2月28日に司法記者クラブで開かれた会見で、旧統一教会に対して損害賠償を求める第7次集団交渉の申し入れを行ったことを明らかにした、全国統一教会被害対策弁護団。当の旧統一教会はと言えば、これまで外部の人間をターゲットとしてきた霊感商法の手口を、内部の信者たちに向け始めたと言います。今回のメルマガ『詐欺・悪質商法ジャーナリスト・多田文明が見てきた、口外禁止の「騙し、騙されの世界」』では、かつて自身も旧統一教会の信者だったジャーナリストの多田さんが、その実態を誌面で紹介。さらに教団が用意していた、ウソを推奨するかのような勧誘マニュアルの内容を白日の元に晒しています。
※本記事のタイトルはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:不当寄附勧誘防止法見直し「正体隠し」「助言の遮断」「不当なつけ込み」の禁止を要望・正体隠し勧誘の実態とは
霊感商法の手口は信者内部に向けられてきている。現在の不当寄附勧誘防止法では救済困難
現在、全国統一教会被害対策弁護団による、旧統一教会に対する集団交渉は第七次まで行われており、総額は46億4,200万円を超えています。しかし、いまだ返金の道筋は見えていません。
何より旧統一教会の信者には、韓鶴子総裁や幹部から430代の先祖解怨をすることが求められています。これには多額のお金が必要となります。これまで教団外部の人たちに向けられてきた「先祖の悪因縁がとりついていて解怨する」という霊感商法の手口が、内部の信者たちに向けられている形といえます。
すでに多額の献金をして疲弊している信者らも多く、より困窮状態になることはみえています。それは信者を持つ被害者家族も苦しませることにもつながります。被害は今後も続くことにもなり、この状況は被害の継続性を示すものともいえます。
本来なら不当寄附勧誘防止法によって、悪質、かつ身の丈を超えるような寄附行為に関しては規制してほしいところですが、法律上、畏怖困惑して行った寄付行為が罰則の対象ゆえに、十分な救済ができない状況です。
「実効性のある不当寄附勧誘防止法にするためには、どのような見直しが必要なのか」の記事も書いていますので、参照にして頂ければ幸いです。
● 実効性のある不当寄附勧誘防止法にするためには、どのような見直しが必要なのか
不当寄附勧誘防止法の見直し「正体隠し」「助言の遮断」「不当なつけ込み」禁止を要望
不当寄附勧誘防止法の附則第5条で2年後の見直しが明記されています。では、どのような観点での見直しが必要なのでしょうか?
同弁護団の川井康雄弁護士は、昨年、日弁連で霊感商法に関するワーキンググループから出された「霊感商法等の悪質商法により個人の意思決定の自由が阻害される被害に関する実効的な救済及び予防のための立法措置を求める意見書」に関しての話がありました。
意見書では、これまでの裁判における事実認定から「判断基準を不当に変容させる要素」として「正体隠し」「助言の遮断」「不当なつけ込み」をあげて、これらを禁止することによる不当寄附勧誘防止法の見直しと、消費者契約法にもそれらを設けるよう提言しています。
同弁護士は「この(金銭的被害の)本質は『なぜ、人生を大きく変え、生活ができなくなるような(財産)被害が生じるのか』にあり、勧誘された方が統一教会の意図する通りの判断基準に、不当に変容させられていることがポイント」と指摘します。その通りだと思います。
正体隠しの勧誘は教団内ではこうして行われた
現在、集団調停の申し立てを行っている被害者の状況を分析すると、入信した方のほとんどが宗教勧誘という目的、勧誘の主体が統一教会ということが秘匿され、正体を隠されたまま教え込みを受けたことが確認されたといいます。「こうした勧誘方法は信教の自由、あるいは自由な意思決定を侵害しているものと考えている」ゆえに、同弁護団は「正体隠した勧誘」の禁止を求めています。
では、どのような「正体隠し」が、旧統一教会内で行われていたのかについて、私が1999年に東京地裁に起こした、教団名を隠した違法伝道訴訟の裁判なかで提出した証拠資料をもとに話をしたいと思います。
信者らは街頭で「手相の勉強をしています」「自己啓発のビデオセンターです」と声をかけて、布教の目的を告げずに勧誘場所に連れ込みますが、勧誘マニュアルには、次のように書かれています。
1.声かけ(例)こんにちは(命がけの笑顔で)、(例)不躾(ぶしつけ)に申しわけありません。千代田文化放送なんですけれど、今、ビデオライブラリーの紹介インタビューをしているんです(取材協力お願いします)
千代田文化放送などというものは教団には存在しません。つまり、教団名を隠して誘うためにつく、ウソになります。
さらに(勧誘の際の)ポイントとして「言葉は何でもかまわないと思います」とあり、旧統一教会の伝道をする上ではこうした様々な「ウソ」が許され、推奨されてことがわかります。さらに「間をおかず、選ばず、現実をみず」と多くの人に声をかけるようにも促しています。
神様の前に、サタンに支配された世界の人たちを救い、旧統一教会の信者とするためには、ウソをつくことは正しいと教えられてきたわけです。
ウソの上塗りの勧誘の実態は、「宗教団体の目的を著しく逸脱した行為」と思う理由
私はこの偽装勧誘という呼ばれる正体隠し勧誘の問題の本質は、「自由な意思決定を侵害している」以外に、もう一つあると考えています。それはウソの上塗りです。入口で一つのウソをつくことで、次の嘘もつかなければなりません。
先のマニュアルでも、ビデオセンターが旧統一教会であることを伏せるために「千代田文化放送なんですけれど」と声をかけて勧誘するように指示しています。もし通っている人から、もし「ここは統一教会ではないのですか?」「宗教ではないのですか?」と尋ねられれば「違います」と答えるように指示されていましたが、このように次のウソをつかなければならない状況となります。
宗教法人法の第81条1項2号前段の解散事由には「宗教団体の目的を著しく逸脱した行為」とあります。「ウソをつき続ける」「ウソの上塗り」の指示を組織的に行ってきたこと自体が、もはや健全な宗教団体の姿ではないと考えます。
そうした教団の本質を見抜けずに、多くの政治家が旧統一教会との関係を持ち、国政にも影響を及ぼそうとした状況にあったことを防げなかったことは本当に問題であると思っています。
旧統一教会は2009年のコンプライアンス宣言を通じて今後は「教団名を隠しての伝道はしない」として、その再徹底を標ぼうしますが、これからの改善だけで終わりではありません。「ウソを重ねての布教」をして、多くの人たちを信者にしてきた過去の事実をしっかりと見つめなければなりません。そこからもたらされた被害がすべて回復される必要があります。
こうした点からも、解散命令の司法判断が行われるだろうと確信を抱いている理由になっています――(この記事はメルマガ『詐欺・悪質商法ジャーナリスト・多田文明が見てきた、口外禁止の「騙し、騙されの世界」』2024年5月28日号の一部抜粋です。続きはご登録の上お楽しみください、初月無料です)
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image by: Unification Church Hungary, CC0 1.0, via Wikimedia Commons