7月10日の衆院本会議で、与党や一部野党の賛成により可決された皇室典範改正案。拙速な議論の進め方に各方面から批判の声が上がっていましたが、識者はこれをどう見たのでしょうか。今回のメルマガ『ジャーナリスティックなやさしい未来』ではジャーナリストの引地達也さんが、皇室典範改正案を巡る国会審議や全国紙各紙の社説を紹介。その上で、民主主義の観点から見た今回の審議手続きの問題点と、国民的合意形成のあり方について考察しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:皇室典範の改正をめぐる手続きの拙速さとメディア社説
「勇み足」の感は拭えず。皇室典範の改正をめぐる手続きの拙速さとメディア社説
高齢化などにより縮小する皇族数の確保に向けて、衆参両院の正副議長が「立法府の総意」案を公表した内容を基本にまとめられた皇室典範の改正案が衆議院で可決された。
与野党が静かな環境下での議論を模索し、国民の総意に近づけるはずが、わずか3時間の審議で可決に至った。
国会の会期末という事情や他の政策の議論の駆け引きが続く最中での急ぎ足の議論だ。
伝統の根幹であり、国の象徴の形に影響を与える内容には異論もあり、拙速に決めてしまうことに違和感を覚える。
新聞メディアでは、この可決をほぼ一斉に社説で批判した。
皇室の在り方を考えるという本来の課題への議論の在り方を考えるのは、同時に民主主義の問題でもある。
日本経済新聞の社説は「結論ありきの皇室典範改正は理解得られぬ」との見出しで、
内容、経緯ともに疑問や異論が出ている法案にもかかわらず、短時間の審議で成立を急ぐ姿勢には問題がある。合意形成に向けた政府の努力は十分とは言えない。結論ありきで強引に進めても、国民の理解は得られまい。丁寧に議論を積み重ねるべきだ。
と指摘した。
読売新聞の社説は「皇室典範改正案 根幹変える質疑が3時間とは」との見出しで、
あまりに拙速で、政府・与党と、賛成した野党の見識を疑う。
養子に生まれた男子が皇位継承資格を持つ規定が論点になった。衆参両院正副議長がまとめた「立法府の総意」は、養子の子の身分に触れていなかったからだ。
一部の党が「国民を愚弄するやり方だ」と批判した以外、野党から養子制度の問題点への追及がなかったことは疑問だ。
と断罪した。
朝日新聞は
与党のほか、中道改革連合などの各党も賛成した。国のかたちに関わる重大テーマが様々な疑問を抱えたまま、わずか3時間余で質疑を終えた。成立へとひた走るさまは、立法府の責任をまっとうしたとはとても言えない。
強引な国会運営の責任が政権にあるのは言うまでもない。一方、野党には政府案の問題点をただし、国民の多様な意見を立法に反映させる責任がある。衆院野党第1党の中道や、第2党の国民民主党が、その役割を果たしたとは評価できない。
と野党の動きにも失望を示した。
朝日新聞は、特に
「ジェンダー後進国脱却」を掲げる国民民主にも反省を求めたい。女性・女系天皇への道を妨げつつ、男系男子の養子縁組を法制化してしまう重みを、どこまで自覚しているのか。
と非難し、ジェンダーの視点から国民民主の政策と行動の乖離を指摘した。
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リベラルから保守とされる新聞社が一斉に可決を非難した意味
毎日新聞は
持続可能な制度とするには、さまざまな選択肢を残さなければならない。政府の有識者会議をやり直したり、国会に参考人として専門家を呼んだりするなど、仕切り直しが必要だ。
男女平等の意識が国民に浸透し、女性の社会進出も拡大している。男系に固執する養子案は時代錯誤だ。国民とともに歩むことで受け入れられてきた戦後の象徴天皇像と、あまりにかけ離れている。
参院での修正を求める。
と手続きとともに内容の不備から修正を要求した。
一方、産経新聞は
皇室典範改正案が衆院本会議で可決され、参院に送付された。成立へ前進したことを歓迎する。日本の皇統を護(まも)るもので、参院は今国会の会期内に成立させてもらいたい。
皇族との養子縁組による旧宮家の男系男子の皇籍復帰と、女性皇族が婚姻後も皇族の身分を保持する制度を整える。皇族数確保と同時に、養子策が安定的な皇位継承に資する内容だ。
と全国紙では唯一、評価する姿勢を明確にしている。
これは同社の考え方に合致していることを優先した内容であり、手続きの問題は後回しの印象がある。
各新聞社の社説のうち、一般的にリベラルから保守の立場とされる新聞社が一斉に可決を非難したことは、一般的に見ても今回の可決の手続きは、やはり違和感があった必然なのだろう。
それは内容の議論が不十分であることにもつながり、まだまだ国民の合意を取れたとは言い難い。
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