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内部通報した本人が自殺の異常事態。なぜ、斎藤元彦兵庫県知事を告発した元幹部の自死は防げなかったのか?

連日メディアで報じられている、斎藤元彦兵庫県知事のパワハラなどを巡る疑惑。内部告発を行った県職員が自殺と見られる死を遂げるなど、最悪の事態となったこともあり大きく注目されています。この件について論じているのは、健康社会学者の河合薫さん。河合さんはメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』で今回、問題の本質は「内部告発=公益通報」をされた側の知識のなさと法律の曖昧さに尽きると断言し、そう判断せざるを得ない日本社会の現状を批判的に記しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:弱い人の味方じゃない!?

プロフィール河合薫かわいかおる
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。

法律は弱い者の味方ではないのか。誰が兵庫県知事を告発した人物を殺したか

兵庫県の斎藤知事のパワハラの疑いなどを告発する文書をめぐり、すべての県庁職員を対象に行われたアンケートの中間報告が、正式に公表されました。

実施したのは県議会が設置した百条委員会です。対象はすべての県庁職員で、7月末に配布。8月5日までに寄せられた全体のおよそ47%にあたる、4,500人余りの回答の集計結果です。

本調査は「告発文書」で指摘された7項目の内容の真偽について、職員の認識や経験を問うた内容で構成されています。

具体的には…

  • 斎藤知事の命令を受けた副知事が、五百旗頭真理事長に対し、副理事長2人の解任を通告。その後、五百旗頭氏が急性大動脈解離で急逝。そこに至る経緯。
  • 21年7月の知事選で県職員が知事への投票依頼などの事前選挙運動等。
  • 知事による次回知事選に向けた投票依頼。
  • 贈答品などを知事が受領。
  • 県の職員らによる知事の政治資金パーティー券の大量購入依頼。
  • 阪神・オリックス優勝パレードにかかる信用金庫等からのキックバック。
  • 知事のパワハラ。

公表された66ページにのぼる報告書には、これらの「疑惑」について現場の声が丁寧に記されていました。それは現場の訴えであり、働く人たちの正義であり、組織の空気であり、あり方への疑問でした。

この問題については、兵庫県議と弁護士で構成する「準備会」が、真偽を調査する第三者機関を設置し、2025年3月上旬をメドに報告書を取りまとめることを決めたので、こちらの結果が出てから私見を述べたいと思っています。

一方で、メディアはパワハラやキックバック問題ばかりを報じていますが、問題の本質は「内部告発=公益通報」をされた側の知識のなさと、法律の曖昧さに尽きます。

ことの始まりは3月12日に、元県民局長だった男性職員が「斎藤元彦兵庫県知事の違法行為について」と題する告発文を一部報道機関に送付し、20日にその事実を知った斎藤知事が「犯人探し」を県幹部らとはじめたことです。翌日には「元幹部職員の関与の可能性」が浮上し、その後、元幹部職員の公用メールから文書が送られていたことを突き止めます。

ここまでで終われば、まだ救いはありました。が、なんと県側は元幹部職員を6回にもわたって聴取を行い、3月25日には元幹部職員のパソコンを押収したのです。

パソコンには告発文のデータが残されており、県側は27日、元幹部の定年退職(3月末予定)を取り消し、役職を解任します。

4月4日に元幹部職員は「公益通報制度」を利用して件の窓口に通報し、担当部署が手続きを開始。そして、7月、元幹部職員が亡くなるという、最悪の事態に発展しました。

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守ってもらえなかった「勇気を出して声をあげた通報者」

奇しくも今年2月、「組織の不正をストップ!従業員と企業を守る『内部通報制度』を活用しよう」という見出しの記事が、政府広報オンラインに掲載されました。

組織の不正をストップ!従業員と企業を守る「内部通報制度」を活用しよう

記事で一貫して主張していたのは「あなた(=通報者)を守る法律があるから大丈夫!あなたが不利な扱いを受けないように、ちゃんと国が決めてあるから安心して通報してね!」という、従業員や職員たちへの呼びかけでした。

しかし、「勇気を出して声をあげた通報者」は守ってもらえなかった。法律がある=守られる というわけじゃなかった。そもそも日本の内部通報制度には「通報した人を守る視点」、つまり告発者視点が著しく欠けているのに「法律があるから大丈夫!」という呼びかけは、いささか乱暴に思います。

内部通報した社員を守るために2006年に施行された「公益通報者保護法」の第3~5条には、内部告発を理由とした解雇、派遣労働契約の解除、その他の減給、降格といった不利な扱いを禁止すると書かれていますが、肝心要の罰則規定が明記されていません。

どんなに国が「あなた(=通報者)を守る法律があるから大丈夫!」と豪語したところで、「法の抜け穴」をかいくぐるのは可能です。「内部通報者に冷淡な国」と言っても過言ではないほど“その穴”は大きいのです。

例えば「匿名でもオッケー。いつでも通報してね」という制度が、組織にあっても密かに“犯人探し”をすることは可能ですし、実際には「ちゃんと調査してほしけりゃ、実名で通報してね」と、“圧”をかける組織は決して少なくありません。

「それでも言うしかない!これはおかしい!」と、心ある社員が勇気を出して実名で通報したところで、「当該行為は確認できなかった」などと否定し、通報者が自主的に辞めるような陰湿な手法を取ったりもします。

しかも、今回の兵庫県側の対応は「公益通報者保護法」を幹部が理解していなかったのではないか?と思えるようなものばかりです。

その結果、大切な命が奪われるのです。今回に限ったことではありません。これまでもあったし、今、この瞬間、勇気を出した人が苦しんでるかもしれないのです。

かたや世界に目を向けると、「内部通報者の保護を実質的なものにするための制度」が徹底されています。さまざまな角度から「内部通報者」が守られる仕組みが重層的に構築されている。

法律とは、弱い立場のものを守るためにある、と私は信じているのですが、残念ながら日本の法律は「大きいもの」「強きもの」の視点で作られているように
思えてなりません。「禁止」「罰金」などが法律に明記されるのを嫌う傾向があるのはいったいなぜ、なのでしょうか。

みなさまのご意見、お聞かせください。

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image by : X(@兵庫県知事 さいとう元彦

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