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行方不明の後に遺体で発見。「死亡日」がわからなければ残された家族に遺族年金は支給されないのか

国民年金や厚生年金の加入者が亡くなった際、残された配偶者や子供等に支給される遺族年金。請求時に必要となるのが「死亡日」ですが、事情によっては死亡日の特定が困難なケースが存在するのも事実です。そのような場合、遺族年金を受けることは不可能なのでしょうか。今回のメルマガ『事例と仕組みから学ぶ公的年金講座』では著者で年金アドバイザーのhirokiさんが、年金加入者が行方不明になった事例を挙げつつ遺族年金の仕組みを詳細に解説しています。

※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:数ヶ月ほど行方不明の後に遺体発見したものの、死亡日がいつなのか不明の場合の遺族年金の取り扱い

数ヶ月ほど行方不明の後に遺体発見したものの、死亡日がいつなのか不明の場合の遺族年金の取り扱い

こんばんは!年金アドバイザーのhirokiです。

1.遺族年金受給に必要な条件

遺族年金を請求する場合は必ず死亡日があってのものであり、この死亡日を基準として過去の保険料納付の状況や、家族状況、そして家族が生計維持されていたかどうかを確認します。

死亡した日というのは動かせない事実なので、障害年金のようにどこの病院に初めて行ったのかというような初診日を探すよりも難しい事ではありません。

死亡日はわかりやすいので、その日を基準として他の条件を確認します。

まずはどのような遺族が存在するのかを確認します。

国民年金から支給される遺族基礎年金は「18歳年度末までの子のある配偶者」または「子」のみが受給権者になる事ができ、遺族厚生年金の場合は配偶者、子、父母、孫、祖父母の順で最優先順位者が請求者となります。ちなみに配偶者と子は同じ第一順位です。

次に保険料納付要件として死亡日の前日において死亡日の前々月までに国民年金の被保険者期間がある場合はその3分の2以上が保険料納付済みや免除期間である事、もしくは前々月までの1年間に未納がない事(1年要件という。65歳以上の死亡者には適用しません)などの条件が必要になります。

なお、未納以外の全体の年金記録が25年以上(300ヶ月以上)である場合は、上記のような3分の2とか直近1年は基本的には見ません。

保険料納付要件がわかったら次は、請求者となる遺族が死亡日時点で生計維持されていたかどうかを判定します。

「生計維持されていた」というのは扶養されていたというような意味に捉えられがちですが、年金の場合は少し意味合いが違います。

生計維持されていたというのは、第1に死亡時点で生計を同じくしていた(家計を一にしていたとか同居していたなどのイメージ)という事と、第2に死亡時点で前年収入が850万円未満である事(もしくは前年所得が655.5万円未満である事)の2点を満たす場合をいいます。

請求する遺族が生計を同じくし、前年の収入は850万円未満(または前年所得が655.5万円未満)であれば生計維持されていたとします。

生計を同じくしていたという場合、必ずしも同居していないといけないわけではなく、理由があって別居(入院中、施設にいる、単身赴任など)しているとか、他に別居していても定期的に訪問していたとか連絡を取っていた、送金していたなどの場合でも生計を同じくしていたとされるケースはよくあります。

よって、死亡時点で別居していたら生計維持関係はなかったとするわけではありません。

まあ夫婦関係が冷めていて、別居して何も関わっていなかったとするならば生計維持関係は難しいですね。生計維持関係がないならその場合は、下の順位の遺族の人が遺族年金の請求者となる場合もあります。

まとめると、本人死亡時点において保険料納付要件を満たし、一定の遺族があり、死亡時点でその遺族と生計維持関係があったならば遺族は遺族年金を請求する事ができます。

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2.死亡日がわからない時もある

遺族年金に必ず必要な死亡日はほとんどの場合はわかるものなので、死亡日がわからなくて遺族年金の請求ができないという事は無いだろうと思ってしまうところではありますが、場合によっては死亡日がいつなのかわからないという事が生じます。

それは行方不明になった場合です。

行方不明になってどこにいるのかさっぱりわからないという事はほとんど無い話だろうと考えがちですが、毎年8万人ほどの人が行方不明になっています(実際は14~5万人はいるだろうとも言われています)。よって、毎年毎年結構な人が行方不明になっています。

すぐ見つかればまだしも、何年もわからないというような事もあり、そうなると残された遺族はいつまで経っても遺族年金を請求できないというような事が生じます。

なにせ遺族年金は必ず死亡から始まるので、死亡がわからない以上は遺族年金は請求できません。

では行方不明中はずーっと遺族年金を請求できないのかというと、そうではありません。

行方不明になってから7年が経つと、それ以降は家庭裁判所にて失踪宣告をしてもらい、7年経った日を死亡したとみなす事にしています。

よって、7年経った日が死亡した日とみなされるので、それをもって遺族年金の請求にとりかかる事ができます。

この場合は死亡日は確定されました。

ただし、ここで疑問が生じます。

7年経った日に死亡者と生計維持関係なんて無いぞ!?それに、行方不明中は保険料を納めていない事ももちろんあるでしょう。本人が行方不明になってたのに、その時に生計維持関係があったというのはおかしいからですね。

という事は請求はできないのではないかと。

それは酷なので、この場合は行方不明になった日である7年前の日までの保険料納付状況を見て、行方不明時の生計維持関係を確認します。

このように行方不明の場合の取り扱いが規定されています。

7年も待つのは長いですね(他には7年も待たずに請求可能な、船や航空機の事故や東日本大震災の時のような大災害の時は7年も待たずに、事故が起きた日から3ヶ月経ったら遺族年金請求が可能になる死亡の推定というものがありますが、今回は死亡の推定は省きます)。

行方不明から7年待つというのは普通失踪と言われますが、場合によっては7年も待たずに死体が発見されたりという事があります。

例えば数ヶ月後に死体が発見されたとかですね。

ではこの場合は死亡日はどうなるのか。

死亡日が不明の場合は、以下の死亡日として扱います。

なお、死亡年月日不詳とされる場合もあるので、その場合は遺体が発見された年月日が死亡日として扱われます。

なので、上記のどれに当てはまるかで死亡日を確定します。

ところがです。

死亡日を上記のように扱ってくれたのはいいですが、その死亡日時点はしばらく行方不明だったのでそんな時に「生計維持関係があった」というのは変ですよね。

先述した7年経った時は行方不明になった時点の生計維持関係や保険料納付状況を見るよって規定されていますが、7年経つ前に死体が見つかった場合はそのような規定はありません。

よって、通常通り死亡日時点の保険料納付要件や生計維持関係を見ます。

でも死亡時点では生計維持関係なんて無いから遺族年金は出ないのでしょうか。

事例で考えてみましょう。

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3.25年以上の年金記録のある年金受給者

昭和19年4月7日生まれのA夫さん(令和6年に79歳)

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15歳年度末の翌月である昭和35年4月からから昭和57年3月までの264ヶ月は厚生年金に加入する。この間の平均標準報酬月額は40万円とします(老齢基礎年金に反映するのは国民年金が始まった昭和36年4月以降で、20歳になる昭和39年4月から昭和57年3月までの216ヶ月)。

退職し、昭和57年4月からは国民年金に加入しなければならないのですが、A夫さんは20年以上の厚生年金期間があったので国民年金には強制加入とはなりませんでした。

昭和57年4月から昭和61年3月までの48ヶ月間は国民年金に任意加入できたものの、任意加入せず(カラ期間になります)。

この48ヶ月は専業主婦等の妻がいた場合は妻も「20年以上の厚年期間を持つ夫の妻」としてカラ期間となります(通常は夫が厚年加入中のサラリーマンの期間に専業主婦の場合にカラ期間になりますが、こういうのもカラ期間になる)。

昭和61年4月からは年金法が新しくなり、60歳までは全ての人が国民年金の被保険者として保険料を納める義務が生じる事となりました。

強制加入となり、昭和61年4月から平成5年8月までの89ヶ月間は国民年金保険料を全額免除(老齢基礎年金の3分の1に反映)。

平成5年9月から平成17年3月までの139ヶ月間は厚生年金に加入。平成5年9月から平成15年3月までの115ヶ月の平均標準報酬月額は35万円とし、平成15年4月からは賞与も年金額に含む事になり平成17年3月までの24ヶ月の平均標準報酬額は43万円とします(老齢基礎年金に反映するのは平成5年9月から60歳前月である平成16年3月までの127ヶ月)。

先にA夫さんの年金記録をまとめます。

A夫さんは1年以上の厚年期間があり、全体で540ヶ月もあるので最低でも必要な年金受給資格期間25年以上(300ヶ月以上)を満たしているため生年月日としては60歳(平成16年4月)から厚生年金の受給権が発生します(25年から10年に短縮されたのは平成29年8月から)。

60歳からの老齢厚生年金の計算は割愛し、65歳以降受給している老齢の年金を計算します。

よって、65歳からは老齢厚生年金(報酬比例部分1,127,889円+差額加算146,459円)+老齢基礎年金631,748円=1,906,096円(月額158,841円)

なお、配偶者加給年金は令和6年度現在はすでに妻が65歳を超えて消滅したものとします。妻は昭和32年9月生まれの令和6年に67歳とします。

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4.川に釣りに行って行方不明の後、遺体発見

さて、A夫さんは仕事を引退してからは、時々釣りに行くのが趣味でした。

令和6年2月8日にいつものように上流の方の川で釣りに行ってから、その日は帰って来なかったため警察に連絡してA夫さんの捜査が始まりました。

ところがなかなかA夫さんの姿が見つからずにいたのですが、令和6年8月3日に山林の中で遺体が発見されました。高い所から転落して死亡したものとされました

――(メルマガ『事例と仕組みから学ぶ公的年金講座』2023年5月1日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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佐賀県出身。1979年生まれ。佐賀大学経済学部卒業。民間企業に勤務しながら、2009年社会保険労務士試験合格。
その翌年に民間企業を退職してから年金相談の現場にて年金相談員を経て統括者を務め、相談員の指導教育に携わってきました。
年金は国民全員に直結するテーマにもかかわらず、とても難解でわかりにくい制度のためその内容や仕組みを一般の方々が学ぶ機会や知る機会がなかなかありません。
私のメルマガの場合、よく事例や数字を多用します。
なぜなら年金の用語は非常に難しく、用語や条文を並べ立ててもイメージが掴みづらいからです。
このメルマガを読んでいれば年金制度の全体の流れが掴めると同時に、事例による年金計算や考え方、年金の歴史や背景なども盛り込みますので気軽に楽しみながら読んでいただけたらと思います。

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