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中島聡氏が暴く「AIバブル」の正体。株価急落NVIDIAの強さと死角とは?いまだ序盤戦のAIブーム 投資の注目点を解説

人気急上昇中のメルマガ『週刊 Life is beautiful』より、注目の最新記事をお届けします。著者の中島さんは「Windows95の父」として知られる日本人エンジニア。メルマガでは毎号その知見を活かし、注目のテック企業や技術情報をいち早く紹介していますが、実は長期投資家としての顔も持っています。そんな中島さんの目に、米国に本社を置く世界トップクラスのハードウェアおよびAI技術の開発・製造企業NVIDIA(エヌビディア)の「株価急落」はチャンスとして映っているのでしょうか?
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:AIブームはバブルなのか?

プロフィール中島聡なかじま・さとし
ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア、工学修士(早稲田大学)/MBA(ワシントン大学)。NTT通信研究所/マイクロソフト日本法人/マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。現在は neu.Pen LLCでiPhone/iPadアプリの開発。

予測通り「AI株バブル」は崩壊するのか?

2022年の秋にリリースされたChatGPT以来、世界は「AIブーム」に突入した感があります。「AI株」の代表であるNvidiaの株は、この期間に150ドルから900ドルにまで上昇しました(株価が6倍になったので、”six bagger”です)。

今回の「AIブーム」を「AIバブル」と呼び、2000年の「インターネット・バブル」と同様に、株価が暴落する可能性があると警告するアナリストもいます(参照:This investor predicted the dot-com bust. He thinks AI is a bubble that will ‘deflate’)。

米調査会社のガートナーは、テクノロジーには常に「過度な期待」によるピーク時が存在するとしていますが(Gartner Hype Cycle)、悲観的な見方の人は、今の「AIブーム」は、その「過度な期待によるピーク」であり、必ず、その後の幻滅期が到来すると予測しているのです。

この期間のNvidiaの株をチャートにすると以下のようになります(Yahoo Financeを活用)。

当初から、「ゴールドラッシュの時に一番儲けたのはシャベルを売っていた会社」という発想から、一部の人々の間では、Nvidiaの株は注目されていました。しかし、AIブームが本当にNvidiaの売上を爆発的に上昇させることになることに多くの投資たちが気がついたのは、2023年の第一四半期の決算の時でした。その4半期の売上が(その前の四半期と比べて)19%増の$7.19billionになり、第二四半期の売上予想を$11 billionに引き上げた時です(実際には、それすら上回る$13.5billionでした)。

2020年5月から世界は変わっている。劇的に高まったNvidiaの価値

エンジニアでない人には、なぜこんなに急激にNvidiaのGPUの需要が高まったのか理解し難いかも知れませんが、以下に紹介する2つの論文に書かれている内容を理解すれば、それほど驚くべきことではありません。

1つ目は、OpenAIが2020年の5月に発表した、「Language Models are Few-Shot Learners」というタイトルの論文(通称、“GPT-3 Paper”)で、これには、LLM大規模言語モデルニューラルネットのパラメータを増やせば増やすほど能力が上昇すること(スケール・メリット)が書かれています。

コンピュータ業界は、これまでハードウェアとソフトウェアの進歩が二人三脚のように足をそろえて進歩して来ました。ムーアの法則(半導体の集積度は18ヶ月ごとに倍になるという経験則・予測)により、一つのチップに詰め込めるトランジスタの数が増えた結果、ハードウェアの性能が上がり、それを活用したソフトウェアが、より早いハードウェアを求め、と、お互いに需要を高めあう役割を果たすイメージです。

私が開発に関わったWindows95が典型的な例で、より多くのメモリと計算能力を必要とするWindows95が、高性能パソコンの需要を高め、結果として、パソコンだけでなく、パソコン向けのCPUを作っていたIntelの売上を上昇することになりました。高性能なハードウェアのメリットを享受するためには新たなソフトウェアの開発が必要であり、単にハードウェアの性能だけを上昇させても何の意味もなかったのです。

ここ数年、パソコンやスマホの進化が止まったように見えるのはそれが理由です。Appleは、2021年10月に自社製チップM1を搭載したMacbookを発売し、その性能(特に消費電力あたりの性能)で世の中を驚かせましたが、その後、M2、M3と毎年のようにハードウェアの性能を上げてきたにもも関わらず、それほど大きな性能向上が感じられないのは、それらの高性能チップの能力を最大限に引き出すソフトウェアが存在しないからです。

“GPT-3 Paper”は、ニューラルネットに関してはこのバランスが壊れていることを示唆しています。より多くのパラメータを処理するには、単にハードウェアの性能だけを上げれば十分で、ソフトウェアの進化は不要だからです。

つまり、ニューラルネットは、ハードウェアをソフトウェアとの二人三脚から解放し、ハードウェア性能だけを向上させればつまり大量の高性能GPUをNvidiaから購入すれば)、そのメリットがすぐに得られる時代を到来させたのです。

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AppleのAIエンジニアも「NvidiaのGPU以外に選択肢はない」

2つ目は、Google DeepMindの研究者が2022年9月に発表した「Training Compute-Optimal Large Language Models」というタイトルの論文(通称、“Chinchilla paper”)です。

こちらは、単にパラメータ数を増やすだけでは不十分で、そのニューラルネットに与える学習データとのバランスも重要だ、ということを指摘しています。つまり、大量の高性能GPUをNvidiaから購入するだけでは不十分で、それに加えて、大量の学習データを何らかの方法で入手し長い時間をかけて機械学習させなければならないことが明らかになったのです。

NvidiaのGPUの需要を考える上で、この「長い時間をかけて機械学習させなければならない」部分はとても重要です。GPT4クラスのニューラルネットの学習には少なくとも2~3ヶ月の学習期間が必要とされていますが、学習期間中はそれらのGPUは他のことが一切出来ないのでそれがさらにGPUの需要を高めることになるのです。

Google、Microsoft、Meta、Teslaなどの大手テック会社は、数千・数万のオーダーでNvidiaのGPUを購入していますが、それはニューラルネットを活用した人工知能技術の開発においては、大量の高性能GPUを活用した長期間の機械学習期間が必須だからです。

少し前に、Appleで人工知能の開発をしているエンジニアと話す機会がありましたが、Appleは、推論(ニューラルネットを利用して問題を解決するプロセス)においては、自社製チップを活用しているものの、機械学習に関してはNvidiaのGPUを使う以外の選択肢はない、と言っていました。

Teslaは、2021年に機械学習専用のDoJo D1と呼ばれる専用のAIチップを開発し、それを3,000台繋いだスーパーコンピュータを自動運転AIの学習のために構築しましたが、それだけでは不十分で、2023年には1万台のNvidia H100 GPUを購入しました。

それぐらい、機械学習のプロセスにおいては、Nvidiaは圧倒的な力を持っているのです。

それとは別に、とあるベンチャー企業で、有名な人工知能の研究者を雇おうとしたところ、「NvidiaのGPUを1万台使える環境を提供してくれない限りは働けない」と断られしまった、と言う話を聞きました。私が人工知能の研究者であれば、同様のことを考えます。

先のゴールドラッシュの例えで言えば、採掘者たちは、シャベルを大量に購入しないと金の採掘が出来ない状況に追い込まれているのです。

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AIブームはまだ「序盤戦」、ただし推論フェーズではNvidiaに死角も

私は長年、この業界で働いて来ましたが、こんな状況は初めてです。ハードウェアにさえお金をかければソフトウェア=人工知能の性能がどんどんと上昇するこれまでとは大きく異なる時代に突入したのです。

これまで、人間よりも賢いAGI(汎用人工知能)の実現に懐疑的だった人たちが(私もその一人でした)、最近になって、「AGIの到来も近い」と言い出したのはこれが理由です。

OpenAIのCEO、Sam Altmanが$7 trillion(約1,000兆円)ものお金を集めようとしていると報道され人々を驚かせました。後に、それは業界全体が行うべき投資額だったことが報じられましたが(No, Sam Altman isn’t raising trillion of dollars fo chips)、AGIの実現のための激しいレースが大手IT企業の間で起こっている今、それぐらいの規模の莫大な投資が行われても不思議はない状況なのです。

つまり、AIブームは、まだまだ序盤戦なのです。

ちなみに、学習フェーズに関しては、圧倒的な力を持つNvidiaですが、推論フェーズに関しては競合も複数現れているしNvidiaが不得意な端末側での処理エッジ・コンピュータへのシフトも起こりつつあるので注意が必要です。この件に関しては、長くなるので、別の機会に書きます。

お断り:私はNvidiaだけでなく、ここに出てくる、Microsoft、Apple、Tesla、Google、Metaの株を所有しています。

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image by: Muhammad Alimaki / Shutterstock.com

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