韓国の尹錫悦大統領が逮捕されました。このニュースは、世界中の話題となっていますが、北朝鮮の金正恩総書記はどのように見ているのでしょうか。今回のメルマガ『宮塚利雄の朝鮮半島ゼミ「中朝国境から朝鮮半島を管見する!」』では、韓国・北朝鮮情勢に詳しい宮塚コリア研究所の代表である宮塚利雄さんが、韓国の事態を見守る北朝鮮の心情を推測しています。
尹錫悦大統領の逮捕に困惑する金正恩総書記
韓国の尹錫悦大統領が2025年1月19日、現職として初めて逮捕された。
内乱の首謀と職権乱用の疑いがかけられているが、尹氏は取り調べを拒否するなど徹底的に対決する姿勢を崩していない。尹大統領は「内乱の首魁」として弾劾されているが、韓国の野党はこれに「外患の罪」を追加して、特別検事を任命して断罪するつもりのようだ。
野党の共に民主党が1月9日に再度発議した「内乱特別検察法」によれば、「尹政権の海外紛争地域への派兵、対北朝鮮拡声器稼働、対北朝鮮ビラ大幅拡大、無人機平壌侵入、北朝鮮汚物風船原点打撃、北方限界線(朝鮮半島西海の南北軍事境界線)における攻撃誘導などの容疑が対象」と言う。
しかし、これでは誰が見ても北朝鮮の金正恩総書記を代理して尹大統領を弾劾しようとしているしか思えない。
このような野党による尹大統領追放劇を見て、金正恩総書記は「よくやった」と言っているのではないかと考えそうだが、そうでもないようだ。
と言うのは、ソウル西部地裁で2025年1月18日に開かれた逮捕状の審査には尹大統領も出席し、周辺には多くの支持者らが集まっていた。
しかし、翌19日未明に逮捕状が出されると激高した支持者らが地裁の中になだれ込んだ。尹大統領を支持するユーチューバ─が撮影した映像によると、支持者らは「裁判官は出てこい」、「殺してやる」などと絶叫し、盾を持った警察の機動隊に突進し、奪った盾などを手に地裁の庁舎の窓ガラスなどを壊し始めた。
さらに支持者らは割った窓から庁舎内に乱入し、「大統領を守り抜くぞ」などと叫びながら、室内の物を次々と壊し、さらに男たちは階段を上がり、逮捕状を出した裁判官を探し出していた。
この記事の著者・宮塚利雄さんのメルマガ
この裁判官は逮捕状を出した後、そくさくと庁舎の裏口から逃避したと言うが、金正恩総書記がこれらの一連の動きの報告を受けたら、喜びどころか逆に驚きと、「そこまでやるのか」と空恐ろしくなったのではないか。
「モノ言えば唇寒し」で人民を恐怖と暴力で支配しているが、良民だと思っている無辜の民もいざとなれば金正恩体制に刃向かうかもしれないかと言うことを、この一連の動きに見取ったのではないか。
さらにここにきて尹大統領支持率は上がってきており、巷では尹大統領を礼賛する「替え歌」が話題と波紋を呼んでいる。この替え歌は尹大統領の警護を担う大統領警護庁音楽家の協力を得て制作し、尹大統領の誕生日に披露されたものである。また、尹大統領に対する行き過ぎた忠誠ぶりを示す事例でると、批判的にみられているほどだが。
「新しい大韓民国のために、天が私たちに送ってくださった大統領が生まれた意義深い今日を、私たちの皆が祝う」の歌詞だ。この替え歌は尹大統領の63歳の誕生日だった2023年12月18日に開かれた警護庁創設60年を祝うイベントで披露された。有名なミュージカルのメロディーなどに尹大統領を褒めたたえる歌詞が付けられ、事前い音楽家によって録音され、当日はこれに合わせて職員が合掌したという。
金正恩にとってみれば、尹大統領は韓国では「民族反逆者」として全国民から追放される人物と考えられているとされがちだ。
しかし、民主主義国家の韓国と共産主義独裁国家の北朝鮮とは市民の意識に大きな隔たりがある。今後も予想される尹大統領支持者たちの動向を金正恩はかたずを飲んでみているのではないか。
韓国の事態は北朝鮮の金正恩政権には「他山の石」ではなく、明日は我が身にもあり得ることと肝に銘じて、行く末を見守っているのではないか。
この記事の著者・宮塚利雄さんのメルマガ
image by: Heein Park / Shutterstock.com
[touorku]