高市首相の「台湾有事は存立危機」という国会答弁に端を発し、かつてないほどに悪化した日中関係。習近平政権はレアアースの輸出規制で日本政府に揺さぶりをかけてきましたが、国民は「事の重大さ」を認識していないと言っても過言ではないのが現状です。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』ではジャーナリストの富坂聰さんが、中国の怒りの深度と日本サイドの認識のズレを詳しく解説。さらに日本を「外交不在」の国家としてしまった原因を考察しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:外交不在の日本で、国民は中国の輸出規制に「ただ耐えるしかない」という惨状
外交不在の日本で、国民は中国の輸出規制に「ただ耐えるしかない」という惨状
おそらく日本側には中国のレアアース輸出規制に対する策はないのだろう。
だが中国は、今後、続けて出すことのできる制裁メニューを、テーブルに並べてタイミングを見計らっている。
怒りの次元が、それくらい深刻であることは、ここまで長引かせなくても分かるったはずなのだが、日本では「高市叩き」とか「世論戦」といったピントのズレた言説から、挙句の果ては「経済ボロボロだから本当はやりたいない」という説までまかり通って、感度は鈍い。
かつて韓国に向けられた「限韓令」と比べて評する専門家まで現れるのを見れば、ため息しかではなくなる。
驚いたのは、日中関係悪化の責任の一端を担っているはずの前大使までが、まるで評論家のようにメディアに出て、中身のない中国論を展開していることだ。
私が見たのはNHKのBS番組「国際報道2025」の12月24日の放送だ。
合点のいく解説もあったが、首をかしげなくなる話も少なくなかった。なかでも信じられなかったのは、問題になった高市答弁に関し、撤回の必要はないと、断じた以下の発言だ。
「どんと落ち着いて、『発言を撤回しません』ということを胸張って言っておけばそれでいいんです」
政府が太鼓をたたいたインバウンド政策に乗ってビジネスを拡大してきた業者が聞けば怒り心頭だろう。勇敢な発言をしたいのは分かるが、これは無責任だ。
この時点ではまだレアアースの規制は発表されていなかったが、それも時間の問題と考えれば、呑気な話と言うほかない。
レアアースで日本の製造業が深刻な影響を受ければ、もはや「胸張って言っておけばいい」で済む話ではなくなる。
昨年末、ネクスペリア問題で中国からの半導体供給が止まっただけで日本の自動車メーカーがパニックに陥ったことは記憶に新しい。
キャスターは「長期的な戦略に基づいた一歩を踏み出すべきだという指摘は、重く響きました」と結んだが、何を納得できたのだろうか。
長期的な戦略というが、その中身をまとめれば
- 対中依存を減らしてゆく、
- 邦人保護、
- 各国との関係構築
の三つだ。はっきり言って目新しい対策など一つもないし、なるほどこれならば安心と思わせる要素もない。
まず1.は、「デリスキング」と言い換えることができコロナ禍以後の欧米では流行語にもなったが実態は進んでいない。しかも対中依存軽減では、日本は2010年ごろから本格的に取り組んできた大先輩だ。デリスキングではなく「チャイナ+1」という呼称になるが、この掛け声の下で取り組んだものの、15年経っても一向に実現しなかったのである。
レアアースの対中依存度も、当時の90%前後の依存から60%前後まで下げられたとはいえ、今後さらに減らすことは困難であり、たとえ依存度を30%まて落とすことができたにしても、まだ致命的な水準には違いないのだ。
つまり日本にとっての対中デリスキングなど、いまさら議論をする価値もないことなのだ。
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2.の邦人対策は当たり前で、3.の各国との関係強化という意味では、日本のGDPの約3倍で、世界の経済発展への寄与度が30%を占める国とどうやって対抗してゆくのだろうか。
対中ビジネスに携わる者が聞けば、頭を抱えたに違いないし、忌憚のない意見を言えば、聴く価値はない。
レアアースを巡る攻防という意味では、日本など比較にならない超大国のアメリカでさえ「交渉しかない」と見極め、首脳会談後に臨んでいる。それが昨年10月30日の米中首脳会談だ。
米『ブルームバーグ』は2026年1月9日ホワイトハウス上級顧問(貿易・製造業担当)のピーター・ナヴァロのインタビューを発表した。タイトルは「中国のレアアース支配、米技術革新で排除へ-ホワイトハウスのナヴァロ氏」だ。記事の内容は見出しのままだが、重要なのはアメリカの技術革新が追いつくまでの期間を「どう乗り切るか」であり、その答えをナヴァロ氏はこう答えていることだ。
「外交だ。それを弱腰と呼ぶ人がいるなら、チェス盤を理解していないということだ」
超大国アメリカの対中強硬派、ナヴァロ氏の選択が「外交」なのに、日本が「『(高市)発言を撤回しません』ということを胸張って言っておけば」済むと考えるのは、どういう発想なのか。
もっとも「外交」をするにしても、日本にはいま、外交をするベースがないのも事実だ。国民がそれを許さないからだ。
日本人の理解が足りなさ過ぎて中国の怒りの強さが認識できないのだ。
例えば台湾問題だ。中国人がもし、「日本に右寄りの政権が誕生し、彼らが台湾と政治的に距離を詰めている」と聞けば、真っ先に思い浮かぶのは過去の侵略だ。それはかつての日本が最初に侵略したのが台湾だったことを中国人はしっかり覚えているからだ。
翻って日本人はどうだろうか。
親日の台湾を「中国から守ってあげたい」くらいの感覚ではないだろうか。これは、もはや埋めがたいギャップだ。
昨今、ネットを中心に、台湾には侵略どころか「良いことをした」と考える日本人が増えていることも感じさせる。
つまり外交をしようにも、考え方に接点もないギャップが出来上がっているのだ。
この状況をつくり出したのはメディアから言論界、学術界に至るオールジャパンだ。中国を「価値観の共有できない相手」と位置づけ、徹底的に排除してきた結果だ。私自身にもその責任はある。
言論NPOの世論調査で、9割が中国人に良くない感情を持っていると答える日本は、北朝鮮をも凌駕する言論の幅のない異常な国だが、そうした国をつくり出したのは間違いなくオールジャパンであり、ある意味メディアの通信簿だ。
結果、アメリカは外交を活用して決定的な対立を回避できるが、日本は国民がそれを許さない。その先には何があるのか。
次に中国が何を繰り出すか定かではないが、薬や肥料程度で済んでくれることを祈るばかりだ。
(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2026年1月11日号より。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をご登録下さい)
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