母親が旧統一教会に対して行った高額な献金の返金を娘が求めるも、「教団に賠償を求めない」という念書の存在ゆえ1、2審ともに訴えが退けられていた裁判で、最高裁は7月11日、念書を無効とする判決を下しました。この判断について感嘆の声を上げたというのは、かつて自身も旧統一教会の信者だったジャーナリストの多田文明さん。多田さんはメルマガ『詐欺・悪質商法ジャーナリスト・多田文明が見てきた、口外禁止の「騙し、騙されの世界」』で、今回の判決が今後、旧統一教会の被害者たちに何をもたらすかについて詳しく解説しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:旧統一教会による被害救済が大きく前進する、念書無効の最高裁の判決は「すげえ」の一言 新紙幣詐欺への注意
旧統一教会による被害救済が大きく前進する、念書無効の最高裁の判決は「すげえ」の一言
7月11日、被害者家族中野容子さん(仮名)が旧統一教会に返金を求めて、上告した最高裁の判決がでました。「返還請求や不法行為を理由とする損害賠償請求など、裁判上・裁判外を含め、一切行わない」とする不起訴合意の念書は無効との判断がされて、これまでの教団の勝訴判決が高裁に差し戻されることになりました。
この判決は「すげえ!」という感嘆の一言です。
ここまで被害者の目線にたった、的確で踏み込んだ判決を出してくれるとは思いもよりませんでした。これにより、多くの被害を受けた方々が救済を受けれられることになると思います。
1.最高裁の素晴らしい判決が出るまで
事件の経緯です。
中野容子さん(仮名・60代女性)のお母さんは、信者時代に1億円以上の献金をしています。しかし教団により「返還請求や不法行為を理由とする損害賠償請求など、裁判上・裁判外を含め、一切行わない」との不起訴合意の念書を書かされて、その様子もビデオに撮られていたために、地裁、高裁では念書が有効との判断にて敗訴となりました。最高裁に上告して、念書は無効の判断がなされて、高裁への差し戻しとなります。
最高裁では、裁判において「1.不起訴合意の有効性、2.勧誘行為の違法性」の二つの論点をあげています。
今回は、念書の無効が示されただけではなく、2番目の「入退院を繰り返していた夫の財産が、旧統一教会主導のもと、信者である母親を通じて、献金されたことについても大事な判断がなされた」と、司法記者クラブの会見で木村壮弁護士は話しています。
「最高裁の方でどういう場合に(献金勧誘の)違法性が評価されるのかについて(2022年12月に成立した)不当寄付勧誘防止法の3条の配慮義務について触れた上で『寄附者が献金をするか否かについて、適切な判断をすることが困難な状態に陥ることがないようにすること』なども十分に配慮しなければいけない。これらの事情を踏まえて献金勧誘の違法性を判断することを示しています」
今回の中野さんのお母さんの1億円を超える献金についていえば「(最高裁は)それ自体が異例のものだと指摘した上で、被害を受けた女性の将来にわたる生活の維持に無視しがたい影響を及ぼすものだったことを認定しております。それを踏まえて、従前の地裁・高裁の判断を不十分であると評価して、東京高裁に差し戻す判断を示した」としています。
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2.救済の道が大きく開かれた判決となったとみる理由
今回の判決により「単に(霊界の恐怖で)脅されたというだけではなく、広くその人の自由な意思、合理的な判断ができないような困難になる状態に陥っているかどうかを考慮すべきことになる」と同弁護士は指摘します。
今までですと、被害者本人が受けた、霊界の恐怖や不安を煽った献金勧誘の一つ一つの行為を示しながら、違法性を裁判所に訴えて返金を求めてきましたが、その状況が一変することになります。
この判決が示されたことで「幅広く、どうして献金を出してしまったのかを考慮した上で、その人の自由な意思が抑圧されていないかも判断すべきと判じています。そういう意味ではいわゆるマインドコントロールのような状況下でお金を出してしまったことについても、被害を回復し得る可能性が高くなった」としています。
今回の判決でも、母親はすでに亡くなっており、念書を書かされた時には、認知症の症状は出始めていたと考えられており、どのようなことをいわれて長年、献金を出させられ続けたのかははっきりといえない状況です。そうした方でも、多角的にみて「当否を冷静に判断することが困難な状況にあった」となれば、返金されるということになります。
判決を傍聴した時には、被害をしっかり見てくれた判決という気持ちでしたが、弁護士らの会見を聞き、判決文を読めば読むほど、被害救済につながる深く意味のある最高裁判決であったと感じています。
3.最高裁判決を受けて改めて思う、高齢者への悪質な高額献金の実態
教団側が2012年に地区のトップの責任者を呼んで行った会議のなかで、内部資料として、コンプライアンス、クレイム対策(原文のまま)で特に重点とすべきこととして「功労者、高齢者食口に対して、信仰の証となるような文書を残す。献金が信仰に基づき任意になされたことを示す契約書を残す。その徹底化を」というものがあり、全国で数多くの信者たちが、信仰に基づく任意の献金であることを示す文書などを書かされていることが推認されます。
特に、認知症などで判断能力が衰えた高齢者に、念書を書かせる。中野さんのお母さんもおそらく教団側との受け答えに対しても、充分な答えができなかったと思われます。そうしたなかでビデオを撮っていたとすれば、悪質な手口の極みといえます。こうして集められたお金が神の国実現のために使われて、本当に神様や善なる霊たちは喜ぶのでしょうか。それはその人の「救い」と言えるものなのか。教団の信者らは自分の胸に手を当てて、考えてほしいと思います。
すでに全国で、不起訴合意の念書や合意書を書かされて、返金を諦めている人でも、念書が無効とされた最高裁の判決により救済の道が大きくひらかれました。被害者の方には、ぜひとも声をあげてほしいと思います。
● 法務省・霊感商法等対応ダイヤル(0120-005931)
4.教団は自らの首を絞める結果になっている
6月26日、全国統一教会被害対策弁護団は、旧統一教会への第8次集団交渉が行われましたことを発表しました。被害者20名、約7億円弱の請求となっており、これまでの合計は約53億3,778万円にも上っています。
今回の交渉では、宗教2世らが慰謝料(1,000万円)の請求を教団に行っていることは報道されていますが、交渉に参加した他の被害者の事例もご紹介しておきたいと思います。
阿部克臣弁護士は次のような悪質なケースをあげています。
1つ目が「子どもを亡くして悩んでいたところ、子どもが亡くなったのは先祖の家系に問題があるからだといわれて、先祖を供養すれば亡くなった子どもも浮かばれる。先祖の供養には家系図を作成する必要があると迫られて、夫の預金口座のお金から先祖供養のための献金をさせられた」(2018~2019年)
2つ目は「離婚後も長期間、自分の子供が会えていなかった。母親は施設に入所している。妹が重篤な障害を負っており、ご本人が追い込まれて精神的に苦しい状況のなかで、統一教会の人から必ず問題が解決できるといわれて、手持ちのお金をほぼ全てを献金させられました。ごく一部だけ、生活が苦しいということで返金を受けたんですけれども、その際、統一教会関係者に取り囲まれて強引に今後請求しないという合意書に署名させられた」(2022年の被害)
この2つは、ごく最近の事例ですので、高額献金の被害が、いかに最近まで行われていたかがわかります。しかも2つ目のケースでは教団から23年に合意書を取られています。
最高裁で念書無効の判断が示されたように、返金交渉をする権利を奪うような行動をすることは、逆に自らが行わせた献金行為がいかに悪質であったかを示す結果となります。念書、合意書を書かされた問題はさらに広がりを見せると思いますが、組織ぐるみの行為によって、教団は自らの首を絞める結果になっているといえます――(この記事はメルマガ『詐欺・悪質商法ジャーナリスト・多田文明が見てきた、口外禁止の「騙し、騙されの世界」』2024年7月14日号の一部抜粋です。続きは、ご登録の上お楽しみください、初月無料です)
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