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高市早苗が財務省に「見せしめ」圧力。将来の次官候補を“出世コース”から外した異例人事の舞台裏

政策を決定する政治家と、その実務を担う霞が関の官僚たち。両者の緊張関係は決して珍しいものではありませんが、幹部人事が絡めばその対立は一層複雑なものとなります。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では元全国紙社会部記者の新 恭さんが、消費減税を巡る攻防と財務省幹部の人事が決定されるまでの経緯を詳細に検証。さらに高市首相の政治手法に対する自民党内の不満を詳らかにするとともに、9月の内閣改造と党役員人事を契機に政局が流動化する可能性を指摘しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:高市VS財務省「見せしめ人事」で動き出した政局の火種

どこまでも独断。高市VS財務省「見せしめ人事」で動き出した政局の火種

7月31日と8月7日に発表された財務省の人事が、霞が関に衝撃を与えている。食料品消費税の減税をめぐる「高市官邸VS財務省」の暗闘がにじみ出ているからだ。

宇波弘貴主計局長が財務省の当初の人事案通り事務次官に昇格し、将来の次官候補と言われていた一松旬・主計局次長がラインを外れて東京税関長に転出した。二人とも財政規律を重視し、消費税の減税に反対した急先鋒だ。この処遇の差は何か。官邸と財務省の間で、どのような駆け引きがあったのか。

主要官庁は例年4月末に審議官以上の異動予定リストを内閣人事局に提出する。今年、財務省もそうした。事務次官・新川浩嗣氏の退任と、主計局長・宇波弘貴氏の次官昇格を柱とする人事案だ。

例年通りすんなりと内諾を得られると財務省は踏んでいた。ところが、官邸は「保留」として返事を延ばし続けた。内閣人事局長は露木康浩・官房副長官だが、その背後に、高市首相がいるのは明らかだった。

昨年10月の首相就任以来、高市首相は周辺に「財務省を敵視する発言」を繰り返してきたといわれる。積極財政政策を進めるにあたって最大の壁が財務省と認識していたからだろう。手の内を知られたくないためか、財務省が官邸に送り込んでいる吉野維一郎氏は首相秘書官でありながら、首相執務室の「隠し部屋」から締め出されてきた。

人事案が内閣人事局に提出された今春、社会保障国民会議における消費税減税議論は佳境を迎えていた。この会議の事務を取り仕切るのが財務省だ。有識者会議をリードする座長や主要メンバーはもちろん、実務者会議に招く参考人も減税に否定的なメンバーをそろえ、国会議員やメディアには「5兆円もの代替財源を確保できない」「消費減税すれば財政悪化につながり、マーケットの信認が低下する」と“事前レク”をしてまわるなど、減税阻止に躍起となっていた。財務省にとって、年間26.7兆円、税収の32%を占めるとされる消費税は、絶対に手を付けてはならない「聖域」だ。

この頃、「主計局長の次官昇格は認めない」「財務省の思い通りにはさせない」。高市首相がそう言って息まいているというような情報も流れた。むろん憶測に過ぎないかもしれない。だが、ことを有利に運ぶため、できる限り、「承認」を後回しにしておきたいという思惑があったのは確かだろう。こうして、財務省トップの人事案は事前の調整が行われないまま時間が経過し4か月近く、宙ぶらりんになった。

当然、財務省は官邸が人事案を“人質”に圧力をかけ、取引を持ちかけているのだと受け取った。「不作為による人事の武器化だ」と憤る財務官僚の声も報じられた。

消費減税を議論した国民会議は野党の異論、反論でまとまらず、意見集約をあきらめた。実務者会議の議長、小野寺五典・自民党税調会長は「食品消費税1%」の議長案と各野党の案を併記する「中間とりまとめ」を提出し、首相の判断を仰ぐという形で、議論を決着させた。これを受け、高市首相は「食品消費税1%」の方針を決め、7月30日、党内手続きを鈴木幹事長に指示した。

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「見せしめ人事」を発動しなければ気が収まらなかった高市首相

そして、同じ30日に財務省の事務次官に宇波氏が就く人事案も発表された。つまり、財務省は高市首相に“屈服”したことにより、その褒美を与えられたわけである。

高市首相としては、反減税派の頭目である宇波氏を見せしめとして勇退させ、霞が関全体の戒めとしたい腹だっただろう。だが、片山さつき財務大臣が宇波氏に助け舟を出していた。片山氏は高市氏を支える盟友であり、財務省のトップでもある。かつて財務官僚だったころの部下であった宇波氏には残ってもらいたかったのだ。

しかし、人事を武器にした財務省への圧力は、それだけでは終わらなかった。1週間後、主計局次長だった一松氏が東京税関長に転出するという異例の発表がなされたのだ。

東京税関長への異動は、ランクでいえば「指定職2号俸」から「3号俸」に移るわけで、「降格」ではない。だが、主計局次長から主計局長、事務次官という出世コースからは外れることになる。

昨年10月から主計局次長をつとめていた一松氏は筋金入りの財政再建論者であり、「10年に1度の大物財務官僚」との呼び声が高かった。感情過多な高市首相のことだ。宇波氏に代わる超エリートへの人事介入を“見せしめ”にしなければ、気が収まらなかったのだろう。

財務省OBの高橋洋一氏は「週刊フジ」の記事に、こう書いている。

20年前の第1次安倍晋三政権時に構想し、13年前の第2次安倍政権時に実現した「内閣人事局」がようやくワークした。

確かにこれほどあからさまに省庁の幹部人事を動かした例はあまりない。しかも、相手は「官庁の中の官庁」といわれる財務省である。その意味では、その昔に構想された「官僚天国」解体のための行政改革が、高市早苗という独断的行動力を有するリーダーを得て、ついに機能しはじめたと見ることもできるだろう。

だが、今や「官僚天国」がピンとこないほど、霞が関には“忖度官僚”が増えている。財務省とて例外ではなく、政治家に対するかつてのような力は影を潜めている。そんな中で、一松氏は政治家に直言できる数少ない官僚として異彩を放っていた。本来なら、こういう存在こそ大切に処遇するのが国家のためという考え方もあるのではないか。

内閣人事局の淵源は福田康夫政権下の2008年にさかのぼる。「官僚主導」から「政治主導へ」の転換をめざす自民党と民主党の与野党協議の中で、全省庁600人の幹部人事を取り扱う人事局を官邸につくるという原案がつくられた。その後の民主党政権では、予算編成をめぐって逆に財務省にコントロールされたため実現せず、第2次安倍政権のもとで2014年に創設された。

霞が関の幹部官僚の人事については、国家公務員法で「任命権者の大臣が、総理や官房長官と協議して決める」という規定がある。だが、この規定があるだけでは、事実上、人事は省庁の言いなりになってしまう。

そこで、官邸に人事局をつくって情報を集め、幹部官僚ににらみをきかせることにより、霞が関への官邸の支配力を強めようというのが、安倍・菅時代の政権側の思惑だった。実際、当時の菅官房長官が、自らが主導したふるさと納税の拡充方針に慎重な姿勢を示した局長を左遷したこともあった。

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すでに始まっている「次期総裁選」を見据えた権力闘争

さて、今回の財務省人事は、今後の政局に響くようなことがあるだろうか。気になるのは麻生太郎・自民党副総裁である。

長年にわたり財務大臣を務め、財務省と太いパイプを維持してきた麻生氏にとって、今回の事実上の左遷人事は面白くないはずだ。義弟であり、岸田内閣の財務大臣でもあった鈴木幹事長も、財務省と官邸の板挟みに遭い、快く思ってはいないだろう。

安倍・菅政権時代はある程度の「政治的合理性」や「事前の根回し」がセットになっていた。しかし、今回の高市首相の手法は、「私怨」「見せしめ」の色が濃く、反減税派議員を中心とした不満がマグマのように党内にたまっているのは事実だろう。表向きは高市首相の強いリーダーシップに平伏しているように見えても、実態は違う。

高市首相は9月に初の内閣改造・党役員人事を行う方向だが、内閣支持率が低下傾向にある中、“独裁”を強めていくために、麻生・鈴木の党支配を断ち切る布陣とできるかどうかが焦点だ。鈴木幹事長を外し、麻生氏の意に添わぬ人物を就けるとしたら、政局は一気に流動化する。

入閣の意向を示す日本維新の会に、どのポストを渡すのかもカギだ。馬場伸幸前代表は官房長官を望んでいるらしいが、それはあり得ないとしても、仮に枢要な大臣ポストを明け渡すようなことがあれば、党内の不満はさらに高まり、反高市クーデターのトリガーになり得るだろう。

笑顔で本心を隠し、独断と偏見を貫く高市流の独裁的トップダウンは、たしかにこれまでの日本の政治を変えつつあるかもしれない。国会の熟議も、官僚の知見も、「隠し部屋」での彼女の“独習”と、維新という援軍の前に価値を失い、政治はあらかじめ決められた到達点に向かって猛スピードで突き進むだけになったように見える。

むろん、この状況が国民にとって好ましいことかどうかは別問題だ。高市支持者の熱狂はさめつつある。自民党内には不穏な空気も漂いはじめた。秋の臨時国会、そして来年の総裁選を見据えた権力闘争はすでに始まっているのかもしれない。

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image by: 首相官邸

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