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中島聡が中国製AI「DeepSeek-R1」に受けた衝撃と時代の大変化。私たちは「知的労働のコストがゼロになる」瞬間を目撃している

中国のAIスタートアップ企業「DeepSeek」が20日、米OpenAIの最新モデルo1に匹敵する「考える力」を持った人工知能「DeepSeek-R1」を公開した。これを実際に触り、「素晴らしいとしか言いようがありません」と絶賛するのは著名エンジニアの中島聡氏だ。同氏は「AIの進歩により、知的労働のコストが限りなくゼロに近づく現象がまさに今、私たちの目の前で起こっている」と指摘。米中のAI開発競争という文脈では“脅威”扱いされることが多いDeepSeekだが、いち技術者としては素直に評価せざるを得ない能力を秘めているようだ。(メルマガ『週刊 Life is beautiful』より)
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです

プロフィール中島聡なかじま・さとし
ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア、工学修士(早稲田大学)/MBA(ワシントン大学)。NTT通信研究所/マイクロソフト日本法人/マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。現在は neu.Pen LLCでiPhone/iPadアプリの開発。

【関連】中国企業「Deepseek」開発のAIに「尖閣列島はどの国の領土?」と聞いた結果…(中島聡)

中島聡が実際に触って感じた、中国製AI「DeepSeek-R1」の凄さ

先日紹介した、中国のDeepSeekが、今度はOpenAIのo1に匹敵する「考える力」を持った人工知能、DeepSeek-R1を発表しました。

各種のベンチマークで、o1と同等かそれ以上のスコアを上げています。

にも関わらず、APIのコストは、OpenAIの o1, o1-mini と比べて桁違いに安いのが特徴です。

オープンなはずのOpenAIが、パラメータ数も発表せずにクローズドな形でGPT4o、o1などの人工知能を発表しているに対して、中国のベンチャーが全てオープンな形で次々に優秀な人工知能を発表している点が、なんとも皮肉だと指摘する人もいます。

仕組みに関しても、DeepSeek-R1: Incentivizing Reasoning Capability in LLMs via Reinforcement Learning [PDF]という論文で詳しく紹介しており、AI業界全体に対する寄与もとても高く評価できます。

パソコンでも動くように小さくしたモデルもすでに公開されており、LM Studio や Ollama を使って簡単に試すことができます。私も、70Bモデルと32Bモデルの両方をOllamaを使って私のMacBook Pro(96GB メモリ)で試してみました。70Bモデルは少し遅いのですが、32Bモデルはとても快適に動きます。有名な「単語、Strawberryの中に”r”はいくつ入っているか」も問題なく解けます。

「考える力」を持ったo1をOpenAIが発表した時は、多くの人が驚くとともに、APIのコストがとても高くなることが懸念でしたが、わずか3ヶ月後に、それと匹敵するレベルのものがオープンソースでリリースされてしまったことは、素晴らしいとしか言いようがありません。

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私たちは「知的労働のコストがゼロになる」瞬間を目撃している

少し前に、このメルマガで「AIの進歩により、知的労働のコストが限りなくゼロに近づく」と言いましたが、まさにその現象が私たちの目の前で起こっているのです。

【関連】人工知能バブルの最大論点「AIネイティブ」なソフトウェアがオールドビジネスにもたらす破壊的イノベーションとは?(中島聡)

ちなみに、DeepSeekを作ったのは、High-Flyerという名の中国のヘッジファンドです。ヘッジファンドとは言え、設立したのは浙江大学(Zhejiang University)を卒業したエンジニアたちで、AIの力を使って株の取引をして利鞘を稼ぐことを目指して作られたそうです(設立は2019年)。

DeepSeekは、High-Flyerの子会社として2023年に設立されましたが、外部からは資金は調達しておらず、全ての運営資金はHigh-Flyerから提供されています。

High-Flyerは、2021年に1万台のNvidia A100 GPUから構成されるAIスーパーコンピュータを構築し、その上で動くAIで株の取引を目論んでいましたが、うまく行かなかったようです。経緯から考えると、その資産をDeepSeekで活用していると私は解釈しています。

DeepSeekは、2024年5月にDeepSeek-V2を発表しましたが、その際のAPIの価格設定が桁違いに安かったため、ByteDance、Tencent、Baidu、Alibabaなどのライバル企業は、価格を大幅に下げなければならなくなりました。

【追記】
この記事を書いている過程で、もう一つ、”Kimi k1.5“と名付けられた「考える力を持つLLM」が別の中国ベンチャーから発表されたことを知りました。DeepSeekのように完全なオープンソースではまだないようですが、しっかりとした論文、SCALING REINFORCEMENT LEARNING WITH LLMSも公開されています。

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時代の大変化を捉える「メタトレンド投資」とは何か?

先週、このメルマガで予約開始のアナウンスをした私の書籍『メタトレンド投資』ですが、数多くの予約をいただけたようで、アマゾンの書籍で総合2位まで一気に上がりました。ありがとうございます。

投資手法としては、主に、会社から発表される財務諸表から会社の価値を導き出した上で行う「ファンダメンタル」と呼ばれる手法と、株価の過去の動きから将来の動きを予想した「テクニカル」な手法の二種類が知られており、どちらに関しても、数多くの書物や記事が書かれているし、専門家もたくさんいます。

私の手法は、それらとは少し違い、「これからはスマートフォンが人々の生活にとってなくてなならないものになる」などの大きな時代の変化を捉えた上で、その変化を起こす立場にいる企業の株を10年以上の長期に渡って保有(=ガチホ)するスタイルです。

そんなスタイルのおかげで、TeslaNvidiaAppleNetflixなどの株を早い段階で入手し、大きな含み益を得ることができました。私が長年テクノロジー業界で働いてきたこともあり、他の人よりもいち早く「大きな変化」の兆しに気づくことができたおかげだと思います。

書籍には書きませんでしたが、「大きな変化」を見逃したケースもあります。典型的な例が、GLP-1系の痩せ薬ブームです。元々は、糖尿病の薬として作られたGLP-1系の薬が、実や「痩せ薬」としての効用を持つという話は、私も耳にしていましたが、それが持つ社会的なインパクトの大きさに気付いた時は、Novo NordiskやEli Lillyの株価は十分に高騰した後でした。身近に糖尿病の人や、肥満に悩む人がいれば、もう少し早く気付くことができたかも知れません。

この例を見ても分かる通り、「大きな変化の兆し」は誰にでも見えるものではなく、だからこそ、誰よりも早くそれに気付いた人には、大きなチャンスがあるのです。

私は、子供の頃から「理科系オタク」であり、新しいテクノロジーのことは、株のことなど抜きにして、勉強するのが大好きです。だからこそ、この分野で自然にアンテナを張ることができ、大きな流れのようなものを感じ取ることが可能です。

興味がある分野、得意な分野、消費者として自らが関わっている分野は、人それぞれ異なります。そのため、「見ている世界」がそれぞれ違うのは当然だし、目にとまる「大きな変化の兆し」も異なって当然です。

例えば、学校や会社の仲間と話している時に、Netflixの番組が話題になることが増え、自分もNetflixに加入しなければ「話題に参加できない」と感じたとすれば、その時に、Netflixの株価をチェックするような習慣を持って欲しいのです。

そんな視点からの「自分なりのメタトレンド投資」こそ価値があると私は思います。

(本記事は『週刊 Life is beautiful』2025年1月28日号を一部抜粋・再構成したものです。中島氏が米国政治の今を解説する「トランプ大統領の就任式」「Stargateプロジェクト」や、Google Deepmindの研究者が人間の脳の仕組みを参考に開発した新型LLMを紹介する「人間と同じ一時記憶を持つ人工知能」、投資アイデアから個人のキャリアプランまで15の質問に答える読者Q&Aコーナーなど全文(約2万5000字)はメルマガをご購読のうえお楽しみください。初月無料です)

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