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債務膨張か低成長か。中国経済を悩ます“究極の選択”に習近平政権が「中央経済工作会議」で打ち出した“回答”は

12月11日から2日間に渡り北京で開かれた、2025年の経済運営方針を決める「中央経済工作会議」。中国における経済関連の最高レベルの会議で、今年はどのような決定がなされたのでしょうか。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では多くの中国関連書籍を執筆している拓殖大学教授の富坂さんが、同会議が打ち出した政策のポイントを整理し詳しく解説。さらに習近平政権が、これまでの「債務拡大に慎重な姿勢」から大きく方向転換した理由を考察しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:中央経済工作会議で中国はなにを発信したのか

従来の方針を切り替え。中国が「中央経済工作会議」で発信したこと

2025年の中国経済を占う中央経済工作会議が12日に閉幕した。米『ブルームバーグ』は翌日、早速その内容を「中国が25年に財政支出拡大の方針、消費喚起に軸足‐米追加関税の恐れ」というタイトル報じた。

これは11月末の党中央政治局会議で打ち出された方向を追認するもので、英『ロイター通信』はその中身を「アングル:中国、債務拡大しても景気対策強化へ トランプ関税に対抗」(12月11日)という記事で伝えた。

つまり財政規律に軸足を置いてきた従来の方針を切り替え、当面の景気拡大を優先することを政権が選んだということだ。

ちょうど1年前、『ロイター通信』は「アングル:中国経済、債務膨張か低成長か 迫られる究極の選択」(2023年12月25日)という記事で習近平政権の選択を問うている。

債務膨張か低成長か─。この究極の選択は中国経済に通底する悩みだ。

まずは中央経済工作会議が打ち出した政策のポイントを整理しておこう。

政策の方針は「財政政策」「金融政策」「不動産市場」「所得」「雇用」「消費」「保障」を七つの柱から成る。注目点は「財政政策」「金融政策」だ。前述したように、これらの方針は政治局会議での内容と重なるが、財政政策は従来の「積極的な」から「より積極的な」に変わり、金融政策は「安定的な」から「適度な金融緩和」へと変更され、長年続けてきた「積極的な財政政策と安定的な金融政策」からの転換は、見方によっては債務膨張より成長を選択したことを意味する。

中国が債務膨張に神経を尖らせてきたのは、2008年のリーマンショックから世界金融危機が世界中に広がるなか、中国が事業総額で4兆元(当時のレートで約76兆円)にも上る巨額の経済対策を行った後遺症に苦しめられたきたためである。

世界経済を深刻なダメージから救った中国の経済対策であったが、中国国内には長期の問題を残すこととなった。

不動産価格の異様な高騰や過剰投資、過剰生産、インフレなどで、最終的には地方政府の債務問題にもつながっていった。

胡錦涛時代からのツケを引き継いだ習近平政権は、2016年から明確に財政の立て直しに舵を切った。

また同時に不動産セクターに依存した経済成長から脱却も掲げ、その代替エンジンとして個人消費と高付加価値産業の育成で対応しようとしてきた。

そもそも中国経済にとって建設主導から消費主導の成長モデルへの切り替えは、長期的な課題でもあった。

不動産価格の高騰という問題は、若者が結婚前にマンションを購入する中国の習慣にとって政治的なリスクもはらんでいた。マンションが購入できなければ結婚できないとなれば、政権への風当たりが避けられないことに加え、少子高齢化、社会の活力の減退にもつながる問題として対処は不可避だった。

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中国を襲った習近平政権の見通しを狂わせる出来事

習近平の打ち出した政策変更により、銀行の不動産セクターへの貸し付けは厳しく制限され、不動産購入者への借り入れのハードルも引き上げられた。

その他さまざまな購入条件にも制限が加えられたことで、不動産価格の高騰は少しずつ落ち着気を見せていた。だが、その矢先に習近平政権の見通しを狂わせる出来事が中国を襲うのである。

新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)である。

不動産価格は、逆に人々に将来不安を引き起こすほどの勢いで下落した。

さらに水を差したのがコロナ禍の出口における戦略の遅れである。

2021年、いよいよポストコロナを人々が意識し始めると、中国国内には政府による大規模な景気対策を望む声が広がった。

しかし、習政権はこうした待望論に応えることはなく、相変わらず債務拡大に慎重な姿勢を貫いた。

コロナ禍のなかで達成された100年の事業、「脱貧困」が、再び逆流しないように力を注がなければならなかったことなど、事情はいろいろ指摘されるが、それでも全国人民代表大会や中央委員会総会などが行われる節目では、人々は景気対策を熱望し、その都度「今回も空振りだった」と失望の声を上げ続けてきたのだ。

この肩透かしが景気の足を引っ張ったのはいうまでもない。

コロナ禍では中国の貯蓄率は当然のこと高まった。その凍り付いた貯蓄がポストコロナでどっと流れ出すという当初のシナリオはここで狂ってしまうのだ。

中央経済工作会議は、人々が期待し続けた景気対策に、やっと政権が応えたという見方ができるだろう。

ブルームバーグが報じたように、トランプが大統領に返り咲くことで悪化が予想される貿易のダメージにも配慮した政策なのかもしれない。また規模などの点で物足りないとの指摘も一部にはある。

しかし習政権は一定の手応えを感じていることは間違いない。

というのも今春から随時打ち出された消費刺激策が、ある程度の効果を生んできたと考えられるからだ。

それが今回の中央経済工作会議にも表れている。消費の分野では「消費の振興と投資収益の向上に力を入れ」との表現が書き加えられているが、これは大規模な設備の更新と消費財の買い換えの政策(両新政策)が持続的に効果を上げるのにともない、消費市場は大きく回復・好転したと政権が考えていることの表れだ。

消費のけん引で政府が期待するキーワードは、この「両新」と並び「初発表経済」、ウインタースポーツを意味する「氷雪経済」、そして「シルバー経済」の三つだ。

買い替えについては以前のこのメルマガでも触れたが、EV(電気自動車)、家電ともに好調である。

債務問題は一旦横に置くことを決めた2025年の中国経済は本格的な回復期に入るのだろうか。

(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2024年12月15日号より。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をご登録ください)

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image by: 360b / Shutterstock.com

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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【著者】 富坂聰 【月額】 ¥990/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎週 日曜日

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