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アーティストのベスト盤と同じ。「ほぼ日手帳 カズン」のユーザーだけが味わえたノートスペース読み返しという“いい気分”

2001年の年末に登場以来、多くのユーザーに支持され続けている「ほぼ日手帳」。数多くのラインナップが取り揃えられていますが、文筆家の倉下忠憲さんはその中の「カズン」を愛用していたと言います。今回のメルマガ『Weekly R-style Magazine ~読む・書く・考えるの探求~』では倉下さんが、そんな「ほぼ日カズン」が自身にとって何が優れていたのかを紹介。さらにデジタルノートをほぼ日手帳と同じように運用する方法を考察しています。
※本記事のタイトルはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:日ごとノートとほぼ日手帳

日ごとノートとほぼ日手帳

最近、Cosenseに日々のメモを書きつけています。

2025/3/27 | 倉下忠憲の発想工房

毎日大量のメモを──何の強制もないのに──書いていることからも、この方式が自分にフィットしていることがわかります。

そうした方式に出会えることは嬉しいのですが、問題も生じます。書かれたメモが多すぎるのです。

多すぎると、どうなるか?

処理が追いつかなくなります。書きっぱなしのメモが増えてしまうのです。

Cosenseではリンクを使うことが胆になるのですが、十全にリンクを作れないようになってしまうのです。

■ほぼ日手帳の思い出

そこで思い出すのがほぼ日手帳です。特に私は「カズン」という手帳を長らく使っていました。

A5サイズのカズンは、通常のほぼ日手帳よりも記入スペースに余裕があります。左側にタイムライン、右側にスペースというのがほぼ日手帳の標準フォーマットなのですが、カズンにはその下にも領域があり、私は「ノートスペース」として使っていました。

たとえば、その日読み終えた本があったらその本の感想を書く。その日観に行った映画があったらその感想を書く。何か特別なイベントがあったらそのことを書く。そんな感じで「その日」のノートスペースとして運用しており、それがすごく良かったのです。

たとえば、記入について。

新しい一日のページには必ずそのノートスペースがついています。すると「さて、今日はこの部分に何を書こうかな」という考えがトリガーされます。あらかじめ準備されているスペースが、書く行為を促すのです。形式が内容を呼び込む。

「さて、今日はこの部分に何を書こうかな→そういえば昨日あの本を読み終えていたな。それについて書こう」

そんな感じで、単に書いていたのではなく、「ノートを書く」という行為が促され、その内容を探索することが行われていました。

もちろん、すべての日のノートが埋められるわけではなく、空いた部分もありました。逆に、一日に二冊読了してそれぞれについて感想を書きたくることもありました。そうしたときは、“近所”の空いているノートスペースを探して、そこに記述するわけです。「その日」のノートスペースという運用は崩れているわけですが、そういうことができるのがアナログツールのよいところです。

なんにせよ、あらかじめ割り当てられたスペースがあることで、それを埋めるための内容を探すことがナチュラルに行われていた点は注目に値するでしょう。

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■読み返し

記述だけでなく、読み返しにおいてもカズンの形式は役立っていました。

まず「日付とノート」がセットになっています。ある一日の「行動」を振り返ったときに、その日の「ノート」も一緒に目に入ります。ノート部分はその日の行動を掘り下げたものあれば、前日に読んだ本の感想を書いていることもあり、微妙な関連性にとどまっています。ぜんぜん無関係とも言えないが、密接に関係しているとも言えない、という距離感です。

そのような微妙な関係の記述が行動の振り返りのときに、たまたま目に入ってくるのです。そこには心地よいセレンディピティがあります。

それだけではありません。ノートスペースは(当然のように)どのページでも下部に位置しているので、ノート部分だけを読み返していくこともできます。つまり、日付+行動は無視して、自分の感想や考えたことだけをぱらぱらと閲覧できるのです。

そのような使い方をした場合、トランジッション・ノート術とまったく同じ構成になるでしょう(いま気がつきました)。

飽きっぽい人のための「トランジッション・ノート術」|倉下忠憲

連続性や整合性は気にせずに、とにかくそのときに「ノート」に書きたくなったことを書く。そういう運用をずっと前からやってきたのでした。

しかもそれが日付+行動という(いわゆる)セルフマネジメント情報とセットになっていることで、“実用性”が感じられないものでもちゃんと維持できるメリットがあります。つまり、日付+行動側で実用性が担保されているので、ノート部分もそこに引っ張られる形で続けていけるのです。

考えてみると、これはけっこうすごいことです。

■大きいは正義?

当然のように、いくらA5サイズのカズンと言えど、書き込める行動の量には限界がありますし、そもそもノートスペースは一日に一つで、しかもA5サイズの半分以下の領域しかありません。複数の対象について書くなら別の日付のスペースを“間借り”する必要がありますし、思ったことをすべて書くこともできません。

その点デジタルノートなら、紙面サイズの制限を気にする必要はいっさいありません。好きな数の対象について、好きなだけ書いていくことができます。

その結果、生じるのが「多すぎる記述は、処理が間に合わない」という事態なのでした。

ほぼ日手帳を使っていたときは「もっと書き込むスペースがあったら便利なのにな」とイノセントに考えていました。つまり、通常のほぼ日手帳とカズンでは、カズンの方が記入できる量が多く、ノートスペースがついていて、それによって feel so good になっているのだから、もっと記入できる量が増えたら、さらに feel so good になると考えていたのです。

しかし、事はそう単純ではありません。

記述できる対象が限られていたことで、「その日」を代表するようなことをノートに書いていました。つまり、目にしたものをすべてについて記述したのではなく、「これ!」というものを選んでいたのでした。だからこそ、そのノート部分だけを読み返したときに、いい気分が味わえたのです。アーティストのベスト盤のようなものですね。

もしいくらでも記述できるならそうした選別は行われません。そうすると、その読み返しはアーティストのアルバムを一曲も飛ばさず聴いていく、みたいなことになります。もちろん、時間があるときならそれも楽しめますが、日々のちょっとした空き時間に可能な行為ではないでしょう。

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■デジタルと紙面

また、いくらでも書けるデジタルには──通常は──「紙面」という考え方がありません。言い換えれば、固定されたフォーマットはなく、自由に次々と追記できるようになっています。

そうすると、読み返すときに長々とスクロールしていく必要があります。しかも、どのくらいの長さをスクロールしなければならないのか事前にはわかりません。人間の脳は常に「シミュレーション」しているわけですが、固定された紙面では安定的になるシミュレーションが、スクロールだとかなり不安定になってくるのです。これは行動を阻害する要因になりえます。

また、特定の箇所だけを拾いながら読み返すことも難しくなります。そもそも特定の場所に機能を割り当てることがほとんどできません。それこそExcelなどをノートツールとして使っていかないと難しいでしょう(それはそれで面白いアイデアですが)。

結果的に、書くときに自由に気楽に好きなだけ書けることは、読み返すときの困難さを肥大化させていきます。

■対策は?

では、どうしたらいいのでしょうか。

一番手っ取り早いのは「読み返しを破棄する」です。読み返しにくいのだったら読み返さなくてもいい。検索で見つかればいい。超合理主義的態度です。これも別に悪くはないでしょう。デジタルツールに自分の主義を寄せていけば必然的にこうなります。

なので──私は「必然的にこうなる」に対して天の邪鬼な態度を取りたい性質があるので──、今回は別の方策を考えましょう。

デジタルでの記入において、読み返しの機能性を担保するにはどうすればいいか?

一つには「入力を制限する」があるでしょう。ツイッターの140字制限と同じで、日ごとノートを書くときに、紙面サイズを固定するのです。具体的には作成する行数の上限を決めておく。そうすれば、脳のシミュレーションは安定します。

一方でそれはデジタルの力を弱める方策でもあるでしょう。「だったらデジタルツールを使う意味ないんじゃない?」と私の心の声がささやきかけてきます。

となると次策は切り出しです。とにかく自由奔放に書くだけ書いて、その後に特定の幅に収まるように細々したものを切り出していく。そうすれば、紙面サイズを一定の幅に抑えつつ、十全な記述量が確保できます。

実にすばらしい!

と思うわけですが、まさにそれができない、というのが起点の問題でした。つまり、たくさん書いてしまうと、その切り出し処理が追いつかなくなるのです。The 袋小路。

もちろん、細かく(あるいは丁寧に)切り出そうとするから時間がかかるのであって、雑多なものを適当に書き出すのであればそう手間はかかりません。たとえば不要そうなものを一気に「未整理」みたいな項目に移し替えるなら簡単です。

しかし、その作業には何やら本末転倒感があります。「重要なもの」を切り出すのは行為と意義が合っています。重要なものだから手間をかける価値がある。自然な流れでしょう。一方で「重要でないもの」を切り出すのはなんだか不自然です。だったらはじめから書かなきゃいいじゃん感がどうしても出てきます。

自分の認知と行為を合わせるためにも、できるだけ「重要なもの」対して操作を行い、「重要でないもの」は何も操作しない、という形に持っていけるのがよさそうです。

しかし、なかなかそれが難しいのです。

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■ツールによる補佐

一つ希望があるとすれば、Cosenseのinfobox機能です。詳しい解説は避けますが、この機能を使えばいい感じに各ページから情報を抽出してくれます。以下がその実際例です。

ロギング日報 | 倉下忠憲の発想工房

このようにデータベースで整えることで、フォーマットの安定性や要約・抜粋による表示量の抑制が可能です。でも、それ以上にそれぞれのページにinfoboxが表示される点がポイントになるかもしれません。

https://i.gyazo.com/66614f729f2b0bb982f65a37feef7127.png

infoboxに割り当てられたページはページの右に小さなウィンドウが表示され、そこに情報が表示されます(だからinfoboxなのです)。このウィンドウはスクロールに関係なく固定表示されて います。言い換えれば「常にその場所にある」のです。脳のシミュレーションは安定しそうですね。当然、この部分だけを閲覧していく、というやり方も可能でしょう。

なんにせよ、思う存分入力していくけども、見返しは一定の「コスト内」で行えるようになっていることがデジタルノートでは重要になりそうです。

ただしその環境整備のためにも「コスト」がかかることを見逃してはいけません。場合によっては、読み返しを破棄すること、つまりメモが活用できていなくてもしゃーないとする姿勢も大切になってきます。

(メルマガ『Weekly R-style Magazine ~読む・書く・考えるの探求~』2025年3月31日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をご登録上、3月分のバックナンバーをお求め下さい)

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image by: Shutterstock.com

倉下忠憲この著者の記事一覧

1980年生まれ。関西在住。ブロガー&文筆業。コンビニアドバイザー。2010年8月『Evernote「超」仕事術』執筆。2011年2月『Evernote「超」知的生産術』執筆。2011年5月『Facebook×Twitterで実践するセルフブランディング』執筆。2011年9月『クラウド時代のハイブリッド手帳術』執筆。2012年3月『シゴタノ!手帳術』執筆。2012年6月『Evernoteとアナログノートによる ハイブリッド発想術』執筆。2013年3月『ソーシャル時代のハイブリッド読書術』執筆。2013年12月『KDPではじめる セルフパブリッシング』執筆。2014年4月『BizArts』執筆。2014年5月『アリスの物語』執筆。2016年2月『ズボラな僕がEvernoteで情報の片付け達人になった理由』執筆。

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【著者】 倉下忠憲 【月額】 ¥733/月(税込) 初月無料! 【発行周期】 毎週 月曜日 発行予定

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