遺族年金は「人が亡くなった時に支給される年金」として知られていますが、その仕組みは想像以上に複雑です。今回のメルマガ『事例と仕組みから学ぶ公的年金講座』では、著者で年金アドバイザーのhirokiさんが、具体的な事例をもとに遺族年金の支給条件と判断のポイントを整理しています。
厚年加入中の死亡と年金受給者の死亡による遺族年金の支給
年金アドバイザーのhirokiです。
1.遺族年金の現行制度の条件
人が亡くなった時に発生する事がある年金は遺族年金です。
主に配偶者が亡くなった時に発生して、残された配偶者が受給する場合が多いです。
では死亡が発生すれば必ず発生するのかというと、そうではありません。
死亡という比較的わかりやすい条件なので受給はしやすいですが、一定の条件が設けられています。
まず遺族年金には国民年金からの給付である遺族基礎年金と、厚生年金から支給される遺族厚生年金があります。
最初に国民年金からの「遺族基礎年金」ですが、これは主に国民年金加入中の死亡時に発生します。
というと、国民年金に加入中といえば自営業者のような人かな?と思われますが、そのような人ばかりではありません。
まず20歳から60歳になるまでは全ての人が国民年金の被保険者になるので、サラリーマンであろうが自営業者であろうがその他の人であろうが全ては国民年金の被保険者になります。
厚生年金に加入しているようなサラリーマンの人でも、国民年金の被保険者(国民年金第2号被保険者)なので将来死亡した場合は遺族基礎年金が発生する事があります。
なお、60歳から65歳までの人は国民年金に加入しませんが日本国に住んでいて国民年金の被保険者だった人が死亡した場合にも遺族基礎年金が発生します。
あと、老齢基礎年金の受給権者(10年以上ではなく25年以上の期間がある事)が死亡した場合にも発生します。
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次にどのような遺族に発生するのかというと、これは範囲がとても狭くなっています。
生計維持されていた「子のある配偶者」または「子」がいる場合にのみ遺族基礎年金が発生します。
子というのは原則としては18歳年度末未満の子をいい、障害等級2級以上の障害を負っているのであれば20歳までを子とします(婚姻していない場合に限る)。
なお、「生計維持されていた」というのは養われていたというか、年金においては少し違っています。
ここで言う生計維持というのは、死亡当時に本人と住民票が一緒(同居など)で、遺族の前年収入が850万円未満の事を言います。
同居していなくて別居であっても、経済的援助があったとか、定期的に訪問があったなどの場合は生計維持関係が認められたりします。
次に年金記録が25年未満の人が亡くなった場合は、死亡日までの年金記録においてどの程度年金保険料を支払ってきたか、または免除があるかなどを確認します。
初診日の前々月までに国民年金の被保険者期間がある場合はその3分の2以上が未納や滞納以外でなければいけません。
これを保険料納付要件といいます。
最後に年金額ですがこれは定額となっています。
遺族基礎年金は定額の847,300円(令和8年度定額)で、子1人当たり243,800円の子の加算金が付きます。
3人目以降は81,300円となっています。
子が全て18歳年度末を迎えると遺族基礎年金は消滅して、年金額は0円になります。
遺族基礎年金の受給者数は約8万人となっています。
まあ、かなり少数ですね。
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2.遺族厚生年金
遺族厚生年金は死亡日に厚生年金に加入していた場合に主に支給されますが、年金記録が25年以上ある人が亡くなった場合には過去に加入していた厚生年金期間分の遺族厚生年金が支給されます。
厚生年金に加入していた人が亡くなった時の事で話を進めますが、厚生年金に加入していた時に死亡した場合において遺族の範囲は以下のようになります。
死亡当時生計維持されていた配偶者と子(第1順位)、父母(第2順位)、孫(第3順位)、祖父母(第4順位)の順で最優先順位者が受給権者となります。
ただし、上の順位者が死亡した本人と生計維持関係がなかった場合は下の順位者が受給者になる事があります。
なお、配偶者と子の順位は同じ第1順位者となっていますが、受給は配偶者が優先します。
次に保険料納付要件ですが、これは上記に書いた遺族基礎年金の場合と同じです。
年金額は死亡日までの厚生年金記録で計算しますので、人によって年金額は異なります。
ただし厚生年金に加入してまだ年金記録が少ない時に死亡した場合は、遺族への年金額が低くなりすぎないように最低でも300ヶ月は加入したものとみなして計算をします(25年以上の年金記録があった人が死亡した場合はみなさない)。
そして、妻が受給する場合ですが、夫死亡時に40歳以上だった妻が遺族厚生年金の受給者の場合は中高齢寡婦加算という大きな加算が行われる場合があります(25年以上の年金記録があった人が死亡した場合は20年以上の厚生年金がある事が必要)。
なぜこのような大きな加算が妻にだけ加算されるのかというと、夫死亡時に中高齢の女性だとその後に就労しても十分な所得を得る事が困難だったからであります。
今現代はそうでもないですけどね^^;
なお、死亡当時に40歳以上でなくても遺族基礎年金の受給権者が40歳を超えた時に、遺族基礎年金の受給権を失った場合はその時から中高齢寡婦加算が加算されます。
加算は最大で65歳まで加算が続き、その後は消滅して65歳からの給付である老齢基礎年金を受給する事になります。
(ちなみにこの中高齢寡婦加算は令和10年4月1日以降25年かけて廃止されていきます)
65歳からは老齢厚生年金も受給が始まる事が大半だと思いますが、この老齢厚生年金と遺族厚生年金とは同時に受給する事ができます。
ただし、老齢厚生年金の金額分が遺族厚生年金から引かれて支給されるので注意が必要です。
例えば老齢厚生年金の額が30万円で、遺族厚生年金額が50万円だった場合は、30万円を遺族厚生年金50万円から差し引いて支給するので、遺族厚生年金額は20万円となります。
というわけでザッと条件を書きましたが、今回は遺族年金で死亡日が厚年加入中にある場合と、すでに年金受給者であった人が死亡した場合の2つの事例で見ていきましょう。
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3.厚年加入中に死亡
◯昭和62年2月13日生まれのA男さん(令和8年は39歳)。
・1度マスターしてしまうと便利!(令和8年版)何年生まれ→何歳かを瞬時に判断する方法。
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20歳になる平成19年2月から国民年金の強制加入となりましたが、まだ学生だったので納めるのが困難でした。
そのため学生納付特例による保険料全額免除を利用し、平成19年2月から平成21年3月までの26ヶ月間は学生納付特例免除期間。
平成21年4月からは非正規雇用として仕事を始めましたが、厚生年金には加入せずに国民年金保険料納付義務がありました。
平成21年4月から平成23年2月までの23ヶ月間は国民年金保険を納付しました。
平成23年3月に東日本大震災による災害を受けたため、保険料を納付する事が困難になったため国民年金の災害特例免除を申請しました。
災害特例免除は財産などに2分の1以上の損害を受けた場合に適用され、適用期間は災害を受けた月の前月から翌々年の6月までとなっています。
災害特例免除を平成23年3月から平成25年3月までの25ヶ月間利用しました(老齢基礎年金の2分の1に反映)。
平成25年4月からは厚生年金に加入する事になり、平成30年6月までの63ヶ月間加入しました。
なお、この間の平均標準報酬額は36万円とします。
ところで、A男さんは婚姻をしていたのですが、妻とはこの厚生年金加入中に離婚したものとします。
妻は子1人を連れて別れました(子は平成26年5月10日生まれとする。令和8年は12歳になる年)。
ただし、妻には子の養育費を払い続けていました。
平成30年7月から令和5年10月までの64ヶ月間は国民年金保険料を未納。
令和5年11月から令和8年2月までの28ヶ月間は厚生年金加入期間とします。
この間の平均標準報酬額は23万円とします。
その後、令和8年3月27日の厚生年金加入中に私傷病により死亡しました。
厚年期間は死亡した日の翌日の属する月の前月まで。
この死亡により遺族年金は支給されるのでしょうか。
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ここまでの年金記録を整理します。
・学生納付特例→26ヶ月
・国年納付→23ヶ月
・災害特例免除→25ヶ月
・厚年→63ヶ月+28ヶ月=91ヶ月
・未納→64ヶ月
まず死亡時点の遺族は再婚した42歳の妻B子さん(A男さんとの子は無し)と、離婚した元妻C美さん(遺族にはなりません)と、C美さんに引き取られた子12歳(C美さんとA男さんとの間の子D君。平成26年5月10日生まれ)のみとします。
D君には養育費がA男さんから支払われていました。
死亡当時生計維持されていた遺族に遺族年金は支払われますが、別居の子に養育費が支払われていた場合は生計維持関係ありとします。
よって、この場合は後妻であるB子さんと、C美さんに引き取られた子D君が遺族年金の遺族となります。
どちらも第1順位者ですが、やはりB子さんに支払われるのでしょうか?
それともD君が遺族年金を受給するのでしょうか。
この時はB子さんにはA男さんとの実子がいないので遺族基礎年金の対象とはなりません。
しかし、D君は「子」なので遺族基礎年金の対象となります。
そのため遺族厚生年金も遺族基礎年金を受給するD君に優先して支払われる事になります。
D君が18歳年度末を迎えると遺族年金は消滅するので、その後はB子さんに遺族厚生年金が支払われる事になります。
次に、死亡日の前々月までの保険料納付要件です。
全体の年金期間が25年以上ないので、この保険料納付要件を見ます。
死亡日の前々月までの期間(平成19年2月から令和8年1月までの228ヶ月)のうち、3分の2以上(66.66%)が未納以外でなければならない。
・未納率→64ヶ月÷228ヶ月=28.07%なので、納付要件はクリアです。
ちなみに死亡日の前々月である令和8年1月から令和7年2月までの12ヶ月間に未納がなければそれでも構いません。
A男さんはその12ヶ月で満たしてるので、わざわざ3分の2要件を見る必要はなさそうですねーーー(『事例と仕組みから学ぶ公的年金講座』2026年4月15日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください)
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