止まらない円安によって“安すぎる国”になった日本。外国人観光客が全国各地にあふれかえり、オーバーツーリズムが深刻化するのにともない、国内で急激な格差拡大が進行していると指摘するのは、元読売テレビアナウンサー・ジャーナリストの辛坊治郎氏です。この値上げラッシュとインフレはまだ3合目、ここからさらに加速しそうとのこと。私たちの生活はどうなってしまうのでしょうか?(『辛坊治郎メールマガジン』より)
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:辛坊治郎メールマガジン 第731号 3月21日発行「インバウンド観光客」
居酒屋が1.5倍に値上げしたら、売上がそのまま1.5倍に
私の“知り合いの知り合い”が経営する居酒屋の値段が変更になりました。
今までは一品400円均一だったのですが、インバウンド観光客が多い場所で、どんぶり物が5000円前後するような場所の近くに店があり、「400円均一」が「安い」と、いつも行列が出来ている店なので、店主が思い切って「600円均一」に値段変更をしたのです。
結果、売上がシンプルに1.5倍になったそうです。
今までも入りきれずに行列が出来ていた店だったからか、売上はまったく減少せず、そもそも「一見さん」の観光客が中心の店ですから、前の値段からいきなり5割高になった事にすら気がつかない人が多く、逆に「他の店に比べてこの店安いよね」と感じるインバウンドを中心とする観光客のおかげで、今でも連日店の前には大行列ができています。
ドルに換算すると「600」円は4ドルです。1ドル100円時代の「400円」と値段が変わらない印象をインバウンド観光客は持つ訳ですね。
話を聞いていて、「このオヤジ、800円均一を狙ってるな」と直感しました。
「日本人客」ふうの外国人観光客が街に溢れている
同じような例は、東京で暮らしていると日常的にいくらでもあげられます。ちょっと前に上野駅から浅草まで歩いたのですが、途中に「カッパ橋道具屋筋」という、古くから厨房備品を商う店がたくさんある界隈を通過しました。大阪にも全く同じ位置づけで「千日前道具屋筋」というのがあります。
カッパ橋界隈を歩いていたのは日曜日の夕方6時前で、ほとんどの商店はシャッターを下ろしていたのですが、刃物を扱う数軒の店舗は煌々と明かりをつけて営業中でした。中を覗くと、入り口付近に模造刀剣が鹿の角の刀掛けの上に展示されています。
本物の伝統的な刃物屋さんの店頭に模造刀剣があるとは思えず、「インバウンド向け客寄せグッズ」としか思えません。
日曜日のこんな時間に客がいるのかと思って店の中に入ってびっくりです。
白人の外国人がレジで最高級の包丁を買っている最中で、店の中をそぞろ歩く中年女性のグループからは中国語が聞こえます。外から見ていて「日本人客」だと思った皆さんは、すべて外国語を話す人々でした。
値上げラッシュはまだ3合目。外国人に占領された「平日の日本」
その皆さんが次々売り場の商品を手に取ってレジに並ぶのです。道理で日曜日の夕方に店を開けておくわけです。
そこから一本裏道に入るとスナックが並んでいるのですが、この時間に空いている店は少数で、その少数の店からは英語のクラブミュージックがガンガン外に漏れています。
店内を覗くと、立ち飲みで踊る白人客で店内は立錐の余地もないほど混みあっていました。
さらに浅草方向に進むとインバウンド観光客の密度が濃くなっていき、浅草ビューホテルの前の道を渡って雷門に至る界隈の光景は、私が定点観測を続ける築地場外の状況と同じになります。
築地場外市場は現在、平日午後のインバウンド外国人比率はほぼ100パーセントです。週末の土日は日本各地からやってくる日本人観光客も増えて、比率が半々くらいになりますが、平日は日本人客の姿を見かけることはまずありません。
浅草はもう少し日本人観光客が多いようですが、大阪の黒門市場などは今、限りなく築地に近い状態です。その点、日本人観光客も多い京都あたりが、浅草の状況と似ているかもしれません。
ちなみに400円をいきなり600円に値上げしたオヤジさんの話では、「俺の感覚ではまだ、インバウンドの戻りは3割くらいだねえ。これからどんどん増えるよ」と言います。
正直私は「そんなに甘いもんじゃないだろう」と思いますが、為替が円高に触れない限りこの傾向は続くでしょう。
中国本土の団体旅行客が日本に押し寄せるのはこれから
中国本土はビザ関連の対日施策を緩和しつつありますが、本格的な団体旅行はいまだに解禁していないようです。
これから中国本土の団体旅行客が日本に押し寄せるようになると、相対的に他店より安い「600円均一」のような店が、ますますはやりそうです。
こうして、目端が利いて行動力のある人の懐にはとんでもないお金が転がりこむ一方、真面目に日本の企業に勤めるサラリーマンやOLさんは、昼ご飯を食べるお金に苦しみ、アメリカのディズニーランドどころか、日本のディズニーランドですら行くのをためらう状況になってしまいました。
まさに急激な格差拡大です。この状況は一部のインバウンドでにぎわう有名観光地だけの話ではなくなりつつあり――(『辛坊治郎メールマガジン』2025年3月21日号「インバウンド観光客」より一部抜粋。辛坊氏が値上げラッシュと止まらぬインフレについて語り尽くす、この続きはメルマガでご覧ください)
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- ※次号 第732号は3月28日発行予定です
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