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「パワハラが原因」か「強い心理的負荷」か?東京ガス社員自殺を巡る判決報道“食い違い”の違和感

同じ事件を扱っているにもかかわらず、メディアにより記され方が大きく異なることも少なくない裁判を巡る報道。その「表現の違い」が読み手の印象を大きく左右するのは言うまでもない事実です。今回の『きっこのメルマガ』では人気ブロガーのきっこさんが、「東京ガス社員自殺事件」の判決を取り上げ、各メディアの見出しや内容の差異を検証。その上でパワハラの定義について考察するとともに、森友問題で自ら命を絶った財務省局員をきっこさん自身が「パワハラ殺人の被害者」と断定せざるを得ない理由を記しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:パワハラという殺人

森友問題が何よりの証拠。パワハラという殺人

いいかげんドナルド・トランプや高市早苗の話題にも疲れて来たので、今回は久しぶりに政治から離れて国内の社会ニュースを取り上げようと思います。

で、4月13日付でネット配信された新聞各紙の国内の社会ニュースの見出しだけをさらってみたところ、あたしは1つのニュースに目が止まりました。それはニュースそのものが気になったのではなく、2つの媒体が正反対に報じていたからです。それは次のニュースです。

東京ガス子会社に出向していた男性社員の自殺を巡り、男性の両親が労働基準監督署の処分取り消しを求めた訴訟の判決が13日、東京地裁であった。地裁は自殺と業務の因果関係を認め、遺族補償を不支給とした労基署の処分を取り消した。

2017年3月、東京大学を卒業した男性は、翌4月、新卒で東京ガスに入社しました。そして、1年後の2018年4月、子会社の「東京ガスエンジニアリングソリューションズ」への出向を命じられて財務グループに配属しました。すると、男性(当時24歳)は、その後「うつ病」を発症し、4カ月後の同年8月に自殺してしまったのです。

男性の遺書には「毎日怒られてばかり」「もう限界」などと書かれていました。そのため、男性のご両親は「息子のうつ病と自殺は仕事が原因」として労災保険法に基づき、三田労働基準監督署に「遺族補償給付」を請求したのです。しかし、三田労基署は「業務との関連性はない」として「労災」とは認めず、不支給処分としたのです。

どうしてもこの処分に納得が行かなかったご両親が「労基署の処分取り消し」を求めて、2024年、東京地裁に提訴した…という流れで、提訴から2年後の今回、その判決が出た…というニュースです。判決は先ほどの記事の概要の通り、ご両親の訴えが認められて労基署の「不支給」という処分が取り消されたわけですが、大切な息子さんを失ってから、ここまでに8年間、本当に長い道のりだったと思います。

で、今回のあたしの疑問ですが、このニュースを報じた時事通信社の記事は「東京ガス社員の自殺は『労災』 出向先上司のパワハラ原因―東京地裁」という見出しで、記事にも次のように書かれていました。

子会社に出向していた東京ガスの男性社員=当時(24)=が自殺したのは、繁忙部署への異動や上司のパワハラが原因だとして、両親が国に遺族補償給付の不支給決定取り消しを求めた訴訟の判決が13日、東京地裁であった。地裁はパワハラなどが原因として労災を認め、決定を取り消した。

これ、見出しにも記事にも「パワハラが原因」と繰り返し書かれてますよね?でも、朝日新聞の記事は「24歳の自死を労災と判断 パワハラではないが『強い心理的負荷』」という見出しで、記事にも次のように書かれていたのです。

判決は、上司の言動は「業務に関連した指導や注意であり、明白なパワハラとはいえない」としつつ、男性が職場で疎外感や無力感を抱いていたと指摘。上司の言動に加え、男性が上司について「怖い」と述べたのに会社が適切な対策をとらなかったことが、精神疾患や自死につながったと判断した。

この朝日新聞の記事内容が事実だとすれば、この裁判を担当した東京地裁の小原一人裁判長は、問題の上司の言動や態度などについて「業務に関連した指導や注意であり、明白なパワハラとはいえない」と前置きした上で、うつ病や自殺と業務との因果関係を認めて、会社側に責任があったと判断したことになります。そうであれば「パワハラが原因」と報じた時事通信社の記事は「事実とは違う」ということになってしまいます。

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自殺した社員に上司はどのような物言いをしていたか

たとえば、上司が男性に対して連日のように「バカ!」だの「マヌケ!」だのと怒鳴りつけていたのなら、これは完全に「パワハラが原因」ということになります。それでは、実際にはどんな物言いをしていたのでしょうか?どの媒体よりも詳しく具体的な朝日新聞の記事には、上司の発言について次のように書かれています。

上司は、男性が作った2年目社員報告会の資料について修正の指摘をする際に「そんなこと書く?」などと発言。賞与面談で「仕事受け身だよね」「いつまでもお客さまじゃどうかな?」などと述べた。

これらが問題の発言だとすれば、自分から進んで仕事を見つけず、上司から指示されるまで何もしないことを「仕事受け身だよね」と言ったり、本社から子会社への出向を「いつまでもお客さまじゃどうかな?」と言ったり、確かにネチネチした嫌な物言いをされていたことになります。このレベルのイヤミでも、来る日も来る日も言われ続けたら、蓄積されたストレスでメンタルにダメージを受けると思います。

しかし、あたしの感覚では、これらは「パワハラ」と言うほどでもないように感じます。記事の通りに「明白なパワハラとはいえない」という判断が一般的のように思います。

また、日本経済新聞は、時事通信社とも朝日新聞とも違った表現の見出しで「東京ガス子会社社員の自殺、業務原因と認定 遺族補償不支給取り消し」というものでした。こちらは「パワハラ」という言葉は使わずに「業務原因と認定」としているので、朝日新聞の報道内容とも合致します。そして、記事では次のように書いています。

小原一人裁判長は、上司や先輩社員が決算処理などで忙殺されていたことから業務の具体的な指示をせず、男性は一人で自席にいる時間が長かったと指摘。グループ内で疎外感や無力感を味わい、相当な精神的負荷があったと認定した。

こちらの記事内容が事実であれば、上司は厳しい言葉でパワハラまがいのことを繰り返したというよりも、忙しくて右も左も分からない出向社員の面倒など見ている余裕がなく「ホッタラカシにしていた」ということになります。そして、そうだったと仮定すれば、朝日新聞が報じた上司の具体的な発言「仕事受け身だよね」や「いつまでもお客さまじゃどうかな?」というイヤミも、辻褄が合うように感じます。

ま、どちらにしても、男性のうつ病や自殺の原因が「仕事」だったことは明白であり、労災認定して遺族補償給付を行なうように命じた裁判長の判断は正しかったと思います。しかし、このニュースを報じる上で、見出しや記事に「パワハラが原因」と書くか「パワハラではないが『強い心理的負荷』」と書くかによって、読者が受ける印象は大きく変わってしまいます。

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安倍晋三氏の嘘に端を発した国家ぐるみの「殺人事件」

あたしの感覚では、上司からの酷いパワハラが原因で部下が精神疾患を経て自殺してしまった場合、それは「殺人」になります。たとえば、元首相の安倍晋三が保身のためについた嘘が原因で、上司から公文書の改竄を指示され、犯罪に手を染めてしまった自責の念によって自らの命を絶ってしまった財務省近畿財務局の赤木俊夫さんなどは、完全に「殺人の被害者」だと思います。
 
だからこそ財務省が公開している通称「森友文書」は、肝心の「誰が赤木さんに改竄を指示したのか」という肝心の部分が真っ黒に塗られて読めないようになっているのです。それが分かったら「殺人事件」と同義の凶悪事件になってしまうからです。
 
この問題では、事件発生当初、最高責任者である財務大臣だった麻生太郎は「そのような文書はない」と大嘘をつきました。そして、愛する夫を奪われた赤木雅子さんが必死の思いで「文書公開」まで辿り着いたと思ったら「肝心の部分はすべて黒塗り。ここまで来ると、もはや「組織犯罪」です。
 
しかし、昨年12月に公開された5回目の「森友文書」の中には、財務省の当時の理財局長だった佐川宣寿が、近畿財務局の職員らに送ったメールの本文が、黒塗りし忘れたのか、そのまま残っていたのです。そして、そのメールには、国有地を森友学園側に売却した時の決裁文書の内容を大幅に改竄するように、具体的な指示が書かれていたのです。
 
そして、今年3月3日、6回目の「森友文書」約2万8,000ページが公開され、現在、その解読が進められています。もちろん重要な部分は相変わらずの黒塗りですが、それでも公開された部分を丁寧に繋ぎ合わせていけば、この「虫食い算」は必ず解けるとあたしは信じています。その結果、赤木さんに改竄を指示した上司の名前が明らかになれば、その人物を法廷に引きずり出し、赤木さんを死に追いやった「殺人犯」を特定することができるのです。
 
どんなにこの問題が風化して世の中の人々の興味が失われてしまったとしても、あたしは今後も主犯の名前が明らかになるまで、この国家ぐるみの「殺人事件」に注視していきたいと思っています。
 
(『きっこのメルマガ』2026年4月15日号より一部抜粋・文中敬称略)
 
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