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働きながら年金が貰える在職老齢年金が「停止される給与額」はいくら?

年金を受給しながら働ける在職老齢年金。しかし、その給与額によっては停止されることももちろんあります。今回のメルマガ『年金アドバイザーが教える!楽しく学ぶ公的年金講座』では、著者で年金アドバイザーのhirokiさんが、年金を貰いながらの働き方について詳しく語っています。

老齢厚生年金を貰いながら働くと年金が停止される場合がある在職老齢年金

1.働いたら年金を停止する制度はいつからあるの

厚生年金に加入して働くと年金(老齢厚生年金に限る。以下同じ)が停止されてしまう場合があるという事はよくありました。

そのため働いてもどうせ年金が下げられたら全体としての収入は思ったほど上がらないなあ…という事で、労働に対する意欲を阻害しているという指摘が随分前からありました。

年金を受給しつつも、働いて年金額を増やすというのは在職老齢年金と呼ばれますが、これは過去を辿ると年金の性質によります。

それは年金は引退した場合に支給するものという事です。(ちなみに本来の目的は定年退職後も同一制度に加入して年金を受給しながらさらに年金を増やす制度であります。停止するのが本来の目的ではないです)

そもそも年金受給者になったのにまだ働くのであれば年金は支給しませんでした。

ところが昭和40年改正になると65歳以上の人は8割は支給されるという在職老齢年金が始まりました。

当時は2割の国庫負担が厚生年金に投入されていたので、それを省いた残りを支給したという事ですね。

その後は昭和44年になると65歳未満の人にも標準報酬月額によっては2割、5割、8割の年金を支給するという形を作っていきました。

在職停止による停止幅はその後、改正のたびに縮小されていき、徐々にいくらかでも年金が貰える人が増えていきました。

現在は給与月額+過去12ヶ月以内に受給した賞与額を1ヶ月に換算したもの+年金月額の合計が、停止基準額が50万円以内であれば、停止される事は無くなっています。

停止額の計算が随分様変わりしています。

なお、令和6年現在は停止基準額が50万円でありますが、65歳未満は令和4年3月31日までは28万円だったので年金受給者の約半分は幾らかの停止額がかかっているというような状況でした。

そのため毎日のように停止がかかっている人がいたものです。

令和4年4月以降は65歳未満の人も、65歳以上の人と同じ停止基準額になったので余程給与が高い人でなければ年金停止には至らなくなりました。

そう簡単に停止されない仕組みとなったので、高齢者の人の労働が盛んな現代にとっては年金が停止される事を気にせずに好きなように働けるようになったといえます。

なお、高所得者の人は停止がかかる場合がありますが、年金の役割の一つに所得再分配機能があるので、十分な収入がある人は少し社会に還元してもらうという仕組みを残してもいいかもしれません。

一つ問題なのは在職老齢年金というのは給与所得という一つの所得に対して停止額を考えるものなので、給与が低くても資産が多い人もいます。

資産が多い人には停止額をかけられなかったり、もしくは低年金だからって年金生活者支援給付金を支給するというようなシステムは問題があると思います。

さて、今回は在職老齢年金に関しての記事を簡単に一つ考えてみましょう。

2.在職老齢年金事例

◯昭和33年2月2日生まれのA太さん(令和6年は66歳)

1度マスターしてしまうと便利!(令和6年版)何年生まれ→何歳かを瞬時に判断する方法。

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18歳年度末の翌月である昭和51年4月から平成5年8月までの209ヶ月は厚生年金に加入。この間の平均標準報酬月額は40万円とします。(20歳になるのは昭和53年2月なので平成5年8月までの187ヶ月が老齢基礎年金に反映)

退職し平成5年9月から平成7年6月までの22ヶ月間は退職特例免除(老齢基礎年金の3分の1に反映)。退職特例免除は退職した年の翌々年6月までの利用。一般の免除は世帯主、本人、配偶者の前年所得を審査対象としますが、本人は前年働いていたとすると前年所得は高い状態になり、免除が通りにくくなります。

よって、所得は本人の分は除いて世帯主と配偶者の分だけで審査します。

平成7年7月から平成15年3月までの93ヶ月間は国民年金保険料納付。

平成15年4月から65歳前月の令和5年1月までの238ヶ月間は厚生年金に加入。この間の平均標準報酬額は60万円とします。(平成15年4月から60歳前月までの平成30年1月までの178ヶ月間が老齢基礎年金に反映します)


さて、A太さんの生年月日によると厚生年金の受給開始年齢は原則として63歳からですが、そこは割愛して65歳からの年金総額を算出したいと思います。

年金記録をまとめます。

・厚生年金→209ヶ月+238ヶ月=447ヶ月(うち187ヶ月+178ヶ月=365ヶ月が基礎年金に反映)

・退職特例免除→22ヶ月

・国年納付済み→93ヶ月

◯老齢厚生年金(報酬比例部分)→40万円×7,125÷1000×209ヶ月+60万円×5,481÷1000×5,481×238ヶ月=595,650円+782,687円=1,378,337円(月額114,861円)

◯老齢厚生年金(差額加算)→1,701円(令和6年度定額単価。68歳までの人)×447ヶ月ー816,000円÷480ヶ月×365ヶ月=760,347円ー620,500円=139,847円

◯65歳時点で65歳未満の生計維持している配偶者がいると配偶者加給年金408,100円

◯老齢基礎年金→816,000円÷480ヶ月×(365ヶ月+93ヶ月+22ヶ月÷3)=816,000円÷480ヶ月×465,333ヶ月=791,066円

よって、年金総額は老齢厚生年金(報酬比例部分1,378,337円+差額加算139847円)+加給年金408,100円+老齢基礎年金791,066円=2,717,350円(月額226,445円)

3.65歳以降も低い給与で働く

さて、A太さんは65歳以降(令和5年2月)は30万円(標準報酬月額)で働いており、7月と12月にそれぞれ60万円の賞与を受け取っていました。
直近1年間にもらった賞与を月換算した額は10万円。

(標準報酬月額と賞与を1ヶ月換算した額の合計をそう報酬月額相当額と言います)

年金月額は報酬比例部分の114,861円のみを用います。

(9月に年金額を改定する在職定時改定は加味していません)

・停止額→{(総報酬月額相当額40万円+年金月額114,861円)ー停止基準額50万円}÷2=7,431円(年停止額89,172円)

よって、A太さんは令和6年現在の年金総額は老齢厚生年金(報酬比例部分1,378,337円ー在職による停止額89,172円+差額加算139,847円)+加給年金408,100円+老齢基礎年金791,066円=2,628,178円(月額219,014円)

なお、退職などで厚生年金資格を喪失した場合は停止額は無くなります。

在職老齢年金による停止で全額報酬比例部分(基金の代行部分含む)が停止した場合は加給年金も全額停止となります。

※追記
厚生年金は最大70歳まで加入できるので、70歳までは厚生年金記録を伸ばして年金総額を増やす事ができます。

70歳以降は厚生年金に加入する事ができないので、それ以降は停止額のみがかかる場合があります。

image by: Shutterstock.com

年金アドバイザーhirokiこの著者の記事一覧

佐賀県出身。1979年生まれ。佐賀大学経済学部卒業。民間企業に勤務しながら、2009年社会保険労務士試験合格。
その翌年に民間企業を退職してから年金相談の現場にて年金相談員を経て統括者を務め、相談員の指導教育に携わってきました。
年金は国民全員に直結するテーマにもかかわらず、とても難解でわかりにくい制度のためその内容や仕組みを一般の方々が学ぶ機会や知る機会がなかなかありません。
私のメルマガの場合、よく事例や数字を多用します。
なぜなら年金の用語は非常に難しく、用語や条文を並べ立ててもイメージが掴みづらいからです。
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【著者】 年金アドバイザーhiroki 【発行周期】 不定期配信

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