28日午後、いよいよトランプ大統領との初首脳会談に臨む高市首相。個性が強すぎるトランプ氏と良好な関係を築くため、新首相はこの会談でどのような点に注意を払うべきなのでしょうか。今回のメルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』では国際関係アナリストの北野幸伯さんが、「トランプ流外交」を熟知した立場から、高市首相が信頼関係を築くための具体的な作法を考察。その上で、安倍元首相の対米関係を手本としつつ、「褒めて反論を控える」姿勢がいかに国益を守る鍵となるかを論じています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:高市総理へ、トランプさんとうまくつきあう方法
「サナエは俺の功績をよく理解している」と歓喜させる。高市首相がトランプとの会談で守るべき「鉄則」
トランプさんが10月27~29日に訪日するそうです。高市さん、総理として最初に会う外国首脳は、同盟国アメリカ合衆国のトランプさん。
皆さんご存知のように、トランプさんは、とてもユニークな大統領です。一般的には、「わけがわからない人」と思われている。
とはいえ、トランプさんは2017~2021年大統領でした。現在は二期目。それで、「十分情報はある」といえるでしょう。
今回は、「高市さんがトランプさんとうまくつきあう方法」について書いていきます。
1.褒めまくること
この世の中に、トランプさんほど「自分を褒める人」はいないでしょう。とてもわかりやすいナルシストです。
そんなトランプさんは、「褒められること」が大好きです。たとえば、イスラエルのネタニヤフ首相、アゼルバイジャンのアリエフ大統領、アルメニアのパシニャン首相は、「トランプ大統領にノーベル平和賞が与えられるべきだ!」
と主張しています。しかも、この三国の首脳は、面と向かってトランプさんにそのことをいいました。
繰り返しますが、トランプさんは、「褒められること」が大好きなのです。褒められたら誰でもうれしいですが、トランプさんは、特に顕著です。
高市さんは、トランプさんの何を褒めればいいのでしょうか?
トランプ・アメリカは5月、インドとパキスタン紛争の仲介をして、停戦に導きました。また、トランプ・アメリカは6月、イランの核施設を攻撃しました。その後、イスラエルとイランは、アッという間に停戦した。これは、トランプさんの「力による平和」の実例です。
またトランプさんの仲介で8月、アゼルバイジャンのアリエフ大統領とアルメニアのパシニャン首相が、和平に関する合意文書に署名しました。両国は、いわゆる「ナゴルノカラバフ問題」で30年争っていた不倶戴天の敵。しかし、トランプの仲介で、「友達」になった。
またトランプ・アメリカは10月、イスラエルvsハマスの停戦を実現。停戦が永続するとは思えませんが、少なくともハマスは人質を解放しました。イスラエル国民は、「トランプさんありがとう!」と感謝し、ネタニヤフさんには感謝していないようです。
というわけで、トランプさんはこれまで、さまざまな国々の紛争と関わり、停戦を実現してきました。高市さんは、これらの事実をよく知って、「トランプ大統領のおかげで、世界はより平和になっている。心から感謝申し上げます」というべきです。トランプさんは、「おお、サナエは俺の功績をよく理解してくれている」と大いに喜ぶでしょう。
トランプが「大嫌いなこと」と「大好きだった首脳」
2.反論しないこと
トランプさんは、「褒められること」が大好き。その一方で、「反論されること」が大嫌いです。
現在アメリカでは、大規模な反トランプデモが起きています。デモ参加者は、「王(トランプ)はいらない!」をスローガンに掲げている。これに対してトランプさんは、彼自身が戦闘機を操縦し、デモ隊に汚物を投下する動画を投稿しました。
● トランプ大統領“王冠かぶりデモ参加者を嘲笑” 反トランプデモにAI動画で反撃(2025年10月22日)
トランプは、反対する人たちとは、徹底的に戦うのです。
このことを知らなかったのがゼレンスキーです。ゼレンスキーは2月28日、トランプさんとバンスさんの前で、プーチンを非難した。「王」である自分に堂々と反論したゼレンスキーをトランプは許さず、大いに罵倒しました。
思い出してみよう。
● トランプ氏とゼレンスキー氏 激しい口論に 会談は決裂(2025年3月1日)
トランプさんとのつきあいは、誰もが「難しい」と感じるでしょう。しかし、ゼレンスキーも欧州の首脳たちも、二つの法則を理解するようになりました。それで、最近は、うまくつきあえるようになっています。
「二つの法則」とは。
- トランプさんをほめてほめてほめまくれ!
- 決して反論するな!
です。
では、世界はトランプさんの「言いなり」になるしかないのでしょうか?そうではありません。ほめてほめてほめまくり、トランプさんのいうことを一言も反論せずに、うなずきながら聞き続ける。その後に、「言いたいことをいえる機会」がめぐってくるのです。順番を間違えないようにすることが大事です。
3.安倍元総理の話をしよう!
高市さんとトランプさんの共通点は、「安倍さん」です。
トランプさんは、世界の首脳の中で安倍さんが一番好きでした。いまだに時々、「シンゾーは偉大だった」といっています。
高市さんは、トランプさんに、「トランプ大統領にお会いできるのを楽しみにしていました。トランプ大統領のことは、安倍総理からよく聞いていました。安倍総理は、トランプ大統領のことを心から愛し、尊敬していました。そして、安倍総理は、トランプ大統領との関係、アメリカとの関係を本当に大切にしていました。残念ながら安倍総理は亡くなられましたが、私が、師である安倍総理の意志を引き継ぎ、トランプ大統領、アメリカと最良の関係を築いていくことをお約束します」
などといえばいいでしょう。
「米国を味方につける」という最も安上がりで最強の安保政策
4.日本は、「アメリカの味方である」と明言すること
2018年から、世界では「米中覇権戦争の時代」がつづいています。そして、アメリカは「劣勢」といえるでしょう。なぜ?
中国はレアアース生産世界一。それで、アメリカは、中国に強い措置が取れなくなっています。
4月にトランプさんは、対中関税を145%まで引き上げると宣言しました。ところが5月、トランプ・アメリカは、対中関税を115%引き下げました。なぜ???
中国がレアアースの輸出規制を開始したからです。それで、アメリカのアキレス腱は「レアアース」であることがわかってしまった。
世界は2009年、「米中二極時代」に入りました。既述のように2018年から「米中覇権戦争時代」がつづいている。そして、世界の国々は、「アメリカと中国どっちにつくのがお得かな?」と迷っている。
「グリーンランドを買う!」
「カナダはアメリカの51番目の州になれ!」
「パナマ運河を取り返す!」
「ガザ地区はアメリカが領有し、リゾートにする!」
これらのトランプ発言や相互関税によって、アメリカの求心力は衰えています。こんな時こそ高市さんは、「米中覇権戦争において、日本はアメリカの味方です!」とはっきり伝えましょう。
ちなみに、トランプさんは30日、韓国で習近平と会談する予定です。その前に、「日本は、アメリカの味方である」と再確認することは、トランプさんに勇気と力を与えるでしょう。
まとめます。高市総理は、トランプさんと会う際
- ほめてほめてほめまくる
- 反論しない
- 提案は、トランプさんの主張を反論せずに聞き終わった後、穏やかにする
- 安倍総理がトランプさんを心から愛し、尊敬していたことを伝える
- 高市日本は、「米中覇権戦争において、日本はアメリカの味方である」ことをはっきり伝える
これで、高市さんは、トランプさんの親友になれるでしょう。
日本の首相が世界最強国家アメリカの大統領と仲がいい。これは、もっとも安上がりで、最強の安全保障政策です。もちろん、「トランプ外圧」を利用して防衛費を増やし、「軍事の自立」にむかっていくことも大事ですが。
高市総理。トランプさんとの会談を大成功させてください。それが日本の国益です。一国民として、成功を心から祈願しています。
(無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』2025年10月25日号より一部抜粋)
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