日本維新の会が自民党と連立を組むにあたり、強いこだわりを見せた議員定数の削減。事実、自維政権は今国会に「衆院議員定数削減法案」を提出しましたが、会期末を目前に審議すら進まない膠着状態にあります。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では元全国紙社会部記者の新 恭さんが、与野党の思惑が複雑に錯綜する定数削減法案の実像を詳細に検証。その上で、自維両党の力関係が今後どのように変動し得るのかを考察しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:定数削減法案は時間切れか。またも古狸・自民に化かされる維新
「古狸」自民に化かされるか。時間切れ必至の維新がこだわる定数削減法案
「1割を目標に衆院議員定数を削減するため、25年臨時国会において議員立法案を提出し、成立を目指す」
この連立政権合意書に基づき、自民党と日本維新の会は議員立法による衆院議員定数削減法案を12月5日に提出した。
現行の定数(465)の1割に当たる45議席以上を削減することとして具体的な方法を与野党で協議し、1年以内に結論が出ない場合は、自動的に小選挙区で25人、比例代表で20人の削減が確定するというのが法案の内容だ。
すなわち、この法案が成立さえすれば、放っておいても、衆院の45議席削減が実現することになる。議員各氏にとっては、身分にかかわることだけに一大事である。
だがそのわりには、今のところ、国会が大騒ぎになっている様子はない。国庫から大枚の歳費や諸経費を支出せねばならない国会議員の数が減ることに、世間ではどちらかといえば賛成の声が多い。あまり先走って批判し反発を食らいたくないのが各政党の本音だろう。だが、それだけではない。
今国会の会期末が17日に迫っている。審議日程が立て込んでいるうえ与野党の思惑も絡み、衆参で可決し成立させるのはきわめて難しい情勢なのだ。
そもそも自民党も各野党も定数削減などやりたくはない。躍起になっているのは維新だけだ。そのうえ、この法案を審議する政治改革特別委員会の委員長は立憲民主党の伴野豊氏ときている。
3日には企業・団体献金見直しに関する3法案が同特別委で先に審議入りしている。与党は3法案を追い越して定数削減法案の審議を進めたいようだが、立憲、国民民主、公明など野党各党は3法案を優先するよう強く求めている。
国民民主の古川元久国対委員長は党会合で「与党が定数削減法案を審議したいなら、まず献金の問題に結論を出すことだ」と指摘。立憲は定数削減法案の審議入りを遅らせることによる「時間切れ」を狙っている。ある立憲幹部にいたっては「採決はさせない」とまで言い切っているほどだ。
こういう状況を承知のうえで、連立を維持するために自民と維新は合意内容を実行したわけである。自民にしてみれば、法案を提出したという事実により維新との約束を果したことになる。あとは成立を「目指す」だけだ。むろん維新が「目指す」だけでいいと考えているかどうかは、維新に聞かなければわからない。
ただ一つ言えるのは、選挙に弱い議員なら誰もが嫌がる「議員定数削減」を連立の絶対条件としてのませ、連立離脱を匂わしてその実行を迫ることが、維新にとっては自民党から政策的譲歩を引き出すための強力な“切り札”になっているということだ。
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自民が日程をにらみ故意に法案の作成を遅らせたとの見方も
西日本新聞は12月4日の記事で、定数削減法案に消極的な自民に業を煮やした維新の動きを伝えている。
11月27日夜、維新の遠藤敬国対委員長は、自民との交渉を担う党幹部らに“号令”をかけた。「自民に定数削減に乗られへんのやったら、企業・団体献金に関する法案にも乗らないと言え」
維新は企業・団体献金の禁止を夏の参院選でも公約に掲げていたが、自民との連立にあたってそれをあっさり取り下げ、政治献金のあり方を検討する有識者会議を設置する法案を自民と共同提出することにした。つまり自民党の生命線ともいえる企業・団体献金の存続に手を貸そうというわけだ。
しかしそれも、「議員定数削減法案提出」が前提である。企業・団体献金について助け舟を出しているのに、維新が政治改革のセンターピンとして重視している定数削減法案をないがしろにするのなら、こちらにも考えがあるというわけだ。企業・団体献金についての協力をやめるし、連立離脱もありうるという脅しである。
自民が二の足を踏んでいたのは、維新が議員定数削減法案に、実効性の担保として「1年以内に結論が出なければ自動的に比例代表を削減する」という内容を盛り込むよう迫っていたからでもあった。これでは党内の反対を抑えられないと自民党執行部が判断し、回答を保留していたのだ。
維新側の苛立ちに対応を迫られた自民は、木原稔官房長官と萩生田光一幹事長代行が30日深夜、東京・赤坂で維新の遠藤氏、藤田文武共同代表に会い、話し合った。その結果、削減対象を比例だけとしていたのを変更し、「小選挙区25、比例代表20」とする案を申し合わせた。
見方によっては、自民党が審議日程をにらんでわざと法案の作成を遅らせたとも思えるが、穿ちすぎだろうか。12月3日にこの法案を審査する自民党の会合が開かれ、「維新の言いなりでいいのか」などと反対の声が上がったにもかかわらず、すんなり加藤勝信政治制度改革本部長への一任が決まったのは、今国会では「成立」にまで至らないという見通しがついたからではないか。
維新の藤田共同代表が賛同を頼み込んだ参政党をのぞき、野党は総じて反対の姿勢だ。立憲の野田代表はテレビ番組で「基本的に賛成」と語っていたが、これは首相時代、党首討論で当時の安倍晋三・自民党総裁に議員定数削減法案可決への協力を呼びかけた経緯があるからにほかならない。「与党だけで1年とか、1割とか、そこまで勝手に決めるなよと思いますね」と批判も忘れてはいない。
日本の国会議員が多いか少ないかは議論の分かれるところだ。ろくに仕事をしていない議員が目につくときは「多すぎる」となるし、議院内閣制のお手本としている英国では下院の定数が650だと言われれば、衆院の465がさほど多いとも思えなくなってくる。
ただ、定数削減を単独で先行させるのではなく、選挙制度改革と併せて検討するべきだという意見が出るのも、もっともなことだ。最近、選挙制度改革についての議論が盛り上がっている。24年6月に選挙制度改革についての超党派議員連盟が結成され、衆院の各会派から約180人が参加。現行の小選挙区比例代表並立制を「中選挙区」あるいは「中選挙区連記制」にすべきだとする意見が自民、維新、立憲民主、国民民主、減税保守こどもの5党派から提示されている。
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強気を装いごまかす吉村維新代表の「拭えぬ不安」
同議連の幹事長を務める「有志の会」の福島伸享衆院議員はこう語る。
「人口減少が進む今、一番人口の少ない鳥取県が2議席で、1票の格差を2倍以内におさえようとすると、今後、東京の選挙区はさらに細分化され選挙区も膨大に増えていく。現行の選挙制度のままだと、むしろ定数を増やさないと制度が維持できないという議論になっている。そんな中での定数削減法案なのです」
小選挙区比例代表並立制は「政権交代可能な二大政党制」を念頭に導入されたが、現実には多党化し、理念倒れになっている。自民と維新の「議員定数削減法案」にも、選挙制度改革と併せて検討するようにとの条項が盛り込まれているが、体裁をつけているだけのようにも思える。
この記事を書いている12月10日の時点では、まだ議員定数削減法案は審議入りしていない。維新の遠藤国対委員長は「野党の遅延工作だ」と主張するが、国民民主と公明が提出している企業・団体献金の規制強化法案を通したくない自民が、定数削減法案の早期審議入りを求めて遅らせている面も否定できない。
これから定数削減法案をめぐる与野党間の攻防はさらに激しさを増すだろう。だが、たとえ与党側が押し切って衆院を会期中に通過するとしても、参院の審議が残っている。会期を延長したところで、時間切れとなる可能性が高い。だとすると、審議未了で廃案か、継続審議かだ。
テレビ番組で「成立しない場合どうするのか」と聞かれ、維新の吉村代表は「成立させるんです」と強気を装ってごまかしていたが、自民党の“古狸体質”への不安は拭えないようでもあった。
思い出すのは昨年5月の「岸田・馬場」合意だ。当時の馬場・維新代表は岸田首相との党首会談で、自民党の政治資金規正法改正案に賛成する代わりに、旧文通費の使途公開などを義務づける立法措置を講ずるよう求め、合意した。馬場氏が「要求を100%丸のみさせた」と喜んだのもつかの間、規制法改正案が衆院を通過したとたんに自民の態度が変わり、「日程が厳しい」との理由で旧文通費改革の審議は見送られた。自民の策略にはめられた馬場氏は「うそつき内閣だ」と罵った。
今回の衆院議員定数削減法案も「成立させる」ではなく「成立を目指す」と合意文書に書き込まれた時点で、熱量の低い自民党の本音がにじみ出ていた。
さて、「不成立」の場合、維新はどうするのか。「連立離脱」を断行できるなら、政治改革への維新の本気度が国民に伝わり、政党として発展の余地が残るだろう。さもなければ、せっかく獲得した政権党の座を放したくないだけの存在と人々の目に映るのではないか。
高市首相は支持率が高いうちに自民単独過半数を狙って衆院を解散する腹積もりだろう。維新を本当に必要とするのかどうか、自民党の腰はまだ定まっていない。
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