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なぜ日本株安・円高が「始まった」のか?日銀、ドル安、半導体…証券アナリスト馬渕治好氏が「要因」と「今後の展望」を徹底解説

アメリカで先週末、半導体関連株が大幅に下落。その流れを受けて日本の半導体関連やハイテク株も下落しています。さらに、日銀の「金融政策決定会合」を来週に控え、マイナス金利解除への期待が高まって円高が進み、輸出関連企業の株価下落が起きました。その結果、11日の東京株式市場は日経平均株価が一時1100円まで下落しています。今後、日本の株価はどうなってしまうのでしょうか? 米国CFA協会認定証券アナリストで、メルマガ『馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」』を発行中の馬渕治好さんが、株安・円高になった背景を解説しながら、メルマガ内でマーケットの中長期シナリオを示しています。

「日銀騒ぎ」で日本株安・円高が進む。原因は「自律崩壊」

先週は、外貨市場で全面的と言ってもよい円高が進み(加えて、いくばくかの米ドル安も進行して)、米ドル円相場は一時1ドル146円台に入りました。こうした円高を受けてか、日経平均株価も軟化し、4万円を若干ながら割り込みました。

こうした市場動向の背景として、日銀の金融政策を巡る高官の発言や種々の観測報道が、挙げられます。ただし、日銀が近いうちに(3月か4月に)利上げを行なうことは既に広く予想されていましたし、金融政策の変更が大幅なものになるとは見込めません。

こうした点からは先週の日銀を巡る観測で騒ぐのは騒ぎ過ぎだと言えますが、それでも日本株安・円高が進んだのは、金融政策の先行きが大きな要因であったわけではなく、そもそも日本株が買われ過ぎ、円が売られ過ぎであって、特にきっかけがなくても株安・円高に向かってもおかしくなかったところ、たまたま「日銀騒ぎ」がネタにされた、と解釈すべきでしょう。

米国では、引き続き弱めの経済指標が多く公表されました。週末(3/8、金)の雇用統計は強弱まだらだ、との解釈が多いようですが、実は弱いです。米国株価は徐々に景気悪化による下落基調の色合いを濃くし始めたと考えますし、週末にはこれまでの物色の柱であった半導体株も崩れ始めました。

先週の世界市場の動向で目を引いたのは、円高でした。後の騰落率ランキングでご紹介するように、先週は南アランド以外の通貨はすべて、対円で下落しました(円高になりました)。

米ドル円相場については、後述のように米国で弱い経済指標の発表が多く、「米景気悪化=米ドル安」の様相が濃くなって、米ドルは多くの主要通貨に対して下落したため、米ドル安・円高が進みました。一時1ドル146.47円までもの円高となり、週末は何とか147.06円に戻して引けています。

こうした円高の背景としては、日銀高官の発言や、マスコミによる種々の観測報道が挙げられます。具体的にどういった報道などがあったのか、またそうした材料をどう解釈すればよいのかについては、3p目「盛りの花」で詳しく解説します。

ただ、元々3月、そうでなくても4月に、日銀が金融政策を変更するだろう、との見通しは広く唱えられており、日銀の金融政策変更は想定外の驚きではないはずです。また、日銀が急激な緩和縮小を進めるとも見込みにくいです。そうした点からは、あまり日銀の金融政策を騒ぐのは行き過ぎだと判断します。

今回の株安・円高の動きは「妥当」

しかし、日銀に関する諸報道が騒ぎ過ぎなら株価は上がるべきであった、円は安くなるべきであった、ということかと言えば、筆者はまったくそうは思っておらず、株安・円高の動きが妥当だと考えます。

これは、昨年来最近まで、日本株(特に日経平均)は根拠の薄い買われ過ぎに陥っており、円相場も新NISAの影響などをはやして売られ過ぎとなっていたため、日銀に関する報道があろうとなかろうと、市場が「正常化」することで、いつ株安・円高に向かい始めてもおかしくない、と判断しているからです。そうした地合いのなかで、先週たまたま日銀に関する緩和縮小の観測が膨らみ、材料とされたに過ぎない(日銀の政策変更の観測は、株安や円高をもたらした決定的な材料とは言い難い)と考えます。

なお、先週の日本株安・円高は、正常化が「始まった」に過ぎない可能性が高い(つまり、今後もっともっと株安と円高が進む)と予想しています。ただし、そうした筆者の見通しが大きな流れとしては的確であったとしても、市場は一方方向に進み続ける、ということは、通常ありません。

今後の株安や円高の流れは、短期的には激しい上下動を伴い、短期投資家の売りや買いを何度も振り落とし踏みつぶしながら、進んでいくものと想定します。

「日本の経済指標」を読み解く

日本国内の経済データでは、先週は景気の底固さを示すものが多かったです。

まず3/4(月)には10~12月期の法人企業統計が公表されました。そのなかの、全産業の設備投資額(ソフトウエアを含む)前年比は、7~9月期の3.4%増から2.8%増に減速すると見込まれていたところ、実際には16.4%増と、驚くほどの伸びを記録しました。

このデータはGDP統計の設備投資額の推計に使われる(10~12月期のGDP統計は既に公表されていますが、その改定値の算出にこの法人企業統計のデータが用いられる)ことから、今週3/11(月)発表の実質経済成長率(前期比ベース、2次速報値)のデータは、1次速報値の年率0.4%減から1.1%増に大きく上方修正されそうです。

したがって、昨年7~9月期、10~12月期、今年1~3月期と、実質経済成長率が3四半期連続でマイナスとなるのでは、と懸念していましたが、実際にはマイナス、プラス、マイナスと、交互にゼロを下回ったり上回ったりする程度にとどまりそうです(日本経済はかなりぱっとしない、と思われたところ、実際には少しぱっとしない、という程度で済みそうだが、いずれにせよ今の日本株の高さを説明することは難しく、日本株はかなり買われ過ぎであることには変わりがない、という意味)。

3/8(金)発表の2月の景気ウォッチャー指数も、想定より底固い結果でした。現状判断DIは、1月の50.2から50.6に上昇すると事前に予想されていたところ、実際にはそれを上回る51.3への改善でした。先行き判断DIは、同じく52.5から52.2への低下が見込まれていましたが、逆に53.0に上昇しました。

弱い経済指標としては、3/7(木)に公表された1月分の毎月勤労統計調査が挙げられます。ここでは所定外労働時間が注目点だと、前号の当メールマガジンで解説しましたが、前年比の連続マイナス記録が6か月から7か月に更新されました。その労働時間減少の要因はいくつか想定されますが、日本の景気が不振で、仕事量が減少している可能性が高いように思います。

アメリカの経済指標は「弱め」

米国に目を転じると、先週も弱めの経済指標が目立ちました。

3/5(火)発表の2月のISM非製造業指数は、1月の53.4から52.6に悪化し、市場の事前予想の53.0をも下回りました。

3/6(水)発表のJOLTS(雇用動態調査)では、12月分の求人数が902.6万件から888.9万件に下方修正されたうえ、1月は886.3万件に減少し、市場予想の890.0万件より弱い数字でした。

注目度が高い、雇用統計(3/8(金)発表)については、2月の数値は強弱まだらだ、と市場は捉えたようです。

強いと解釈されたのは、非農業部門雇用者数前月比が27.5万人増と、市場の事前予想の20.0万人増を7.5万人幅超えたことでした。弱い数値だとみなされたのは、失業率が1月の3.7%から3.9%に上昇したことと、平均時給の前月比が、1月分が0.6%増から0.5%増に下方修正され、2月分も0.1%増にとどまって、市場の事前予想の0.3%増を下回ったことでした。

しかし、強いと解釈された非農業部門雇用者数前月比については、12月分は33.3万人増から29.0万人増に、1月分は35.3万人増から22.9万人増に、それぞれ下方修正されています。先月、1月分の雇用統計が発表された時は、「12月も1月も雇用者が30万人以上増えている、雇用は強くて景気は好調だ」との市場の評価だったのですが、それはいくばくかは幻想だったことになります。

また、12月分の下方修正幅が4.3万人、1月の下方修正幅がなんと12.4万人幅ですから、合わせて16.7万人分ものデータの下方修正です。ということは、直近2月分の実績値が市場の事前予想を7.5万人幅上回ったといっても、実際には想定より2月の雇用者数は少なかった、ということになり、強い数字だったとは決して言えません。

先週米ドル安が進行した背景は、こうした米国経済の不調を、為替相場が正しく反映したからだ、と解釈します。

なお、先週は、3/6(水)と3/7(木)の、パウエル連銀議長の議会証言も、注目されていました。議長は1/31(水)の記者会見(前回のFOMC直後のもの)で、「3月会合までに(、インフレ率が、利下げを)確信できるレベルに達する可能性は低い」と語り、これが3月利下げの可能性のほぼ完全な否定だと解釈されていました。

先週の議会証言では、そうした物言いが断定的過ぎたと考えたのか、利下げの開始時期を「今年のある時点」だと曖昧にしか語らず、利下げが早過ぎるリスクと遅すぎるリスクの両方に言及するなど、いろいろな可能性があるという含みを持たせました。そのため、特に市場を大きく動かすことにはなりませんでした。

材料ではなく、先週の主要な市場の動向としては、米国株式市場において、3/8(金)途中から、急速に半導体関連銘柄の株価が崩れたことが注目されます。

これまでは、「エヌビディア祭り」「AI祭り」とでも呼ぶべきような、エヌビディアの決算が好調を持続していることを材料に、同社株だけならともかく、AIなどとあまり関係がないような半導体関連銘柄まで大いに買い上げるような騒ぎになっていました。

週末3/8(金)は、特にエヌビディアについて材料が出たわけではありませんが、同社株が当初ザラ場高値の974.00ドル(前日比5.1%上昇)まで買われたかと思えば、急激に崩れ、875.28ドル(同5.5%下落)と大幅安で引けました。

こうして米半導体関連銘柄は、「祭り」の主柱が折れたため、同日のSOX指数(半導体株価指数)も前日比4.0%下落しています。

筆者は個別銘柄は追いかけていないので、エヌビディアの株価が今後どうなるかを判断する見識はないですが、同社株が底固く推移しても、もう「祭り」は終息に向かっていくのかもしれません。

先週の騰落率ランキング

ここで、先週の騰落率ランキングをみてみましょう。

まず、先週の主要な株価指数の騰落率ランキング(現地通貨ベース)で、騰落率ベスト10は、

エジプト
台湾
デンマーク
スリランカ
スペイン
韓国
イタリア
タイ
ペルー
スイス

でした。

週途中まで半導体関連銘柄の株価上昇が米国で生じたためか、台湾や韓国の株価上昇が目立ちました。ただし、そうした東アジア諸国の株式市場は、前述のような週末金曜日の半導体関連銘柄の株価の崩れは、先週は反映していませんので、今週週明けからは株価下落で滑り出すものと見込まれます。

騰落率ランキングワースト10

騰落率ランキングワースト10は、

アルゼンチン
ポーランド
チリ
ブラジル
香港
ナスダック総合
ニューヨークダウ工業株
メキシコ
イスラエル
日経平均

でした。

先週の外貨相場(対円)騰落率ランキング

先週の外貨相場(対円)の騰落率ランキングでは、前述の通り、対円で上昇した(円安になった)通貨は、南アランドだけでした(しかも週間上昇率は0.09%)。全面的な円高商状であったと言えます。

騰落率ワースト10は、

トルコリラ
ブラジルレアル
アルゼンチンペソ
イスラエルシェケル
ミャンマーチャット
米ドル
ベトナムドン
中国元
インドルピー
アルジェリアディナール

でした。

主要先進国通貨のなかでは、米国の経済指標の悪化を反映して、米ドルの下落が際立ちました。

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来たる花~今週(3/11~3/15)の世界経済・市場の動きについて

<諸材料は事前見通しでは市場を大きくは動かしにくいか、引き続き日銀の金融政策に注目する向きが多く、市場は神経質な動向>

(まとめ)

今週は材料はそれなりにありますが、事前予想値から極端にかけ離れた結果にならない限りは、市場がそれで大きく動きそうにありません。
春闘の大手企業の賃上げ率の回答がかなり出そうなので、引き続き日銀の金融政策が注視され、円高方向に振れるように見込みます。

(詳細)

今週は材料自体は多いです。

日本の経済統計では、3/11(月)公表予定の10~12月期のGDP統計改定値で、実質経済成長率が上方修正され、前期比マイナスからプラスに改定されそうだ、という点は、「過ぎし花」で述べました。

米国の経済統計で主要なものは、次の通りです(日付は発表日、すべて2月分の統計、カッコ内は(1月実績→2月市場予想))。

物価指標はインフレ率の低下に時間がかかりそう、という足元の市場の認識が裏打ちされると見込まれます。小売売上高は1月分が予想比かなり下振れしましたので、2月はその反動増だと解釈されるでしょう。

3/11(月)には米大統領の予算教書が公表され、バイデン政権の経済政策の骨子が示されます。ただ、主軸は、先週の一般教書演説で示されたように、経済格差の縮小を主眼に、企業や富裕層への増税策となるでしょう。
とはいっても、そうした増税策が実際に実施されるかという点については、現在の米議会は11月の選挙もにらんで対立を深めており、(増税策のみならずほとんどの経済関連法案が)議会で成立しにくいものと見込まれます。

これまで述べてきたような材料が、世界市場を大きくは揺るがしにくいと想定されるなか、日本では3/12(火)~3/14(木)を中心に、春闘における組合側の要求に対し、大企業の経営から回答がなされる見込みです(連合はそれらを集計して、3/15(金)に発表する、との観測があります)。

2023年度の賃上げ率(厚生労働省による集計対象企業)は、定期昇給とベースアップを合わせて3.6%でしたが、EPSフォーキャスト(日本経済研究センター)によるエコノミストの予想集計値では、2024年度は3.8%の賃上げが見込まれていました。これに対し連合は、加盟している労働組合の平均で5.85%の要求を行なっていると公表しており、3.8%を超えてこの要求賃上げ率に近い回答になるほど、来週の日銀の金融政策変更に向けての期待が強まり、円高が進むものと予想します。

さらなる今週の注目点は、先週から始まった(と筆者は考える)主要国の株高や円安の自律崩壊が、当面どのくらい続くか(最終的には市況の上下動を伴いながら、それなりの期間、それなりの幅、株安と円高が進むと見込みますが)、特に先週末から「始まった」エヌビディア頼みの半導体関連株の株価の崩れがどう進行していくのか、といったところでしょう。

ちなみに、3/8(金)のシカゴ日経平均先物の終値は38825円で、今は先物は先行して3月期末の配当落ち(230円幅か)を反映しているので、今週初滑り出し(3/11、月)の日経平均の現物指数は、38825+230=39055円辺りに下押しして始まりそうです。

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盛りの花~世界経済・市場の注目点

<「日銀騒ぎ」はそれほど騒ぐようなことではない、ではなぜ日本株安・円高が「始まった」のか>

先週の「日銀騒ぎ」については、「過ぎし花」で簡単に触れました。

まず、具体的に何があったか、ということですが、前号の当メールマガジンで述べたように、先々週は2/29(木)に、高田日銀審議委員が、滋賀県大津市での金融経済懇談会に出席し、「2%の物価目標の実現が視野に入ってきている状況。その認識に沿って3月、その次も対応していきたい」と述べました。この発言により、マイナス金利解除(利上げ)について、4月会合時より3月(金融政策決定会合は3/18(月)~3/19(火))の可能性が高い、との観測が市場に広がりました。

続いて先週は、中川審議委員が、3/7(木)に島根県松江市で講演しました。ここで中川氏は(2%の物価安定目標の実現について)「着実に歩を進めている」と語り、緩和縮小が早めだ、との観測に、力を貸しました。
さらに中川氏はYCC(イールドカーブコントロール)や株式ETFの買い入れなどについても、「修正の要否について判断することになる」と語ったことから、その修正の時期のメドは「2%の物価目標の実現が見通せる状況に至った場合」との条件付きではありましたが、株式ETF買い入れの見直しが近いとの思惑も生じて、株価への打撃となりました。

3/8(金)には、時事通信が、新しい枠組みを日銀が検討していることが「明らかになった」と報じました。その枠組みとは、

  1. YCCを廃止する(長期金利の水準を金融政策の目標とすることをやめる)
  2. 国債購入量を政策目標とすることを、改めて表明する
  3. 国債購入量は、当面は、現在の購入量である月間6兆円を軸とする
  4. 長期金利が高騰し市場が混乱するようなことがあれば、購入量を増やして対応する(その一方で、ある程度の金利上昇なら容認するかもしれない)

というものだ、との報道です。

さらに同日にロイターが、「日銀の考えに詳しい匿名の関係者4人」の発言として、3月のマイナス金利解除に傾く政策委員が増えてはいるが、3月と4月のどちらに動くかはまだ決まっていない、と報じました。

こうした政策委員の発言並びに諸報道が、先週「日銀騒ぎ」とでも呼ぶべき日本株と円相場の波乱を引き起こしたわけです。ただ、こうした材料を騒ぐべきかと言えば、騒ぐのはやり過ぎだ、と判断します。

というのは、元々3月か4月に利上げ(民間銀行が日銀に預けている準備預金の一部に、マイナス0.1%の金利を課しているものを、ゼロか0.1%に引き上げる)だと、多くの専門家や投資家が想定していたはずです。どちらかと言えば、3月説より4月説の支持者が多いとはされていましたが、それでも3月のマイナス金利の解除が、驚くような想定外の事件だとは言えません。

また、3月の利上げと4月の利上げの違いだけで、今年の日本経済や株価・円相場の方向性が、著しく異なるわけではないでしょう。

加えて、金利を引き上げるといっても、上述のように、せいぜい0.1%か0.2%の幅に過ぎず、急激で大幅な利上げが実施されるわけではありません。金利の水準も利上げ後でも低く、金融引き締めというより緩和の縮小、と呼ぶべき状況です。

観測報道のように、YCCを撤廃して国債購入量に政策の主軸を移すとの点については、多少の長期金利の跳ね上がりは容認しても、急速で大幅な金利上振れは抑制されるでしょう。

株式ETFの買い入れ方針の変更はいずれはありうるでしょうが、それは3月のこととは見込みにくく、将来手をつけるとしても、いきなりETFの売却を始めるのではなく、とりあえず買い入れ額の縮小か停止にとどめ、売却があるとしてもかなり先でしょう(売却を急ぐ理由は日銀にはありません)。

と考えれば、日銀の3月金融政策決定会合での政策変更を、余りにも騒ぎすぎる必要はない(先週の株安や円高の主要因が日銀絡みだ、とするのは妥当ではない)と判断します。

では、足元の日本株安や円高が不当かと言えば、まったくそうではなく、先週のみならず今後も株安と円高が進むのが当然だ、と筆者は見込んでいます。というのは、株は買われ過ぎ、円は売られ過ぎで、その正常化(株安・円高)は、日銀が動こうと動くまいと、進行していくと考えているからです。

日本株については、企業の経営改革が進む、企業収益が好調だ、日本経済もデフレを脱却して健全なインフレに進む、そうした点に着目して海外投資家が日本株を買っている、との声が市場で大いに聞こえます。企業が増益を謳歌し、日本経済がインフレになるのであれば、日銀が金利を上げて当然でしょう。
企業収益の改善やインフレの進展がありながらも、日銀が金融緩和をずっと続けてくれる、という都合の良い思惑で日本株が上がってきたとすれば、日本株は明らかに買われ過ぎでした。そうした行き過ぎた楽観に、先週の「日銀騒ぎ」が、ちょっとだけ冷水をかけただけです。ほんの少しの冷水で、ガラガラと日本株が崩れていくとすれば(崩れていくと筆者は予想しているのですが)、それはやはり足元の日本株高の脆弱性を露呈するだけだ(さしたる実態面の悪材料はない)と判断します。

日銀による株式ETFの買い入れの見直しについても、述べたような好材料だと挙げるものをはやしてブイブイと日経平均が4万円を超えていたのであれば、多少日銀がETFを売っても(ましてや売らずに買いをやめるだけで)株価が崩れ落ちることはないでしょう。もしくは、既に4万円を超えた日経平均について、日銀が株式ETFをさらに買い入れて、もっともっと株価を押し上げて行ってくれ、と望んでいるのであれば、それは「ぜいたく」「高望み」だと考えます。

これまで暴騰していた株価が、ちょっとした株式ETF買い入れ方針の変更程度で大きく下落に転じるとすれば、株式ETF買い入れの見直しが問題なのではなく、そうしたちょっとしたきっかけで崩れ落ちる株価の方に問題があり(それだけ株価が、実態から空中に舞い上がった砂上の楼閣であって、これから地面に叩き落される)、そうした「不都合な真実」が、明らかになるだけです。

円相場については、投機筋の円売りで、円安気味の推移(少なくとも、円高に転じにくい相場付き)が続いていました。

シカゴ先物市場における、円先物の売り越し残高(売り残高-買い残高)は、先々週(2/27(火)時点)で132705枚(1枚は1250万円)に達していました。これは、2017年11月14日(火)の135999枚以来の高水準でした。先週(3/5(火)時点)では、売り越し残高は118843枚に若干減少はしたものの、高水準で、投機筋が先物での円売りをかなり積み上げていたものとわかります。

こうした投機的な円安気味の動きに対して、多くは「新NISAで、個人の巨額の資金が海外証券に(直接、あるいは投信を通じて間接に)流れ込み、それが円売り・外貨買いを引き起こして円安気味になった」との解説が後付けでなされていました(さらには、「個人が円安を引き起こしていて、円安だから日本の輸出株は上がってよい」との主張)。

個人は新NISAで、日本株より米国株や幅広い国々の株式への投資を志向していることは事実のようですが、巨大な為替市場を、新NISAの資金だけで揺り動かした、という説は、誇張があったように思います。そうした円安の根拠は、実は怪しいものだった、と言えましょう。

足元「日銀騒ぎ」で円高に振れたのは、日銀の政策変更が円高を引き起こす大きな力であった、というより、円安をもたらした投機筋の円売りが、「日銀騒ぎ」を単なるきっかけとして、円買いに巻き戻された、ということなのでしょう。
このように、足元までの円安も根拠が脆弱なものであったとすれば、円安を頼みにした日本の輸出株買いも、先行きが危ういように懸念します。

 

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【中長期シナリオ結論】(2024/2/23時点)

※毎号最後に掲載します。変える必要がないと考えている間は、まったく変えません。

1)「当面」の展望

世界経済は着実に悪化している。そのため、世界株価は下落し、外貨安・円高も進もう。特に足元の日本株は買われ過ぎ(長期的な構造改革が短期的に進むと「誤解」した海外投資家の買いや、米国株なども含めての「AI祭り」など)だ。

「当面」の日経平均の安値は32000円、S&P500指数の安値は3950ポイント、米ドル円相場の安値は1ドル130円を予想する。「当面」とは、2024年前半のどこかまで、といった漠然としたイメージだ。具体的に安値がいつになるかは、極めて不透明だ。

2)株価調整後の展望

米国でのインフレ率の(緩やかながらの)低下や、景気・企業収益の悪化、株価下落を受けて、「それに遅れて」米連銀が再緩和を「本格化する」ものと見込む(再緩和の開始自体は早めの可能性がある)。

証券・金融市場においては、世界景気・業績悪化懸念に直面した「後で」欧米等における再緩和の本格化がもたらす経済改善期待を反映して、世界株価は底入れから上昇に転じ、外貨相場は外貨高・円安基調へと歩を進めよう。

3)数年単位の展望

長期的には、世界経済の拡大基調を見込む。それが長期的な世界株価の上昇を支えよう。

4)投資家への提言

投資家は、世界株価や外貨相場の安値が「実現してから」リスク資産を投げ売りすることは、避けるべきだ。長期的な展望を抱いて、着実にリスク資産への投資を積み上げていくべきだろう。

※本記事は有料メルマガ『馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」』2024年3月10日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

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馬渕治好この著者の記事一覧

1977年東京教育大学(現:筑波大学)附属高等学校卒業、1981年東京大学理学部数学科卒業、1988年米国マサチューセッツ工科大学経営科学大学院(MIT Sloan School of Management)修士課程修了。1981年に(旧)日興証券入社。1986~88年は2年間休職し、米国留学。他の期間は、ほとんど調査関連諸部門を歴任。2004年8月~2008年12月は、日興コーディアル証券国際市場分析部長を務めた。2009年1月より、独立した形で経済・市場分析業務を行なっている。日本経済新聞夕刊のコラム「十字路」の執筆陣のひとり。テレビ・ラジオ出演も数多い。CFA協会認定証券アナリスト(CFA、Chartered Financial Analyst)

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