欧州の自動車メーカー6社で特別損失が6.7兆円に達し、GM、フォード、ホンダなども含めたEV事業の縮小・撤退が相次いでいます。「EVシフトは失敗だったのか」という声が高まる一方、EV出遅れのトヨタが結果的に評価されるという皮肉な状況も生まれています。今回のメルマガ『週刊 Life is beautiful』では、著者で著名エンジニア・投資家としても知られる中島聡さんが、EVオーナーとしての実体験も踏まえながら、自動車業界の未来を大胆に予測しています。
プロフィール:中島聡(なかじま・さとし)
ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア、工学修士(早稲田大学)/MBA(ワシントン大学)。NTT通信研究所/マイクロソフト日本法人/マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。現在は neu.Pen LLCでiPhone/iPadアプリの開発。
EVシフトは失敗だったのか?
日経新聞で「欧州車の「EV損切り」、6社で特損6.7兆円 エンジン回帰に2つの重荷」という記事を目にしましたが、これは欧州に限った話ではありません。
European Business Magazineの報道($65 Billion Lost: The Catastrophic EV Bets That Broke Ford, Stellantis, GM, VW and Honda)によれば、欧州6社に加え、米国のGM、フォード、日本のホンダなど、従来型の自動車メーカーで電気自動車に力を入れた会社のどこもが、利益を上げることができず、電気自動車ビジネスの縮小もしくは撤退に追い込まれているそうです。
特にヨーロッパでは、各国がEVシフトを積極的に後押しする政策を打ち出してサポートしましたが、先行するTeslaおよびBYDなどの中国勢に全く対抗できなかった上に、期待していたほどEVのシェアが伸びなかったこと、政府のEVシフト戦略が途中で腰砕けになったこと(特に、トランプ政権が2025年9月末に7500ドルのEV連邦税優遇を廃止したこと)などが原因となって大幅赤字を計上する状況に追い込まれているのです。
そんな中で、EVシフトに大きく出遅れたトヨタ自動車が、結果的に大きな損失を被らずに済んだことが評価されているという興味深い状況になっています。
すでに電気自動車(Tesla Model Y、Audi e-Tron)を数年間保有している私からすれば、EVシフトは必然であり、この段階でEVから撤退する会社は、中長期的には淘汰される(もしくはニッチに追い込まれる)と考えて良いと思います。
欧州や米国の政府の方向転換は、EVシフトを数年間遅らせることにはなるし、AIデータセンターの急増による電力不足もEVシフトにとっては好ましい話ではありません。しかし、電気自動車を持つと分かりますが、
- ガソリンスタンドに行かずに、家で夜間に充電できる
- 静かで臭くない
- メンテナンスのコストと手間が格段に低い
の3点はとても心地良く、一度経験したら戻ることはできません。
「EVが当たり前」になるまでに10年かかるのか20年かかるのかを予想するのは簡単ではありませんが、EVシフトが完了することには、自動車業界の形は今と大きく異なる形になっていると私は確信しています。
この記事の著者・中島聡さんのメルマガ
ガソリン車回帰は延命措置に過ぎない
今回、大きな損失を計上したメーカーは、ガソリン車回帰で生き残りを目指すとされていますが、そこにはハイブリッドの巨人であるトヨタ自動車が君臨しており、その戦略が短期的な延命措置でしかないことは明らかです。結果的にそれは、EVで先行するTesla、BYD、Rivianなどに今後のびるEV市場を明け渡すことに相当し、成長の望みのない会社になってしまいます。
EVシフトの遅れは、トヨタ自動車にとっては朗報です。財務的に傷ついた欧米の企業には、トヨタと戦う資金力も技術力もなく、トヨタはハイブリッドで稼ぎながら、自分のペースでEVシフトを行うことが可能になりました。
トヨタの死角。自動運転とソフトウェア
とは言え、自動車業界には、EVシフトに加えて自動運転という大きな変化も訪れており、そこでソフトウェアの文化を持たないトヨタ自動車が、どうやってTeslaや中国勢と戦うかが見ものです。ひょっとすると、NVIDIAがその戦いに一役を担うことになっても不思議はないと思います(この件については、次のセクションで書きます)。