違う角度からその世界の物語に光を当てたりすることはできるだろうなと思います。強固な物語を作ると、例えばそのサブキャラクターに付随した設定や世界観を、AIが補強して新しい世界が作られるということもあるかもしれません。
ただ、「宇宙がテーマ」というような、いくつか中程度なキーワードだけを入れたりしただけでは、平凡な世界観になってしまいます。そこに、もっとヒットを軸とした話がしっかりとあり、そこでサブストーリーも描かれていて、さらにAIが補強していくことで色んなふうに楽しめる世界観が築かれる。読者Aさんが、「私は『宇宙兄弟』のせりかに興味がある」とします。そこを作家は描いてはいかないけど、AIが補強してくれて、せりか側のものも見られるとか、そういうことが起きるような気はしてるんです。
高城:そこは、作家側の視点なんですね。一方、受け手側の視点からみますと、既にAIは僕のことを知っていて、そのセンスや価値観のようなものから編集をAIが行って、必要な物語をかいつまんでリミックスして持ってきてくるわけです。そうすると、編集そのものが人じゃなくなってしまうんじゃないかと思うんです。
佐渡島:その通りだと思います。ただ、AI周りのことをコンテンツでやっていて感じるのが、まず世の中の変化は、インターネットが台頭したときでもコンテンツのDXは超遅かったということです。
高城:ポルノだけでしたよね、真っ先に進んだのは。
佐渡島:ポルノのAIも今はすごいですけど、基本的にお金が大きく動くところからじゃないと変わっていかないんです。AIは、金融と医療などから開発されていくでしょう。エンジニアの人たちにもコンテンツ好き、漫画好きな人たちもいるとは思いますが…。コンテンツの創作過程への理解みたいなものが浅いと感じるので、そこをサポートする必要があります。なので、コンテンツ周りのAIは、そうそう簡単に開発されないなと思っています。
高城:アドテクは、2008年から9年に急速に伸びたんですけど、あれは結局リーマン・ショックで金融エンジニアの人たちが首を切られて、広告業界に流れたから急速に発展しました。
佐渡島:そういう流れなんですね。
高城:今後、世の中が不況になると、エンジニアがコンテンツ業界や広告業界に流れていって、世界観の中で物語を提示して、何かマーチャンダイズに誘い込むことをしてお金にしようとするのかもしれませんね。
今までは、コンテンツそのものにお金を払っていましたが、コンテンツと深い関連がある商品が増えれば、一気に今までない流れができますよね。つまり、世界恐慌で映画産業が伸びたように、次の金融恐慌の後に、あらゆるものがディズニー商法のようなやり方で花開く可能性があるんではないかなと今、思いました。
佐渡島:確かにそうです。今日僕が着ているのは「宇宙兄弟」のグッズとして展開したパーカーですが、キャラクターたちが身につけている服も、僕らは作って販売しています。でも今はまだ、電子書籍を読んでいて、クリックしたらそれが買える仕組みになっていません。ドラマもそうですよね。それをAIが全部保管して、コンテンツの中から物をどんどん買っていく。世界観が豊かなものになったら、むちゃくちゃECのコンバージョンがよくなるということが当たり前に起きるわけですね。
高城:音楽業界もそうで、ライブ自体はたいして儲からないけど、コンサートグッズのTシャツの売り上げがすごかったりします。いわば矢沢永吉タオルモデルですが、これがあらゆるコンテンツで起きる可能性があるということですよね。
佐渡島:音楽よりもっとナチュラルにコンバージョンするので、漫画はより大きくなってくる可能性は高いと思います。
いま、AIによって「漫画の背景ができる」と言いますが、まだまだ素人から見れば使えるレベルなんですよ。漫画家からすれば、構図をビシッと決めたいのにフワッと出されるとパースが狂って…というレベルです。「その違和感では、人は読めないんだよ」と。その微調整が大変なんですが、まだそうしたAI開発は全くされていません。
高城:それも時間の問題でしょうか?
佐渡島:最終的にはそうしたものは開発されるでしょうが、時間というか、リソースの問題が大きいんじゃないでしょうか。漫画のインターネット化、DX化が遅れたことは、出版のそれが遅れたのと同じことだと思います。まずコンテンツ業界が著作権云々を言い出すと、エンジニアからすれば「使いたいなら、学習させない限り使えないんだぞ」となり、「それがいやなら、じゃあいいよ」というふうになりそうな気がしますね。
高城:諸刃の剣かもしれませんよね。背景もですし、ハリウッドの有名な俳優もデジタルスキャンされ、ビミョーに変えて新キャラが出来たら、永遠の命になります。こうして、新しいミッキーマウスが誕生するわけです。メタ時代に突入し、僕らそのものが半永久的に画面の中へ位置づけられる時代になってきたわけですが、どこでオリジナルと線引きするんでしょうか?
佐渡島:無限にどんどんデジタルスキャンが出てくると、それも勝手にAIが生成した人物も変わらなくなりますね。今はリソースが有限の中で、真似られたら困ると言っている。「この人にお金を払う」とか「この人じゃ駄目だとか」という意思決定の仕方は、コンテンツが無限にあると全く変わるはずです。そのときの意思決定の仕方を想像せずに、今は現状の意思決定の仕方でルールを決めようとしています。AI自体の学習を止めると、その産業自体がただ遅れていってしまう。
高城:少し飛躍した変な話になりますが、やがてはAIが漫画をイチから描く時代が来るとお考えですか?
佐渡島:全くそうは思いません。
高城:つまりはシンギュラリティ(Singularity、技術的特異点)の話ですが。
佐渡島:AIを使っていけば、AIが作ったものをAIが見たりする時代はいずれ来ます。だけど、その中で人間がどう意思決定していくのかは非論理的で、最後、そこのディスカバリーの仕方と意思決定の仕方っていうのは…。
高城:守るっていうことですね。簡単に言うと、AIに渡さないというか。
佐渡島:渡さないではなくて、人間は、そこは何か違う理由で動いたりすると思うんです。
高城:オープンAIのサム・アルトマンが解任されたとき、「いよいよCEOもAIの時代でいいことがわかったんだ」と思ったんですよ。でも、アルトマンが「マイクロソフトに行く」と言ったら、働いてる人たちもみんな「私もついて行く」となりました。それを見て、「なんだ、人間関係なんだ」と(笑)。オープンAIですらウェットなところにいるんだと思ってがっかりしたんですね。もし、「いや、うちはもうCEOはAIでいいです」って言ったら、相当画期的だったなと思うんですよ。
佐渡島:その方が面白かったですね。
高城:はい(笑)。今は笑い話ですが、多分そんな時代は来ると思っています。実際にゴールドマンサックスは、トレーディングルームの500人全員をクビにして機械学習でいいという時代になったように。すみません、お立場考えると申し上げにくいのですが、漫画家も少しづつAI化していく気がしてならないんですよ。僕は、いま考えると居心地の悪い未来に、常にリアリティを感じます。
佐渡島:AIを使うパイロットこそが、クリエイターと呼ばれる気がしますね。昔、DJはミュージシャンと同等ではなかったけど、いまは同じ扱いになっているように。
高城:むしろミュージシャンより稼いでます。DJは、まさに金融効率のメリットがあるんですよ。バンドはツアーに出ると、ドラムやアンプや諸々の機材を運ぶのが結構大変です。ところがDJはラップトップ1個で済む。1日、2ステージも難なくこなせ、移動も楽なため、投資する側、つまりエージェント側はDJの方が稼げるから、どんどんシフトしていったのだと思います。
みんなが家で、音楽をヘッドホンで聴いたり、映画館に行かず大型テレビで配信を見るようになったのも、テクノロジーの変化が背景にあると思います。いいスピーカーで聞いた方がもちろん音は良いけど、ヘッドホンでも十分という人たちが増えたわけです。そうすると、いつの日か漫画家が人かAIかを気にしない世代が増えてくるんじゃないでしょうか?
佐渡島:僕は、そうは全然思いません。そこのテイストだと思うんですよね。もしAIが、僕らが好きなテイストで出せば、僕らは気付かない可能性は出てくるのかなとは思います。
エンタメは観る時代から作る時代へ
高城:いろいろとAIの可能性も問題もありますが、僕は生産数の大きさが魅力のひとつだと思っているんです。週に1つしか作れなかったものが、AIだと週に200も可能です。数が多い方が当たる確率も上がりますよね。コンテンツの巨大時代で生き残っていかなきゃいけないわけですよね、AIを相手に。
佐渡島:無限にコンテンツがある中だと、どの物語が本当に感動するのかが勝負を分けるのかと思います。仮に、東京の寿司職人トップ50に握ってもらったマグロを50個、連続で食べ比べるとします。そのどれがうまいかを、きちんと順序付けて並べられる舌を持つ人は非常に少ないでしょう。
コンテンツも無限に出てくると、その中から「このコマはこれ」「このコマはこれ」とずっと選び続けていった集積として、いい漫画ができてくる。だからAIがいっぱい作ってきてくれるとか、一連の流れはやってくれるとなると、下手をすると今のトップレベルのものはAIが作れるかもしれません。
でも、その中からさらに高みを目指していくものを選び抜ける人…そこの選択は人に依るということが起きるんじゃないでしょうか。まさにそれがDJ的で、AIが作った一コマ一コマの中から、ずっと選び続けて集積したもので、すごく感動するものをどう作っていくかなのかなと思います。
高城:マーケティング・パワーというかコスト次第のようにも思えますが、選ぶのはのは、人? それとも、AIですか?
佐渡島:人が、そこを選んでいく。
高城:そこはやっぱ人なんですね。
佐渡島:ただ、プレイリストのように、AIをAIが選ぶっていう…。今、AIがビッグワードすぎて、違う才能や能力も全部をひっくるめてAIと言ってしまっていますが、作るAIと選ぶAIは別で、人は選ぶAIを信頼していくってことは起こり得ると思います。
プラットフォームの中、AIが作ってAIが評価して、AIとAIが作ったのと評価の良かったやつを、またAIを置いて、さらにそこへ人間も置いて…みたいな感じで、ネット空間には、AIのBotみたいなものが多数存在する世界は来るだろうとは思っているんです。ただそれが、コンテンツに来るのは、10年、20年はかかるんじゃないかと。
高城:僕は全然違うことを考えていて。やはり、物語は少しずつ喪失しているのかと思っているんです。佐渡島さんや僕の時代は、漫画のコミックが出るのが楽しみで、何巻、何十巻もの作品を読みました。今もそうした作品はあります。
でも、TikTokを見てると1分で、そこに物語は何もなく、あるのはインパクトだけです。そうしたものが増えて、インパクトの断片を集めて、各人が勝手に物語を作る時代になりました。今の中高生は、韓国ドラマも長いと言い始めています。僕も佐渡島さんも物語を作る仕事なのに、どこかで必要とされなくなるという気がしてなりません。それも、わずか十年程度のスパンのなかで。面白いかどうかはさておき、その感覚が佐渡島さんとは異なる気がしたので伺いました。
佐渡島:難しいところですね。ですが、人間の生きてる時間って、全部同じ色には染まっていないですよね。これまでの僕らは、長く時間がかかるドラマとか、読むのに時間がかかる本とか、じっくり会って話すとか、そういう長い時間に対して使う時間がスケジュールの中で7、8割だったと思うんです。細切れの時間の使い方は少なかったんですが、今はそっちが7、8割になろうとしている。まさに、TikTokとかですよね。その変化はすごい重要だなと思っています。
高城:刹那的ですが、かつては長編巻物の時代もありました。コンテンツは、年々短くなっていますね。
佐渡島:そのコンテンツに価値があると感じますが、こっちの2、3割が0になることはなくて。以前は届けようがなかった短くてインパクトのあるものが、今はTikTokとかで届けられるようになった。さらに、そこにアルゴリズムが働くようになって、出会いがスムーズになってて気持ちよくなってるわけですよね。
この2、3割のところが減ってくると、より重要で価値が高まると思っているし、もっとお金を払ってくれることが起きたりするかもしれない。今まで僕らはちょっとしたハズレドラマを見ることもOKでしたが、「いやいや、もう、しっかりと10時間見るんだったら、とてつもなく面白いものを作ってくれよ」となっていくのかなと。
高城:なるほど…。お気持ちはわかりますが、失礼ながら佐渡島さんのご意見が、僕には少し希望的観測に思えてしまいます。というのも、僕が子供の頃にLPレコードだったものが、CDになり、今や1曲単位で聴かれます。その1曲の平均が2分何秒と、どんどん短くなっています。残ってはいるけど、一世を風靡した30分もあるプログレッシブ・ロックは、いまや見向きもされません。チャートを見ると、ギターサウンドすら、ほぼ皆無です。
レコードのA面、B面を誰も知らないし、レコードジャケットで表現されていた物語もない。曲順にも物語があったけれど、そこも喪失しましたよね。それが他のもの、特に限りある時間を奪い合うあらゆるものにも起きるんじゃないかなという気がしてならないんですよ。情報過多時代で、皆、忙しいから。自分も見失うはずです。
DJの話が出たのでついでにお話しますが、ミックスの1曲の平均使用時間1分42秒です。バンドのフル尺なんて聞いていられないんです。時間の感覚がそうなってきている。繋ぐのを今は人がやりますが、AIミックスも相当良くなっていて、もはや人は立っているだけで実際はAIがやっても誰も気づかないんじゃないかなというレベルに来ています。
佐渡島:そういうことは、全体として起こりえるでしょうね。
高城:最近流行っている「ちいかわ」にも、ほぼ物語はないですよね、ゆるい世界観程度だけ。そういうものがお金になる世の中へとシフトしている気が、今日のお話を伺いすごく強くなりました。しっかりとした物語が重要ということは、僕もとても賛同しますが、もはや脱神話の世界に生きているように思えてなりません。神かAIなのか。
だからこそ、あえてこの言葉を使いますが、物語を“復権”させるためにどうすればいいのでしょう。
佐渡島:強く長い物語が作れる人は、時間かけて育てないと多分できないものなんですよ。
高城:復権させるには、物語を作る側も儲かることをある程度示さなきゃなりませんよね。
佐渡島:そこは常に考えているところです。さきほどの、広告とコンテンツと、そして僕らのような存在を仲介するとき、コンテンツだけで儲けることは難しいので、うちの会社としては漫画家と広告をどう結びつけるか、すなわち広告マンガのところにかなりリソースを割いたりもしています。
また、漫画自体も物販で収益をあげにいったりしながら、ある種、インパクト、刺激を作りに行かないコンテンツを創るクリエイターを育てるための体制を、会社としては造ろうとすごく力を注いでいるんです。
少し話は外れますが、僕は結構、仏教に興味を持っているんです。お経はその昔、日本人なら空海や最澄みたいに中国に命懸けで渡って取りに行きました。「西遊記」で知られる三蔵法相はインドまで行きましたよね。長く難しかったお経が、時を経て鎌倉時代には「南無妙法蓮華経だけでいい。それだけでご利益ありますよ」というように変わりました。どんどんそういう方向に行ったんです。
高城:時代の速度と共に、変化したわけですね。
佐渡島:はい。いまの「1分で話せ」みたいなことが、仏教でも起きていた。映画や音楽、どのジャンルも、それを短いサイクルで届けてくれという要望は世の常だなと思います。
高城:確かにキリスト教でも同様に短くなる傾向がありましたが、グーテンベルク(ドイツ/15世紀に活版印刷を発明)以降、テクノロジーにより聖書が印刷されるようになると、また変化が起きました。写本の必要がなくなり、コストが限りなく0になっていったわけです。それによってキリスト教は“復権”し、コンテンツも冗長になり、世界中のローカルコミュニティへと伝播しました。そう考えると、どこかでメディアの変化が大きくなるんじゃないでしょうか。
佐渡島:ええ。今話していてハッとしましたが、YouTuberとして人気のひろゆきさんは、ただだらだら話しているだけですよね。くだらない話で、ダラダラ繋がることの価値が大きくなっていたりも、一方で起きています。先ほどおっしゃっていた「パーソナライズしたもの」だと、人って不思議と長くても耐えられる気がします。
「電波少年」シリーズのプロデューサーだった土屋敏男さんが、非常にユニークな劇をやっていて。入口で3Dスキャンした後、舞台のはじめ30分くらいはショーを見せるんですが、その間にデータ生成をしているんですよ。それが終わると、自分の3Dスキャンと周りの人たちの3Dスキャンが踊るのを見るという内容でした。その時、気づいたんですが、どうしても「自分3Dが踊ってる」のを見ちゃうんですよ。周りのみんなも自分のを見てしまうし、データであっても自分がセンターで踊るとめっちゃ嬉しかったりするんです(笑)。
高城:卒アルも基本的に自分の写りしか気にしてませんものね(笑)。さきほどは、物語が消失すると言いましたが、実はその後に喪失するのは個性だと思っています。全員が躍っている中で、自分なら見分けられるから見てしまいます。でも、そうしたデータも似たような感じになっていくんじゃないでしょうか。パーソナライズされると言っても、近似値に近いところまでどんどん追い込まれるから、没個性になるだろうと思っています。すでにファッションは、その傾向が見て取れます。
佐渡島:着ている服や髪形など、外見的要素は似てしまいますからね。それでも結局見てしまうのは、本能的に自分への興味があるからでしょう。
高城:最後に残るのは、アイデンティティというのは簡単ですが、単に名前が書いてあるだけのようにも思えます。「これは佐渡島さん用ですよ」「僕用ですよ」と渡された漫画が、全員違うストーリーだとしても実はほぼ同じなんだろうなと。もはや記号です。
佐渡島:実際のところは、そうなる可能性が高いですね。
高城:名前が書いてあることだけが、とても価値があるような気がして。
佐渡島:パーソナライズと聞くと、全然違うものが出てくると思いますが、DNAだってそんなに変わるわけがないので、コンテンツ自体もまるで違うものが出てくるわけではないでしょう。ちょっと違うものが出て楽しめるという可能性はあります。
高城:ほぼ、その人の名前書いてあるだけの違いということもあるのでは?
佐渡島:そうなるかもしれません。それでも、物語の中に自分の名前があると、やはりすごく気になるんじゃないでしょうか。
……と、ますます面白くなってきた対談は、以下のような項目も含まれております。初月無料の二人のメルマガに登録すればすべてが読めます
【エージェント会社「コルク」誕生秘話】
【日本にエージェント制度は根付くのか?】
【ジャニーズ問題はエージェント時代の転機となるか?】
【なぜアメリカではエージェント制度が根付いたのか?】
【日本はハリウッドより中国を狙うほうがいい】
【あまりに早すぎた「宇宙兄弟」の世界進出】
【クールジャパンは何が問題だったのか?】
【コルクの海外進出の可能性は?】
【作品の短時間化は止まらない】
気になるこの続きは2024年2月中に高城剛さんの2024年2月配信のメルマガ、または、佐渡島庸平さんの2024年2月配信のメルマガで読むことができます。是非ご登録してご覧ください。
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高城剛(たかしろ・つよし)
Louis Vuitton、SONYなど100本を超えるCMやミュージックビデオ、連ドラなどの監督およびプロデュースを務める。東映アニメーション社外取締役や総務省情報通信審議会専門委員など歴任後、2008年より拠点を欧州へ移す。著書は『不老超寿』『2035年の世界』『いままで起きたこと、これから起きること。』など、累計100万部を超える。著書の販売やカスタマーレビューにおいて最も成功をおさめたKindleダイレクト・パブリッシングの著者に対して授与するAmazon KDPアワードを受賞。2022年には自身が脚本/監督/撮影を務めた初の長編映画『ガヨとカルマンテスの日々』を公開した。
佐渡島庸平(さどしま・ようへい)
2002年に講談社に入社後、週刊モーニング編集部に所属。『バガボンド』『ドラゴン桜』『働きマン』『宇宙兄弟』などの編集を担当。
2012年に講談社を退社。日本初となる作家のエージェント会社・コルクを設立。『宇宙兄弟』の映画化『ドラゴン桜2』『君たちはどう生きるか』などの制作を担当。2023年には内閣が主導する「AI戦略会議」メンバーにも選ばれた。