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高市早苗が仕掛けた“野党分断”工作か?カタチばかりの「国民会議」が炙り出した巧妙な“罠”

高市首相の音頭取りで設置され、2月26日に初会合が開かれた「社会保障制度改革国民会議」。しかしながら参加を要請されていた野党の中で席についたのは「チームみらい」のみで、中道改革連合と国民民主党は欠席を選択するという結果となりました。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では元全国紙社会部記者の新 恭さんが、「給付付き税額控除」と「消費税減税」をめぐる国民会議の構図と、高市首相が仕掛けた政治戦術を分析。その上で、この会議が野党の分断を促す装置として機能する可能性を指摘しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:国民会議は高市首相の巧妙な“野党分断”装置か

高市首相の巧妙な戦略。国民会議は“野党分断”装置なのか

衆院で圧倒的多数となった与党を率いながら、高市首相はいぜん“野党分断”工作にこだわっているようだ。

その最たるものが、今話題の「社会保障制度改革国民会議」だ。飲食料品の消費税率を2年間に限りゼロにし、その後に「給付付き税額控除」を実施するという、高市首相が示したロードマップ。それらの制度設計について超党派で議論するというふれこみである。

中道改革連合、国民民主党、チーム未来は参加を要請されたが、その他の野党にはお呼びがかからない。その理由がよくわからないなか、中道と国民民主は出席するかどうかに悩んだあげく、2月26日に開かれた第1回目の会合を欠席した。

高市首相は「社会保障と税の一体改革」と、この会議の目的を位置づけた。民主党野田政権が2012年11月、自民・公明と3党合意したのも「社会保障と税の一体改革」だった。当時の野田首相、安住淳財務大臣が財務省の言いなりになって、消費税の増税を画策したことは論を待たない。

税という国民の“負担”があってはじめて社会保障の“給付”が成り立つ。社会保障の財源を確保するためには消費税の増税が欠かせない。そんな理屈をこねまわす魔法の言葉「一体改革」の名のもとに、財務省の仲介で当時の与党・民主党は自民、公明両党と話し合い、消費税を引き上げる合意に達したのだった。

なぜ、その民主党の流れをくむ「中道」が第1回会合を欠席したのか。2月27日の衆院予算委員会で、小川淳也代表は高市首相に、こう迫った。

「(給付付き税額控除については)昨年、与野党合意がなされたが、解散によって、予定された会議も吹っ飛び、リセットされた状態だ。急に入ってきたのが“暫定的”な消費税減税。“本格的な”制度である給付付き税額控除と切り分けていただけないか。そうなれば、この場で参加を前向きに表明することも可能だ」

高市首相は衆院選で突然、飲食料品を2年間限定で消費税率ゼロとすることを公約として打ち出し、「財源やスケジュールの在り方などを国民会議で検討する」と言い出した。野党にとっては寝耳に水だった。

財源とスケジュールを国民会議で検討。これはどういうことなのか。検討して財源が見つからなかったら、やめることもあり得るのか。1月23日の記者会見でその点を質問された片山さつき財務大臣は「大変高度な国民的課題であり、財務大臣の私が言うのは僭越なこと」と口を閉ざした。

つまり、この時点ではまだ消費税減税の方針が決まっていたわけではなく、チームみらいを除く野党がこぞって打ち出している消費税減税の「公約つぶし」の側面が強かったわけである。おそらく、「国民会議で検討」というのは、財務省の強い抵抗をかわすためだっただろう。

その後の衆院選で高市自民党が圧勝し、いまさら公約を引っ込めるわけにはいかなくなった状況ではある。しかし国民会議への参加を求められた野党にしてみれば不安が大きい。

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参政、れいわ、共産は招かぬ高市「排除の論理」の冷徹

「給付付き税額控除」は長年、立憲民主党が悲願としてきた政策であり、「中道」としても必ず実現させたい。だが、そのために設けられるはずだった国民会議に、2年限定付きの消費税減税案が加わったのである。もし「財源がないからやめます」などという結論になったら、こちらも責任を問われるのでは…という疑念が拭えないかぎり、安心して出席できない。

「切り分けていただけないか」と小川代表が本音をぶつけたのに対し、高市首相は「同時並行で進めることにした。給付付き税額控除が議題の時だけ出てもらってもよい」と素っ気なくかわした。小川氏はなおも食い下がる。「食料品の消費減税はやります、その前提の会議ですという明快な答弁をいただきたい」。すると、高市首相は「政府として責任をもってやっていく」と消費税減税を明言した。

それでも小川代表の心配は尽きない。中道は食料品の消費税に関して、恒久的に税率ゼロを主張しており、2年限定という高市首相の方針とは相容れない。国民会議に参加し意見を言うのはいいが、高市首相のロードマップ通りに議論が決着した場合、2年後に消費税率が元に戻ることについての“共同責任”が生じるだろう。

それにしても、高市首相はしたたかだ。「給付付き税額控除」に、わざと与野党で意見統一することが難しい消費税減税をくっつけたあたりに、“野党分断”の計略が見え隠れする。

中道は恒久減税、国民民主は食料品に限らず一律5%への減税、チームみらいは減税そのものに反対だ。一方で、参政党やれいわ新選組、共産党など「消費税廃止」「大幅減税」を叫ぶ勢力は、はなから“招待状”すら届かない。この「排除の論理」もまた冷徹である。

本来、野党の役割は政府が出してきた法案を国会で厳しくチェックすることだ。国会に案が出る前の「国民会議」で一緒に政策を作ってしまうと、いざ国会で審議するさい、追及が甘くなるのは必定。下手をすると、政党が政府の「下請け」のようになってしまうおそれすらある。

今回の「国民会議」、もとをただせば、立憲民主の代表だった野田氏が昨年9月、当時の石破首相に自民・公明・立憲の三党で「給付付き税額控除」の協議体をつくることを提案し、合意に持ち込んだのが起点だった。

「給付付き税額控除」はアメリカ、イギリス、カナダなどで採用されている中低所得世帯への支援策だ。たとえば1人あたり4万円を所得税から控除することになった場合、税額が3万円の人は3万円が控除され、控除しきれない1万円が現金で支給される仕組みだ。もちろん富裕層は除外され、どの所得ライン以下に対象を絞るかによって必要な財源が異なってくる。

財務省は消費税減税、給付付き税額控除のどちらにせよ、莫大な財源を必要とする政策には乗り気ではないが、消費税減税よりは給付付き税額控除がマシと考えているだろう。対象世帯を絞れば、給付付き税額控除のほうがはるかに少ない財源ですむからだ。

しかも、マイナンバーを活用した迅速な所得把握が必要になるため、マイナンバーとすべての銀行口座の紐付けを義務化しやすくなるという財務省にとっての“実利”がある。

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弱体化した野党を選別する装置として利用される「国民会議」

自民・公明・立憲の三党が「給付付き税額控除」の協議体をつくるのに、財務省が背後で動いていたことは容易に想像できる。財務省にとって「消費増税の地ならし」という意味合いがあるからだ。給付のための増税。すなわち「一体改革」の思想だ。

だが、協議体を「国民会議」という形に“昇格”させたのは、合意を引き継いだ高市首相だった。

「超党派かつ有識者も交えた国民会議を設置し、給付付き税額控除の制度設計を含めた税と社会保障の一体改革について議論してまいります」(就任直後の所信表明演説より)

この時、高市首相の頭には、少数与党の国会を乗り切るために野党を政策決定の場に巻き込んでいくということしかなかっただろう。高市氏が勝負師として非凡なのは、解散・総選挙の実施が決まるや、そこに「一体改革」の一環として消費税減税策をぶち込んだことだ。それにより、減税を忌み嫌う財務省を渋々ながら納得させたし、衆院選に圧勝した後は、弱体化した野党を選別する装置として利用している。

中道と国民民主は今後の国民会議に出席するのだろうか。公明が参加をほのめかしていることもあり、中道の階猛幹事長は「給付付き税額控除について参加に向けた環境が整ってきている」と語っている。国民民主は「全面公開でやるべきだ。議事録も全文公開すべきだ」と慎重なかまえを崩していない。

高市人気が続く中、「国民会議」と銘打つ場に招かれながら参加しないことは、政党支持率に響くリスクがある。さりとて、疑念にかられながら強い力に引かれていくのも情けない。野党にとっては、なんとも厄介な政治状況である。

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image by: 首相官邸

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