改正皇室典範をめぐり、皇族の養子縁組や皇位継承のあり方に対する議論が続いています。こうしたなか、漫画家の小林よしのり氏が、改正皇室典範は憲法14条が定める法の下の平等に反するとして違憲訴訟を起こしました。漫画家の小林よしのりさんは、自身の発行する『小林よしのりライジング』の中で、裁判所に提出した陳述書の全文を通じて、小林氏が提訴に至った経緯と、皇室制度や国民の平等をめぐる問題意識を紹介します。
〈改正皇室典範違憲訴訟〉陳述書を公開する
先週提訴記者会見を行った、改正皇室典範こと「愛子さま排除法」「馬の骨皇室養子法」に対する違憲訴訟への関心は、ますます高まっている。
なぜわしがこの訴訟を起こしたか、その動機は裁判所に提出した「陳述書」に、十分に書き込んだ。 今回は、その全文を掲げよう。
陳述書
東京地方裁判所 御中
令和8年10月26日
小林 善範
わし・小林よしのりは、キャリア50年を超える漫画家である。
その表現活動のほぼ全てにおいて、一人称に「わし」を使ってきたので、ここでも「わし」で通させていただく。
わしは日本に誇りを持ち、「愛国心」を説く漫画も描いている。
だが、最初からそうだったわけではない。 かつては、個人の能力さえあれば日本なんか捨ててアメリカで作品を創ればいいと思っていたし、寒暖差の大きい日本の気候は喘息持ちのわしには辛いから、老後はハワイに移住しようと思っていた。 そして、天皇制にも特に興味はなかった。
わしは『東大一直線』『おぼっちゃまくん』『ゴーマニズム宣言』とヒットを飛ばし、特に『ゴーマニズム宣言』では「漫画で思想を語る」という挑戦をした。
すると、多くの学者・知識人がわしの漫画を真剣に読み、論評してくれた。 わしは「たかが漫画家が」といった罵声が多いかと予想していたのだが、それは少数に留まった。
つまり、日本には漫画文化に対する差別心がもともと薄かったのだ。
日本の漫画は『鳥獣戯画』に始まると言われるが、さらに江戸時代には浮世絵や「黄表紙」などの大衆向け出版文化が花開き、その蓄積の上で明治から戦前・戦後を通じて漫画が発展してきた。 日本では、その長い歴史に対する敬意が無意識のうちに育まれているからこそ、漫画に対する偏見が少ないといえる。
それに気付いて以来、わしは日本への愛着が強まり、より深く日本について知りたいと思い、天皇についても学んだ。 そして日本には古来、ひとりの天皇の下にすべての民が平等であるという「一君万民」の思想があると知り、これは素晴らしいと思った。
江戸時代に「士農工商」の身分制度があったという説は、最近の研究で否定されて教科書からも消えつつある。 それよりも明治憲法下で設けられた貴族制度こそが、紛れもない身分制度だったのだ。
それが日本国憲法第14条により、すべての国民が法の下に平等とされ、貴族制度は認められなくなった。 これは誇るべきことだと思う。
わしは日本が「平等」の国であるからこそ、誇りを抱いてきた。
わしは全ての国民が平等であるというルールの上で自らの才能を発揮し、評価を受けて来たのである。
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ところが、そんなわしの日本への誇りが揺らぐ事態が起きた。
きっかけは2017年(平成29年)6月3日に出演した AbemaTV の番組『みのもんたのよるバズ!』だ。
この番組でわしは、皇統問題について作家の竹田恒泰(敬称略)と議論した。
竹田はいわゆる「旧11宮家」の子孫だが、実際に旧宮家だったのは彼の祖父までで、竹田恒泰は父の代から完全な一般国民である。
わしはそのことを指摘して「あんたとわし、何が違うの? 同じ身分じゃないか」と問いかけた。 すると竹田は、こう答えたのだ。
「身分は一緒です。 でも、血統は違うんです」
わしは思わず耳を疑った。 わしと竹田では間違いなく法的に同じ身分だし、作家としての才能や業績でいえば、わしの方が遥かに上だ。
ところが竹田は、法的な身分がどうだろうと、才能の評価がどうだろうと、「血統」が違うから自分の方が上だと、マウントを取ったのだ。
これは紛れもない差別である。 部落差別と裏表の、「血統」の論理である。
わしは以前から部落差別に反対して著書(『ゴーマニズム宣言・差別論スペシャル』)も出しており、血統による差別には嫌悪感しかない。
アーリア人の方がユダヤ人より優秀とか、部落民は血が穢れているとか、「血」「血統」で人間を差別するイデオロギーを、わしは認めたくない。
天皇についても、わしは血統に敬意を持っているのではない。 親である天皇の考えや振る舞いを身近に感じて生まれ育った子が、その精神を受け継いで跡を継ぐ、すなわち「世襲」だからこそ敬意を持てるのだ。
「血統が違う」という発言が竹田だけのものなら、竹田ひとりを「差別主義者」として非難すればいいのだが、そうはいかなくなった。 令和8年10月24日、改正皇室典範が施行されてしまったからである。
これは、竹田恒泰のような「旧宮家」出身の男子だけを、その「血統」によって他の一般国民とは差別し、皇族の養子になれるとする法律である。
すなわち、竹田恒泰の「血統差別」の論理に、国会が法律でお墨付きを与えてしまったのだ。 また、血統差別であると同時に「女性差別」でもある。
これは明らかに憲法14条の「門地による差別の禁止」に反し、旧宮家系の者を一種の「貴族階級」とするものに他ならない。
日本国民は平等のはずなのに、21世紀も中盤に入ろうという時代に、一般国民は「旧宮家系」よりも下層とする、新たな身分制度が設けられてしまったのだ。
内閣が暴走し、国会がこれを全く抑止できず、憲法14条を踏みにじって、新身分制度を設立するという言語道断の法律を施行させてしまった今、これに歯止めをかけられるのはもはや裁判所だけである。
もしも司法がその役割を放棄するなら、日本国憲法は完全に空文化し、日本の立憲主義は崩壊し、国民の平等も消え、身分制度のある国が残ることになる。
わしはそんな国に誇りなど持てない。 長年にわたって思想を続け、育んできたわしの愛国心は瓦解する。 そんな精神的苦痛には、とても耐えられない。
だからわしは提訴を決意した。
わしは、皇室のため、この国の平等観念のため、そしてわし自身の「個」の尊厳と「愛国心」を守るために、人生最後の戦いとして、国家に挑む。
以上
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