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若くして夫が死亡。遺された妻と幼い子供は遺族年金を受け取れるのか?

妻と幼い子供を遺して夫が亡くなってしまった場合、その後の生活を守るにはお金が必要です。そこで今回のメルマガ『事例と仕組みから学ぶ公的年金講座』では、著者で年金アドバイザーのhirokiさんが、国民年金や厚生年金の加入者が亡くなった際、残された配偶者や子供等に支給される遺族年金の強力な保障について紹介します。

まだ妻と小さな子達を残して死亡しても遺族年金が強力に保障する

1.遺族厚生年金を受給するための条件。

遺族厚生年金は主に配偶者が亡くなると大抵の人は受給してるような印象ではありますが、死亡した場合は必ず発生するわけではありません。

もちろん請求には条件があります。

1つ目は厚生年金の加入中の死亡。

2つ目は厚生年金加入中の初診日の病気や怪我で退職後に、初診日から5年経過する前の死亡。

3つ目は障害厚生年金1、2級受給者の死亡。

4つ目は原則25年以上の年金記録のある(未納は除く)人、もしくは25年以上の記録のある老齢厚生年金を受給してる人が亡くなった場合。

のどれかの場合の死亡に当てはまらないといけません。

そして、1つ目と2つ目に関しては死亡日の前々月までに被保険者期間がある場合は、その3分の2以上が保険料納付済みもしくは免除期間でなければならない。

それが満たせないなら死亡日の前々月までの直近1年間に未納がなければそれでも良い…という、死亡日までの本人の年金保険料納付記録を見ます。この直近1年要件は令和8年4月1日前までの死亡までとなっていますが、今までもその期限が来るたびに10年更新されてきたのでまた更新されると思われます。

3つ目の障害厚生年金1、2級の受給者の死亡に関しては、1や2のような年金保険料納付記録は見ません。障害年金請求の時に一回保険料納付要件取ってるから、遺族年金の時にまた保険料納付要件をとるような事をしないため。

4つ目は25年も年金記録(未納除く)があるので死亡日までの納付記録は考えません。

次に、死亡日時点に生計を維持されていた遺族を見ます。

これはもう順番が決まっていて、配偶者、子、父母、孫、祖父母の順で一番上の順位者が請求者となります。

なお、配偶者と子は同じ第1順位者とされ、父母は第2順位、孫は第3順位、祖父母は第4順位となります。

年齢は子と孫に関しては18歳年度末未満もしくは障害等級2級以上は20歳までであり、父母や祖父母は本人死亡時に55歳以上でなければならないという制限があります。父母、祖父母への実際の支給は原則として60歳からです。

配偶者である妻には年齢制限はありません。

どうして配偶者と子は同じ順位者かというと、これは民法なんですが家族については夫婦を単位として考えていて、そこに未成年の子を加えたものを1つのグループとしているからです。

でも受給する際は配偶者を優先させて、その間は子の遺族年金は停止します。

ちなみに上の順位者と死亡者との間に生計維持関係がないならば、下の順位者の人が請求者となる事もあります。

このように、請求できるのかどうかを確認する事があるので、どれかに当てはまらないならば請求は不可となります。

最初の1~4のどれにも当てはまらないのであれば、遺族厚生年金を請求する事はできません。

まあ、18歳年度末未満の子がいれば国民年金から遺族基礎年金が受給できる場合もありますが、子がいない場合は遺族厚生年金がもらえるかどうかが重要となります。

全く何も条件を満たしていない場合はどうするのかというと、最終手段として死亡した人の障害厚生年金を請求して障害厚生年金を発生させて障害厚生年金受給者の死亡に持っていく事もあります。

え?すでに亡くなった人の障害年金を請求して発生させるなんて事ができるの?と思われたかもしれませんが、死亡後の障害年金請求はできそうであればやっても構いません。

ただし、障害年金の条件には初診日から1年6ヶ月たった日である障害認定日以降に請求(認定日請求)というのが原則となっていますよね。

そして障害認定日から3ヶ月以内の状態を医師に診断書を書いてもらい、それが障害等級に該当すればいいです。

例えば令和6年10月中に死亡したとします。

その人の代わりに家族が請求し、死亡した本人の令和元年5月10日初診日から障害認定日である令和2年11月10日から3ヶ月以内の診断書が取れて、その障害等級が2級に該当して仮に年額180万円(月額15万円)の障害厚生年金+障害基礎年金が発生したら、障害認定日の翌月まで遡って障害年金を受給できます。(遡るのは時効の5年まで)

年金は死亡日の属する月まで受給できるので総額は令和2年12月分から令和6年10月分までの47ヶ月分である7,050,000円を一括して受給します。

しかし本人はすでに死亡しているので、7,050,000円(未支給年金は一時所得になるので50万円を超える場合は申告が必要)はこれは全て未支給年金として生計同一関係のある一定の遺族(配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹、3親等以内の親族)の順で最優先順位者が請求して受給します(遺族年金の時のように子や父母などの年齢は見ない)。

さて、前置きは長くなりましたが今回は妻と小さな子を残した場合に支払われる遺族年金の事例を一つ考えてみましょう。

2.妻とまだ幼い子4人を残して死亡した場合の遺族年金。

◯昭和46年7月6日生まれのA夫さん(令和6年は53歳になる)

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20歳になる平成3年7月から平成6年3月までの33ヶ月間は大学に通い、この間は国民年金保険料を全額免除(この期間は老齢基礎年金の3分の1に反映)。なお、学生の免除は老齢基礎年金に反映しないのが一般的ですが、平成3年4月から平成12年3月までの学生免除は老齢基礎年金の3分の1に反映する。

平成6年4月から平成10年3月までの48ヶ月間は非正規雇用者として国民年金のみの加入でしたが、保険料を未納にしました。

平成10年4月からは正社員となり、平成31年3月までの252ヶ月間は民間企業で厚生年金に加入。
この平成10年4月から平成15年3月までの60ヶ月間の平均給与は45万円とし、平成15年4月から平成31年3月までの192ヶ月間の平均給与(賞与含む)は60万円とします。

退職し平成31年(令和元年と同じに考えていい)4月から令和3年6月までの27ヶ月間は退職に伴う特例免除を使いました(老齢基礎年金の2分の1に反映)。

令和3年7月から死亡する令和6年5月31日までの35ヶ月間は国民年金保険料を未納。

A夫さんは令和6年5月31日に死亡し、その時点で残された遺族は妻(45歳)、長男17歳、次男15歳、三男10歳、四男8歳とします。

家族には遺族年金は支給されるのでしょうか。

3.死亡前に病気が悪化してきていたので障害年金を請求していた。

死亡前に時間を遡りますが、A夫さんは会社に在職中に体調の悪さを訴えており、退職後の令和元年5月13日(初診日)にB病院に行く事になりました。

そこで、危険な病気かもしれないという事で紹介状をもらい、C総合病院で令和元年5月23日に精密検査をして病気を発見しました。

その病気により闘病生活を送っていましたが、体をうまく動かせない状態がそれから死亡まで続いていました。

日常生活も支障があったので、死亡前に障害年金の事を知り、障害年金の請求を社会保険労務士に代理請求を頼んでいました。

まず障害年金の情報をまとめます。

・初診日(国民年金のみの加入)→令和元年5月13日

・初診日から1年6ヶ月経った障害認定日は令和2年11月13日(ここから請求可能)

・障害認定日時点での日常生活は多くが家族の支援などが必要だった。

・請求は令和6年1月20日にやったとします。

・請求日時点の請求(事後重症)でもよかったが、請求日の翌月からの支給となる。

・しかし障害認定日時点の障害状態も思わしくなかったので令和2年11月13日時点に遡っての診断書を、通っていたC総合病院の先生に書いてもらう事にして認定日請求をした(認定日請求は年金が令和2年11月13日まで遡る)。

さて、初診日が国年のみ加入の時なので支給される障害年金は障害基礎年金のみ。

令和6年1月20日から令和2年11月13日の障害認定日まで遡っての請求なので、請求が通れば障害認定月の翌月から令和6年1月分までの38ヶ月分が一括支給となる。

まず、障害年金を請求できるかの条件の一つである初診日の前々月(令和元年3月)までの保険料納付要件を見ます。20歳になる平成3年7月から令和元年3月までの333ヶ月の間で未納が3分の1を超えない事が必要。

未納期間は33ヶ月と48ヶ月なので81ヶ月。

81ヶ月÷333ヶ月=24.32%なので未納割合は3分の1(33.33%)を超えないから、障害基礎年金請求可能。

令和2年11月13日に遡って障害基礎年金2級の認定がおりたとします。

・障害基礎年金→816,000円(2級の令和6年定額)+子の加算234,800円×2人+3人目以降78,300円×2人=1,442,200円(月額120,183円)

・障害年金生活者支援給付金→月額5,310円(年額63,720円)

令和6年1月20日請求から令和2年11月の翌月までの38ヶ月分遡るので、120,183円×38ヶ月=4,566,954円が一括支給。(給付金は遡らない)

ーーーー
※注意

障害年金請求後は審査がおりるまで約3ヶ月ほどはかかるので、実際の振込は請求した令和6年1月20日以降の令和6年4月15日に初回振り込みがあったとします。

そうすると、上記の遡り分と令和6年2月分と3月分(2ヶ月で240,366円)合わせた4,807,320円が振り込まれたとします。
ーーーー

その後は令和6年5月31日にA夫さんは死亡。

年金は死亡した月分まで受給できますが、5月分は前月の4月分と合わせて6月15日に支払われるのでA夫さんはその2ヶ月分は貰わずに死亡しました。

この場合は死亡時に生計を同じくしていた一定の遺族(配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹、3親等以内の親族の順で最優先順位者)が、未支給年金として請求して遺族の口座に振り込まれます。

妻が障害年金の未支給年金240,366円(4月分と5月分)を請求して受給したとします。

4.遺族年金請求。

さて、A夫さんは令和6年5月31日に52歳で亡くなりました。

残された家族に遺族年金は支給されるでしょうか。

まず、死亡日時点で生計維持されていた家族は妻と子4人とします。(子は18歳年度末以降の者は含まない。子に障害等級2級以上の障害がある場合は20歳まで)

家族とは同居し、妻の年収は850万円未満の150万円だったので生計維持されていたとします。

次にA夫さんの未納以外の年金記録を見ます。

・学生時代の免除→33ヶ月

・厚年→252ヶ月

・退職特例免除→27ヶ月

合計すると312ヶ月(25年以上)あるので、死亡した日が国年のみの時ですが合わせて252ヶ月分の遺族厚生年金が受給できます。全体で25年以上無かったら遺族厚生年金は受給できませんでした。

なお、遺族厚生年金を請求できる条件の中に「障害厚生年金1、2級以上の者の死亡」がありますが、A夫さんは国民年金からの「障害基礎年金2級の者の死亡」なので対象外。

また、妻には18歳年度末の子がいるので、国民年金から遺族基礎年金も支給されます。

・遺族厚生年金→(45万円×7.125÷1000×60ヶ月+60万円×5.481÷1000×192ヶ月)÷4×3=(192,375円+631,411円)÷4×3=617,840円(国民年金加入中の死亡なので原則として300ヶ月最低保障で計算はしません)

・遺族基礎年金→816,000円(令和6年度定額)+子の加算金234,800円×2人+3人目以降の子の加算金78,300円×2人=1,442,200円

・遺族年金生活者支援給付金→月額5,310円(年額63,720円)

よって、遺族年金総額は遺族厚生年金617,840円+遺族基礎年金(子の加算含む)1,442,200円=2,060,040円(月額171,670円)となります。給付金年額63,720円も。

なお、子が18歳年度末を迎えるごとに子の加算金が1人分ずつ減るのでその度に年金額が下がっていきます。
(ここの減り方は子の加算金に注意が必要ですが今回は割愛)

一番下の子が18歳年度末を迎えると遺族基礎年金と遺族年金生活者支援給付金は消滅し、その後は遺族厚生年金617,840円のみとなります。

しかし、A夫さんの厚生年金期間が20年以上あり、死亡時点で妻が40歳以上だった、もしくは40歳時点で遺族基礎年金の受給権者だった場合にその後に遺族基礎年金が消滅した後は妻の遺族厚生年金に中高齢寡婦加算612,000円(令和6年度定額)が加算されます。

一番下の子の加算金が消滅した後の遺族年金総額は、遺族厚生年金617,840円+中高齢寡婦加算612,000円=1,229,840円(月額102,486円)

配偶者やまだ小さな子を抱えて収入が困りかねない時のために民間保険の死亡保険などがありますが、このように公的年金が支払われる事になると子が高校卒業までは心強いものですね。

誰もが貯金があるわけではないし、民間保険も十分ではなくても遺族年金を残せると家族はだいぶ助かります。

このような場合のために最低でも20歳から60歳までは国民年金に強制加入となっていますが、未納などには気をつけましょう。

※追記
中高齢寡婦加算は妻が65歳になるまで。65歳以降は妻自身の老齢基礎年金と老齢厚生年金と遺族厚生年金の受給となります。

ただし、妻の老齢厚生年金分が遺族厚生年金から差し引かれます。

例えば老齢基礎年金70万円+老齢厚生年金20万円であれば、遺族厚生年金617,840円ー老齢厚生年金20万円=417,840円が遺族厚生年金となる。
よって、65歳以降の年金総額は老齢の年金90万円+遺族厚年417,840円=1,317,840円となるという事です。(遺族年金生活者支援給付金は遺族基礎年金受給中のみ)

それでは本日はこの辺で!

image by: Shutterstock.com

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佐賀県出身。1979年生まれ。佐賀大学経済学部卒業。民間企業に勤務しながら、2009年社会保険労務士試験合格。
その翌年に民間企業を退職してから年金相談の現場にて年金相談員を経て統括者を務め、相談員の指導教育に携わってきました。
年金は国民全員に直結するテーマにもかかわらず、とても難解でわかりにくい制度のためその内容や仕組みを一般の方々が学ぶ機会や知る機会がなかなかありません。
私のメルマガの場合、よく事例や数字を多用します。
なぜなら年金の用語は非常に難しく、用語や条文を並べ立ててもイメージが掴みづらいからです。
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【著者】 年金アドバイザーhiroki 【発行周期】 不定期配信

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