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サッカードイツ代表の“異変”に国民が激怒。突然アディダス切ってNIKE乗り換え&ゴリ押しピンク色ユニフォーム採用が不安視される理由

ブラジルに勝利した1996年のアトランタ以降、8大会連続となるパリ五輪の出場権を獲得したサッカー男子U-23日本代表。そんなサッカーにおける「欧州の雄」と称されるドイツですが、ワールドカップ4回の優勝を誇る代表チームが今、大きな物議を醸しているようです。今回、作家でドイツ在住の川口マーン惠美さんが、サッカードイツ代表のユニフォームを巡る2つの「騒動」を紹介。各々について詳しく解説するとともに、「スポーツを政治利用する」という独裁国家への道に進みかねないドイツの行く末を危惧しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:お騒がせのドイツサッカーナショナルチーム

プロフィール:川口 マーン 惠美
作家。日本大学芸術学部音楽学科卒業。ドイツのシュトゥットガルト国立音楽大学大学院ピアノ科修了。ドイツ在住。1990年、『フセイン独裁下のイラクで暮らして』(草思社)を上梓、その鋭い批判精神が高く評価される。ベストセラーになった『住んでみたドイツ 8勝2敗で日本の勝ち』、『住んでみたヨーロッパ9勝1敗で日本の勝ち』(ともに講談社+α新書)をはじめ主な著書に『ドイツの脱原発がよくわかる本』(草思社)、『復興の日本人論』(グッドブックス)、『そして、ドイツは理想を見失った』(角川新書)、『メルケル 仮面の裏側』(PHP新書)、『無邪気な日本人よ、白昼夢から目覚めよ』 (ワック)など著書多数。新著に、福井義高氏との対談をまとめた『優しい日本人が気づかない残酷な世界の本音』(ワニブックス)がある。

お騒がせのドイツサッカーナショナルチーム

ドイツはサッカーの国だ。ちびっ子キッカーたちは皆、大きくなったらサッカーの選手になろうと、目を輝かせながら駆け回っている。大人になったらなったで、それぞれ贔屓の地元チームがあって、勝った、負けたとテレビの前で一喜一憂。ましてやW杯(ワールドカップ)やE杯(ヨーロッパカップ)ともなると、それこそ国中がフィーバーする。

戦争中の不幸な出来事のせいで、日本にもまして自虐史観が徹底しているドイツのこと、普段は公的な建物でも国旗が掲げられていることはほとんどないが、W杯やE杯の期間中だけは、国中が国旗だらけになる。サッカーは、ドイツ人が遠慮なく集団的愛国心を発揚することが許されている唯一の機会と言われる所以だ。

だから、ドイツでは別に熱心なサッカーファンではなくても、一応、サッカー界で起こっていることは、皆が漠然と知っており、それが日本人と野球の関係によく似ている。ただ、違うのは、日本には熱烈なサッカーファンもいるが、ドイツはサッカー一本槍で、誰も野球の「や」の字も知らないこと。ドイツ人なら、もし、「大谷翔平」が前から歩いてきても、何事もなくすれ違うだろう。

18年と22年W杯は「まさかの予選落ち」

ドイツのサッカー連盟(DFB)というのは、1900年に設立された由緒ある組織で、ドイツにある27の大きなサッカー連盟を束ねている。その中の一つが有名なブンデスリーガで、その他に、5つの地域連盟と、21の州や自治体の連盟がある。それらの連盟に所属するチームを全部合わせると2万4,500以上、キッカーの数は700万人というから、裾野の広さがよくわかる。ドイツの代表選手団も、このDFBによって構成される。

ドイツのナショナルチームは強豪として、日本でも結構有名だ。4年ごとのW杯では1954年、74年、90年、2014年と4度も優勝しているし、E杯でも72年、80年、96年と3度優勝した。準決勝で惜しくも敗れた大会も多く、2002年、日本で開催されたW杯の時もそうだった。

ところが、ここのところ、この映えあるドイツチームがボロボロなのだ。18年と22年のW杯では、まさかの予選落ち。20年のE杯はトーナメント初戦で早々に敗退。今年の6月は、再びE杯が巡ってくるが、さて、どうなるか?

負けが込んでいる原因はいろいろ挙げられているが、DFBの幹部が政治にのめり込み過ぎて、選手たちをポリコレで縛っているからという理由が一番正鵠を射ている気がする(それについては後述)。

ピンクと紫の新ユニフォームに見え隠れする「政治的意図」

さて、そのドイツサッカー界で最近、2度にわたってナショナルチームのユニフォームが物議を醸した。

まず第一弾は3月14日。まもなく始まるE杯(今年はドイツで開催)用のユニフォームが発表されたのだが、ホーム用と呼ばれる第1ユニフォームはこれまで通り白が基調で、そこに黒、赤、金というドイツの国旗をイメージさせる配色がなされた伝統的なものだったが、アウェイ用と呼ばれる第2ユニフォームが突然、ピンクと紫に変貌!岩盤ファン層は、それを一瞥した途端、ショックでひっくり返りそうになった。というのも、これまでの第2ユニフォームは、黒、深緑、あるいは濃い臙脂色などキリッとした色で、“雄々しく”決めていたからだ。

しかし、実は、ショックにはもう一つの理由があった。このユニフォームはあまりにも明確に、DFB、および現ドイツ政府の政治的思想を主張していた。彼らは昨今、極端に左傾化しており、LGBTQ+の促進にはことのほか熱心だ。しかも、政治家はそれを、文化も事情も異なる他の国にまで強要したがる。

例えば、22年のカタールでのW杯。開幕前、カタールが同性愛を禁止していることに、緑の党の政治家たちが人権蹂躙といきりたち、社民党のフェーザー内相が、「あのような国を世界選手権の開催国にすべきでなかった」と言ってカタールを怒らせた。ドイツチームの乗った飛行機には、いろいろな肌の色の人たちがスクラムを組むイラストに、Diversity Winsという文字が大書された。そして、対日本戦の日には、フェーザー内相が“正義を示す”ため、FIFA(国際サッカー連盟)が禁止したLGBTQ+擁護の腕章をわざわざ付けて、硬い表情でVIP席に座った。

選手たちが「手で口を押さえる」奇妙なパフォーマンスを演じた訳

しかし問題は、ドイツの代表選手たちが自動的に、これら“啓蒙ミッション”に組み込まれてしまったこと。選手たちが試合前の記念撮影で、手で口を押さえるという奇妙なパフォーマンスを演じたのもそのせいだ(「我々は口を塞がれた」という意味)。フランスチームのキャプテンが、「フランスを訪れた外国人には我々のルールに従ってもらう。だから、私もカタールでは相手のルールに従う」と述べたのとは、まさに対照的だった。

現在のDFBの総裁、ベルント・ノイエンドルフ氏は、ノートライン=ヴェストファーレン州が社民党政権だった2010年代に、政務次官を5年間も務めており、フェーザー内相とも非常に近い。それどころか、DFBの理事を務めるアンドレアス・レティヒ氏は、政治的にはさらに左と言われる。

結局、ドイツチームは肝心の試合は予選で敗退。4年に一度のW杯を心待ちにしていたファンたちも、テレビの前に手ぶらで取り残されてしまった。つまり、こういう背景があったため、彼らが今回のピンク色のユニフォームに政治的意図を感じたのは、ある意味、当然だったのだ。

しかし、DFBはカタールでの失敗を教訓として生かす気はなく、それどころか、来たるE杯ではピッチのみならず、応援席までピンクのユニフォームで埋めてしまうつもりだ。ノイエンドルフ氏いわく、「新ユニフォームは、“サッカーファンの新世代”と“ドイツの多様性”の表出」。氏の言うサッカーファンの新世代というのは、「“男らしい”などという抽象的、差別的、かつ意味不明の形容詞に惑わされない人間」という意味だ。果たしてこれに付いていく新世代ファンがどれだけいるのかは、6月14日、蓋を開けてのお楽しみ。

アディダスからナイキへ。あっけなくカネに転んだ独サッカー連盟

さて、ユニフォーム問題の第2弾はというと、3月22日にDFBが、長年の提携パートナーであったアディダス社を、2027年からナイキ社に変更すると発表したこと。アディダスはドイツのメーカーで、77年間もの間、ナショナルチームのユニフォームやスポーツ用品を全て担当してきた。ちなみにナイキは米国のメーカーだ。

交代の理由は至って簡単。ナイキの提案したスポンサー料が巨額だったから。ドイツの経済紙『ハンデルスブラット』によれば、これまでのアディダスの年間5,000万ユーロに対し、ナイキが申し出た額は1億ユーロだったという。これでは確かに勝ち目がないが、「金の切れ目が縁の切れ目か」と、サッカーファンは憤慨した。

DFBとアディダスとの歴史は長い。契約が結ばれたのが1950年で、その4年後の54年に、第2次世界大戦後初のW杯がドイツで開かれた。戦後、ホロコーストの汚名のため、事実上、国際舞台から締め出されていたドイツに、諸国が手を差し伸べたことを示す希望の大会だったが、ここで、ドイツがまさかの優勝を勝ち取ったのだ。しかも決勝戦は、84分目のゴールでドイツの勝利が決まるというドラマとなり、この時のドイツ人の歓喜の様子は、ラジオアナウンサーの狂ったような叫び声と共に伝説となった。

そして、この伝説に少なからず貢献したのが、当時、アディダスが開発した軽くて柔軟なシューズだった。おりしもハンガリーとの決勝戦は雨で、フィールドが激しくぬかるんだ。そのため、強豪ハンガリーチームは、杭を靴底に打った重い革靴に文字通り足を取られ、ドイツチームの機動力に大きく水を開けられたと言われる。

この勝利の後、奇しくもドイツは奇跡の経済復興に突き進み、アディダスとドイツチームは数々のサクセスストーリーを紡ぎ続けた。なのに、それが今、あっけなくナイキに取り替えられることについては、政治家までが遺憾の意を評した。

どの口が言う?大臣が突如「愛国心」発言の何様

ただし、皆が一番理解に苦しんだのは、ハーベック経済・気候保護相の「DFBには少し“立地”の愛国心を持って欲しかった」というコメント。この緑の党の政治家は、かつて「祖国愛という言葉には吐き気を感じる」と言って顰蹙を買った人だ。国歌を歌う場面では、今も硬く口を閉じている。それが突然、愛国心?

案の定、DFBもこの批判には敏感に反応し、慌てたハーベック氏が4月10日、ノイエンドルフ氏とレティヒ氏を経済省に招いて関係修復を図った。報道されたその時の写真を見たら、お灸を据えられたハーベック氏はピンクの新ユニフォーム姿。はっきり言ってミスマッチだった。

Nach Kritik: Habeck trifft DFB-Bosse im pinken Trikot

いずれにしても、これらを見ていると、現ドイツ政府とDFBの関係が不明瞭だし、DFBによるLGBTQ+の無理強いにも大きな不安を感じる。これまでドイツのサッカーだけは、貧富とも政治的信条とも無関係だと思っていたが、現在、いくつかのブンデスリーガのファンクラブからは、特定の政党の支持者が締め出されているという話まで聞く。

スポーツの政治利用は独裁国の得意とするところだが、ドイツも少しずつそちらの方向に進んでいきそうで、最近、心が波立つ。サッカーが子供たちの夢であり続けてほしいというのは、ドイツ人全員の願いであるはずなのだけど。

【関連】なぜ米国発のキャンセルカルチャーは「日本人の癪にさわる」のか?有色人種差別から動物の権利まで 滲むカルト性

プロフィール:川口 マーン 惠美
作家。日本大学芸術学部音楽学科卒業。ドイツのシュトゥットガルト国立音楽大学大学院ピアノ科修了。ドイツ在住。1990年、『フセイン独裁下のイラクで暮らして』(草思社)を上梓、その鋭い批判精神が高く評価される。ベストセラーになった『住んでみたドイツ 8勝2敗で日本の勝ち』、『住んでみたヨーロッパ9勝1敗で日本の勝ち』(ともに講談社+α新書)をはじめ主な著書に『ドイツの脱原発がよくわかる本』(草思社)、『復興の日本人論』(グッドブックス)、『そして、ドイツは理想を見失った』(角川新書)、『メルケル 仮面の裏側』(PHP新書)、『無邪気な日本人よ、白昼夢から目覚めよ』 (ワック)など著書多数。新著に、福井義高氏との対談をまとめた『優しい日本人が気づかない残酷な世界の本音』(ワニブックス)がある。

image by : Orange Pictures / Shutterstock.com

川口 マーン 惠美

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