インドで重度障がい者に向けた学びの提供についてセミナーを行った生きづらさを抱える人たちの支援に取り組むジャーナリストの引地達也さん。引地さんは、自身が発行するメルマガ『ジャーナリスティックなやさしい未来』の中で、インドの参加者が目が覚めたと語った内容について語っています。
インドで気づく「平和」「障がい」に向けての対話の熱量
インド南部のバンガロールはIT産業が集積し、急速に発展している都市だ。
沿岸の都市マンガロールから約10時間かけて夜行バスで到着した時に、見上げる高層ビルの上には「RAKUTEN」の看板、地方都市では見られなかったメルセデス・ベンツやBMW等の高級車を頻繁に見かけるようになる。
マンガロールでの学会行事が終了し、翌日のバンガロールでのセッションの日程から、空路は選べず、列車は確実に遅れるとの理由から、夜光バスを選択したのだが、このマンガロール発バンガロール行きのバスは一晩で千台もあるという。
1日でそんなに多くの人を吸い上げる都市の力は、「グローバルサウス」の人口増と経済力の拡大の一端か。
バンガロールに向かう人達とともにアクロバティックなゆりかごに叩きつけながら、他の人はどんな目的で向かうのだろうと考えながら、眠りにつき、朝を迎えた。
バンガロールにある聖ヨセフ大学はカトリック教イエズス会によって設立された。
ここでのセッションは、清泉女子大の松井ケティ特任教授が平和学について熱弁し、私が重度障がい者に向けたオンラインを通じた学びの提供について説明した。
特に毎週、ミュージシャンが出演して合奏などを楽しむ「音楽でつながろう」を紹介し、日本全国から重度障がい者を中心に50-70人が参加している実態を伝えた。
会場では同大学の理事長をはじめ、教授陣や大学院生が聴いていたが、学生からは次々と質問が寄せられた。
目に障がいのある学生からは「日本では障がい者の社会進出はどのように進められているのか」との質問。
また「障がい者との関わりでプレッシャーを受ける時はないのか、どのようにプレッシャーに対応しているのか」との支援の技術的な内容。
「音楽の講義ではインドからでも出演できるのか」との自らも関わりたいとの要望も寄せられた。
この記事の著者・引地達也さんのメルマガ
このセッション後、出席したインドの大学教授は、私が口にした「今日、みなさんにとって新しいコミュニケーションの世界があることに目覚めてほしい」との言葉を受けて、「本当に目覚めました」との反応を示してくれた。
発声してのコミュニケーションが難しい重度障がい者のコミュニケーションの方法と学びへの参加は刺激的な内容だったようだ。
重度障がい者が可能な体の動きからパソコンを操作し言葉に変えて、会話を成立する過程は時間を要する。
「こんにちは」は言葉で話せば1秒ほどだが、一つひとつの言葉を、カーソルを動かして入力して、それを音声に変えるのに、20秒はかかる。
しかし、それが当事者とのコミュニケーションのスピードであり、その時間を一緒に共有するマインドから、「学び」が始まるとの説明は、コミュニケーションを考える上で、新たな視点となったようだ。
セッション後、松井特任教授と話したのは、私達は同じことを話しているということだ。
平和に向けてどんな相手でも対話をすること、パレスチナとイスラエル等の困難な問題に直面しても対話をあきらめないこと。
そこには「情熱」が必要であることを強調した松井特任教授だが、私も学生の質問に応える中で、重度障がい者との対話にも「情熱」が必要であることを説いた。
それは相手を知りたいという気持ち、よりよいコミュニケーションを行うという倫理観も必須ではあるものの、向き合おうという姿勢が、その倫理観や先述の時間への適合などが備わってくる。
松井特任教授と共有した「平和に向けての対話」「障がい者の未来に向けての対話」について、今後、探求を深めていきたい。
そして、インドとの対話も今後、つなげていければと考えている。
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