SNS上に投稿されるや瞬く間に拡散し、一気に社会問題化した学校内での暴行動画。なぜ被害者サイドは、自身が「特定」されかねないという危険を顧みず、動画の投稿に踏み切ったのでしょうか。今回のメルマガ『伝説の探偵』では、現役探偵で「いじめSOS 特定非営利活動法人ユース・ガーディアン」の代表も務める阿部泰尚(あべ・ひろたか)さんが、その背景と構図を法制度の観点から検証。さらにいじめ防止対策が機能不全に陥る理由を専門家目線で解説しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:いじめ暴行動画拡散中
被害者がバカを見る国。「いじめ暴行動画の拡散」が意味するもの
1月4日、X(旧Twitter)上で、男子トイレと思われる場所で撮影された暴力動画が拡散された。
動画の内容は、男子トイレで制服姿の複数の生徒がおり、モップの柄を掲げて格闘技の試合開始のような合図で、一人の男子生徒が無抵抗の男子生徒の顔面を殴打したり頭部を蹴り上げたりする激しい暴行で、周囲の生徒はこれをはやし立てているというものであった。
この衝撃的な内容は、発信元がインフルエンサーであることも相まって、瞬く間に広く拡散された。この段階で、すでに高校名「栃木県立真岡北陵高等学校」であることは明示されていた。
ニュースでも取り上げられ、栃木県警は動画の拡散を受け、即座に暴行事件として捜査を開始。2026年1月5日には、動画に映っていた加害生徒を特定して事情聴取を行い、生徒は「申し訳ないことをした」と暴行の事実を認めていると報じられた。
また、この件は栃木県知事の目にもとまり、即座に県の教育委員会に指示をしたとのことで、1月7日には県の教育委員会が別段の新事実もないままに記者会見を行い、翌8日には定例記者会見で教育長が謝罪をした。
一方、別の動画拡散も起きる。
1月8日未明、同様X上の投稿で、大分県大分市の市立中学校内で起きたとされる暴行の様子が投稿され、これも広く拡散された。
報道によれば、
中学校や市教委には8日朝から、保護者や市民などからの問い合わせが相次いでいて、市の教育委員会は「事実であれば重大なこと」だとして、当事者とみられる複数の生徒から話を聞くなど調査を進めています。
警察も中学校の関係者から聞き取りを行うなどして、事実確認を進めています。
とのことであった。
今後さらに、このような動画投稿は続くのではないかとみられるとのことだが、この流れは過去から多く存在している。
もっとも記憶に新しいのは、甲子園で話題になった広島、広陵高校の件だろう。
これはそもそも動画ではないが、SNSで情報が拡散され、事実が明らかになって、それまで深く行われていた隠蔽工作が破れて、第三者委員会の設置へ向かった。
栃木県立真岡北陵高等学校の暴行の時期は、12月19日清掃の時間(15時25分から40分)の後に、撮影されたものであり、学校も県教委も1月4日以前にこのような暴行が行われた事実を知らなかったと記者会見で述べている。
また、拡散とほぼ同時にネットの特定班による加害者特定がされており、暴行をしていた男子生徒の氏名、家族、家族の勤務先、出身中学、過去の写真や「晒されている自分の方が被害者」と投稿している本アカ(本人アカウント)なども拡散されていて、誹謗中傷もあると注意喚起がされる事態となっている。
さて、SNS等による告発からニュースや多くの関心を集める事態となって、事件として動き出すというこの大きな流れは、私はもはやこの流れは止めようがないと確信している。
これは、現行の極めて甘い制度でもあるいじめ防止対策の敗北であり、SNSや一般感覚をハッキリと明示するインフルエンサーらの勝利であると断言する。
この記事の著者・阿部泰尚さんのメルマガ
いじめ関連の事件で頻繁に起きる「アホの極み」のような事態
およそ50分間ほどの栃木県教育委員会が行った記者会見の内容も確認したが、「いじめの疑い」があり現在調査中、調査の聞き取りなどは学校がやっている、などあまりにも当事者意識の欠ける内容であった。
だが、正しい専門知識を持つ専門家がこの内容を聴けば、即座に法律運用と解釈に誤りがあることにきがつくだろう。
そもそもこの件は、深刻な暴力事件であると解される。遊びであったと後に全員が口をそろえたとしても、口裏合わせを完全に否定できるようになるまでは、一方的な暴力事件であり、はやし立てなどがあった様子は明らかなわけだから、集団的な暴行と解しても乱暴な解釈とは言えないだろう。
これをいじめ防止対策推進法でみれば、第2条のいじめの定義の条件にはおおよそ合致し、28条の重大事態いじめにも合致するのだ。重大事態いじめとは生命身体財産などに深刻な被害があるもしくは不登校になってケースのことで、第三者委員会による調査となるケースのことだ。
私が専門家として、28条重大事態となると断言するのは、この重大事態は、「疑い」が条件だからだ。
一 いじめにより当該学校に在籍する児童等の生命,心身又は財産に重大な被害が生じた疑いがあると認めるとき。
二 いじめにより当該学校に在籍する児童等が相当の期間学校を欠席することを余儀なくされている疑いがあると認めるとき。
(いじめ防止対策推進法第28条より)
日本語を読解できる読者の方なら、もう理解しただろう。
つまり、法律の要件としては、疑いで重大事態は成立するのであって、確定事実があるから重大事態が成立するのではないのだ。しかし、多くの学校、教育委員会、教育委員会に雇われてうまい汁を吸っているチューチュー専門家は、確定事実によって成立するというように実態を歪め続けてきた。マスコミ記者さんの中でも非常に熱心な方は正確な知識で判断しているが、これはごく少数で、多くの記者は「考えるな発表を書け」の如き報道で、誤りを正そうとしなかった。
栃木県教育委員会の記者会見で、県教委担当者は、現在調査中を盾に、いじめであるとも重大事態であるとも明言を避けたが、上の説明の通り、いじめであり重大事態であり、暴行事件であるのだ。
時に、いじめというと「いや暴行事件だ」といちいち否定してくる面倒くさい脳の層がいるが、物事は「OR」ではない、学校関連法としては「いじめ」「暴行」「非行問題行為」の少なくとも3つが同時に成立しているわけで、いじめと言ったら暴行が消されるわけではない。どっちかではないのだ。
さて、話を戻そう。
つまり県教委担当者が、記者会見で話したことは、そもそも重大事態いじめが疑いで成立すると明記されている法条文を理解していないか知らないか、知っているが認めない、のいずれかだが、調査中を盾にしたことでわかることは、「疑いの調査」をするという意味不明なロジックを主張したことになるわけだ。
こうしたアホの極みのような事態は、こうしたいじめ関連の事件では頻繁に起きるのだ。
結果、実際は重大事態いじめであり、被害態様は犯罪被害であるのに、一切を封じられ、わかりやすい誤った解釈によって「いじめ」ですらないとされる被害者が量産されている。つまり、正しい判断がされず、正当な被害者がバカを見るような仕組みに歪められていて、被害申告をするのにもハードルが高すぎるのだ。
だからこそ、被害を被害としてしっかり判断されるSNS上からの告発の方が圧倒的にハードルが低く、アホ判断はだいたい回避できる状態にあると言えるわけだ。
また大分市のケースでは、隠ぺいされそうになって居ての告発だとの情報がある。これが事実であれば、被害側やいじめを良しとしない告発者が隠蔽されないために起こした行動であるとも捉えることができる。
この記事の著者・阿部泰尚さんのメルマガ
劇薬的であるとも言えるSNS上での「いじめ暴行」告発
SNSからの告発は効果絶大であることは、私が言うまでもない。ただし、私はこの告発を推奨はしない。しかし1つの方法論として、どうしようもない人は活用を検討してみてよいと正直なところ思う。それは、問題提起の難しさを知っているからであり、現行法や司法行政の甘さや改善されなければならない問題を知っているからである。一方で、被害側は冷静に正攻法で正々堂々と立ち向かってもらいたいし、それを私はサポートしている。
SNSからの告発は、劇薬的であるともいえるだろう。被害の動画が拡散されれば、これは同時に被害者が被害を受けたことに関するデジタルタトゥーともなるし、トラウマのトリガーとして残り続けるかもしれない。
本来対応すべき司法や行政、学校が炎上鎮火の力を入れて、問題をさらに隠蔽する可能性も否めない。無関係の生徒や誤情報の拡散が他の被害を発生させたり拡張してしまうかもしれない。一方的な正義感で突っ走る第三者がさらなる告発をして、訴訟リスクに曝されるかもしれない。
また、私が知る限りの事だが、今回のようにインフルエンサーが取り上げてくれて上手くいくこともあるけれど、SNSの情報の波の中で陽の目も見ず消えていく情報になるかもしれない。
過去、私は『世界仰天ニュース』という番組に協力し、いじめ被害の実態を案内した。その際、これが視聴率の高い番組で、同時にネットも動くだろうと予測していたが、まさか被害者に鉾が向くとまでは思っていなかった。
確かに、被害女子高生は、加害者がその容姿に嫉妬していじめをしたほどで、放送では容姿が整っているなどの情報が流れた。それがネット民の一部の興味に触れたようで、被害者のSNSのアカウントが瞬く間に特定された。これが拡散され、被害者側の情報がネットに流れてしまった。
誹謗中傷はほぼ受けなかったし、他のネットユーザーが被害者を晒すのをやめろと大合唱してくれたおかげで、情報の消込は効果的に進んだが、危うい事であったと反省した。
私刑をしたい一定のネットユーザーがいるのは事実だが、その行為がいかに正義感からの事であっても法的リスクが伴うことも理解してほしいところだ。
事実上の「隠ぺい委員会」が調査をするというケースも
暴行動画の拡散から、別の暴行動画などが投稿されてきている。告発に協力しようというインフルエンサーも他に出てきているようだ。
上にも書いたように、実際は深刻な問題であるのに、無かった事のように隠ぺいされている人が無数にいることがわかる状態だということだろう。
告発には確かにリスクはあるが、そのリスクよりもはるかに被害側が当たっている問題は深刻なのだ。
しかし、よく考え欲しいのは、告発が成って、事件化していった場合、結果として、そもそもの法制度に戻るわけだ。
当初は話題性もあって一定の衆人環視の状態も働くが、事件は無数におき、人々の関心事も移り変わっていく中、そもそもの法制度が甘いわけで、結果上手くいかないという可能性もあるのだ。
問題は山積みだ。
冒頭に示したように、誤った運用は頻繁におき過ぎて、誤った運用が本来の正当な運用のように取り扱われてしまっていたり、第三者委員会の設置と言って、関係者しかいない事実上の隠ぺい委員会が調査をするというケースもあるのだ。そしてこれを自治体の制度として当たり前のように運用している市区町村もある。
その典型が、――(『伝説の探偵』2026年1月9日号より一部抜粋。続きをお読みになりたい方はぜひご登録ください。初月無料でお読みいただけます)
この記事の著者・阿部泰尚さんのメルマガ
image by: Shutterstock.com