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中国の不動産バブル崩壊が「世界経済に混乱をもたらす」は本当か?

29日、中国の不動産大手「中国恒大集団」に対し清算命令を出した香港高裁。かねてから不動産バブルの崩壊が囁かれてきた中国ですが、心配されているような「経済全体の崩壊」はありうるのでしょうか。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では、著者で多くの中国関連書籍を執筆している拓殖大学教授の富坂聰さんが、その可能性を否定。さらに大規模経済対策を打たない習近平国家主席を「裸の王様」と評する向きに対しては、否定的な視線を向けています。

中国に「失われた30年」は来ない。不動産価格下落をどう捉えるべきか

中国「バブル崩壊」で世界経済に深刻な混乱をもたらす──。

一般紙に至るまで中国経済の崩壊を予言する記事があふれるようになったのは2022年の夏ごろからのことだ。

上海ロックダウンが不評で、習近平政権が内外からの批判にさらされ、コロナ禍での「失政」を指摘できる絶好の機会と重なったこともあり「崩壊論」は勢いづいた。

習近平国家主席が、いわゆる日本メディアのいう「異例の3期目」に突入したことへの違和感も攻撃の理由となった。周囲をイエスマンで固めたことで「悪いニュースが習近平の耳には届かない」という表現が多用され、それを失政の原因とする解説も横行した。

だがあれから1年半以上。かつてのリーマンショック後の世界金融危機のような混乱が中国発で起きたのだろうか。

むしろ現在もなお世界の経済発展は中国経済頼りではないだろうか。

中国の景気は確かに湿っている。だが、それは中国人(とくに富裕層)のマインドが冷えて、投資や消費が振るわないこと。またコロナ禍を経て先行き不透明感を感じた人々が財布の紐を堅くしていることが大きく響いているからだ。

総じていえば、やはりコロナの後遺症から立ち直り切っていないという問題であり、そこに不動産不況が重なった結果だ。中国の新築住宅価格は昨年12月、9年ぶりの大幅な下落を記録した。

だが不動産に関しては「価格が上がり過ぎて庶民の手に届かない」という政治的な問題や将来のバブル崩壊リスクへの懸念もあり、習政権は2016年末から不動産価格を下げる政策を採ってきた。つまり、極端な変動でなければ不動産価格の下落はむしろ歓迎であり、長期的には不動産に大きく依存した経済発展からの脱却を目指してきたのだ。

現状を見る限り、中国政府は慌てて不動産業界にかつての賑わいを取り戻させようとはしていない。

ただ週明けから恒大グループの債務に関する香港の裁判所の判断が下されることもあり国内の不動産業界への影響を心配する声が高まっている。26日には住宅都市建設部が「都市部不動産融資調整制度会議」を開催。不動産開発プロジェクトを支え、各企業の融資ニーズを満たし、安定した健全な発展を促すよう指示した。

一方で中国は安易な景気刺激策に走ることに慎重である。このことは世界経済フォーラム(WEF)年次総会に出席した李強首相の発言からもうかがえる。李は

経済の軌跡を成功と表現する中で、当局が「長期的なリスクを蓄積しながら短期的な成長を追求することをしなかった」と強調した。
(『ブルームバーグ』1月18日)。

習政権が大型の刺激策を打たないことに対しては、「(当局が)非常に憂慮しているという印象を与えたくないためだ」とか「景気の下押し圧力を過小評価している」といった批判も聞かれる。しかし「長期的なリスクの蓄積」を嫌うのは2008年の世界金融危機以降、中国の一貫した姿勢だ。典型的なのはコロナ禍での対応だが、李克強総理(当時)は徹底して減税を支援策の中心に据え続けた。

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「華やかなりし」時代への回帰は目指さない中国

その中国はいま、不動産業界が盛り上った「華やかなりし」時代への回帰を目指すのではなく、不動産業界のマイナス分をハイテク製造業へのテコ入れで補おうとしている。

具体的には電気自動車(EV)、太陽光電池、リチウム電池という中国で「新三様」と呼ばれる業種の重視であり、それに加えてエレクトロニクス、航空、通信などの製造業への投資を促進することだ。

世界の報道を紹介する中国メディア・『参考消息』は24日、国連のデータを引用し「22年に中国が世界の製造業の31%を占めたのに対し、米国は16%だった」と報じ、製造業不在の経済強国化をけん制した。

これは中国が未来の自画像を描くとき、単純に西側先進国のたどった道を追いかけるのではなく、それとは異なる発展を目指す一つの動機となっている。

雇用を多く生み出すという点では第三次産業の優位は明らかだ。また分配という意味では不動産業の果たす役割は軽視できない。しかし、それでも中国はあくまで製造業の大国としての地位を維持したまま、第三次産業への依存を深めてゆくことを目標としている。

そのために昨年から力を入れているのが民営経済のテコ入れだ。中国の民営経済は、税収の50%強、国内総生産(GDP)の60%強、技術イノベーション成果の70%以上、都市部の雇用者数の80%以上、企業数の90%以上を担っている。

この民営経済支援のため昨年7月以来、中国は省や委員会レベルだけでも「10以上の文献と200件以上の措置を出した」(CCTV『新聞聯播』1月18日)という。

2023年の全国の民間製造業の投資は対前年比9.4%増。直近では6カ月連続で伸びてきている。

また習政権は起業支援にも熱心だ。投資や起業のマインドが落ちているとされる現状でも、天津市だけで4時間におよそ一社のペースで新たに会社が設立され続けている。

昨年末、上海で開催された「未来のユニコーントップ100カンファレンス」年次総会で示されたデータによれば、中国のユニコーン企業(非上場で時価総額10億ドル以上の企業)は世界の約3割を占めたという。

大規模経済対策を打たないことだけをもって「習近平は裸の王様」と評することは簡単だが、それは果たして実態に即した批判なのだろうか

――(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2024年1月28日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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image by: SPhotograph / Shutterstock.com

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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【著者】 富坂聰 【月額】 ¥990/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎週 日曜日

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