第二次石破政権が発足した11日、衆院選で躍進した国民民主党の玉木代表は不倫疑惑のかどでいきなり謝罪会見を開くはめになった。天国から地獄とはまさにこのことだろう。だがこの日、日本一不幸な男にみえた玉木氏よりも苦しい立場に追い込まれたのは、実は石破首相のほうだった。元全国紙社会部記者の新 恭氏が詳しく解説する。(メルマガ『国家権力&メディア一刀両断』より)
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:石破政権早くも瀬戸際。少数与党でトランプ氏に対処できるのか
玉木氏の不倫騒動が首相指名選挙を直撃
自公が少数与党になって、新たな連立相手も見つからず、どう国会を運営するのか危ぶまれるなか、第二次石破政権が11日、スタートした。
特別国会の開会を前にしたこの日の朝、国民民主党の玉木雄一郎代表は「報道関係者の方へ」として、以下のような「X」投稿をした。
今朝の週刊誌報道に関して記者会見を行います。急なご案内で大変恐縮ですが、宜しくお願い申し上げます。11月11日(月) 午前9:30~ 衆議院議員会館内
「103万円の壁」撤廃を求めて石破首相に挑む玉木代表。その出鼻をくじくかのように、週刊誌「SmartFlash」が直撃した。中身は元グラドルとの不倫疑惑だ。
玉木氏の失脚を狙った謀略、あるいは揺さぶりではないか。ネット上で、さっそくそんな声が上がる。むろん、根拠があるわけではない。あまりにもタイムリーだからだろう。もし謀略なら、仕掛けたのは誰か。自民党か、財務省か、それとも……。
玉木氏は同日午前9時半に緊急会見を開いて、雑誌に書かれた内容を「おおむね事実」と認め、その後に開催された党の両院議員総会で代表続投が決まった。記事が出ることを知っていた玉木氏は榛葉賀津也幹事長と前もって対応を打ち合わせていたはずである。とにかく謝る。徹底して謝る。
同党の伊藤孝恵参院議員はすぐさま次のような「X」投稿をした。
最低だ。国会が“対決より解決”の政策議論を取り戻せるかもしれない千載一遇のチャンスに何やってくれてんだよ。どうか皆さま「不道徳であっても政治家としてしっかり働いてくれればいい」とか「玉木も人間だったのね」等のコメントで玉木雄一郎を甘やかさないで下さい。
まるで母親のような叱咤激励。ここに、玉木スキャンダルに対する国民民主党議員たちのスタンスが凝縮されていると言っていいかもしれない。
要は、汚名返上のためにも「政治家としてしっかり働いてみせろ」ということだろう。国民注視の「103万円の壁」政策があり、その実現には玉木氏の存在が欠かせない。いかにしてスキャンダルを政治に転化させるかが、国民民主党にとっての勝負ポイントだ。
それにしても、玉木氏のわきの甘さには驚いた。早い段階で事実を認め、党の仲間に対してしかるべき行動をとったため、最悪の事態は回避されたかもしれない。ネットのコメント欄にも擁護する声が多い。それだけ政策実現への期待感が強いのだろう。だが、下手をしたら政治生命に関わるところだった。
それでも“玉木総理”による連立を望む声。与党勢力はわずか221票に
ともあれ、玉木氏は予定通り党の代表として本会議に出席し、首相指名選挙で党所属議員に「玉木」と書いてもらえる資格を確保した。
首相指名選挙の1回目投票。石破首相の得票は221票だった。衆院の会派である「自民党・無所属の会」に所属する議員が197人、公明党が24人なので、合計すればぴったり一致する。
一方、立憲民主党の野田佳彦代表は151票。うち立憲所属が149人で、あとの2人は無所属だ。日本維新の会38人、国民民主党28人、れいわ新選組9人、共産党8人、有志の会(野党系無所属)4人、参政党3人、日本保守党3人はそれぞれ自党会派の代表に投票した。
予想通り、誰も過半数に達しなかったため、上位2人、すなわち石破、野田両氏による決選投票となった。その結果は、石破氏221票、野田氏160票、無効84票だ。石破氏の票数は変らず、野田氏が9票増えた。そのうち8票は共産党だ。
無効票の84票は、維新、国民民主、れいわ、その他の党や会派がそれぞれ自分たちの代表の名前を書いたため無効になったものだ。
この結果からわかるのは、221票が現時点での与党勢力といえることだ。参政党や日本保守党といった右寄りの政党でさえ、「石破」とは書きたくないようだ。
ちなみに、保守界隈では石破政権を毛嫌いするあまり、玉木氏を総理にして連立を組むべしという意見さえチラホラ聞かれる。
与党は過半数の233に12票足りない。立憲と対立する法案を通すのに、国民とか維新の協力がなければどうにもならないことが、あらためて浮き彫りになった。
こんな国会情勢のもとで石破首相は、来年1月に米大統領に就任するドナルド・トランプ氏にうまく対処できるのだろうか。
トランプ対策の切り札はゴルフではなく「聖書」?
安倍元首相は、トランプ氏が2017年から21年まで米大統領だった時期、ゴルフを通じて良好な人間関係を築いたとされる。
しかし、そんな安倍元首相でもトランプ大統領から直接、強く求められて、F-35戦闘機、イージス・アショア、早期警戒レーダーシステムなど大量の兵器を購入させられたことは周知の通りだ。
むろん、日本の防衛力と日米同盟の強化が表向きの目的だが、中には無用の長物と思えるものもあった。なによりこのために政府は巨額の防衛費支出を余儀なくされた。トランプ大統領に、米軍産複合体を潤し、対日貿易赤字の是正をはかる思惑があったのは明らかだ。たとえ首脳どうし気が合うといっても、国際舞台で容赦はない。
石破首相に対しても、トランプ次期大統領が同じような要求をしてくるのはまず間違いないだろう。安倍元首相にならって安請け合いするようなら、大変なことになる。増税につながる防衛予算がさらに膨らみ、野党の反発が強まるのは必至だ。少数与党ではかつてのように予算案や関連法案を簡単に通せない。衆院の予算委員長ポストは立憲の手中にあり、安倍政権でしばしば見られた強行採決もできなくなった。
それでも、首脳どうし仲が良いに越したことはない。石破首相は学生時代にゴルフ部だったといわれるが、長い間ゴルフをしていないらしく、その方面で友好関係を築くのは難しそうだ。そもそも、マッチョなトランプ氏と、やんわりねちねち理屈をこねまわす石破氏は肌が合いそうにもない。
むろん、違う見方もある。元東京都知事、舛添要一氏。11月10日の「ABEMA的ニュースショー」に出演して、こう語った。
「石破さんはキリスト教徒でプロテスタントなんです。トランプさんと同じ宗派のプレスビテリアン、長老派に属している」「(トランプ氏と会う際は)私も長老派で同じ神様を信じていると言えばそれで全部終わる。行った途端にゴルフどころの話じゃないですよ」
キリスト教の同じ宗派であることがそれほど威力を発揮するものか。筆者にはわからない。舛添氏にしてはいささか短絡的な気はするが、それでも石破首相のアピールポイントが増えたことにはなる。
“打倒石破”に牙を研ぐ、萩生田・麻生・茂木・高市各氏
ただしなにより、石破政権がいつまでもつかが問題だ。
来年3月末に当初予算が成立するのを待って、自民党内から「石破おろし」の動きが出てくると予想する専門家は少なくない。石破首相が退陣すれば、トランプ氏との相性などどうでもよくなるではないか。
「石破おろし」を仕掛けるキーマンの一人とみられる萩生田光一氏は11月1日夜、インターネット番組「言論テレビ」に出演。櫻井よしこ氏の質問にこたえて、こう語った。
「間違った権力に立ち向かうには権力を持たないといけない。政策を遂行するにしても責任ある立場で行動するのは大事だ。これだけ同志が議席を失った。『俺は後ろの方で守っているから、みんな前に出ろよ』というわけにはいかない」
自分が前面に立って権力を奪い取りにいくと言っているのだ。萩生田氏は無所属で当選した後、自民会派に入ったものの、追加公認はされていない。石破執行部への恨み、苛立ちはかなりのものだろう。
「一度死にかけた。前面に出てやらないといけないこともたくさんあると思うようになった。残りの政治家人生がどれくらいか分からないが、最大限のパフォーマンスをしたい」
萩生田氏だけではない。トランプ氏が大統領選に勝利するケースを想定して渡米し首尾よくトランプ氏に会ってきた麻生太郎氏や、安倍・トランプ時代に日米貿易交渉を担当した茂木敏充氏ら、スキあらば石破首相を引きずり降ろそうと狙っている連中は党内にゴロゴロいる。
総選挙で同志議員を多数失い、一時の勢力はなくなった高市早苗氏にしても、初の女性宰相の座をあきらめてはいない。
早くも追い込まれた石破首相は“ザイム真理教”に勝てるのか
政権交代に本気になっていないバラバラ野党のおかげで、石破政権は予定通り再スタートを切ったが、野党、党内、米国からの要求にうまく対処するには、よほど天才的な参謀をかかえる必要がある。
短命政権と見たら、霞が関の官僚たちは首相の言うことでも聞きはしない。四面楚歌で身動きがとれない状況も覚悟すべきだろう。
まずは、財務省とその信者の壁を打ち砕いて「103万円の壁」撤廃を実現できるかどうか。それができなければ国民民主党の協力を得ることはできず、政権運営は早々に暗礁に乗りあげる。
そして当然のことながら、党内の反対を抑えて本気の政治資金改革を断行できるのかどうかも政権の命運を左右するだろう。すでに、石破首相は追い込まれている。
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image by: 自民党 – YouTube | 玉木雄一郎オフィシャルサイト