週明け31日の東京株式市場は全面安。トランプ政権の自動車に対する関税引き上げなど世界経済の先行き不透明感から、日経平均株価は前週末比1502.77円安の3万5617.56円まで急落した。この動きをメルマガで事前に予測していたのは、ブーケ・ド・フルーレット代表で経済アナリストの馬渕治好氏。同氏によれば「3月半ばから短期的な戻りを試していた日米株価は、再度の下落局面に入った」可能性が高いという。(メルマガ『馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」』より)
※本記事のタイトル・見出し・図版等はMAG2NEWS編集部によるものです
プロフィール:馬渕治好(まぶち・はるよし)
ブーケ・ド・フルーレット代表、米国CFA協会認定証券アナリスト(CFA、Chartered Financial Analyst)。1977年東京教育大学(現:筑波大学)附属高等学校卒業、1981年東京大学理学部数学科卒業、1988年米国マサチューセッツ工科大学経営科学大学院(MIT Sloan School of Management)修士課程修了。1981年に(旧)日興証券入社。1986~88年は2年間休職し、米国留学。他の期間は、ほとんど調査関連諸部門を歴任。2004年8月~2008年12月は、日興コーディアル証券国際市場分析部長を務めた。2009年1月より、独立した形で経済・市場分析業務を行なっている。日本経済新聞夕刊のコラム「十字路」の執筆陣のひとり。テレビ・ラジオ出演多数。
日米株価は、3月中旬の一旦の底値「圏」形成を終え、次の安値を探りに行く展開に入った模様
まとめ
これまでの当メールマガジンでは、3月半ば辺りに日米株価は一旦底入れをし、そこから短期的な戻りを演じているものの、年央にかけて再度下落していくだろう、と述べてきました。実際、先週の途中から、そうした再度の下落局面に突入したように判断します。
詳細
これまで、当メールマガジンでは、短期的な日米株価のシナリオについて、3月半ばで株価は底値を「一旦は」形成した可能性が高く、何となく目先は戻りを演じよう、との見通しを示しました。同時に、そうした戻りは持続しにくく、再度株価は下落に転じ、次の底値形成に向かうだろう、とも述べました。
その再度の下落局面については、米国発の株価下落であり(日本株は米国発の悪材料に巻き込まれる形であり)、加えて企業収益対比では米国株は割高だが日本株は割高ではないので、米国株価の下落率の方が日本株より大きくなるだろう、という展望も語りました。
そうした展望に沿って、巻末の中長期シナリオでは、「今後のS&P500指数の安値は、3/13(木)につけたザラ場安値5504.65ポイントを下抜けることはありうるが、大きくは下抜けないと予想する」「日経平均がこれから下押ししても、3/11(火)のザラ場最安値35987.13円を割り込む公算は小さいと予想する」と書いています(今号では、その見通しを変えていません)。
S&P500が3月のザラ場安値を下抜ける公算は、足元でかなり高まっているように見込みますが、日経平均については、正直申せば3月の安値を下抜けないかどうか、だいぶ怪しくなってきた模様です。ただ、米国株価の下落率が日本の株価の下落率より大きくなるだろう(相対的に日本株の方が優位だろう)という見解は堅持します。
そうした日米の株価比較はともかく、一旦持ち直した日米株価が再度下落する、といった、予想していた展開が、先週の途中から始まった(株価が下落局面に入り始めた)ものと判断します。
株価が下落基調に突入したきっかけは、トランプ政権の自動車に対する関税引き上げの正式発表でしょう。米国市場の3/26(水)の引け前に、米政権が自動車及び自動車の基幹部品について、同日中に関税引き上げを公表する予定だと伝えられ、結局引け後に4/3(木)から原則25%の輸入関税を上乗せする旨が正式に発表されました。
「自動車の輸入関税を引き上げる、ということ自体は、以前からトランプ政権が示唆してきたことであり、なぜ今さら株価がそれを騒いで下げるのか」といぶかる人もいるかもしれません。
これは、市場参加者の間で、特に根拠なく、関税引き上げに関して何でもかんでも楽観方向に解釈して株高シナリオを唱えよう、といった向きが多かったため、そうした浮ついた観測が足をすくわれた、という面が大きいのでしょう。
たとえば3/24(月)にトランプ大統領は、4/2(水)に公表されるとみられる相互関税(他国が関税を課しているのであれば、米国も同製品に同率の関税をかける)について言及した際に、自動車への関税引き上げは「数日中」に公表すると述べました。
それを受けた一部の市場関係者は、「わざわざ相互関税とは切り離して数日中の公表、と大統領が表明したということは、相互関税の発表より自動車の関税の方が決定が遅くなるのだろう」と解釈したようです(政権内で、自動車の関税引き上げに反対している閣僚がいるので、調整中であり時間がかかりそうだ、との解説まで報じられていました)。
ところが実際には、自動車に関する関税引き上げは相互関税より早く公表されたため、楽観視していた向きがうろたえた、という状況でした。
日本国内では、自動車関税に関して「同盟国の日本まで関税引き上げの対象になるとは驚きだ!」と騒いでいる向きも多いようですが、驚いていることに驚きます。
こうした内外株価の暗転とそれに伴う外貨安・円高方向への反転といった世界市場の地合いでしたが、週を通じては、週央までの動きとそれ以降の動きが相殺する形となってしまい、週間の騰落率ランキングでは、あまり明確に相場付きが現れていません。(この項、後略)(次ページに続く)
【今週展望】米雇用統計が注目されようが、雇用の悪化は3月分というより4月分で本格化か
まとめ
今週は、毎月恒例の、米国の主要な経済統計の発表週に当たります。そのなかでも米雇用統計の発表が注目されるでしょうが、3月分の雇用統計に関税引き上げの影響が如実に表れる、というのは早すぎると判断します。
トランプ政権の関税引き上げについては、4/2(水)に公表される可能性がある相互関税が、具体的にどういう形になるかが、市場に波乱を引き起こしそうです。
今週の世界の株価は、引き続き関税引き上げの影響などについて、何となくの不安を抱きながらも、方向は下向きだと懸念します。
詳細
今週は、日米で経済統計の発表が注目されます。
日本では、3/31(月)に、2月の鉱工業生産が発表されます。1月分は前月比で1.1%減少しましたが、2月は既に公表されている輸出数量が回復していることから、同月の鉱工業生産も2.0%増加すると予想されています。
4/1(火)には、日銀短観が公表されます(後の「理解の種」の解説もご参照ください)。最も注目度が高い、大企業の業況判断DIについては、製造業が前回調査の14から12に悪化すると見込まれている一方、非製造業は相対的に堅調で前回調査の33から横ばいだと予想されています。
日本の株式市場においても、当面は米国での関税引き上げや米ドル安・円高など輸出製造業には逆風が多く、どちらかといえば内需株が選好されると見込みます。
米国のマクロ経済統計では、4/1(火)にISM製造業指数、4/2(水)にADP雇用統計、4/3(木)にISM非製造業指数、4/4(金)に雇用統計が発表予定です(以上はすべて3月分の統計)。
米株式市場などは、「ソフトデータ(心理を測るデータ)の悪化はもうわかった、今度はそれによってハードデータ(実際の経済活動を測るデータ)がどのくらい悪くなるかだ」という段階に入っていると推察されますので、今週の経済統計のなかでは、週末の雇用統計が最も注目されるでしょう。
非農業部門雇用者数前月比は、2月の15.1万人増から、3月は13.5万人増に、若干減速すると予想されています。ただ、公務員の解雇や関税引き上げの影響が雇用に如実に表れるには、3月はまだ早いと考えられるため、今週の雇用統計が米株価や米ドル相場を一気に動かす、という展開にはなりにくいと判断します。
また米国のさらなる関税引き上げ策については、トランプ大統領が「相互関税が4/2(水)に公表される」と語っていますが、これは4/2(水)から関税が実施されるということなのか、それとも実施はまだ先で当日は方針の発表だけなのか、不透明です。
また、相互関税については大統領は「寛大なものになる」とも述べたものの、具体的に何にどの程度の関税をかけるかは、予断を許しません。このため、相互関税の発表を受けて、市場が上にも下にも振れる可能性があります。
すると、内外株価や為替市場は、短期的に上下動しながらも、関税引き上げが経済に対する悪影響を反映して、基調としては株安・円高に向かう、という方向だと懸念します。(次ページに続く)
【中長期シナリオ結論】(2025/3/16時点)
(毎号最後に掲載します。変える必要がないと考えている間は、まったく変えません。)
1)「当面」(2025年央まで)の展望
米株価や米ドル相場は、トランプ関税の悪影響も含めた米経済の悪化を、実際の経済指標や米企業収益で確認し、年央までに再度下押しするものと懸念する。特に米国株は企業収益に対して買われ過ぎの様相が強い。
ただし米景気の悪化は、「〇〇危機」などと称されるような深刻なものにはなりがたいと見込む。仮に景気の状況が深刻化するのであれば、米連銀による利下げの積極化や量的緩和の再開など、金融面から打つ手はある。
このため、今後のS&P500指数の安値は、3/13(木)につけたザラ場安値5504.65ポイントを下抜けることはありうるが、大きくは下抜けないと予想する。
日経平均は、やはりいったん米株安や米ドル安に引きずられて、年央より前に下押しするだろう。ただし日本株の下落材料は米国発であり、日本株は企業収益対比で割高感は薄い。トランプ政権の失策により、グローバルな投資家が資金を米国株から他国株(日本や欧州など)に逃避させる動きも進むと判断する。このため、日経平均がこれから下押ししても、3/11(火)のザラ場最安値35987.13円を割り込む公算は小さいと予想する。
2)2025年末にかけての展望
2025年末にかけては、世界経済の持ち直しに沿って、世界株価や外貨相場(対円)は、強含み基調をたどろう。ただし地政学的リスク・世界政治リスクを含め、内外で不透明要因は多く、相場の「基調」はなだらかなものを見込む。たとえば日経平均の4万円超え「定着」は、2025年後半となるだろう。
なお、実際の市況は、こうしたなだらかな持ち直し基調の上下に、短期的に大きく振れ続けると予想する。
3)数年単位の展望
長期的にも、世界経済の拡大基調と世界株価の上昇を、予想する。
4)長期的な視点からの投資家への提言
投資家は、長期的な展望を抱いて、着実にリスク資産への投資を積み上げていくべきだろう。市況が下落すれば買う、下落しなくてもあきらめてある程度買う、逆に大きく市況が崩れても狼狽売りしない、という姿勢が望ましい(あくまでも市場の全体論であり、個別銘柄についての話ではない)。
これからも短期的な市況の変動は激しいと見込まれ、そうした市況の振れに投資方針を惑わされないことが肝要だ。
※本記事は有料メルマガ『馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」』2025年3月30日号の一部抜粋です。「米ドルの実効為替レートからみた世界的な資金の動き」や「日銀短観」に関する解説を含む全文は、初月無料のお試し購読ですぐにご覧いただけます。
この記事の著者・馬渕治好さんのメルマガ
image by: yoshi0511 / Shutterstock.com