薄着の季節になると気になる二の腕やお腹の脂肪。そして、酒好きが気になる肝臓の脂肪。同じ脂肪でも「皮下脂肪」「内臓脂肪」「異所性脂肪」と、それぞれ蓄えられる場所によって違う名前で呼ばれています。今回のメルマガ『糖尿病・ダイエットに!ドクター江部の糖質オフ!健康ライフ』では、糖尿病専門医の江部康二先生が読者の質問に答え、糖質摂取と「肥満ホルモン」と呼ばれるインスリンの働きによって中性脂肪が体に蓄えられる仕組みを解説。「内臓脂肪」と脂肪肝など「異所性脂肪」の違いと、それぞれがどのように体に悪影響を及ぼすかを詳しく説明しています。
内臓脂肪と脂肪肝、アルコールと糖質制限食の関係について
Question
内臓脂肪と脂肪肝は別のものでしょうか?糖質制限食ではアルコール摂取をどう考えればよいのか教えて下さい。
江部先生からの回答
◆脂肪蓄積、糖質摂取とインスリン分泌
三大栄養素のうち、直接血糖値を上げるのは糖質だけであり、タンパク質と脂質は上げません。
糖質を摂取して血糖値が上昇するとインスリンは筋肉細胞に血糖を取り込ませますが、余剰の血糖は脂肪細胞に取り込ませて中性脂肪として蓄えます。インスリンは血中の中性脂肪を分解し脂肪細胞内に蓄えます。インスリンは脂肪細胞内の中性脂肪分解を抑制します。
このようにインスリンは三重の肥満ホルモンなのです。そしてインスリンを大量に分泌させるのは、糖質のみです。
◆内臓脂肪とは?
糖質とインスリンのコンビで、中性脂肪が体内に蓄積していきます。一般には『体脂肪=皮下脂肪+内臓脂肪』です。これに加えて、第三の脂肪である異所性脂肪(例えば脂肪肝)があります。
内臓脂肪は、腸間膜につく脂肪のことです。腸を固定する膜が腸間膜ですが、この部分に絡みつくように脂肪が蓄積して内臓脂肪となります。内臓脂肪が過剰にたまるとお腹がポコッと出てきますが、その腹囲がメタボリックシンドロームの診断基準の一つになっています。
◆内蔵脂肪と悪玉ホルモン
内臓脂肪が過剰にたまると、TNFα(ティエヌエフアルファ)、PAI-1(パイワン)、アンジオテンシノーゲンなどの悪玉ホルモンが分泌されるようになります。(☆)
メタボリックシンドロームによって起こる悪玉ホルモンの分泌は、糖尿病を引き起こしたり悪化させたりし、また高血圧を助長するのみならず、直接的に動脈硬化の進行を促進するため、心臓病や脳卒中の危険を高めるのです。
◆異所性脂肪
最近、体脂肪のなかでも「異所性脂肪」というものが注目されています。皮下脂肪、内臓脂肪と同じ中性脂肪ですが、この二つに続く「第三の脂肪」、あるいはテレビ番組などで「場違い脂肪」とも呼ばれています。
皮下脂肪はその名のとおり、皮膚の下にある皮下組織につく脂肪のことで、体温を維持したり、エネルギーを貯蔵したり、外からの衝撃に対するクッションの役割を果たします。
それに対して異所性脂肪は、皮下脂肪や内臓脂肪の脂肪組織に入りきらなくなった脂肪が本来たまるはずのない場所に蓄積されたものです。その場所とは、心臓や肝臓、膵臓といった臓器自体やその周囲、さらには筋肉(骨格筋)などです。
◆脂肪肝
異所性脂肪の代表格が脂肪肝です。脂肪肝とは、文字通り肝臓に脂肪が蓄積した状態です。近年、30代~40代を中心に増加傾向にあります。
日本人間ドック学会が2016年に発表した「全国集計結果」では、「肝機能異常」のある人は、20年前と比較すると10.5ポイント上昇して、男性の40.2%、女性の22.8%にみられました。これらのほとんどが脂肪肝と思われます。
脂肪肝は
- 非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD:nonalcoholic fatty liver disease)
a)単純脂肪肝:肥満などによるもの
b)非アルコール性脂肪性肝炎(NASH:Non-Alcoholic SteatoHepatitis) - アルコール性脂肪肝:飲酒によるもの
- 妊娠に伴うもの:急性妊娠性脂肪肝(AFLP:Acute Fatty Liver of Pregnancy)
などにわけられます。
NAFLD(nonalcoholic fatty liver disease、非アルコール性脂肪肝疾患)は、アルコールを原因としない脂肪肝です。NAFLDの8割から9割は炎症や線維化を伴わない「単純性脂肪肝」です。多くは肥満が関係します。単純脂肪肝の予後は良好です。
非アルコール性の脂肪肝はかつては、放置してもさしたることはないと言われていましたが、近年、上述の「NASH」が認識されるようになり、様相が一変しました。
非アルコール性脂肪性肝炎(Non-alcoholic steatohepatitis)を略してNASHです。NASHは、肝炎から肝硬変や肝臓癌に進展することもあり、結構こわいのです。NAFLDの1割くらいがNASHです。
結局、炎症を伴うか否かが、肝要ですが、単純性脂肪肝からNASHへ進行することもあります。
[肝臓に脂肪が蓄積→脂肪肝→非アルコール性脂肪性肝炎→肝硬変→肝癌]
このようにB型ウィルスやC型ウィルスや飲酒以外に、NASHからも肝癌になり得るので、油断は禁物です。
(☆)
・TNFα(ティエヌエフアルファ)
インスリンの働きを妨げる作用があります。内臓脂肪が増えると分泌が高まり、インスリン抵抗性をもたらし、糖尿病を引き起こしたり悪化させる一因になります。
・PAI-1(パイワン)
内臓脂肪の増加とともに分泌が高まり、血栓ができるとそれを融解させるプラスミンの働きを妨げ、血栓を大きくし、血流をさえぎる状態をつくります。メタボリックシンドロームでは、脂質異常症・高血圧・糖尿病があって動脈硬化が進行しますので、そこに血栓のできやすい状態が加われば、心筋梗塞や脳梗塞の危険が高まります。
・アンジオテンシノーゲン
血圧を上昇させる作用のアンジオテンシンの分泌を高めます。内臓脂肪がたまると分泌が増加して、血圧を上昇させ、高血圧を招く一因となります。
アルコールと糖質制限食の関係については次回とします。(次回につづく)
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