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高市早苗が自ら撒いてしまった“厄介な”火種。林芳正の「閣外放逐」と参院幹事長の「首切り」で総裁選に灯る“黄信号”

政権の安定を図るはずの人事が、時として新たな権力闘争の引き金となる永田町。高市首相が断行した党役員人事と内閣改造も、来年の総裁選を前に自民党内の対立構図を生み出す可能性をはらんでいるようです。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では元全国紙社会部記者の新 恭さんが、麻生太郎氏との関係や林芳正氏ら総裁候補の処遇を判断材料として、「高市人事」の狙いを分析。さらに林氏や森山裕氏、石井準一氏らの動向から、党内の「反高市」派が結集する可能性と次期総裁選の行方を考察しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:高市人事の深層。「総裁選への布石」と自ら撒いた党内火種

吉と出るか、凶と出るか。高市「総裁選への布石」人事と自ら党内に撒いた火種

自民党役員人事と内閣改造を行ったあとの記者会見で、高市首相は語った。

「今回の人事は政策の本格的な実行を遂行するためのもの。来年の総裁選挙とは一切関係はありません」

だが、首相の最側近といえる山田宏参院議員は、ネットの政治番組で、自信たっぷりに言い切った。

「見かけは実務者内閣だが、配置とか骨格をみると、やはり来年の総裁選で再選をめざす体制になっている」

山田氏は高市首相とは、松下政経塾の先輩であり、常に連絡を取り合う仲だ。「高市早苗は日本のサッチャーだ」と褒めたたえ、総裁選の推薦人として高市政権誕生に奔走した。二人の話題の中心はもっぱら来年の総裁選のこと。そんな山田氏の眼には、今回の人事にこめられた意図がくっきりと浮かんでいるのだろう。

高市首相は、党と内閣の人事を構想するにあたり、麻生太郎副総裁と3度にわたる会談を重ねた。そして、最初に決まったのが、麻生副総裁、鈴木俊一幹事長、小林鷹之政調会長の留任だ。鈴木氏が麻生氏の義弟であることは周知のとおり。昨年の総裁選立候補者、小林氏は他派(二階派)出身ながら、麻生氏のお気に入りである。これで、来年の総裁選においても、高市陣営が麻生氏の支持を得られることがほぼ確実になった。

次に、閣僚人事だ。総裁選のライバルだった茂木敏充外相、小泉進次郎防衛相の留任は早々と決まった。麻生氏の了承を取りつけたうえで彼らを閣内にとどめておくことは重要な意味を秘めている。麻生氏が高市氏の味方につく以上、“殿の寝首を掻く”ような動きをすれば、麻生氏の顔をつぶすことになる。

齢70を数え、総理の座をあきらめきれない茂木氏は、長年の盟友である麻生氏の支援を頼みの綱としているだけに麻生氏がウンと言わない限り、どうにもできない。小泉氏も若さと持ち前の発信力で防衛相としての評価が徐々に上がってきており、ここはあえて動かないのが賢明といえる。

高市首相が迷ったのは、もう一人のライバル、林芳正総務相の処遇だった。林氏は、高市氏の保守的な支持層から「親中派」と烙印を押され、目の敵にされている。その人を閣外へ放逐すれば、支持者から喝さいを浴びるだろう。だが、茂木、小泉両氏のように閣内に封じ込めたら、無投票で総裁に再選される道が開けるかもしれない。

迷いを断ち切る決め手になったのは、林氏を排除しようとする麻生氏の意向だった。林氏には、かつて「宏池会」のドンといわれた古賀誠氏がついている。福岡政界における麻生氏の政敵であり、昨年の総裁選で「林政権」を実現させるため水面下で動いていた。麻生氏が最終的に高市氏を選んだ背景には、総裁選終盤、急速に国会議員の支持を伸ばしてきた林氏の当選を阻止する狙いもあった。

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怒りの矛先を参院幹事長に向けた高市早苗の「悪手」

高市首相を支える自民党議員グループ「国力研究会」を今年5月、麻生氏が呼びかけてつくったさい、茂木氏、小泉氏、小林氏といった総裁候補を発起人として仲間に入れながら、林氏一人を排除した。筆者は5月14日発行の当メルマガに、麻生氏の思惑について、こう書いた。

なにしろ、茂木、小泉、小林といった面々を束ねて動けるのである。彼らは高市首相を支えるという大義名分、そして麻生氏が中心になっているという重い事実には逆らえない。なにより、麻生氏の呼びかけを断れば「反高市」の旗を鮮明にすることになり、政権内での立場を失う恐れがある。仕方なく、「高市支持」という檻の中に閉じ込められる道を選んでしまったといえるだろう。

(中略)

麻生氏は、この議連を単なる「応援団」ではなく、総裁レースをキングメーカーとして取り仕切っていく「装置」として捉えているように思える。総裁候補の一人である林芳正総務相を外しているのが何よりの証拠だ。

【関連】「ナフサ不足」解消など二の次。麻生太郎を担いで発足した「国力研究会」に高市早苗が飲み込まれる日

党内に唯一残った派閥を率いるキングメーカー・麻生氏にとって、総裁選こそが力の源泉である。この時から、麻生氏は林氏を念頭に置いた総裁選を構想していたのだ。

林氏は25年総裁選の初回投票で、議員票では高市氏を上回った。しかし、地方の党員・党友票で大差をつけられた。この弱点を補うため、林氏は総務大臣の「公務」と称してさかんに地方回りに励んでいた。こうした動きは地方組織から党本部へと報告され、高市氏、麻生氏の耳に確実に届いていただろう。

林氏を留任させるかどうか。高市首相の方針が見えない中、9月11日の産経新聞が「独自」と銘打って、以下の記事を掲載した。

高市早苗首相(自民党総裁)が17日に実施する内閣改造で、林芳正総務相に留任を打診したことが分かった。林氏は受諾するか否かを近く判断し、首相に伝えるとみられる。

高市氏は2015年の総裁選における安倍晋三首相と同様、無投票再選が望ましいと考えていたに違いない。そこで、いったんは林氏の出馬を抑え込むため留任させようとしたが、産経にすっぱ抜かれる事態となってしまった。ここで麻生氏から留任に「待った」の声がかかり、方針転換したと推測できる。

むろん、林氏の周辺では総裁選への出馬をめざし「首相と袂を分かつべき」とする意見が強かった。林氏自身も迷っていたところへ留任の打診があり、検討している最中に、官邸から方針転換を告げられたということだろう。

ともあれ、これで来年の自民党総裁選が「高市vs林」を軸に展開される見通しとなった。だが、この構図は、高市首相としてはすこぶる厄介な要素を含んでいる。その種は、今回の人事で自らが撒いてしまった。

野党との人脈を築いている参院幹事長、石井準一氏の首を切ったことである。形式上は、党のルールに沿って松山政司参院会長が「再任しない」と言い渡したことになっているが、実際には首相の意思が働いているのは間違いない。

今年4月、高市首相ただ1人がこだわってきた今年度予算案の「年度内成立」は、時間切れで泡と消えた。首相は委員会審議を短縮させるなどして強引に衆院を通過させたが、少数与党の参院では、それに反発する野党の協力を得られる見通しがたたず、暫定予算に頼るしか手がなくなってしまった。

もともとその原因は自らが断行した衆院解散によって予算の審議入りが大幅に遅れたことと、中傷動画問題などで不誠実な答弁を繰り返したことにあったが、高市首相は「石井に騙された」と怒りの矛先を、野党との折衝にあたった石井氏に向けていた。この感情的なしこりが、参院の状況を無視するかのような今回の人事に結びついたといえる。

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無視できない「反高市」の大物と石井準一の親密な関係

石井氏は野党にも幅広い人脈をもち、いまや参院の実力者にのしあがっている。少数与党の参院において、野党と話ができるその存在は自民党の国会運営にとってきわめて貴重だ。ところが、高市首相はあえてその切り札を放逐したのだ。

石井氏は今年4月、「自民参議院クラブ」という名の党内グループを旗揚げした。派閥ではないというが、かつての「参院のドン」青木幹雄氏を意識した勢力固めとみていいだろう。参院の議席248のうち、自民党は101議席を占め、石井グループは40人をこえている。

そこで無視できないのが、「反高市」の大物、森山裕前幹事長と石井氏との親密な関係だ。森山氏はかつて青木幹雄氏率いる参院平成研のメンバーとして、石井氏や、石井氏が師と仰ぐ吉田博美氏と交友を深めた。彼らは野党との付き合い方の“奥義”を極めた面々といっていい。

その森山氏はこのところ、林芳正氏への傾斜を強めている。9月5日、地元・鹿児島で開かれた県連の政治資金パーティーに講師として林氏を招き、その後のTBS番組で「林氏は十分に総理を務める能力を持っている」と持ち上げてみせた。

言うまでもなく、森山氏は石破政権を支えた幹事長だ。林氏と同じく親中派で、与野党に幅広い人脈を持つ。高市首相の減税策に異を唱えて党税調のインナーを辞任した小渕優子氏の後見人でもある。

ともに田中角栄の系譜をひく派閥「平成研究会」のメンバーだった森山氏、石井氏、石破氏、小渕氏…。彼らが宏池会出身の林氏を総理にするために再結集する可能性は十分にある。その昔、宏池会が輩出した大平正芳首相を角栄軍団「田中派」が全面的にバックアップしたように。

林氏はさっそく動き始めた。9月20日、中谷元・前防衛相が高知市内で開いた国政報告会に駆けつけ、用意されたピアノでビートルズの『Let it be』の弾き語りを披露した。中谷氏も宏池会出身だ。長年の盟友である石破茂氏の政権では防衛相をつとめた。自民党リベラル派が反高市を鮮明にしてゆく動きは今後ますます強くなっていくだろう。

総裁選を意識し、麻生太郎氏の意向を酌みながらも、高市首相は今回の人事で独自色を出すことを忘れなかった。たとえば、閣僚候補には、どんなポストに就きたいのかのアンケートを配り、その記載内容を首相自身が読み込んで人事配置を判断した。ごまをすってくれる政治家をピックアップする手段との見方もできるが、派閥均衡や年功序列に囚われてきた自民党の歴史の中で、画期的な手法には違いない。むろん、入閣待機組やその周辺に大きな不満の種が残ったのは確かだ。

来年の総裁選を見据え、再選を勝ち取る体制を整えたかに見える高市首相だが、林氏を閣内から排除し、石井氏を参院幹事長ポストから外したために、党内の中道・リベラル派が結集する機運を生み出してしまった。

だが見方によっては、必ずしも悪くない状況といえる。高市人気によって党内世論の活力が失われている自民党。野党勢力が見るも無残に弱体化した国会。この閉塞状況を打開するという意味では、せめて自民党内で権力闘争が表面化し、激しい政策論争が繰り広げられるほうが民主主義国家として健全なのではないだろうか。

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image by: 首相官邸

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