旧統一教会がジャーナリストや弁護士を相手に次々と起こしたスラップ訴訟。当サイトでも既報の通り教団側の「負け」が続いていますが、その流れが変わらないことはもちろん、彼らが「伏せておきたい事実」までもが明るみに出る事態になりうるようです。今回のメルマガ『詐欺・悪質商法ジャーナリスト・多田文明が見てきた、口外禁止の「騙し、騙されの世界」』では、かつて自身も旧統一教会の信者だったジャーナリストの多田文明さんが傍聴した、教団からスラップ訴訟を仕掛けられた有田芳生氏と紀藤正樹弁護士の裁判の様子を掲載。さらに先日掲載のこちらの記事では紹介できなかったという、最高裁による旧統一教会の「念書無効判決」に対して被害救済弁護団の弁護士が示した見解を記載しています。
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※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:旧統一教会が訴えた紀藤弁護士、有田さんの裁判の傍聴を通じて感じたこと 大規模詐欺グループ摘発の背景は?
旧統一教会が訴えた紀藤弁護士、有田さんの裁判の傍聴を通じて感じたこと
7月25日に高等裁判所にて、旧統一教会(世界平和統一家庭連合)が日本テレビと有田芳生さんを名誉棄損で訴えた事件の弁論が開かれましたが、1日で終結して、後日、判決が言い渡されることになりました。
すでに3月12日に東京地裁にて原告(旧統一教会)の訴えは棄却されており、有田訴訟弁護団の澤藤大河弁護士は法廷にて、旧統一教会側の控訴には「新たな事実や主張もなかった」として、第1回の法廷での結審を求めましたが、その通りになりました。地裁判決が維持されるのではないかと思います。
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1.スラップ訴訟は法を悪用した言論封殺との有田芳生さんの意見陳述での指摘
被控訴人である、有田芳生さんが意見陳述をしました。
1980年代に、旧統一教会は霊感商法などを批判した朝日新聞社に抗議電話を殺到させて、時に記者の自宅への明け方3~4時の嫌がらせの無言電話があったといいます。有田さん自身にも抗議電話だけでなく、脅迫状とカッターナイフの刃が入った封筒が送られてきたり、渋谷駅で左肩に信者にぶつかってこられたと話します。
当時はそうした組織的な暴力行為がなされていましたが、30年経った今は「裁判に訴えることで、私たちの言論を封じ込める手法に出てきた」と有田さんは指摘します。
「統一教会に訴えられた翌日から今に至るまで、テレビ出演は一切なく、民主主義の基盤を破壊するスラップ訴訟は法を悪用した言論封殺であり、断じて許されない」と訴えました。
裁判を傍聴していてもわかりますが、統一教会関係者は数人しかおらず、夏休みということもあって、親御さんが子どもを連れて見学する人たちの方が、教団関係者よりも圧倒的に多い状況です。ここには裁判で勝とうする気概はみられず、旧統一教会が裁判に関心を示していないことを表しています。まさにこの裁判は、有田さんの述べるように言論の萎縮をさせることを目的にしたスラップ訴訟の一端をみる思いがしました。
2.紀藤正樹弁護士とTBSラジオを訴えた裁判で、過去の伏せておきたいはずの暴力団が絡んだ事案を世に示すことになるのか
7月22日に旧統一教会が紀藤正樹弁護士とTBSラジオを訴えた裁判があり、傍聴してきました。
この事件では、令和4年9月9日放送の『生島ヒロシのおはよう一直線』での、紀藤正樹弁護士の次の発言をもとに訴えてきています。
親が旧統一教会を脱会させたいために「暴力団を頼んだっていう事件もありました」「その暴力団は、子供を脱会させるために親からもらったお金の一部を、統一教会に渡して、統一教会が偽装脱会させて子供を連れかえるわけです」「親から見ると、暴力団はよくやってくれたって、またお礼を出すわけです。けども結局それは偽装脱会で、暴力団と統一教会が儲かって3ヶ月ぐらいしたらその子供はまた統一教会に戻るんです。だから意味がないんですね」というものです。
偽装脱会とは、統一教会に反対する親へ「教団を辞めた」と嘘をついて、そのもとから離れて、教団に戻って信仰を続けるというものです。これは教団内ではごく当たり前に指示されて行われていたもので、私自身も信者時代に、アベル(教団の上司)に言われて偽装脱会をした経験があり、子どもを思う親を欺いたという辛い過去があります。
この件に関して、紀藤弁護士は、統一教会の側からの証拠だけを見ると「暴力団ってことは書いてない」としています。それゆえに「統一教会が依頼したのは暴力団という証拠を今回、出した」としています。統一教会と暴力団のつながりについての証拠・資料をもとに、今後どのような実態が法廷の場で明らかとなり、裁判所がどのように判断するのかが注目されます。
紀藤弁護士への名誉棄損の裁判を起こすことで、有田さんの裁判に続いて、教団側は過去の伏せておきたい事実を露呈することになるかもしれません。
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3.最高裁の念書無効の判決についての弁護士らの見解まとめ
念書無効と献金勧誘の違法性についての最高裁判所の判断について記事では紹介できなかった弁護士の見解をまとめておきます。
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木村壮弁護士は「献金勧誘の違法性について不当寄附勧誘防止法ができた際に配慮義務では足りないことを申し上げてきました。とはいえ、統一教会は意思の抑圧の仕方が非常に巧妙ですし、それを短時間で法律にするのが難しいなかで、知恵を絞って作っていただいたのが配慮義務です。これを最高裁が発展させてくれた」としています。
具体的には「不当寄附勧誘防止法の寄付者の自由な意思を抑圧し、寄付者が献金をするか否かについて適切な判断をすることが困難な状態に陥ることがないようにすること。この条文を参照しつつ、心理的な影響下にあったかも含めて、寄付者の属性や家庭環境、入信の経緯、宗教団体との関わり方、それらも含めて検討して違法性の有無を判断するべきを判示しているのは、今後の被害救済という意味では大きな意味がある」としています。
「従前の裁判例では、個々の出金行為について恐怖とか不安を煽るような言動があったかどうか。例えば10万円、100万円を出した場合もそれぞれどうなのかを問題にしてきました。これが立証できないと違法性が認められないとの判断がずっとされてきました」
「統一教会の被害は期間が長い、何回も支出させられると、逐一何を言われたかということを覚えていないケースも多いです。途中からは、心理的な支配期間であれば、あまり何も言わずにお金を出してしまう状態もあります。その被害が救済できるような判断方法を最高裁は示してくれました」
阿部克臣弁護士も同様に「ご本人が認知症になって後見人がついて請求している方、あまりにもいろいろな献金を長い間しすぎて、一つ一つの献金が何を誰から言われて思い出せない方、そういう方が大勢いらっしゃいます」
「そういう方について、今まで弁護士の立場からすれば当時の記憶がないと難しいと言わざるを得なかったところがあります。今回の最高裁の判例では必ずしも何を言われたかとか、献金の具体的な経緯だけではなくて、ご本人の属性や献金の額、家庭環境、教団との関係など、周辺の客観的な事情も考慮して違法性が認められうるということですので、ご本人から必ずしも被害が語られなくても、家族とか周辺の方が把握しうる情報で違法性が認められる余地が出てきた」と話します。
実は私も最高裁で傍聴しながら「そこまで言ってくれるのか!」と熱い思いを感じながら、ペンを走らせていましたが、この問題に長く携わってきた弁護士らの言葉からも、被害救済に大きな希望となる司法判断だったことがわかります。――(この記事はメルマガ『詐欺・悪質商法ジャーナリスト・多田文明が見てきた、口外禁止の「騙し、騙されの世界」』2024年7月28日号の一部抜粋です。続きは、ご登録の上お楽しみください、初月無料です)
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image by: Sun Myung Moon, CC BY-SA 4.0, ウィキメディア・コモンズ経由で