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欧米先進国の関わる「戦争」が不穏な空気をまき散らす中、穏やかな雰囲気を醸し出した“ロシア第8の都市”

今月21日から24日までロシア第8の都市・カザンで開かれたブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ、イラン、エジプト、アラブ首長国連邦、エチオピアの9か国から成る国際会議「BRICS」(ブリックス)。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では、多くの中国関連書籍を執筆している拓殖大学教授の富坂さんが、米国大統領選や中東戦争が激化する中、世界が「ある2カ国」を中心に動き始めている動向を紹介しています。なぜ、日本の大手メディアはこの動きを詳細に報じていないのでしょうか?

長引くロシア・ウクライナとパレスチナの制御不能状態で存在感を増すBRICSと中国外交

ロシアとウクライナの戦争も出口が見えない。戦況を見る限りウクライナの劣勢は明らかだが、欧米各国はウクライナのための「名誉ある停戦」に筋道を付けることもなく、犠牲者だけが増え続けている。

2つの戦いがヨーロッパの東と中東地域で泥沼化するなか、アメリカではドナルド・トランプとカマラ・ハリスの二人の大統領候補が熾烈な戦いを繰り広げ、世界の不安定化に拍車をかけている。

そうした欧米先進国の関わる紛争や対立が不穏な空気をまき散らしているなか、ロシア第8の都市・カザンに集った新興国とグローバル・サウスの面々の醸し出す雰囲気は対照的に穏やかだった。

BRICS第16回首脳会議である。

もちろんロシア・ウクライナ戦争の当事者であるロシアが主催する会議なので、単純に対比はできない。

だが、ロシア以外のBRICSの構成国は、中国にせよインドにせよ、ロシアの「侵攻」には、少なくともネガティブな態度を示してきた。

欧米各国、なかでもアメリカが中国をロシアの支援国と位置づけ、「独裁者連合」とのレッテル貼りに躍起になるのとは対照的に、グローバル・サウスの国々はBRICSへ対する信認をむしろ強めてきた。

今回はBRICSが9カ国に拡大した後に初めて開かれる首脳会議である。主催国・ロシアの発表によれば参加国は「合わせて36カ国で、うち22カ国が首脳級」というから影響力は甚大だ。

しかし、BRICS首脳会議の開催を報じた西側メディアの多くは「ウラジミール・プーチン大統領が欧米の制裁下でも孤立していないことを示す狙い」(米PBS)とか「プーチン大統領が国際社会における影響力を維持しようとしている」(オーストラリアABCテレビ)といった一面ばかりを強調していた。

確かにプーチンは、会議のテーマの一つとして「脱ドル決済」を掲げていて、実際に「BRICSペイ」なるツールが披露されるなど、対抗姿勢は随所ににおった。

ただ、それはあくまで米ロ対立の視点からの話であり、いまや新たに30数カ国がBRICSへの加盟の意思を示しているという世界の動きを説明するのには、甚だ不十分であるといえよう。

実際、インドネシアやタイ、マレーシア、サウジアラビアなど、加盟を希望する国の輪は広がっている。その理由は、これまでBRICSが新興国と発展途上国の協力と発展に寄与してきたからだ。

9年前に設立された新開発銀行は、これまで100以上のプロジェクトを承認し、総投資額は350億ドルにも達する。

9カ国に拡大したBRICSの存在感は、もはやG7を凌ぐ勢いだともいわれる。

人口は世界の総人口の45%を占め、面積は世界の30%。GDPの合計は約28%とされるが、購買力平価でみると世界のGDPに占める割合は32・1%(2023年)で、G7の29・9%を上回るのだ。

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ちなみにG7の人口の合計は世界の総人口の10%である。

こうした数字をみれば明らかだが、その中心にいるのは中国であり、インドだ。

今回のBRICSで大きな焦点となったのも、中国とインドであった。両国首脳が約5年ぶりというバイラテラルな首脳会談を行ったからである。

国境問題を抱える中国とインドは、2020年、インド北部のラダック地方で軍同士の衝突が起きて以降反目を続けてきた。だが今回、4年間続いた軍事的膠着状態を終わらせることで双方が合意。係争地でのパトロールに関する取り決めにも合意して緊張緩和に向けて動き出したのである。

中印は、これにより話し合いで国境紛争を解決できる力を世界に見せつけた形となったのだが、それ以上に興味深いのは両国が和解のプロセスに入ったことをBRICSに向けて調整してきた点だ

習近平国家主席は、会議での演説で「我々は『平和のBRICS』を構築し、共通の安全保障の維持者たる必要がある」と語ったが、インドとの和解は、この言葉に説得力を与えている。

中ロ関係も同様に「2つの大国の安定した関係は世界の安定に資する」という考え方だ。

世界平和への貢献にも積極的だ。

BRICSはすでに2023年11月、パレスチナ問題で首脳間の特別テレビ会議を開き、立場の協調を図っている。また2024年5月には中国とブラジルが「ウクライナ危機の政治解決のための共通認識」を発表している。

背後にあるのは、欧米式の「一方の悪を裁く」秩序ではなく、紛争や対立の不利益の強調だ。そのことは習近平が言及した「グローバル・サウス諸国の未来に対する共通のビジョンと核心的な要求」に集約されている。

曰く、「戦乱ではなく平和を、貧困ではなく発展を、閉鎖ではなく開放を、対抗ではなく協力を、分裂ではなく団結を、いじめではなく公平を」だ。

(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2024年10月27日号より一部抜粋。続きにご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をご登録ください)

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image by: Irzhanova Asel / shutterstock.com

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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